少子高齢化が進むなか、先端医療だけでなく、介護福祉も含めた社会インフラが個人のQoL(Quality of Life)をどう高めていくのかが問われています。新たな医療機器開発やソリューション提案において、医工連携などの取組みが加速しており、ものづくりも大きな変革期を迎えました。ヘルスケア業界の開発現場に役立つ基礎知識やトレンド、ノウハウを紹介します。
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リハビリ支援ロボットとは、事故や疾病などを原因とし後遺症が残った対象者にその能力を回復させる目的で実施する訓練や療法、リハビリテーションを支援するロボットです。日本人の三大疾病に数えられている脳血管疾患(脳卒中)を例にとると、厚生労働省の調査によれば、2017年の患者数は111.5万人に上ります。発症して死を免れたとしても、重い麻痺が残り、歩けなくなったり、介護を必要としたりするケースも多いことから社会問題にもなっています。今回は、脳卒中患者のリハビリをサポートし、社会復帰を促すためのロボット「ウェルウォーク」を開発するトヨタ自動車株式会社新事業企画部の中村氏に、リハビリ支援ロボットの開発ストーリーをお伺いしました。
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バイオセミラックス3Dプリンターの研究開発内容を紹介する本連載。バイオセラミックスは、人体に対する毒性がなく、生体組織への親和性が高く、かつ体内において高い耐久性を有する生体機能を代行するセラミックスであり、人工骨や人工関節、歯、歯根などに使われています。2018年、株式会社リコーと理化学研究所は、3Dプリンターを用いた新たな人工骨の造形技術を発表しました。後編では、理化学研究所のスタッフとして協力していた名古屋大学病院の整形外科医の大山慎太郎氏に、医師としての共同研究への関わり方や同技術が患者にもたらす価値、およびバイオセミラックス3Dプリンターによる人工骨造形技術応用の可能性についてお伺いします。
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人工骨は、病気や外傷で欠損した骨を補うために開発された人工的な素材です。人工骨の材料として、人体に対する毒性がなく、生体組織への親和性が高く、かつ体内において高い耐久性を有する生体機能を代行するセラミックスである「バイオセラミックス」が知られています。2018年、株式会社リコーと理化学研究所は、3Dプリンターを用いた新たな人工骨の造形技術を発表しました。本連載では、バイオセミラックス3Dプリンターに注目します。前編となる今回は、リコーで中心的に本プロジェクトを実施している渡邉政樹氏に、人工骨が必要とされる骨移植手術の現状と課題、および人工骨で注目すべき骨置換性を高める材料と構造についてお伺いします。
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遠隔医療ものづくり技術の最新動向について医療現場からの声をもとに紹介する本連載。第11回は、引き続きデジタルパソロジー」について紹介します。遠隔診療は、コロナ禍や医師不足、地方の過疎化、高齢化が進むなか注目が集まっていますが、その中でも患者の細胞を顕微鏡で観察して病状を診断する「病理医」の業務を遠隔化する「テレパソロジー(遠隔病理診断)」にもデジタルパソロジーが大きく関わっています。今回は、実際にデジタルパソロジーを利用している病理医であり、その普及を推進するデジタルパソロジー研究会会長の長崎大学大学福岡順也教授に、医療現場の課題やデジタルパソロジーの在り方、普及のために欠かせない視点を伺いました。
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デジタルパソロジーとは、病理標本を専用スキャナで撮影してデジタル化することで病理診断をサポートする技術です。デジタルパソロジーは、保存したデータをいつでも見られるようにできること、ネットワーク等を介して他者と共有できること、コンピュータ分析などに活用できること、といったメリットに加え、テレパソロジー(遠隔病理診断)としての利用が期待されています。今回は、医療機器として認証されたデジタルパソロジーシステムを開発している株式会社フィリップス・ジャパンに、同社の製品サービスの開発背景や概要、導入事例についてお話を伺いました。
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ストレスチェックとは、人が心(精神)や身体に外部からの刺激(ストレッサー)に適応しようとして心や身体に生じた様々な反応(ストレス反応)を調べる検査です。平成27年12月以降、「労働安全衛生法」の改正によって50人以上の労働者がいる事業所でストレスチェック制度の実施が義務化されました。こうしたなか、目に見える身体ではなく、心の健康を可視化することが注目されています。今回は、メンタルヘルスの計測技術に注目し、シリコンバレーのIoTスタートアップYume Cloud日本法人と共同でメンタル自己管理サービス「マインドスケール」を開発した山形大学の横山准教授、原田助教に話を伺いました。
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血管内イメージングデバイスの開発動向を追う本連載。後編では、IVUSとOFDIの機能を搭載したデュアルセンサーシステムに注目します。1990年代以降、多くの病院で導入された心臓カテーテル治療は、狭心症や心筋梗塞などの心疾患の治療において一般的な治療方法となりました。超音波センサーを使うことにより腎機能に負担をかける造影剤を使わずに血管断面の画像を取得できるIVUS、そして近赤外線により血管の性状まで詳細に判別できるOFDIが開発されたことで、カテーテル治療の質は大きく向上します。後編では、佐賀大学医学部附属病院の園田教授に、IVUSとOFDIの機能を搭載したデュアルセンサーシステムに対する医療現場の期待についてお伺いします。
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心臓カテーテル治療は、心筋に血液を送る冠動脈が動脈硬化などにより狭くなった(狭窄)部分を拡張するために行われる治療方法であり、具体的には直径1mm程度の細いカテーテルを冠動脈に挿入し、拡張用バルーンやステントなどの治療用器具が挿入されます。日本では、近年、手術前後に血管の状態を調べる血管内イメージングの普及が進み臨床成績の向上に寄与しています。今回は、血管内イメージングデバイスに注目し、2回に分け前編では同開発に携わってきたテルモ株式会社鬼村氏、後編では医療現場で同製品を利用する佐賀大学医学部附属病院の医師で佐賀大学の園田教授に話を伺いました。前編では、超音波を利用したIVUSと、光(近赤外線)を利用したOFDIという血管内イメージング技術の概要についてご紹介します。
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健康寿命の延伸に寄与するバイオマテリアル開発ストーリーとなる本連載。後編では、人工股関節の長寿命化を実現に繋がった、関節面で生じる摩耗粉を軽減するMPCポリマー表面処理に注目します。人工股関節では、関節面から生じるポリエチレン摩耗粉が引き起こす人工股関節のゆるみなどの合併症は大きな課題でした。この摩耗粉を低減する材料探索のなか東京大学医学部附属病院の医師で東京大学の茂呂特任教授は、同じ東京大学の石原名誉教授のMPCポリマーの研究内容を知り、すぐさまコンタクトをとります。後編では、引き続き京セラ株式会社の京本氏、東京大学の茂呂氏および石原氏に、MPCポリマーを人工股関節に活用することになったきっかけやMPCポリマー表面処理の効果についてお伺いします。
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人工股関節とは、股関節を人工関節に置き換えたものであり、健康寿命の延伸の重要な条件である歩行機能を保つための治療法の一つです。人工股関節の課題は、一般的に15〜20年とされる生体内における「耐用年数」であり、耐用年数経過後や不具合が生じた際に行われる再手術が患者にとって負担の大きいものでした。京セラ株式会社は2001年より東京大学と共同で「長寿命型」の人工股関節の開発に取り組み、完成した人工股関節は2011年に厚生労働省より製造販売承認を取得し、これまでに国内で7万6,000例以上(2021年12月現在)の手術に使用されています。今回は、健康寿命の延伸に寄与するバイオマテリアル開発に注目し、2回にわたって同研究開発を主導した京セラ株式会社研究開発本部メディカル開発センターの京本氏、東京大学医学部附属病院の医師で東京大学の茂呂特任教授、東京大学の石原名誉教授に話を伺いました。前編では、人工股関節の長寿命化の鍵となったMPCポリマーの概要についてご紹介します。
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2021年12月8〜10日の3日間、幕張メッセにて「第12回 高機能素材Week」が開催されました。4万人以上が来場した本展示会では製品の高付加価値化に繋がる素材技術に関する様々な展示が行われており、前編では機械・高機能素材についてレポートしました。後編となる今回は、「エレクトロニクス編」として印象に残った酸素イオン伝導性・遮熱性を持つジルコニア粉体、医療機器に用いられる耐屈曲性に優れた極細銅箔糸、反射防止性や熱吸収性に優れた真っ黒いステンレスやチャック用の摂氏17℃で凍る凝結剤の展示内容をご紹介します。
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遠隔医療ものづくり技術の最新動向について医療現場からの声をもとに紹介する本連載。第9回は、引き続き「ポータブルエコー(超音波診断装置)」について紹介します。最近は救命救急の現場で当たり前のようにエコーが使われていますが、少し前までは救急室での使用がほとんど検討されておらず、医師への教育も十分でなかったといいます。今回は、超音波検査の臨床現場での活用を推進している自治医科大学 亀田徹医師に、ポータブルエコーの活用例と可能性についてお話を伺いました。
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遠隔医療ものづくり技術の最新動向について医療現場からの声をもとに紹介する本連載。第8回は「ポータブルエコー(超音波診断装置)」について紹介します。産婦人科やがん検査などで使用する超音波(以下エコー)検査は、放射線被ばくがなく、リアルタイムで見られるという特徴があります。一方、従来の装置は大型で数千万円と高価であるため、エコーの普及にはさらなる小型軽量・低価格化が望まれました。今回は、2000年代から小型エコーを開発しているGEヘルスケアに、同社の場所を問わず使用可能なポータブルエコーのメリットと活用先についてお話を伺いました。
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糖尿病患者が使用するインスリン注入器用注射針は、採血で使う注射針より小さいものの、針の直径は180㎛の大きさがあり痛みを伴います。一方、現在開発中のマイクロニードルは、針の尖端の直径が50㎛と、蚊が血を吸う吸い口(直径60㎛)より小さく、ほぼ痛みがないといいます。今回も引き続き、生体溶解型マイクロニードルを開発している東京大学生産技術研究所 金範埈教授に、同技術の医療分野への応用として、血糖値が測れるマイクロニードルパッチ型センサーや、新型コロナの抗体検査などドラッグデリバリーシステム(DDS)実用化への取り組みについてお話を伺いました。
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マイクロニードルといえば、既に実用化されている美容分野のヒアルロン酸のマイクロニードルパッチを思い浮かべるかもしれませんが、今医薬品を身体に投与するドラッグデリバリーシステム(以下DDS)としてのマイクロニードルパッチの開発が進んでいます。皮膚の薄く硬い角質層というバリアを乗り越えて定量の薬剤送達を可能にする技術とはどのようなものでしょうか。今回は、生体溶解型マイクロニードルを開発している東京大学生産技術研究所 金範埈教授に、マイクロニードルについての解説として、その種類や生体溶解型マイクロニードルの製造方法などについてお話を伺いました。
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生産コスト削減のために製品またはその部品を他の国内、海外企業などに委託して、製造するOEM。安価な労働力を求めて製造業が多く海外に進出していますが、確かな品質や迅速な対応を追求していくと、やはり国内で生産した製品は間違いありません。しかし、国産の確かな品質といっても、価格に競争力がなければ顧客には選んでもらえないそうです。今回は、鳥取県鳥取市に本社と2つの関連会社があり、グループ3社で各種電気機械や器具のODM・OEM商品について設計・開発から組立・納入まで一貫して手掛ける、株式会社鳥取スター電機に国内生産にこだわるメリットについてお話を伺いました。
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不規則な食生活や運動不足などの生活習慣が原因で起こる疾患、「生活習慣病」。健康寿命を延ばすためにも、日頃から生活習慣病の予防、改善に取り組むことは重要です。その一つの例が年に1回受ける定期健診の血液検査ですが、その日1回の健診では命に関わる重大なリスクを見逃す場合もあるといいます。今回は、生活習慣病に関わる血糖値と血中脂質値を非侵襲で常時測定できる装置を開発している株式会社タニタと富山県立大学らのチームに、「高血糖」や「脂質異常症」の悪化が引き起こす疾患リスクや、糖質や脂質の常時測定することの必要性についてお話を伺いました。
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食事後の血糖値が異常に高くなる「血糖値スパイク」は、空腹時で行われる通常の健康診断では見落としがちだといいます。その結果、重度の糖尿病に進行する恐れがあるため「隠れ糖尿病」と呼ばれています。このような隠れ糖尿病の人を見つけて治療や生活習慣の改善など行動変容を促すために、株式会社タニタと富山県立大学らのチームは、非侵襲で血糖値と血中脂質値を常時測定できる装置を開発しています。今回も引き続き、同研究チームに、同装置開発に利用した遠赤外光や中赤外光の計測原理について説明して頂くほか、今後の開発フェーズについてお話を伺いました。
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高血圧症は、がんに次ぐ日本人の死因である脳心血管病の重大な危険因子であり、現在日本には約4,300万人の患者がいると言われています。高血圧症の治療は適切な血圧値を維持するための薬を服用し続ける必要がありますが、多くの患者は薬をもらうための通院が続けられず治療を中断してしまうといいます。今回は、高血圧症患者が通院せず自宅でも薬を服用し続けられるサービスを提供している一般社団法人テレメディーズの谷田部淳一医師に、高血圧のオンライン診療の仕組みと今後と課題についてお話を伺いました。
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2021年4月14~16日に、東京ビッグサイトにて「Medtec Japan」が開催されました。Medtec Japanは、今年で12回目となる医療機器の製造・設計に関する展示会です。400弱の国内外企業や団体などが、医療機器のさまざまな最新技術や製品を展示・発表していました。今回は、もともと医療機器メーカーでなかったものづくり企業が自社の加工技術を応用して医療機器などを制作している例も多く、「医療用のコネクター」、曇らない「フェイスシールド」などの最新動向をご紹介致します。