板金加工をネットで自動見積もり!部品調達の非効率を解決する画期的システムに迫る(前編)

INTERVIEW

キャディ株式会社
代表取締役
加藤 勇志郎

日本の製造業は、高度成長期後の大きな転換点を過ぎ、課題が山積したまま、時間だけが経過しているという状況にあります。特に中小企業は人材不足、後継者問題、国内産業の空洞化といった環境で大変なわけですが、小さな町工場から日本の製造業を建て直そうという元気なベンチャーが出現しました。キャディ株式会社は、特注品の分野で発注者と全国の協力工場を結び、自動見積もりでマッチングするサービス「CADDi」で急速に伸びているベンチャーです。代表取締役の加藤勇志郎氏にお話をうかがいました。

<写真1>キャディ株式会社 代表取締役 加藤勇志郎氏
<写真1>キャディ株式会社 代表取締役 加藤勇志郎氏

────御社の来歴と加藤さんご自身についてお教えください。

加藤:
弊社は2017年11月に設立されました。社名は、CADからダイレクトに発注するという意味に加え、ゴルフのキャディさんのようなに製造業におけるサポーターという存在のイメージもあります。製造業のサイズが東西であまり変わらないこともあって、東京の本社に加え兵庫県の尼崎にもオフィスがあります。現在(取材時2018年11月21日)、社員は15名程度ですが、月に5名ほど増えている状態です。

もともと私はマッキンゼーアンドカンパニーというコンサルティングの会社にいま した。マッキンゼーでは、シニア・マネジャーとして大手メーカーさんの部品調達支援の仕事をさせていただいておりました。どのメーカーも等しく抱えている膨大な調達管理工数や最適な発注が困難であるがゆえの高コスト問題、町工場の低い受注率による経営赤字、ひいては多くが廃業に追いやられているという課題を目の当たりにしてきました。煩雑な作業に追われていた発注者・町工場双方の問題を解決し、生まれた余剰時間をより高付加価値な仕事に使っていただきたいと思い、起業してそれらの課題を解決しようと考えました。


────創業メンバーは加藤さんだけですか。

加藤:
弊社は最高技術責任者(CTO)の小橋昭文と私の二人で始めた会社です。小橋との出会いは、4年ほど前に私が仕事で米国のシリコンバレーを訪ねたときに共通の知人から紹介されたことがきっかけです。

私と小橋はちょうど同じ年代で話が合い、その後は年に2回ほど会って話すようになりました。小橋はスタンフォード大学と大学院で電子工学を学び、ロッキード・マーティンという世界最大の軍事企業でソフトウエア・エンジニアとして人工衛星の画像データ処理システムの構築などをおこなっていました。その後、Apple本社に移り、ハードウエア、ソフトウエアのエンジニアとしてiPhone、iPad、AppleWatchの開発や改良などに関わってきた人間です。

弊社の他のメンバーは、1/3がエンジニア、1/3がビジネス、1/3がオペレーションと呼んでいるお客さまのサポートの仕事をしています。メンバーのバックグラウンドは、ソフトウエア、ハードウエア、金融などですが、最近になって製造系のバックグラウンド持つメンバーも増えてきています。例えば、私の同期なんですが、マッキンゼーから町工場さんへ転職し、そこから弊社へ入ったようなメンバーもいます。


────今の製造業が抱える問題について教えてください。

加藤:
製造業の企業活動では、設計から資材や部品の調達をして製造・販売というバリュー・チェーン(価値連鎖、価値の流れ)がありますが、その中で調達だけイノベーションがなされず、遅れている分野となっています。 例えば、設計ではコンピュータによるシミュレーションができるようになっていますし、製造でもロボットによる自動化が起きている。また、販売の分野でも米国のように何兆円もの規模のビジネス・モデルが誕生するようになっています。しかし、部品調達というのは100年以上、イノベーションが起きていない分野なのです。日本における製造業は180兆円規模といわれていますが、その内の約120兆円が生産に直結する原材料・資材・部品などの直接材の調達コストになっています。

弊社はそこにイノベーションを起こしたいと考えています。実際、私も調達の仕事をしていたときに、設計でせっかく3Dのデータになったものを2Dの紙の図面にしてから郵送するというような場面をよく見ました。受け取った町工場さんの側では、その図面を1枚ずつ眺めながら社長さんが徹夜して見積もりし、しかしそれも相見積もりなので失注することも多く、受注できたとしてもさらに価格を叩かれるという状況です。

約120兆円という調達コストの1/3程度が、大型輸送機器、産業機械、医療機器といった多品種少量の生産業界です。大手メーカーの調達担当1人あたりがみる設計図は平均1日約400枚にものぼり、それほどの量だと右から左へ流していくしかありません。そしてその400枚の設計図が町工場さんへ一気に来るわけですが、約2万社あるといわれる板金工場の8割以上が従業員9人以下の零細企業です。見積もり担当を誰がやるかといえば、社長がやるしかない。社長の時間の半分以上が見積もり作業に費やされ、深夜までかかってやっても8割以上を失注するという、こうした負荷の高い状況がずっと続いていたわけです。


────この非効率な状況はほかにどのような問題を生んでいますか?

加藤:
日本の製造業、特に多品種少量生産業界では、調達に手間がかかり過ぎているためコストも高いのです。例えば日本はドイツと比べると20%くらい原価率が高くなってしまっています。コストが高いというと、加工する側が高く売っていて儲かっていると思うかもしれませんが、実は75%の町工場さんが赤字経営なんです。もちろん、理由や背景はこれだけではありませんが、この30年で半分以上の町工場さんが潰れている状況です。

こうした町工場さんのほとんどは小さな会社で、それぞれの得意な技術的領域はとても限定的ですが、見積もりで何百も設計図が来れば、専門外の領域もがんばってやろうとしがちです。自分たちで工夫してコストがかかってもやってみたり、外注さんに頼んでみたりする。すると当然高くつき、発注元はその高止まりした金額をさらに叩いてくるので赤字でもやらざるを得ないという構造になっています。

弊社では月に400社くらい新規顧客が増えていますが、そのうちの98%が中小企業。彼らが抱える最も大きな経営課題は安定受注です。町工場さんのような多品種少量型の中小企業だと、大手メーカーさんなどの元請けのお客さまに対する依存度が極端に高く、その発注量に左右されます。発注量が多いときは、極端に忙しくなって他の仕事に手が回らなくなり、大手のお客さま以外の仕事を断ったり、その時期だけ納期が長くなったりするので、価格が急激に上がってしまいます。


────御社のビジネス・モデルについてご説明ください。

加藤:
発注側がCADやDXFの図面データを弊社のウェブ上のCADDiというシステムへアップロードしていただくと、それをリアルタイムで解析してすぐに見積もりがでます。材料や数量、溶接の指定、塗装やメッキなどの後加工や納期などの細かいパラメータもの指定も画面上で変更するだけでリアルタイムで価格に反映されます。特注品でもすぐに見積もりが出る仕組みは、弊社がパートナーさんと呼んでいる全国の協力加工会社さんのすべての製造原価を自動で出しているからです。

もちろん、協力工場さんごとに設備、スキル、チャージレート、材料費などが違いますが、会社ごとにいくらで作れるという分析を自動で出しています。発注側からすると調達が簡単にできるというメリットがあります。従来なら近くの町工場さんにまとめて発注していたものを、弊社のシステムを介することで全国の最適な協力加工会社さんに分散させて発注することで、コストを約2〜3割下げることができます。弊社の場合は内部で原価を出しているので相見積もりを一切しませんから、パートナーさんにとっては受注可能と返答した時点でほぼ100%受注できるというメリットがあります。そのため、無駄な見積もりにエネルギーをかける必要がなくなります。

また、弊社のシステムであらかじめ製造原価を出していますから、必ず利益が出る発注だけをご提案できるので黒字保証が可能です。つまり、必ず利益を乗せた発注を相見積もりなく、しかも安定的に受けられるということです。

CADDi(キャディ)のビジネス・モデル
CADDi(キャディ)のビジネス・モデル

────今後の実装していきたい機能などについてはどうでしょう。

加藤:
今後はCADのプラグインなどを使いつつ、CAD上で価格が自動で出てくるという設計者向けのサービスも導入する予定です。また、今後は特殊板金加工の他に機械加工や樹脂切削などの分野も手がけていく予定でいます。そのほかにも町工場さんから多様なリクエストをいただくことも多く、 例えば、弊社の自動見積もりのアルゴリズムを切り出してソフトウエアとして提供するとか、ほとんどがエクセルと紙で行われている生産・納品管理の効率化支援などが、今後展開していく領域として考えられるのではないかと思います。


────サービスの範囲を広げる可能性は?

加藤:
加工の前段階の材料調達を弊社が取りまとめることで歩留まりが下がりますし、塗装やメッキなどの後加工にしても、板金とメッキという作業を分離し、同じ種類の後加工でまとめて別のパートナーさんにつなぐだけでコストはかなり下げることが可能です。それぞれの得意分野で最適配分を行えるようになれば、発注者・加工会社双方にとって大きなメリットがあります。

画期的なサービス「CADDi」を生み出したキャディ株式会社。発注者はすぐに見積もりを得られ、それが保証されます。また、受注する協力加工会社は黒字保証を受けられる。しかもキャディは、このシステムでビジネスを展開し、発展させていくことができます。近江商人よろしく、まさに「三方良し」といったところでしょうか。後編では、より具体的なお話を伺っていきます。


後編に続く

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文/石田雅彦