はじめに
「ばねなしでは組み上げられない!ばね設計の一般的な流れとよく使われる2大材料とは!?」では、ばね業界にて1995年に”選ばね君”を開発しカスタマイズばね分野を開拓してきた株式会社アキュレイトに教えて頂きました。
本記事では、ばねを設計する際に最低限必要な仕様項目の定義を紹介します。特に、小さい部品から大きな部品に至るまで様々な用途で用いられている圧縮コイルばねと、引張コイルばねについてまとめました。
圧縮コイルばねの各寸法
圧縮コイルばねとは、圧縮荷重を受けて弾性エネルギーを蓄えるコイルばねのことです。ポールペンなどの文具や日用品、家電製品から自動車のエンジンのバルブ、サスペンションなど様々な場面で用いられています。
それでは、各寸法についてみていきましょう。
<表1:圧縮コイルばねの基本用語一覧>
寸法名 | 記号 | 単位 | 解説 |
---|---|---|---|
線径 | d | mm | 線材の直径 |
コイル平均径 | D | mm | コイル外径と内径の平均。中心径ともいう。ばね特性の計算に用いる径で、製作上の寸法指示は次の外径か内径にておこなう |
コイル外径 | Do | mm | コイル外側の径 |
コイル内径 | Di | mm | コイル内側の径 |
自由高さ | Hf | mm | 負荷をかけてない、文字通り自由な状態のばねの高さ(長さ) |
有効巻数 | Na | – | ばね特性の計算に用いる巻きの数。ばねとして作用する有効な巻数 |
座巻 | – | – | ばねとして作用しないが、ばねの座りを良くする目的で設けられる巻き。一般的にばねの両端に1巻きずつ設けられる |
総巻数 | Nt | – | ばねの端から端までの巻きの総数で、有効巻数+座巻=総巻数となる。圧縮コイルばねは3通りの巻きがあり、それぞれ指定する |
巻方向 | – | – | コイルばねのコイルの巻かれた方向 |
ピッチ | p | mm | らせん状に巻かれている線材の巻き間隔。線材の中心から中心の距離。圧縮コイルばねの場合、ばねとして作用する有効巻きがピッチをあけて巻かれている |



圧縮コイルの場合、端末形状についても様々な種類があります。主な端末形状について、<表2>にまとめました。
<表2:圧縮コイルの端末形状>
形状名 | 研削有無 | 図 |
---|---|---|
クローズドエンド | 無 |
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クローズドエンド | 有 |
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オープンエンド | 無 |
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引張コイルばねの各寸法
引張荷重を受けてはたらくコイルばねのことを指します。自転車のスタンドや自動車部品などに使われています。圧縮コイルばねに対し、引張コイルばねは、密着に巻かれていること、両端にフックがあることが、形状面での大きな違いとなります。
ここでは、形状の違いから圧縮コイルと異なる寸法部分について紹介します。
<表3:引張コイルばねの自由長さと有効巻数の定義>
寸法名 | 記号 | 単位 | 解説 |
---|---|---|---|
自由長さ | Hf | mm | 負荷をかけてない、文字通り自由な状態のばねの長さ *従来記号の“Lf”から、圧縮コイルばね同様に“Hf”に統一 |
有効巻数 | Na | mm | ばねとして作用する有効な巻数。 表す記号や意味は圧縮コイルばねと同じだが、引張コイルばねはフックで支持されて使用され、連なる胴体部の巻は全て有効な巻である。よって総巻数=有効巻数であるから、この有効巻数の指定だけでよい |

また、引張コイルばねのフックの形状はさまざまな種類があり、最も一般的なフックは逆丸フックといい、規格品もすべてこの形状です。主なフックの形状について、<表4>にまとめました。
<表4:引張コイルばねの主なフックの形状>
形状名 | 図 | 概要 |
---|---|---|
逆丸フック |
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生産性に優れており、最も多く採用されている |
半丸フック |
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設計段階において、限られたコイルの長さの中で、コイル胴体部の長さを稼ぎたい場合に有効 |
斜め丸フック |
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昔ながらの手起こし成形によるフック。現代においてはあえて選択される事は少ないが、引っかかれば良いという日曜大工的な考えでよければ、誰にでも成形しやすい便利なフック |
U字フック |
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主にNC制御により三次元的に成形されるフック。加工に時間が掛かりコスト面で劣るが、フック径、フック長さの自由度が大きく、相手部品に併せやすい |
他にも丸フック、側面丸フックといった形状もあり、用途によってどの形状を用いるかを使い分ける必要があります。
まとめ
ここでは、コイルばねの仕様決めに必要な各寸法について紹介しました。
ばねは、同じ機能性部品であるねじや歯車と異なり、規格品が少なく設計者が設計することが多い部品の一つです。ばねを設計するための計算作業については、必要な数値を入力することで自動計算してくれるようなソフトウェアやWEBサービスも登場しており、設計者の作業負荷は軽くなってきています。
ばね選びにお困りの際は、ぜひ一度プロに相談してみてはいかがでしょうか。