史上初!自動車展示会にクルマを置かないボルボの狙いとは? LAモーターショー現地リポート(前編)

1907年から毎年ロサンゼルス・コンベンションセンターで開催されている国際自動車展示会、ロサンゼルスモータ-ショー。自動車のEV化やPHV化が進む昨今ですが、いよいよ今回はVolvoがLAショー始まって以来のクルマを展示しないブースを設置しました。その狙いと、Volvoと提携する新興ベンチャーの実力、そしてテスラを追随しようとする新規EVメーカーを取材しました。

スタンフォード中退の23歳が創業!LiDARのスタートアップ

「ロサンゼルス・モーターショーで、ボルボが車両のない展示をします」——そんなニュースを聞いて、自動車業界に身を置く者として、心底、時代の変化を感じました。加えて、自動車の展示会に先駆けて開催された“Automobility LA”なるテクノロジー・イベントで、ボルボが光を用いたリモートセンシング技術で対象物との距離を測るLiDAR(Light Detection and Ranging)技術のスタートアップである「ルミナー・テクノロジーズ(以下、「ルミナー」)」と提携することを発表しました。

ルミナーの創業者は高校生で起業し、現在まだ23歳の若さです。ルミナーは自動車メーカーではすでに、トヨタのシリコンバレーにある研究機関「TRI」とすでに手を組んでいますが、ボルボは投資部門「Volvo Cars Tech Fund」経由で投資を行っています。

まずは、ルミナーの技術の詳細を紹介しましょう。従来、LiDARセンサーの主流であるヴェロダイン(Velodyne)社の製品は、128個もの近赤外レーザーを回転させて、360°を見るものでした。最大の課題はルーフ上に巨大なLiDARセンサーを積むことと、7万5000ドルとも8万ドルとも言われる高額のプライスタグです。

対するルミナーでは、価格は未定ですが、たった2個のLiDARセンサーのみで、約10%の反射率で250m以上の遠距離まで見渡せます。これは、「現在、自動車用に使われる最新LiDARセンサーと比較して、10倍のレンジ、50倍の解像度」(ルミナーHPより)です。

一般の走行環境に置き換えて考えてみると、アメリカの高速道路で一般的な制限速度である75MPHで走行中であれば、現行のLiDARセンサーで障害物を検知すると、衝突まで1秒間の猶予があります。これに対して、ルミナーのLiDARで250m先を検知すると、7.5秒の猶予がある計算です。

機械的スキャニング技術と、より高出力の1,550nm波長を採用しているため、レーザーの最大許容露光が約100倍にもなります。加えて、レーザーの敵である埃に対する安定性にも優れます。ただし、LiDAR一個あたりの視野は120°となりますが、一般的に1台の車両に4個のLiDARがあれば、全方位をカバーできます。

現状、ヴェロダインでは、830〜940nmの波長のレーザーを使ったマクロ式機械スキャニングを採用します。近年、期待が高まっているMEMSスキャナは、より小型で安価です。光フェーズドアレイのように、光ファイバの技術を応用し、可動部分がなく小型化できる技術にも注目が集まっています。さらに、自動車部品大手コンティネンタルがスタートアップを買収して話題になった3DフラッシュLiDARも期待されています。

<写真1>ルミナーのLiDARセンサー
<写真1>ルミナーのLiDARセンサー

もう一つ、ルミナーの特徴は、3Dマップを生成するだけではなく、検知した対象物がどのようなものかを学習するAIを提供できる点にあます。つまり、歩行者や自転車、ガードレールといった分別を、クルマの頭脳に教えることができます。加えて、量産体制を急速に整えています。光学産業の拠点として知られるフロリダ州オーランドに約1万2,600m2の工場を設立し、製品技術や製造技術といった量産に必要な人材も確保しています。

<写真2>ルミナーのLiDARセンサーで生成された会場の3Dマップ
<写真2>ルミナーのLiDARセンサーで生成された会場の3Dマップ

ボルボの「車両のない展示」ブースでは、 “THIS IS NOT A CAR”の文字が浮き出す木製のオブジェが回転しており、1台のクルマもありません。自動運転時代に必要なレーザー・スキャナのスタートアップ企業「ルミナー」との提携、グーグルの次世代インフォテインメントシステムの共同開発に加えて、荷室に荷物を宅配するアマゾン・キーとの提携、そしてVRで未来の移動を体験するコーナーが設けられています。

<写真3>Volvoブースに掲げられた表示
<写真3>Volvoブースに掲げられた表示

確かに、コネクテッド・カーやIoTを搭載するのは、近年の自動車技術の自然な流れですが、なぜ、ボルボは、クルマが主役であるはずのモーターショーに、あえて車両を持ち込まない決意をしたのでしょうか? CEOを務めるHåkan Samuelsson氏に訊いてみました。

「多くの自動車メーカーが車載インフォテインメントシステムを自社開発していますが、ボルボではあえて、オープンな手法を採用しました。お客様が普段の暮らしで便利に使っているものを、そのまま車載で簡単に使えることが重要だと考えたからです。

具体的には、ボルボの次世代インフォテインメントシステム『Sensus』では、グーグルのアンドロイドOSに対応することにより、Googleの音声コマンドやマップが使えて、アンドロイドのマーケットプレイスにあるアプリをリアルタイムに車載で使えます。しかも、ボルボのお客様がこれらの機能を使えば使うほど学習が進んで、ニーズに細かく対応した最新の情報やサービスを提供することができます」(Samuelsson氏)

<写真4>Volvo CEO Håkan Samuelsson氏
<写真4>Volvo CEO Håkan Samuelsson氏

私たち、消費者の立場から意見を言えば、どれも普段スマホや自宅で便利に使っている機能だから、それをクルマでも使えることは大賛成です。しかし、トヨタ、フォルクスワーゲン、GMといった巨大自動車メーカーと比べて、年間の生産台数が50万台という“小さな自動車メーカー”であるボルボなのに、なぜ、これほど思い切った決断ができるのでしょうか?

「元来、モーターショーには、お客様が興味を持つ新型車を展示するものでした。しかし現在、消費者の興味を惹くのは『体験』です。そのようなお客様の心理を理解した上で、ボルボとして、どのような体験を顧客に提供しようとしているか? を伝えるために、『モーターショーのステージ上にクルマを置かない』という選択をしました。

伝統的な自動車産業では、多額の投資によるスケールアップの結果、安価にお客様に製品を提供することが重視されてきましたが、今の時代に必要なのは、新しいアイデアと進化の速度が必要であり、それらが変革を生み出すことにつながります。こうした時代背景は、ボルボにとってチャンスであり、自動車産業だけではなく、テクノロジー企業とも手を組んで、誰よりも迅速に動く企業でいることを重視しています」(Samuelsson氏)

MIT卒の精鋭メンバーが創業したEVスタートアップ「Rivian」

ロサンゼルス・ショーを賑わしたスタートアップは、ルミナーだけではありません。EVスタートアップ企業の「Rivian」が、SUVとピックアップ・トラックのコンセプトEVを発表していました。ルミナーのCEOが西海岸でスタートアップ企業を輩出するので有名なスタンフォード大出身なのに対して、こちらは東海岸でスタートアップ企業を輩出することで知られるマサチューセッツ工科大学(MIT)出身者が創業メンバーに名を連ねています。

<写真5>7人乗りのSUV「R1S」
<写真5>7人乗りのSUV「R1S」

テスラが「モデル3」の量産でもたついた間隙を縫って、Rivianが躍進したこともあって、アメリカのメディアでは話題のスタートアップ企業です。アメリカで人気の車種といえば、SUVとピックアップ・トラック。実際に、全米で最も売れるクルマは、フォード「F-150」というピックアップ・トラックです。価格も、最上級モデルは7万ドル超となります。

Rivianのピックアップ・トラック「R1T」のサイズは、全長×全幅=5,475×2,015mmと、アメリカのフルサイズ・ピックアップ・トラックに属します。一方、「R1S」は7人乗りのSUVで、全長×全幅=5,040☓2,015mmとなり、電動パワートレインやオフロード性能は「R1T」と同様です。ウッドを採用するなど、より居住空間を重視したインテリアを採用しています。

<写真6>ピックアップ・トラック「R1T」
<写真6>ピックアップ・トラック「R1T」

電気モーターやリチウムイオン電池といった電動パワートレインは、すべてスケートボード型のプラットフォームに内蔵されます。バッテリー・セルには円柱型の2170を採用しています。105kWhのエントリーモデルでは約6,000セル、135kwhモデルでは約7,800セル、最大の容量を誇る180kWhモデルでは、1万個以上のセルが使われます。パワートレインをフロア下に収めることができるので、フロントに330L、後席下のギアトンネル部分に350Lの荷室をエクストラで確保できるのは、EVならではのメリットといえるでしょう。

これらのバッテリー・セルから生み出される出力は、4基の電気モーター総合で、最大750HP/1,400Nmもの強大な出力! 停車から96km/hまでを約3秒で加速するという俊足ぶりも、テスラをライバルと目した設定です。トラックで重視される積載量は800kg、牽引能力は5トンを誇ります。

気になるオフロード性能は、グランドクリアランスは360mm、34°/30°のアプローチ/デパーチャー・アングルと、なかなか立派なスペックです。もちろん、最先端の自動運転機能も搭載しています。カメラ、レーダー、LiDAR、超音波センサーを搭載し、高速道路ではレベル3の自動運転に対応します。

価格は6万1,500ドルからで、135〜180kWhの電池の搭載量が選べ、それぞれ250〜400マイルの巡航距離が確保されます。元三菱自動車のイリノイ州ノーマル工場にて、2020年から生産を開始します。

ロサンゼルス・ショーは、アメリカの中でも、リベラルで先進的なことを受け入れるカリフォルニア州で開催されるモーターショーだけあって、従来の自動車産業以外の視野から自動車の未来が進んでいることが伝わってきました。

《このリポートは後編に続きます》

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文/川端由美