金属3Dプリンターは稼働率が重要!〜試作アウトソーシングのポイント(前編)

INTERVIEW
株式会社J・3D
代表取締役
高関 二三男
インタビュイーの写真

3Dプリンターの分野は、すでに樹脂で低価格のプリンターが汎用化してコモデティ化しています。一方、金属の3Dプリンターは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のMITテクノロジーレビュー誌が選ぶ2018年の「ブレークスルー・テクノロジー10」の一つに選ばれたように最近になって注目を集めている技術です。今回は、早くから金属3Dプリンターを導入し、高い成長率と技術力、実績を備えた企業として一頭地を抜く存在で、受託造形出力サービスを行っているJ・3D(名古屋)の代表取締役高関二三男(たかせきふみお)氏にお話をうかがいました。

今回は前編として同社の金属3Dプリンター技術と特徴などについて、後編ではユーザーが試作品などの造形を依頼する上での注意点などをまとめていきます。

以下の記事では、金属3Dプリンターに関する基礎知識や、実際に提供されている金属3Dプリンターサービスについて紹介しています。合わせてご覧ください。

期待が高まる金属3Dプリンター

樹脂ではなく金属を材料とする3Dプリンターは、技術面と価格面でのハードルを乗り越え、米国のGE(ドイツのConcepto-Laser社、スウェーデンのArcam社といった金属3Dプリンターメーカーを買収)、3D・システムズ、ドイツのEOS社、SLM Solutions社、日本のDMG森精機、松浦機械製作所、ソディック、韓国のInssTek社、イスラエルのXjet社など多くの製造メーカーが製造、参入しつつあり、住商が米国のシンタヴィア社へ出資するなどスタートアップ企業の取り込みも活発化しています。

金属3Dプリンターは、金属AM(Additive Manufacturing、アディティブ・マニュファクチャリング)とも呼ばれ、金属の粉末や素材をレーザー(Selective Laser Melting、SLM)やビーム(Electron Beam Melting、EBM)を熱源にして溶かし、粉末層を積み重ねて立体造形します。航空機のエンジン部品からダイキャスト金型まで用途は広く、3Dデータがあれば1個から金属製の部品の開発用試作品を作ることが可能です。

そんななかJ・3Dはどのようにして金属3Dプリンター受託造形出力サービスを始めることになったのでしょうか。

暗中模索で始めた事業

J・3Dはもともと特殊鋼の製造販売メーカーである親会社のフジマキ・グループの通販部門として立ち上げられ、その後、3D造形の受託サービス会社に業態転換したそうですね。

高関

リーマンショックの後、鋼材需要が減ったため、新規事業部として鋼材の通販をやってみようということで弊社が作られたのですが、2013年に金属3Dプリンターの製造受託へ舵を切りました。

その経緯と金属3Dプリンターに注目したきっかけはどんなものだったのですか。

高関

私も特殊鋼の世界にいましたから鋼材について少しは知識がありましたが、そのころ、金属で3Dプリントできるという話を聞き、本当にそんなことが可能かどうか半信半疑でした。そこでグループの会長と社長のお供をし、2013年の5月ごろにある展示会へ行って実際に金属3Dプリンターを見てみようじゃないかということになったんです。

展示会でご覧になったのはどちらのプリンターだったんでしょう。

高関

NTTデータ・エンジニアリングさんが導入しているドイツのEOS社製のものでした。展示会で実際にマルエージング鋼という高空宇宙分野などで使われる特殊鋼でサンプル品を作っていただいたんですが、プリンターが動いている間の造形過程を見ることができません。我々はいったいどんなものが出てくるのか興味津々でした。
サンプルが出てきたときは驚きました。簡単な構造のサンプルでしたが、特殊鋼で本当に金属3D造形ができたのを目の前で見たわけです。会長と社長がその場で1台約1億円のEOS社製プリンターを即決注文させていただき、弊社はそれから金属3D造形の受託サービスへ業態転換したんです。

なぜ、最初の1台目をEOS社製のプリンターにしたのでしょうか。

高関

最初にサンプルを見たことも大きかったのですが、NTTデータ・エンジニアリングさんから話を聞き、EOS社が特許を持ち、信頼性が高く、もちろん出荷台数も数多く出ているので決めました。
金属3Dプリンターは、造形加工方法やレーザーの性能などで各社製品に一長一短があります。EOS社のプリンターは、部品や金型を作りたい、トポロジー(位相)最適化した設計を試したいなどの目的に対し、汎用性が高く品質の平均点が高いという特徴があると思います。金属3Dプリンターでは『巣(鋳巣)』が入ってダイキャスト内部に隙間が出ることがありますが、EOS社製で作ったものは、まったく巣が入らないと断言はできませんが、巣が出にくいということもあります。

Twitterからホリエモンが連絡

3D造形の受託サービスへの業態転換について成算はあったんでしょうか。

高関

まったくなかったですね。いったいどんなお客さまがいて、どんなニーズがあるか、暗中模索といったところでした。もちろん、いきなり大メーカーへ行ってもなかなか難しいと思ったので、SNSのTwitterで拡散してみようと考え、弊社が『金属3Dプリンター始めました』というようにつぶやいてみたんです。すると、すぐに連絡してきたのが堀江貴文氏(ホリエモン)でした。驚きましたね。加工が困難なインコネル(ニッケル超合金)で作った部品を宇宙空間で使いたいが金属3Dプリンターで可能かどうかという問い合わせでした。

堀江氏がロケット開発企業インターステラテクノロジズ(IST)を立ち上げ、ロケット開発をスタートさせたのが2005年でした。2013年というと5機目のロケット打ち上げが失敗した後に商業用ロケットの技術開発を始めた頃になるかもしれません。

高関

堀江氏はいらっしゃらなかったんですが、インターステラテクノロジズさんの代表の方も弊社へ来られたことがありました。そうしたつながりから、その後にJAXA(宇宙航空研究開発機構)さんとのつながりができ、実際に金属3Dプリンターで作った部品が宇宙空間で使えるかどうかを検証するという依頼もいただけるようになったんです。地上で宇宙空間を模した検査でしたが、試験棒を何本か作成しました。

現在、御社には4台のEOS社製プリンターがあるそうですが、1台目以降のプリンター導入はどのような経緯で進んでいったんでしょうか。

高関

造形したい材質はお客さまによって違います。1台のプリンターで例えば最初にマルエージング鋼の依頼品を作り、その後にチタンで作ってほしいという依頼があり、さらにインコネルといったように、期間がずれて異なった素材での依頼が入ると、そのたびにプリンター内部を徹底的に掃除しなければなりません。
マルエージング鋼とチタン、インコネルの粉末が混ざってしまえば、期待される強度や靱性などが出ないんです。しかし、そうした内部の掃除にはプリンターをすべて分解し、丸1日かけなければならなんです。それを繰り返すと稼働率がなかなか上がらないので、これは1台1材質として2台目、3台目と導入していったというわけです。

<写真1>整然と3Dプリンターが並ぶプリンター室
<写真1>整然と3Dプリンターが並ぶプリンター室

コンタミとトレーサビリティ

コンタミネーション(Contamination、コンタミ)といわれる不純物除去、汚染除去の作業が金属3Dプリンターにとって重要ということですが、粉じん爆発にも要注意とか耳にします。

高関

プリンター内をとにかくきれいにしておくことも大事ですが、粉じん爆発は手順を一つ間違えると危険性が高くなります。国内では爆発まではいかなかったようですが、すでに火災は起きています。これまでの知見の蓄積で、手順やルールが確立していますから、それを厳しく遵守していくしか対策はありません。また、同じ材質の粉末でも製造日などが異なると、トレーサビリティの問題が出てきます。

金属でトレーサビリティというのはどういうことなんでしょうか。

高関

通常、特殊鋼などの鋼材では製造年月日や部分を切り出せばその日付などの情報が記録され、共有されています。しかし、金属3Dプリンターで使われる粉末は、固まらなかったものを再利用するので、同じ材質でも製造年月日が異なった粉末が混ざってしまうことがあるんです。粉末は温度や湿度管理が難しいんですが、経年劣化で酸化も進みますし、混ざり合うにしてもなるべく製造年月日が近く管理環境が同じもののほうがいいんです。
弊社の場合、おかげさまで発注も多くプリンターの稼働率がいいので、粉末の出入りに一定の間隔があり、古い粉末と新しい粉末の割合が常にほぼ同じ状態を保っています。

<写真2>トレーサビリティのためプリンター室の温湿度管理は完璧に行われている。
<写真2>トレーサビリティのためプリンター室の温湿度管理は完璧に行われている。

つまり、稼働率のいい受託サービス会社に依頼したほうがリスクを低くできるというわけですか。

高関

稼働率が悪ければ、それらが混じってしまうので強度や靱性などに問題が出かねないません。そのため、粉末の管理とトレーサビリティはとても重要になってきます。仮に異なった製造期日や管理のせいで酸化した粉末が混ざってしまい、強度が足りない受託品が出てしまえば、金属3Dプリンター自体、ひいては業界全体の信頼性にも影響を与えかねないんです。

JAXAの後、お客さまとしてどのような会社からの依頼がありましたか。

高関

例えば、2013年11月頃に、ホンダの技術研究所からエンジンの一部を試作してほしい、というお話がありました。最初は他社へ話が持ち込まれたようでしたが、設計が従来の金属3Dプリンターの常識では難しい内容だったので断られ、弊社へ回ってきたということです。これは樹脂でも同じですが、3Dプリンターの造形ルールでは中空の構造では内部にサポート材(支持材)が必要になります。積層を重ねていく間にサポート材がない部分は重力に逆らえず垂れ下がってしまうからですが、閉ざされた中空では造形後にサポート材を削りって取り出すことができません。そのため他社は断ったようですが、弊社で話し合い、やってみなければわからないということになって、実際にサポート材を使わずに中空構造を作ってみるとできたんです。

それまでの常識が通用しなかったということでしょうか。

高関

金属3Dプリンターの世界は、まだなにができてなにができないのか、技術的にも設計的にもよくわかっていない状況なんだと思います。それから弊社では、既存のルールはまず疑ってみて難しそうなものでも実際にチャレンジしてみようということになり、知見を蓄積した結果、いまではそれが強みになっているんです。

なかなか理解してもらえなかった

いまでこそ、金属3Dプリンターの可能性は広く知られはじめていると思いますが、始めた当初は苦労したのではないでしょうか。

高関

そうですね、例えばここ2年くらい年150%くらいの伸び率で受託している3D冷却水管の金型ですが、金型の業界は保守的な部分もあり、最初は耐久性などの面でなかなか認めてもらえませんでした。海外ではすでに金属3Dプリンターで冷却水管の金型を作っていたこともあり、弊社も熱心にPRしたんですが理解してもらえない時期が長く続きました。
金型が熱せられれば稼働率が下がるので、内部に水管を通して冷やせばいいという発想は以前からあったのですが、それを金属3Dプリンターで作って果たして大丈夫なのか、と、新しい技術を導入するのには先行した成功事例がないと業界として広まるのは難しいんです。

<写真3>マルエージング鋼での成形品
<写真3>マルエージング鋼での成形品

逆にプリンター自体の進化はどうなんでしょうか。最初に導入したのが2013年でその間に技術が進歩した部分もあるのでは。

高関

プリンター自体、機械自体の進歩はそれほどありません。おそらく技術的に進化しようのないところまできているのではないかと思います。これからの進化を考えれば、出力が上がることとレーザーのスポット径が小さくなることくらいでしょうか。ただ、ソフトウェアのほうがどんどん進化していると思います。

この続きは後編でご紹介しますが、ソフトウェアでは、CAE(Computer Aided Engineering)解析による設計支援の問題もあり、トポロジー設計のアプローチの方法もあります。後編では、ユーザーがどんな設計データを用意したらいいか、金属3Dプリンターによる造形の可能性と技術的な限界、コスト、他社との連携などについて引き続き高関氏におうかがいします。

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文/石田雅彦