光造形+注型で“世界最速の開発支援企業”を目指すデザイン思考の最先端ベンチャー(前編)

新しいデバイスやアプリやサービスが次々とリリースされ、人々の暮らし方が下手すれば数か月から1年ほどもあればガラリと変わってしまう昨今、プロダクトの着想から製品化、販売まで数年もかかってしまうようではメーカーは生き残れなくなっています。開発はまさに時間との戦い。ライバル他社よりも先に市場に投入しなければ、チャンスを逸してしまいます。他社から半年も遅れてしまえば、販売するころにはすでに人々の関心とニーズは別のものに移り、機会を逸しているかもしれないのです。

ものづくりに今までとは違う次元の「スピード」が求められるようになり、アウトソーシングの形態も変革が求められています。そこで、企画を受け取ってから、「デザイン」「開発」「設計」「試作」までを、最短の時間で一気通貫のサポートおよび受託する「ものづくりエキスパート企業」が生まれてきています。その1社が、京都市伏見区にあるクロスエフェクトです。今回、同社の技術や営業の現状をお伺いしました。

開発と少ロットのオーダーメイドをターゲットに起業

同社の竹田正俊社長は、立命館大学を卒業してのち、米シリコンバレーのコミュニティカレッジに留学。周囲にはアップル社やグーグル、フェイスブック社など世界トップのベンチャー企業があり、起業家精神に刺激を受けたと言います。4年間の留学後、2000年にマンションの1室でクロスエフェクトを創業。それから20年で注目のベンチャーに成長しました。

若い社員が多く、平均年齢は20代後半。また男女比率も7:3程度と、メーカーとしては女性比率が高くなっています。若い男女を惹きつける魅力はどこにあるのでしょうか。

竹田社長が目指したのは、ものづくりの上流工程に関わること。実は竹田社長の実家は大量生産の下請け工場を経営していました。しかしそうした量産工場は今後ますます人件費の安い国でないと成り立たなくなる。そこで、「大量生産しないものづくり」をしようと考えたのです。

株式会社クロスエフェクト竹田正俊(たけだまさとし)社長
株式会社クロスエフェクト竹田正俊(たけだまさとし)社長

一つはものづくりの最上流工程にある開発に関わること、そしてもう一つが、少ロットのオーダーメイドを行うことです。そこで、3DCADによる設計・デザインから、3Dプリンターよりも高速・高精度での造形が可能な「光造形」、そして注型による少ロット生産までの製造および開発サポートをビジネスモデルに定めました。

現在同社は、クライアントメーカーの企画会議にも同席し、「こんな商品を作りたい」「前のデザインよりも格好良くしたい」といった顧客の思いをヒアリングし、それをもとに試作品を作り上げているといいます。

3Dデータとの誤差は±0.05〜0.1mmを保持(150mm角程度の製品の場合)。光造形の積層ピッチは0.05mm〜0.2mmに設定が可能。そして、スタッフの手で、積層の段差やサポートを除去し、塗装、二次加工などの後加工も行います。非常にクオリティの高いモックアップを仕上げ・完成まで行うのです。竹田社長は言います。

「当社は“世界最速の開発支援企業”を目指しています。他企業が納品までに1か月かかる試作品でも、弊社ならば15日で仕上げることができるといったように、圧倒的なスピードとクオリティでお客様からの信頼を勝ち得ています」。

同社は「試作に特化したソリューション提供サービス」を専門とするサイト「京都試作ネット」のメンバーであり、案件の1割ほどは京都試作ネットから受託しています。

女性も活躍するクロスエフェクト
女性も活躍するクロスエフェクト

内閣総理大臣賞受賞!オンリーワンの技術力が支える

クロスエフェクトを一躍有名にしたのは、2011年に事業をスタートさせ、2013年に経済産業省主催の第5回「ものづくり日本大賞」において内閣総理大臣賞を受賞した、人の心臓モデルの製作です。この事業を始めるのには一つのストーリーがあります。

「国立循環器病研究センターの白石公(しらいし いさお)先生から、小児の心臓モデルを作れないかとお話をいただいたのが2005年くらい。しかし当時は当社にその技術がなく、一度はやむなくお断りしました。それから4年ほど経ち、当社も技術力を高めてきたところに、白石先生がまだ心臓モデルを作れる企業を探していらっしゃったのを知り、挑戦することを決めたのです」と営業グループの田中哉大氏は振り返ります。

営業グループ田中哉大(たなかかなた)氏
営業グループ田中哉大(たなかかなた)氏

白石医師のオーダーは、CTスキャンで撮影した心臓のデータから、その患者の心臓にそっくりな心臓を再現してほしいというもの。 なぜ小児循環器内科医の白石医師は心臓モデルを欲しがっていたのでしょうか。それは先天性の心疾患を持つ子どもの心臓手術の術前検証のためでした。心房中隔欠損症(右心房と左心房の間に穴が空いている病気)などの心臓手術が必要なケースで、その子どもの実際の心臓に、どのような形状の穴がどこに空いていて、どう穴を塞げばいいのか、事前にものを見て術式の検討・シミュレーションを行いたいというのです。子どもの心臓は小さく、手術は難しい。体力もない。そのため、何よりも、手術を短時間で手際よく、成功させたいという思いから、心臓モデルを作れる企業を探していたのです。

患者のCTスキャンのデータを3DCADに取り込んで3Dデータ化させ、光造形でマスターモデルを作成。次に型を作成し、心臓モデルを再現します。もちろん、心臓の穴も再現されます。心臓モデルの樹脂は特殊な素材を選びぬきました。触ってみると柔らかいが、筋肉の質感があります。実際の心臓にかなり近いのだそうです。

心臓をはじめ数々の臓器モデル
心臓をはじめ数々の臓器モデル

この事業は2011年、「クロスメディカル」という新法人でスタート。臓器モデルの製造サービスをリリースしました。白石医師は現在、心臓モデルを小児の心臓治療に生かしています。これまでに150人を超える臨床実験を重ねてきました。また、若手医師や医学生の治療の練習にも利用されています。

その他、大人の心臓モデルや、肝臓、脳、肺血管、気管支、頭骨、大腿骨が再現され、治療の検討・シミュレーションや、インプラントの作成のために利用されています。同社の技術は、竹田社長が「世界的にみても弊社の技術力は圧倒的な高さを誇っていると自負しています。今後この分野での世界展開を進めていこうと考えています」と自信をもって語るほどのクオリティを誇ります。

この心臓モデルは2013年に経済産業省主催の第5回「ものづくり日本大賞」において内閣総理大臣賞を受賞。また、「立体構造が極めて複雑な先天性心疾患患者への3Dモデル診断による術時間削減を実現する、オーダーメイド型超軟質3D精密心臓モデルの開発・事業化」が、平成29年度AMED医工連携事業化推進事業に採択されています。

「心臓モデルの製作はやはり非常に注意を払い、慎重にやっていますね。もし心臓モデルの製作に失敗して、手術が1日、2日遅れてしまったら、救える命が救えなくなってしまうことにつながりかねないですから。人の命を救う医療に関わっているということは、やはり使命感もありますし、誇れる仕事です」と開発支援グループプロトタイプチームの和田遼太氏は言います。

開発支援グループプロトタイプチーム和田遼太(わだりょうた)氏
開発支援グループプロトタイプチーム和田遼太(わだりょうた)氏

まさにこうしたやりがいや使命感が、若い人たちを惹きつけるのだと思います。やはりコモディティ化して価格競争に陥っているモノを大量に生産するのではなく、高い技術で他社の真似ができないものを作る。そして、人の役に立つことを実感できる、そして、自己の成長を実感できるビジネスを作り上げたことこそが、クロスエフェクトが急成長している理由なのではないでしょうか。

後編では、彼らの技術力はもとより“時短”を可能にするノウハウと技術をご紹介します。

文/嶺 竜一

こちらの記事もおすすめ(PR)