循環型社会で求められる「分離可能」な接合技術の特徴と活用事例

近年、循環型社会の実現に向けてさまざまな課題への対応が求められています。「循環型社会形成推進基本法」(平成12年6月2日法律第110号)や、1991年に制定された「再生資源の有効な利用の促進に関する法律」が大幅に改定された「資源の有効な利用の促進に関する法律」(平成12年6月7日法律第113号)」をはじめ、各種リサイクル法が制定・施行されています。

「循環型社会形成推進基本法」で示されている循環型社会を実現するための具体的な活動として3R(リデュース、リユース、リサイクル)があげられます。Reduce(リデュース)は、製品をつくる時に使う資源の量を少なくすることや廃棄物の発生を少なくする取り組み、Reuse(リユース)は、使用済製品やその部品などを繰り返し使用できるようにする取り組み、Recycle(リサイクル)は、廃棄物などを原材料やエネルギー源として有効利用することを意味します。

3つのR
【出典:3Rイニシアティブホームページ(環境省)(https://www.env.go.jp/recycle/3r/initiative/index.html)】
3つのR
【出典:3Rイニシアティブホームページ(環境省)(https://www.env.go.jp/recycle/3r/initiative/index.html)】

自動車や家電製品などの最終製品は、複数種類の材料・部品の組み合わせで作られています。こうした最終製品は、製造コストを低減しつつ、その製品の性能や品質を担保するため、部材・部品の接合強度をより高めることを目指した製品開発が行われてきました。その反面、製品のリユースや、材料のリサイクルという視点から見ると、製造プロセスに改善の余地があると考えられています。特に、従来の接合技術である溶接・接着などの接合は分離性が低く、解体コストが高くなってしまうことが課題視されています。


ここでは、分離性を持ち合わせた接合技術の特徴、および研究開発の動向についてご紹介します。

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さまざまな分野で求められる分離性

<写真1>二次電池を搭載した電気自動車
<写真1>二次電池を搭載した電気自動車

はじめに、どのようなシーンで分離性が求められているのか、自動車分野と建築・インフラ分野を例に見てみましょう。

自動車分野

自動車業界では、ハイブリッド車や電気自動車などの次世代自動車の開発が進められています。これらの自動車には、動力源としてのモーターと、モーター駆動用のリチウムイオン電池やニッケル水素電池などの二次電池が搭載されていますが、これらの電極素材にはリチウム(Li)の他、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などのレアメタルが含まれています。これら資源の回収率の向上が求められています。他にも電子基板・センサー類などの効率的解体技術、貴金属含有部分の取り出し技術の研究が行われています。

また、自動車の車体軽量化を目指し、従来は金属性だった多くの部品がプラスチック製に代替されています。今や自動車はさまざまな種類の金属、プラスチックの組み合わせで構成されており、リサイクルを目的とする場合、これらを素材ごとに分離することが必要です。

<表1>に自動車メーカー各社の取り組みを紹介します。従来の接着、溶接、圧入といった接合方法は分解しにくく、可逆的な(もどしやすい)締結構造が多く採用され、解体性を考慮した構造・レイアウトの改善も行われています。

<表1>自動車会社各社の解体性向上事例(出展:社団法人日本自動車工業会)

企業名 部品名 施策 効果
トヨタ自動車 ワイヤーハーネス プルタブ式端子 缶詰のような要領で強く引っ張ると容易に解体ができる
インパネ 締結部のV字溝 ボデーへの取付け部にV溝を設け、 引き剥がし作業を容易にする
サイドトリム 遮音材の点貼付け 異材料の遮音材の取外し作業を 容易にする
マップランプ、バイザーなど ビス締め廃止 天井廻りの小物部品の取り外しを用意にする
燃料タンク、ドアトリム 解体性向上マーク 最も効率的な解体作業ポイントを示す
日産自動車 FRバンパ 取付け点数削減 従来同型車の取付け点数を11個から7個に削減
RRバンパ 構造改善 リアコンビランプを取り外さずに、リアバンパーを取り外す事ができる
メインハーネス レイアウト改善 アッパーパネルが簡単に 外れ、メインハーネスの解体が容易
ドアトリム ポイント溶着 防音用フェルトの接着をポイント溶着にして少ない力で剥がせるようにした

 

電機・電子部品分野

「一般社団法人パソコン3R推進協会」は、「資源の有効な利用の促進に関する法律」に基づく、パソコンおよびパソコン用ディスプレーの3R(リデュース、リユース、リサイクル)を促進しています。パソコンおよびパソコン用ディスプレーの事業を行う主要な日本企業の殆どが加盟し、使用済みパソコンの家庭および事業所からの回収・再資源化の推進や、広く環境に配慮したパソコンおよびパソコン用ディスプレーの普及促進を行っています。

同協会が管理・運営する「PCグリーンラベル」制度は、環境に配慮したパソコンを購入したいという消費者の選択の目安となるよう、「環境(含 3R)に配慮した設計・製造がなされている」「使用済後も、リユース・リサイクル処理が適正になされている」「環境に関する適切な情報開示がなされている」といった条件を満たす指針として基準項目定めています。

基準項目の中には、分離性に配慮した設計・製造に関するものも含まれています。(以下抜粋)

・リユース可能な部品/ユニットは、機能破壊されることなく分離できる構造を採用していること。
・製品の解体、分離が容易な構造であること。
・二次電池(バッテリー・パック)が明確になるような識別表示がされていること。また、二次電池は取り外しが容易な構造であること。

建築・インフラ分野

日本は地震大国といわれており、過去数年でも幾度か大きな震災に見舞われ、風や洪水などの自然災害では、住宅や橋梁の破壊が相次ぎに起こり、被災地に深刻な被害をもたらしました。被災地では、人手不足により応急住宅や応急インフラの整備が遅れてしまう問題も生じています。

応急住宅などの建設には強度を保ちながらも、容易に組立てられるような接合技術が求められます。また、不要になった応急住宅、応急インフラ建造物は速やかに解体し、リユースもしくはリサイクルすることで、災害時の資源効率を高くすることが期待されます。


<写真2>災害現場での仮設住宅
<写真2>災害現場での仮設住宅

現在プレハブ工法では、ユニット同士の接合はねじ止めなどが中心ですが、容易に接合できる半面、振動に弱く、応力集中などの影響での信頼性低下にも繋がります。ねじ締結は分離性には優れていますが、点止めであるため接合強度が低いというデメリットもあります。高い接合強度を得るためには接合面積の大きい接着や融着が望ましいとされています。

さまざまな分離可能な接合技術

ここでは、どのような分離可能な接合技術が開発されているのか見てみましょう。 接合加工はその原理によって以下の3種類にわけることができます。

(1)材料的接合:母材自身を溶融したり、ロウやハンダを溶融したりして接合します。
(2)化学的接合:界面に働くファン・デル・ワールス力やくさび効果で2表面を接合します。
(3)機械的接合:ねじ固定、圧入、カシメ等など、接合部品を用いて接合します。

<表2>では、接合原理別に、分離可能な接合技術例をいくつか紹介しています。
自動車・航空宇宙分野や電機・電子部品分野での応用も進められています。これらの分離可能な接合は「可逆的接合」・「解体性接着」などとも呼ばれ、分離することを前提に設計された接合方法です。

<表2>分離可能な接合技術例とその用途
<表2>分離可能な接合技術例とその用途

紫外線剥離テープや通電剥離性接着剤のように、紫外線照射や通電によって分離できるテープや接着剤も開発されています。他にも、熱可塑性樹脂や水溶性の物質など、高温/低温下や水中などの特定の環境下で物性を変える物質を用いて接合することで、特定環境に置けば簡単に分離できるものがあります。

古くから存在するボルト・ねじ固定は、元来分離可能な接合技術ですが、複数個所にわたって部品を外す作業は手間がかかります。そこで、形状記憶材や熱可塑剤をねじ山に採用したものも開発されています。

また、Ga(ガリウム)液体浸透のように、特殊な物質を浸透させることで、接合面を脆化させ分離する方法もあります。部品を傷めることなく数分で分離できるため、電子部品や基板のはんだ付け部の分離への活用が期待されています。

<写真3>電子部品の分離
<写真3>電子部品の分離

固相中間層挿入(nmレベルFe系接着層導入など)、ヤモリ肢テープ、面ファスナーは、それぞれ接合原理が異なりますが、面で接合しているという共通点があります。一つ一つの接合力は弱くても、面で接合することで接合強度を保っています。したがって、端から少しずつ剥がせば小さい力で簡単に分離することができます。

nmレベルFe系接着層導入は常温接合の一種で、ガラスと高分子フィルムの接合の際に活用されます。高温処理後でも簡単に剥がせるので有機フィルムデバイス等での活用が期待されています。常温接合はイオン照射や原子ビーム照射により表面酸化膜や吸着層を除去して、活性表面同士を接触させることにより常温で接合する手法であり、金属、セラミック、半導体を常温で接合できることが知られています。



<写真4>ヤモリの肢の裏の構造
<写真4>ヤモリの肢の裏の構造

ヤモリ肢テープ、面ファスナーはバイオミメティクス(生体模倣)を用いた技術でヤモリの肢の構造や、植物のゴボウの実の表面構造からヒントを得ています。

ヤモリの肢の裏には、マイクロメートルサイズの剛毛があり、それらの剛毛は、さらに細いナノメートルサイズの毛の集合によって構成されています。その微細な毛と物質との間に生じる弱い力、ファン・デル・ワールス力が集合して接着しています。この構造をカーボンナノファイバーや樹脂を用いて再現したのがヤモリ肢テープです。

ゴボウの実の表面は 、無数の鉤(かぎ)でできており、この鉤構造によって動物の体毛や人の衣服にくっつくことができます。面ファスナーはこの構造から着想を得て、小さな鉤とループの機械的結合を面上にたくさん作ることで、つけたり剥がしたりできる機能を実現しています。

<写真5>面ファスナーの構造
<写真5>面ファスナーの構造

子供靴や、ナイロン生地の財布でよくみる面ファスナーですが、実は宇宙航空分野でも多く利用されています。

2008年に土井宇宙飛行士がスペースシャトル・エンデバー(STS-123)に搭乗した際、国際宇宙ステーション(ISS)滞在中に着用していた船内被服に着脱性の高い面ファスナーが利用されました。
また、人工衛星を覆っているサーマルブランケットの固定にも面ファスナーが利用されています。サーマルブランケットは衛星に入ってくる外部の熱を遮断する役割があり、そのサーマルブランケットの固定を担う面ファスナーには高い耐熱性や難燃性などの安全性が求められます。
面ファスナーは高い着脱性と同時に、耐熱、難燃性等の機能性を付与することも可能であるため、宇宙分野をはじめ、すでに工業分野での利用が進められています。

▽面ファスナーのしくみや活用事例はこちら

まとめ

分離可能な接合技術の開発はリユース・リサイクルの目的だけにとどまらず、製造工程の改善や製品付加価値の向上といった新たな用途でも効果を期待できるものです。
現在、分野ごとに必要とされるシーンや課題が異なるため、それぞれに検討が進められています。バイオミメティクスなど、自然界の生物を模倣したメカニズムの採用や、特定の条件下でのみ分離する仕組みなど、面白いアイディアが次々と生まれている中、分野を横断してこれら技術の動向に注目することで新たな発見があるかもしれません。

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