火星探査機ローバーの開発でその謎に挑む日本人研究者~宇宙探査機やローバーに求められる機能、性能とは~

INTERVIEW

ジェット推進研究所(JPL)
人工知能研究者
小野 雅裕

NASAで宇宙探査ミッションの中核を担うジェット推進研究所(JPL)。そのJPLで、日本人の人工知能研究者として、無人火星探査計画に携わっている小野雅裕氏に、ミッションの内容、宇宙探査機やローバーに求められる機能、性能について話を聞いた。

地球外生命体は果たして存在するのか?

────まずは、現在のNASAジェット推進研究所(JPL)での小野さんのミッションについて聞かせて下さい。

小野:
現在、火星では、2011年11月にNASAが打ち上げた「キュリオシティ」という名のローバー(探査車)が、表面探査を行っています。目的は、火星が、生命体が存在しうる環境かどうかを確認することです。具体的には、火星表面をカメラで撮影したり、採取した土や岩石を加熱してガス化し成分分析を行ったりしています。

地球に最初の生命が誕生したのはおよそ40億年前と考えられていますが、太陽系の中で地球の隣に位置する火星にもその頃海が存在していたことが分かっています。今のところ、火星に生命体は見つかっていませんが、約40億年前には、生命体が存在していたのではないかと考えるのは、ごく自然なことだと思います。逆に、存在していなかったとすれば、なぜ、地球だけがこのような豊かな生命体を育むことができたのかという疑問が湧いてきます。謎は尽きず、この謎の解明に世界中の科学者が挑んでいるのです。

僕が所属するNASAのJPLでも、その謎の解明に向けて、新たなミッションを開始しています。2020年を目途に「マーズ2020」という名のローバーを火星に送り込む計画です。<写真1>
ミッションの最終目標は、火星の土や岩石のサンプルリターンです。僕はこのマーズ2020の自律走行に関する人工知能(AI)の開発を担当しています。<写真2>

また、火星に留まらず、近年、木星の衛星であるエウロパや、土星の衛星であるエンケラドゥス、同じく土星の衛星であるタイタンの地下に海が広がっている可能性があることが確認されており、生命体の存在への期待が高まっています。そのため、マーズ2020に限らず、広く宇宙探査機やローバーの自律運転や自律走行を実現するAIの研究開発も進めているところです。

<写真1>NASA/JPLより引用
<写真1>NASA/JPLより引用
<写真2>NASA/JPLより引用
<写真2>NASA/JPLより引用

宇宙ならではの過酷な環境に耐えられる特注品を採用

────火星探査機のハードウェアについても特徴を聞かせて下さい。

小野:
キュリオシティの場合、軽量で高強度なことから、ボディには主にアルミニウム合金が使われています。
一方で、探査機の場合、最も壊れやすいのが機械部品です。その代表格がリアクションホイールです。リアクションホイールとは、姿勢制御装置の一種で、それを回転させることによって、探査機の姿勢を制御しているのです。回転しているため、摩耗しやすく、例えば、惑星探査機「はやぶさ」でも、リアクションホイールの不具合で大変苦労しました。そのため、従来であれば、3個のリアクションホイールがあれば機能としては十分なところ、4個搭載することでトラブルに備える、といった方法があります。仮に1個故障してもこれなら安心です。

加えて、信頼性の高い材料を用いた機械部品や枯れた技術を使うことも大変重要です。例えば、キュリオシティには、約20年前に開発された「RAD750」というモデルのMPU(マイクロプロセッサユニット)が搭載されています。これは、放射線が多く飛び交う厳しい宇宙環境に耐えうる特別仕様のMPUで、宇宙専用部品になります。人であれば10グレイで死に至るのに対し、RAD750の場合、2000~1万グレイの放射線に耐えることができます。長年の実績があって信頼性が高いことと、新たに特別仕様のMPUを開発しようと思うと莫大なコストがかかってしまうことから、20年間、使い続けているのです。マーズ2020にも、このMPUを搭載する予定です。

宇宙ならではの過酷な環境としては、放射線以外に、真空であることや、低温であることが挙げられます。そのため、どうしても高コストな宇宙専用部品に頼らざるを得ないというのが現状です。

例えば、キュリオシティの場合、はやぶさなどの探査機とは異なり、火星表面を走行するため、地球上で付着した微生物を持ち込む危険性をはらんでいます。そうならないように、打ち上げ前には、何百℃もの温度で本体を加熱し、完全に滅菌しているのです。一方で、火星表面の温度は平均マイナス40℃以下です。したがって、数百℃の高温からマイナス40℃以下の極低温まで幅広い温度に耐えうる材料で作られていなければならないということになります。

さらに今後、エウロパやエンケラドゥスなど水と直接接することを想定したローバーの開発となると、その基準は一層高まります。したがって、機械部品や本体の材料に求められる条件は、ますます厳しくなっていくと考えられます。

試作を検討する際にも、仕様条件が厳しく、特注品の検討をする場合があります。

アルミニウム合金材料は、自動車や航空機などでも多用されています。以下の記事では、アルミニウムを含む様々な金属材料が具体的にどのような場面で用いられているかについて、実例と共にご紹介しています。こちらも合わせてご参考下さい。

材料開発においてもAIが活躍する時代に

────ところで、そもそも小野さんが火星ローバーや宇宙探査機に関するAIの研究開発に携わるようになったきっかけを教えていただけますでしょうか。

小野:
僕は子どもの頃から宇宙に憧れていて、将来、宇宙に関連する仕事に就きたいとずっと思っていました。一方で、父が電機メーカーのエンジニアでしたので、子どもの頃から、父と一緒にラジオや望遠鏡を作ったり、父のお古のコンピュータを使ってプログラミングをしたりして遊んでいました。そういった経験がいつしか、「宇宙のためのものづくりがしたい」という思いにつながっていったのだと思います。そのため、大学も航空宇宙工学科に進みましたが、人工衛星などのハードウェアではなく、AIなどのソフトウェアの開発を選んだ理由は特にありません。多分、ハードウェアよりもソフトウェアの開発の方が得意だったのだと思います。

また、宇宙に限らず、幅広い分野において、今やソフトウェア開発は、エンジニアの基礎教養だと考えています。

材料開発の分野においては、「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」が注目され始めており、国家プロジェクトも始まっていますよね。これは、以前はエンジニアの勘と経験に頼っていた新材料の探索を、ビッグデータや機械学習によって、より効率良く短期間で実現しようというものです。バイオインフォマティクスの材料版と言えば分かりやすいでしょうか。今後は、材料開発の分野においても、徐々にエンジニアの勘と経験に頼る時代ではなくなっていくことでしょう。
僕自身もAIの研究開発をさらに進め、我々人類にとっての大きな謎でありロマンである「地球外生命体の発見」の成功に向けてまい進していきたいと思っています。


────今回はどうもありがとうございました。

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