マクセルの映像・光学機器開発のノウハウが結集~スマートイメージング・センシングで実現する車載安全支援システムの未来

INTERVIEW
マクセル株式会社
光エレクトロニクス事業本部 AIS(Automotive Imaging Systems)事業部 事業部長
平田 浩二
インタビュイーの写真

低炭素社会実現に向けてパワートレーンの変化、コネクテッドカーをはじめとしたモビリティサービス化へのシフト、シェアリングの拡大等さまざまなキーワードが飛び交う中、自動車はこれからどのように変わっていくのでしょうか?
そして現在、どこまで実現しつつあるのでしょうか?
今回はマクセル株式会社 光エレクトロニクス事業本部 AIS(Automotive Imaging Systems)事業部 平田浩二事業部長に、マクセルが描く最新技術を搭載した未来の車と車載製品について伺いました。

長い歴史の中で培ったマクセルの映像・光学技術と製品開発ノウハウ

マクセルの光エレクトロニクス事業本部は、2013年に日立マクセル株式会社(2017年にマクセル株式会社へ社名変更)へ事業移管されましたが、1950年代から続く日立グループの映像・光学分野にてさまざまな製品を生み出してきた歴史があります。

「我々の光エレクトロニクス事業本部は、日立製作所時代の1995年以降、プロジェクターを始めとする映像機器をメインに事業を展開してきました。近年では自由曲面レンズ/ミラーシステムという技術を用いて、世界で初めての超短投写プロジェクターを開発しました。当時、類似製品の加工例もなかったので、加工から成形、評価に至るまで全て独自で取り組んできました。」

「また、テレビの研究開発に携わっていたメンバーも加わっており、テレビやフラットパネルディスプレイで培った映像表示技術、リアプロジェクションテレビでの映像投写技術は日立時代からベースとして持っています。また、ビデオカメラやレーザープリンターでは、自由曲面レンズの一種であるfθレンズや映像を取り込む技術開発を行ってきた実績もあります。」

まさに、映像・光学のあらゆる要素技術を結集した組織と言えます。
これまでマクセルでは、自動車分野において電池材料や車載カメラ用レンズユニットといったモジュール事業を中心に事業を展開してきましたが、今回車載製品を新たに展開していく上で、技術以外にも強みがあると平田事業部長は語ります。

「これまでテレビをはじめとした一般消費者向けの家電製品を開発してきました。顧客である自動車メーカーの視点だけではなく、運転手や同乗者といった、一般消費者であるお客様の視点を持った製品づくりが一番の強みです。」

「お客様のニーズの変化を捉えて、どの時期にどういう製品をつくればいいのか考えています。純粋に技術論だけではなく、製品を利用していただいた時の価値の源泉を深く考えないと、スペックだけが少し違う製品ばかりになってしまって面白くないと思います。」

マクセルが挑む自動車の安全運転支援システムとは

「マクセルの車載向け製品のコンセプトは「交通事故死ゼロに向けて、ドライバーの安全運転の支援で社会に貢献する」です。カメラ等によるスマートセンシング技術と映像によって視認性を向上するスマートイメージング技術を組み合わせ、より安全に運転できる仕組み・システムを提供したいと考えています。」

イメージングでドライバーへさまざまな情報を伝える

「車載事業を展開するにあたり、これまで培った映像、投写、光学技術のノウハウを活かすことができる、ヘッドアップディスプレイ(Head Up Display、以下HUD)を軸に安全システムを提案することが最適だと考えました。」

「マクセルのHUDの特長は、小型化技術です。自由曲面凹面ミラーとマクセル独自の光学素子により光路を短縮することができ、また、冷却・導光体技術によりバックライトユニットも小型化することができました。その結果、HUD全体の容量を従来比約45%の1.65lと小型化を実現しました。」

「次に、取り組んだのはAR(拡張現実:Augmented Reality)-HUDの開発です。AR-HUDは液晶ディスプレイの映像を虚像としてウィンドシールドに反射させて映すことで、実景に映像を重ねることが可能です。車外の実景にナビゲーション情報や、歩行者のアラート情報を映し出すので、ドライバーの視点移動を最小限に抑えることができます。」

「実景に重ねるだけの大きな像を映すためには、一般的には大容量のHUDが必要になります。しかし、マクセルは超短投写プロジェクター開発で培った光学技術を活用することで、他社に比べて容積が半分程度というコンパクトサイズのHUDで、短い投写距離でも大きな映像を映すことを可能にしました。現状、世の中に小型のAR-HUD製品はまだ少なく、既に自動車メーカーから問い合わせをいただいています。」

AR-HUD
AR-HUD

「また、ウィンドシールドだけでなく、サイドミラーの前にカメラを設置し、車内にその映像を映すことで疑似的に死角をなくし、あたかもボディが透明のように見えるブラインドスポットビューワー(Blind Spot Viewer)という技術も開発しました。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)とレーザーを使って車内に映像を表示する製品は多くありますが、歪み補正や色補正、光の強度を調整可能なのは、今のところマクセルだけです。」

「車内の曲面に投影する場合、歪み補正が必要になりますし、車によって内装のインテリアやカラーリングが異なるので、下地の色に合わせて色補正を行うことで、より鮮明な映像を映し出すことが可能です。」

Blind Spot Viewer
Blind Spot Viewer

センシングで車内外のさまざまな情報を読み取る

「安全運転に必要な情報をドライバーに提供するためには、車内外の情報を適切に取得することが求められます。現在は、特に夜間の視認性向上に寄与するセンシング技術に注力しています。」

「レーザーを用いて対象までの距離等を検出する技術(LiDAR(Light Detection and Ranging)技術)についてはこれから実用試験を重ねる必要があるため、まだ時間がかかりますが、近い将来の製品化を見据えています。距離の分解能については、やみくもに高精度を求めず衝突防止に必要な精度に抑え、そのかわり安価に提供することをめざしています。」

「AR-HUDには映像表示位置の調整のため、運転手の目線の高さを検知するカメラを搭載する予定ですが、同時に運転手の状態を検知し、居眠り運転等の危険を回避する状態監視機能も付加しています。」

イメージ図:状態監視カメラ
イメージ図:状態監視カメラ

シェア獲得シナリオは中国市場から。デモカーによる販促キャラバンをスタート

「我々はまず中国市場から展開を始めます。その理由は、中国は国を挙げて積極的に次世代自動車の開発に取り組んでおり、新しい製品の市場として入っていきやすいということです。また、中国ではSUV等のやや小型の自動車が多く普及しているため、自社の強みである小型-HUDを活かせると考えました。その後、時期を見て日本や欧州市場にも展開していきたいと考えています。」

「AR-HUDを搭載したデモカーを中国に持ち込みましたが、2018年2月~9月の8ヶ月で、既に合計3万5千キロほど中国国内を移動し、中国ローカルや日中のJV(Joint Venture)自動車メーカーに紹介しました。2018年9月には、中国の深圳で展示会も行い、一般のお客様にもAR-HUDを体験してもらいました。」

2018年9月の深圳での展示会の様子
2018年9月の深圳での展示会の様子

「中国のデモカーには、ナビゲーション情報、危険察知のアラート情報およびWeChatのテレビ電話の顔の映像表示機能を搭載しています。テレビ電話はよそ見運転を防止できるので、より安全な運転が可能です。」

「深圳以外にも、武漢、石家庄等の都市でも展示会を行い、各地で多くの方にご来場いただきました。石家庄での展示会では、AR-HUDを実装したデモカーを実際に走行させて体験していただく機会もありました。」

石家庄での実車走行デモの様子
石家庄での実車走行デモの様子

「2018年9月現在、AR-HUDを実車に搭載し、展示会等にて実車走行デモを行っているのはマクセルだけです。中国国内では2020年には自動運転の実用化が始まると考えられており、それに合わせてHUDの需要も高まると予想しています。ご紹介したAR-HUDやドライバー監視システム、Blind Spot Viewerは製品単体での販売ももちろんですが、複数の製品を組み合わせて一つのシステムとしても提供していきたいと考えています。」

「自由曲面ミラーのように高精度が求められ、かつ加工工程が多い光学部品は、生産体制にも気を使わなければなりません。現状、中国市場向け製品は光学素子を自社工場で生産し、その他の部品製造や組み立て部分等はEMSも活用する予定です。将来的には全自動の生産システムを導入し、世界中のどこで製造しても同じ品質の製品を提供できるようにしたいと考えています。」

自動車産業のティア0.5へ。マクセルが考える自動車の未来。

「自動車の電装化がさらに進むと、自動車の構成要素が変わります。電気自動車では、今までのガソリン自動車の部品数の約1/10にまで少なくなります。部品点数が少なくなった分、内装や他の部分で付加価値をつけることが求められます。」

「センシング機能・データインタラクション機能や自動運転機能に加えて、今後はエンターテインメント機能が求められると考えます。例えば自動運転の車内で映像による観光案内をしたり、近くのレストランの情報を表示できるようになります。自動車はさまざまなサービスを提供する移動体になるのではないでしょうか」

「これからは情報を取り扱うソフトのプレイヤーの存在感がより強くなってくると思います。キャリアやICT関係から新しいプレイヤーが参入し、モノづくりの仕組みが変わってくると考えられます。我々はこういった新しいプレイヤーとも連携しながら、柔軟にモノづくりを進めていきたいと考えています。」

「我々は車載事業においてティア1ではなくティア0.5をめざしています。お客様との対話の中でふと、「こんなことができたらいいのになあ」といった半ば夢のようなニーズがこぼれ出てくることがあります。私たちはそのニーズを汲みとり、実現に向けたソリューションを提案し、自社の技術で貢献しながら、協業先と連携し、ともにゴールに向かうことがティア0.5だと考えています。」

「実はセンシング・イメージング技術を使った車載機器のニーズは、乗用車以外にもあると考えています。例えばパワーショベルやフォークリフトなどの建機分野です。その他にもさまざまな産業に展開できると考えています。」

おわりに

いかがでしたか。マクセルは長年培ってきた映像・光学の要素技術と製品開発力を武器に、これから変革期を迎える自動車産業にスピード感と柔軟性をもって乗り込んでいます。これからの自動車産業では多様な事業者がコラボレーションして新たな付加価値を創造する事例が増えそうです。またマクセルの保有する要素技術は自動車以外のさまざまな分野への活用の可能性がありそうですね。

マクセル株式会社
1961年創業。国内初のアルカリ乾電池やカセットテープで馴染みのある会社だが、現在は「自動車」「住生活・インフラ」「健康・理美容」の成長3分野を軸に事業を展開している。「自動車」分野では、LEDヘッドランプレンズ、車載カメラ用レンズユニットなどの光学製品、TPMS(タイヤのパンクセンサー)用耐熱CR電池など業界をリードする製品や部品実装用テープなどを提供している。AR-HUDはテレビやプロジェクター事業で培った映像・光学技術を活かしたものだ。
同社は日立グループを離れて2017年10月に社名変更し、自主独立経営を推進している。経営ビジョン「スマートライフをサポート 人のまわりにやすらぎと潤い」に沿い、各分野で競争力のある事業の構築をめざしている。