躍進する中国モビリティメーカーの出展が話題に!世界最大級の家電ショーCES2019現地報告(前編)

自動車業界のニューイヤー・パーティと呼ばれたデトロイト・モーターショーの衰退が話題になる一方で、世界中から自動車メーカーやメガ・サプライヤーが押し寄せるショーがあります。毎年1月にラスベガスで開催される世界最大級の家電ショー、Consumer Electronics Show(CES)です。

中国モビリティ・テクノロジーが躍進する家電ショー!?

なぜ、B2Bの家電見本市に自動車メーカーやサプライヤーが集まるのでしょうか? 近年加速するパワートレインの電化に加えて、ジェネレーションYが消費を担う年齢に達し、デジタル・ネイティブ世代が免許を取る時代になっています。そうした背景を受けて、GM、フォードのようなアメリカ車メーカーはもちろん、ドイツ、日本、韓国の自動車メーカーに加えて、世界中のメガ・サプライヤーまでもがこぞって最新テクノロジーを出展するショーへと変容したのです。

1967年に初回のCESが開催された当時は、テレビやAVが主役でした。1980年代にはパソコン、1990年代には携帯電話、2000年代にはソフトウェア産業が主役となってきた歴史があります。もちろん、2019年現在でも、メイン会場には、パナソニック、ソニー、LG、サムソンといった家電メーカーが幅をきかせています。同時に、ラスベガスのあるネバダ州の法律が自動運転に寛容なこともあって、会場の周辺を自動運転車が縦横無尽に走っています。

今回、最大の注目株は、中国モビリティ・テクノロジーの躍進です。その筆頭がEVスタートアップの「BYTON」です。2018年のCESで初登場したときには、誰もが「なんの会社だろう?」と首をかしげていました。あれからわずか1年の間に、3台のコンセプトカーを発表し、2019年のCESには市販モデルの量産試作車を持ち込んできました。

はじめに、BYTONの“歴史”をおさらいしておきましょう。2017年に最初の資金調達(Aラウンド)を実施し、9月に南京工場を開設。同年12月にアメリカ支社を新設。ちょうど一年前のCESにてIoT搭載を前提にしたEVとして「M-BYTEコンセプト」を世に送り出しました。わずか半年後のCESアジアでは、L4の完全自動運転の機能を搭載したコンセプトカー「K-BYTE」を発表しました。現在、本社とR&Dセンターと工場は南京に所在していますが、デザイン・センターは上海、ソフトウェア開発は米サンタクララ、技術開発の拠点はミュンヘンと、世界中に開発・生産拠点を配置しています。

実際、共同創業者のうち、2人はドイツ人です。CEOを務めるCarsten Breitfeld氏は元BMWで電動モビリティのサブブランド「i」シリーズを牽引していた人物であり、社長を務めるDaniel Kirchert氏は日産の高級車ブランドであるインフィニティの取締役といった経歴の持ち主です。中国側の創業者であるJack Feng氏は、ロールスロイスやBMWを中心に扱う「ハーモニー・オート・ホールディングス・リミテッド」の会長です。チーフ・デザイナーに着任したBenoit Jacob氏はフランス出身。ルノーで「スポール・スピダー」のデザインを担当した後、BMWにて「i3」「i8」をいった電動モビリティのアドバンスド・デザインを牽引した人物です。現在、BYTONでは、世界20カ国で1万5000人が、開発に携わっています。

ドイツ人が中国で創業したBYTON

発表会場では、昨年のCESで登場した「M-BYTEコンセプト」を元に生産した量産試作車が披露されました。あのテスラ・モーターズでも、2003年の創業から5年後に「ロードスター」の生産を始めたほどです。数年に渡って2,500台を生産した後、「モデルS」でようやく量産と呼べる台数に達したのです。BYTONは創業から2年ほどにもかかわらず、100台の量産試作に成功していたのですから、そのスピードの速さがわかります。2019年後半には30万台規模の量産ラインを立ち上げて、中国国内のデリバリーを開始すると宣言しています。

<写真1>
<写真1>量産第1号モデルとなる「M-BYTE」にはセダンとMPVの2機種があるが、セダンはコンセプトカーを展示。
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<写真2>量産試作車はMPVで、全長×全幅×全高=4,850×1,940×1,650mmのスリー・サイズ。

EVゆえに、フォルクスワーゲン「I.D.」やBMW「i」などと比べる声もありますが、BYTONのアドバンテージはEVというだけではなく、スマートカーである点にあります。また、テスラとも比べてしまいがちですが、実はこの2社のヴィジョンは似て非なるものです。テスラはイーロン・マスクが掲げる地球環境問題に取り組むEVスタートアップなのに対して、BYTONが目指すのはIoTを前提にした次世代モビリティなのです。EVではあるが、次世代パワートレインには電気モーターが適していると考えた過ぎません。

一方、BYTONは、巨大スクリーン、高速コネクティビティなどの機能を搭載して、“車載スマートデバイス”の機能を充実させています。加えて、彼らが描く将来のビジネスモデルには、従来の自動車メーカーの“クルマを売る”ことへのこだわりはありません。

「ライバルは、アップルやサムソンです。デバイスを売るだけではなく、デジタル・コンテンツの提供やユーザー体験の充実を重視しています」(CEO Breitfeld氏)

すでにお気づきだと思いますが、BYTONの凄さは、1.コネクテッドを前提にクルマが設計されている、2.パワートレインはEVであることが前提、3.グローバルから人材を集めるために、設計、生産、デザイン、テクノロジーの開発拠点を最適な地域に新設した、という3点に集約されます。

■後発であることを利点に変える開発戦略

CEOであるBreitfeld氏はBYTONの戦略をこう話します。
「BYTONの戦略上、非常に重要な“プラットフォーム”が2つあります。第1は、物理的なプラットフォームです。米国、欧州での発売を前提にした安全基準をクリアし、電動パワートレインを搭載し、自動運転に対応し、4WDの機能を備える車両プラットフォームです。第2は、インフォメーション・プラットフォームであり、『BYTON Life』と呼ばれるデジタル・プラットフォームを自社にて構築します。もちろん、クラウド、センターといった重要な部分の開発も進めています。双方の視点から、BOEと共同で自動車グレードの巨大スクリーンを開発するなどもしています」

さらに、Breitfeld氏は続けます。
「テスラ、NIOといったEVのプレミアム・ブランドが生まれている今の時代において、BYTONは後発であるという認識はあります。そこを逆手にとって、最新のコネクテッドや自動運転機能などの先進的な機能を搭載する方針で開発しています。今回、CESで発表したM-BYTEの量産試作車では、先進的なHMIを搭載しています。具体的には、5Gを前提にしたコネクテッドへの対応、乗員の顔認証機能の搭載、OTA(Over The Air、「無線」)によるソフトウェア更新など、現在考え得る最新の機能を積んでいます」

<写真3>BYTON のCEO Carsten Breitfeld氏
<写真3>BYTON のCEO Carsten Breitfeld氏

BYTONは、自動車業界における車両プラットフォームとITプラットフォームの両方を自ら開発する方針です。AI活用はもちろん、ソフトウェアの更新を随時OTAで行うことにより、“究極のカスタマー・エクスペリエンス”を提供することが最大の目的です。実際、CESのプレゼンテーションでも、「M-BYTE」の製品やスペックについて言及より、キーワードとして重視されたのは「デジタルライフの充実」に重きが置かれていました。

展示車両でも、室内に設置された巨大な48インチ・ディスプレイが目をひきます。通常はインフォテインメントの表示に使われますが、ステアリング・ホイール上の7インチのタッチ・パネルにて自動運転の機能を起動すると、エンタテインメントに表示が切り替えられます。

<写真4>
<写真4>Aピラーの端から端をつなぐほどの大きさの48インチ・ディスプレイを搭載し、ステアリング・ホイールの背後にある7インチスクリーンと連動。

もう一つ、バイトン・タッチパッドなるセンター・コンソール上のディスプレイが存在します。こちらは顔認証、アマゾン・アレクサによる音声コマンド、ジェスチャー・コントロールなどでの操作に対応します。もちろん、これだけの情報トラフィックが発生するため、5Gへの対応も視野に入れて開発されたマルチアンテナを搭載しています。

自動運転システムの開発では、グローバルではオーロラと、中国国内ではバイドゥと手を組みます。2019年に中国国内で発売される「M-BYTE」はL3の自動運転の機能を搭載するのに対して、2021年までにL4を搭載したモデルを世に送り出すと宣言していることも見逃せません。2020年以降は、米国、欧州へと市場を拡大します。日本市場へのリクエストも多いそうですが、現状では、右ハンドルの生産を開始する必要があるので、香港などの右ハンドル市場の動向を見て、時期を見計らう方針とのことです。

車両プラットフォームは、リチウムイオン電池を床下に配置して、電気モーターで4輪を駆動。1回の充電による走行距離は、70kWh搭載で250mile、95kWh搭載で325mileとなります。レベル3の自動運転機能を搭載し、価格は、大型ディスプレイなどの魅力的な装備が標準で備わった状態で4万5千ドル〜の設定ですが、走行距離の設定や内装などの選択により、6万ドルあたりが人気の価格帯になると予想しています。

<写真5>床下にリチウムイオン電池を配置した車両プラットフォーム
<写真5>床下にリチウムイオン電池を配置した車両プラットフォーム

デザインでも、コネクテッドカーらしさを重視

なかでも、興味深いのは、従来の自動車メーカーなら隠そうとするLiDERセンサーを、BYTONではあえて強調している点です。

「BYTONでは、ラグジュアリー、プレミアム、スポーティネス、テクノロジーを表現しようと考えました。デザイン言語を新たに構築し、ラグジュアリーEVとして理想的なプロポーションを与えました。さらに、コ・クリエーション・プログラムにより、ポテンシャル・ユーザーからのフィードバックも重視しています。自動運転のような機能が搭載されているなら、自慢したいと思うといったユーザー心理も研究し、デザインに生かしています」(チーフ・デザイナー Jacob氏)

<写真6>チーフ・デザイナーのBenoit Jacob氏
<写真6>チーフ・デザイナーのBenoit Jacob氏

一例として、「M-BYTE」では、自動運転の機能をアクティベートすると、LiDARセンサーの存在が目立つようにデザインされています。ルーフ上に配置された頭上から360度を見渡す機能を持つLiDERセンサー「BYTON LiBow」は、アクティベートすると周囲を囲んだLEDランプが輝きます。サイドに取り付けられたLiDARセンサー「BYTON LiGard」は、ぐるっと回転してサイドにせり出します。

<写真7>ルーフ上のLiDERセンサー「BYTON LiBow」とサイドに取り付けられた「BYTON LiGard」
<写真7>ルーフ上のLiDERセンサー「BYTON LiBow」とサイドに取り付けられた「BYTON LiGard」

最後に残るのが、果たして年内に量産が開始できるか? ということです。あくまで推論であることは事前にお断りした上で、取材による事実から論じてきましょう。

創業当初から、ボッシュやフォレシアといった欧州でもトップクラスのメガ・サプライヤーと協業することで、グローバル基準での技術力を手にしています。ボッシュは自動車部品に留まらず、スマートフォン用センサーやスマートシティなどの事業でもリーディングカンパニーです。フォレシアは自動車の内装を得意としますが、近年、クラリオンを買収したことで、カーナビなどのHMIの分野の開発機能も手に入れました。

さらに、5億ドルもの調達に成功したシリーズBでは、中国で最も歴史ある自動車メーカーの第一汽車(FAW)、先進インフラやヘルスケアなどを手がけるTus-Holdings、リチウムイオン電池最大手のCATLと、次世代モビリティ企業にとって頼もしい投資家陣営となっています。2018年にはすでに、南京のグローバル本社に隣接して、最新のスマート工場が完成しています。  これらの事実から導き出されるであろう現実が非常に楽しみです。

“出前”プラットフォーム大手「美団」による自動運転ロボ・デリバリー

CESの会期直前、イタリアでプロトタイプ製造などを出がけるデザイン・スタジオ「ICONA」から、CESの会場で自動運転ロボを発表するとの情報が入りました。米NVIDIA、仏VALEO、中国・美団が、戦略パートナーシップを結び、自動運転ロボを活用したデリバリーを開始するとのことでした。

美団といえば、最近、中国版食べログである大衆点評と合併し、企業価値が100億ドルを越えるユニコーンとなったことで話題を振りまいたばかりです。今回の発表では、中国国内における大規模な商用利用に加えて、世界展開も視野にいれると発表しました。加えて、ヴァレオはフランス最大手のメガ・サプライヤーであり、自動化や電動化の分野を中心に、ドイツ車メーカーへの売上も伸ばしています。NVIDIAは言わずとしれたGPUメーカーであり、自動運転のシミュレーションやAIコンピューティングに強みがあります。

ヴァレオは、パワートレインや自動運転用のセンサーとして、LiDAR、レーダー、超音波、カメラなどのセンサー類とインテグレーションを担当します。NVIDIAは、R&D支援、シミュレーション、走行オペレーションを担当します。もちろんICONAは、車両をデザインします。

美団はすでに中国国内で、独自にデリバリーロボを走らせています。従来、AIを活用したビッグデータ解析を含め、配送に関する高度化を進めてきました。本拠地の北京、河北省、深センといった地域を限定しての実証試験を着々と進めてきています。しかしながら、今回あえて戦略パートナーシップを発表した背景には、大きな理由があります。

技術開発のみならず、バリューチェーンの構築のために、国際的な企業とのパートナーシップを結んだのです。将来的には、美団の配送プラットフォームをオープンソース化し、フード配送ビジネス全体が恩恵を受けられるようなプラットフォーム構築を目指します。

CESでは、AIを活用したデリバリーシステム「美団自動デリバリー (MAD)」で活用する予定の自動運転配送ロボに加えて、食品配送やエンタテインメント配信のための世界最大のナレッジマップを構築することを目的とするプロジェクト「Meituan Brain」を披露しました。

<写真8>美団のデリバリーロボ
<写真8>美団のデリバリーロボ

100km離れた村落でも、ドローンで即日配送!

アリババと並ぶ、中国の大手ECサイトである京東商城(JD.com)も、美団同様、今年、CESへ初出展しています。中国のパソコンの70%の購入がJDのサイトを通して行われていると言えば、その巨大ぶりがわかるでしょう。

JDでは、すでにビッグデータを活用したAIコンピューティングによる消費動向の予測や、ブロックチェーンを活用したサプライチェーンの管理に加えて、小売りに強みがある点を生かして、店舗でのARアプリによる顧客体験の充実など、最新テクノロジーの投入を実施しています。配送システムに関しても、効率の高い配送システムの構築にAIを活用したり、スマートホームとスマートカーに宅配システムを結ぶプラットフォーム構築などを行っています。

また、自動配送の開発にも着手しており、CESでは、現在、実証試験を行っている自動配送ロボをすべて展示しました。配送システム内で使う自動ロボットは、自動で商品の配送先を把握し、目的地ごとに仕分けします。小売店で使う自動ロボットは、顧客のスマホとペアリングすることにより、店舗内で追従します。

自動配送にはドローンも活用しています。100kmを越える山間部などへの配送では、100kmを越える飛行距離のハイブリッド式のドローンを独自に開発しています。電動ドローンとして空中に浮いたのち、エンジンに切り替えて長距離を飛行することにより、一般的なドローンの課題である飛行時間の短さを克服しました。これにより、山間部の小さな村でも即日配送を可能にしてします。

<写真9>京東商城のハイブリッド式ドローン
<写真9>京東商城のハイブリッド式ドローン

まとめ

今回のCESでは、中国におけるモビリティ革命が、独自の方向を探りつつあることを感じずにはいられませんでした。もともと中国には、巨大なマーケットが存在し、近年の経済成長により、国内でも潤沢な資本を得られるようになったのです。それに加えて、近年は、欧米から先端のエンジニアが集まり、国内でも優秀なエンジニアが育ちつつあります。そしてこれが最も中国の特殊な点ですが、多少、未熟成の技術でも受け入れて、使いながら育てるという社会の気風があります。今後、中国モビリティのテクノロジーは、欧米の最先端技術を上手に取り入れて、国内で熟成させていくことで、独自の方向に開花して行く予感がします。

文/川端由美

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1961年創業。国内初のアルカリ乾電池やカセットテープで馴染みがあるが、現在は「自動車」「住生活・インフラ」「健康・理美容」の成長3分野を軸に事業を展開。各分野においてパートナーと連携し、事業、製品、サービスの構築をめざしています。

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野原電研(株)グループ品質保証部門が母体となり設立されたJTL(JAPAN TESTING LABORATORIES)株式会社。全国5箇所に加えアメリカにも拠点をもつ同社は、約200種類300台以上の評価設備を保有し、年間約10,000件の取引実績があります。