航空機分野におけるプラスチックの技術開発動向

航空機は空飛ぶ密閉空間であり、燃費向上に寄与する軽量化を行なう際にも常に安全性を担保することが強く求められています。したがってその素材開発は単なる材料開発に留まらず、航空機というシステムにおいて開発材料がシステム全体にどの様な影響を与えるかを常に考慮しなければなりません。すなわち各種技術開発は以下の2点を強く意識して進められていると考えられます。

(1)軽量化と安全性に準拠した素材ソリューションの提案

(2)軽量化とコスト削減を意識した加工性、製造法、部品等を含めたトータルソリューションの提案

以下の記事でもプラスチック材料についてご紹介していますので、あわせてご参考ください。

インテリア向けプラスチック材料の開発

航空機内装材にはより軽く、より安全で、より意匠性を上げられる材料が望まれていますが、厳しい安全性基準をクリアし、かつ望む性能の新材料を開発するのは容易ではありません。一方航空会社は軽量化、ブランドの差別化、コスト削減、乗客の満足度アップを常に求めており、幅広い用途に使用できる素材等を必要としています。

こうした中、樹脂メーカーは各社とも他樹脂との複合化、樹脂の変性、繊維強化など多くの手段を駆使して安全性を含めた性能確立を目指しています。各社新材料のセールスポイントはまず安全性のどの規則を満足しているかをはっきりと示し、次に軽量性と加工容易性をセットで強調できる材料として売り出しています。

まずは<図1>に航空機用のプラスチック材料について、概観を示します。

<図1>航空機用プラスチック材料の分類
<図1>航空機用プラスチック材料の分類

そこで目を引くのがPC、PEI、PA、PPSU、PES、PEEK等の高耐熱樹脂です。いずれもエンプラ、スーパーエンプラに属し、耐熱性だけでなく、何らかのFST耐性があります。

これらをベースにした樹脂の改良、さらには材料開発から一歩踏み込んだ半製品開発を進めています。

例えば産業用熱可塑性フィルム製品を製造するSABIC社はPCをベースとしたコポリマーを開発し、FAR28.583等のFST規制をクリアするとともに押出成形性や豊富なカラーバリエーションを売りにして、ライトプロファイルやレンズカバー等の用途に用いています。

またドイツの化学品メーカーBASFは自社のPPSUあるいはPESを Diab’sDivinycell®F50の発泡コアと組み合わせて、全熱可塑性樹脂製航空機用壁材ULTRASON®として供給しています。

日本の航空機内装品の最大手であるJAMCOは上記高耐熱性樹脂メーカーではありませんが、軽量化の要となる壁材の芯となるハニカムコアの原材料であるアラミド紙への接着剤塗布から加熱圧着、フェノール樹脂の含浸にいたるまですべて独自の技術を使い一貫生産し、これをガラス繊維やカーボン繊維の薄い板で挟み込んだハニカムサンドイッチパネルを製造して壁材としています。

3Dプリンティングによる航空機部品製造の進化

3次元造形システム専業メーカーの米国ストラタシス(Stratasys)社は米国ボーイング社の要請で、コンピュータ上の3次元データを自動的に立体造形するシステム「フォータス」向けにPEI(ポリエーテルイミド:ULTEM9085)を採用し、航空機の壁、窓枠、エアコンの空気孔など内装品、シート部品、各座席のテーブルなどを製品のCAD設計データから直接造形しています。

同社のFDM方式3Dプリンターで特注プライベートジェットの室内空調部品や小型飛行機の操縦席の計器パネル等、航空機の実使用部品を作ることはかなり以前から行われていましたが、それは数の少ない場合に限られていました。
しかし2016年10月に欧州のAirbus社が新しい A350 XWBの内装や電子機器に使う部品をStratasys社のプリンターを用いてPEI(ULTEM9085)樹脂で製造することをAirbus社規格として認め、実際に1機あたり1,000個以上の3Dプリント部品が航空機内で使われるという大きな変化がありました。

また、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)社が開発した琥珀色の非晶性スーパーエンプラであるPEI、ウルテム(ULTEM™)をGEから引き継いだSABICも自社のPEI(ULTEM™ 9085)樹脂にStratasys社の3Dプリンターを用いて既存のエコノミーシートの設計および製造過程を見直し、流線型で人間工学的に優れたシートのデザインをデザイン会社のStudio Gavari社にライセンスしています。
これはULTEM™ 9085が3Dプリンティングとの適合性が高く、連邦航空局(FAA)のFAR 25.853規制およびOEM毒性要件に準拠していることを強みに、この材料をいろいろな形の内装品に仕上げていく戦略と考えられます。

3Dプリンティングによる航空機内装品の製造は品質、コスト、時間のいずれにおいても未だ課題が多いのが現状です。しかしながら、いままずできる部品に限って製造し、3Dプリンティングの足りないところを補う周辺技術や品質管理方法を開発することで、例えば部品点数の削減など従来手法の改善だけではできないものの提供が可能になるという認識が生まれつつあります。

構造材用高耐熱性樹脂の開発動向(1)~CFRP材料開発

内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が司令塔機能を発揮して創設されたSIPは2014年に5カ年計画で発足し、そのA領域(航空機用樹脂の開発とCFRPの開発)の中で性能向上に向けた努力が続けられており、その状況を以下に示します。

(1)国産熱可塑樹脂プリプレグの開発

次世代のエンジン開発において、大型化するファンブレード等への適用を目指して、現在使用されている熱硬化性CFRPに対して、耐衝撃性が高く、また生産性、コスト面でも優位な熱可塑性樹脂CFRPすなわちCFRTPプリプレグの開発を行っています。耐衝撃性能発現には炭素繊維表面の形態が重要であること、また熱可塑性ポリイミドにはその非晶性選定が鍵であることを見つけてプリプレグ作製実験を実施中です。

(2)耐熱高分子基複合材(耐熱CFRP)の適用技術研究

強度と耐熱性のバランスが取れた材料開発を目指し、耐熱性200℃級としてビスマレイミド系、250℃級としてポリイミド系の新材料を開発し、そのCFRP積層板を作成して、ビスマレイミド系では成型技術を概ね確立し、大型平板の試作実験を実施しています。ポリイミド系では32層の積層プロセスを見出したとしています。

(3)高強度・高透明GF-PC複合材料の開発

ここではCFRPではなくGFRPですが、光透過率88%以上、HAZE5以下、曲げ強度100MPa以上の樹脂ガラスの作製を目指し、PCを共重合化することによりガラスファイバーの屈折率に合わせこみ、高透明なGF-PC(ガラス繊維強化ポリカーボネート)を作成しました。透明性のさらなる向上等を目指して現在商品化を検討しています。

(4)植物由来の炭素繊維複合材料の開発

現在石油から作られているCFRPのすべて、あるいは母材樹脂を植物バイオマス由来に代替するための技術開発を目指しています。
ここでは植物油からバイオディーゼル燃料を製造する際の副産物であるグリセロールからポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維モノマーであるアクリロニトリルを製造します。また植物油の搾油残渣主成分のリグノセルロースからの植物由来熱可塑性樹脂の製造を目指しており、セルロースを誘導体とした熱可塑性CFRPを試作しています。
実用化には先の長い技術ではありますが、航空機分野でもバイオマスプラスチックの活用を検討していることがわかります。

構造材用高耐熱性樹脂の開発動向(2)~高強度、高耐熱樹脂開発

次に示す実例は直接的に航空機用途を目指したものでないものも含みますが、材料の複合化により樹脂の性能向上を進めている例で、将来的にはこうした技術がさらなる材料特性の改善につながり、飛行機用途にも拡大していくと考えています。

炭素繊維とCNTの複合化によるハイブリッド技術

高弾性・高耐衝撃性プリプレグの開発——炭素繊維と樹脂の剥離を防止する方法として、炭素繊維とCNTの複合化の研究が進められています。帝人は特殊な表面処理によるCNTの均一分散技術を開発し、炭素繊維と樹脂の剥離が抑制した高弾性・高耐衝撃プリプレグを開発したとしています。

ナノアロイ®技術により高耐熱性と靭性を兼ね備えたPPS樹脂を創出

東レは、高耐熱性、高機械強度があるものの、靱性に課題のあるポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)の長所はそのままに、欠点を改善する方法として、PPS樹脂よりも高い耐熱性と靭性をもつ他樹脂との新たなアロイ化技術の開発を進めました。両樹脂成分の分子設計とそれらを混錬する東レ独自のナノアロイ®技術により、長所は維持したまま靭性を約2倍に向上させたとしています。こうした技術の横展開が大いに期待されるところです。

新規樹脂ベンゾオキシザンの開発とそれを用いたCFRP

JXTGエネルギーは独自に新規樹脂(ベンゾオキサジン)を開発しました。それを母材樹脂とするCFRPプレプレグJXTG BZは、従来航空用プリプレグとして用いられていたエポキシ樹脂を母材とするプレプレグで課題とされてきた吸湿とそれに伴う強度低下の問題を解決したとしています。高圧縮強度、高い耐湿性、硬化温度プロファイルの柔軟性、難燃性、優れた耐薬品性等をもち、さらにベンゾオキサジンの自己消火性により、難燃性にも優れることから、航空機内装材の軽量化にも寄与できる材料としています。

まとめ

以上航空機分野における樹脂の活用動向を概観してきましたが、樹脂の活用は飛行機の軽量化に直接かかわるため継続的かつ精力的に進められています。しかしながら自動車分野に比べると使用樹脂の種類は少なく、飛行時の安全性を担保するための燃焼性、発煙性、毒性について厳しい規制(FST規制)があることもその一つの要因と考えられます。

内装材では従来のABSやPVC樹脂といった汎用樹脂からPCや内装材のFST規制をすべてクリアしたPPSUといったエンプラ、スーパーエンプラ樹脂の需要が拡大し、FRP等にも利用されており、安全性確保の問題が後押しをしているとも言えます。

高耐熱材についてはスーパーエンプラのPEEKやPEI等が構造材そのものというよりは、それらを支える各種部品用材料として広く使われています。

航空機の機体用として期待されているCFRPの開発についてはコスト的にまだ高く、すべての飛行機に使われる状態にはなっていませんが、高耐熱熱可塑性樹脂を開発し、加工性を上げてCFRPを作製することも精力的に研究されており、そう遠くない将来にはCFRPのコストダウンが進み、大型機以外でもその活用が拡大していくと考えられます。

また航空機分野から始まったCFRP研究は、いまや自動車分野にまで広く展開されてきています。航空機分野に比べて市場が格段に大きい自動車分野ではさまざまな樹脂改良が進められており、そこで得られた樹脂技術が飛行機分野に逆輸入されてくることもあると考えられます。

ここでは航空機分野における樹脂の技術開発動向について紹介しました。他の記事では、プラスチックに関する加工や計測に関してもご紹介していますので、あわせてご参考ください。

プラスチック材料を用いた試作用部材、試作加工に関するご相談はこちら

マクセル株式会社
1961年創業。国内初のアルカリ乾電池やカセットテープで馴染みがあるが、現在は「自動車」「住生活・インフラ」「健康・理美容」の成長3分野を軸に事業を展開。各分野においてパートナーと連携し、事業、製品、サービスの構築をめざしています。
白銅株式会社
非鉄金属および鋼、プラスチック材料の専門商社白銅は、「ダントツの品質」、「ダントツのスピード」、「ダントツのサービス」、「納得の価格」でお客様のモノづくりを強力にサポートします。
QMS株式会社
成形試作・検査治具のベストソリューション。QMS株式会社は、AV機器・OA機器・光学機器・電子機器制御機器・自動車・通信機器などの開発試作サポートを行っています。
株式会社NCネットワーク
国内最大級のモノづくり受発注サイト「エミダス」に登録された18,000社以上の工場データベースから、技術スタッフが依頼内容に最適な工場を選定。NCネットワークには、加工方法が分からない試作・開発品から、特殊車両のように少ない生産台数ながら厳密な品質保証が求められる量産品まで幅広い経験があります。
プロトラブズ合同会社
IT(情報技術)を活用して自動化、標準化を導入。より拡張性のある短納期プロセスを確立させたことにより、短納期での試作・小ロット生産を実現したオンデマンド受託製造会社です。
株式会社クライム・ワークス
企業や研究機関の開発支援を行う試作メーカ。新製品の開発工程における試作品の製作、検証用治具の提供だけでなく、協力会社と連携して量産試作に向けたユニット品の製作まで対応します。