JAXAの研究開発のパートナーシップ「J-SPARC」とは

INTERVIEW
JAXA
新事業促進部 主任
原田 正行
原田氏の写真

米国や日本ではベンチャー起業家がロケット打ち上げに進出するなど、宇宙ビジネスが活発化。日本政府も宇宙ベンチャーや新規参入企業の支援に乗り出し、2030年代に2.4兆円規模の産業を目指すなど、この分野は非常にエポックメイキングで熱くなってきている。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では2018年5月11日に「新たな事業を共創する研究開発プログラム『宇宙イノベーションパートナーシップ(JAXA Space Innovation through PARtnership and Co-creation、以下、J-SPARC)』」を開始し、このプログラムを通じて、政府における「宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージ(平成30年3月20日)」施策に貢献するとともに、異分野における人材、技術、資金などを糾合するオープンイノベーションに係る取り組みをさらに拡充することで、宇宙分野に閉じることのない技術革新・獲得を目指す。

また、超小型衛星の打ち上げ、放出など、軌道上実証機会についてもさらに充実させ、より多様なアイディアとビジネス展開の可能性を視野に入れた新事業に乗り出す。

「敷居を下げる」から出口を意識した取り組みへ

研究者や技術者にとって、J-SPARCはこれまでのものとどう違い、いったいどのようにして利用し、どのように活用でき、どんな成果が見込まれるのだろうか。JAXA新事業促進部の原田正行主任(以下、原田)に話を聞いた。

宇宙オープンラボの成果を踏まえ、今回のJ-SPARCとの違いはどこにあるのでしょうか。

原田

JAXAは2004(平成16)年から宇宙オープンラボとして、大学や企業などから研究実験提案を公募型で募集し、その共同研究は試作品が宇宙で使われて、プロジェクトに採択されビジネス展開するなど、実際に成果として形になってきました。

これまでの宇宙オープンラボでは、大学や中小を問わず企業と広く募集させていただき、JAXAの知財を活用していただくなどして1年間で5〜6件ほど研究開発の共同提案を受けてきました。

社会状況や周辺環境などがその後変化し、政府も宇宙ビジネスの産業振興を進めようとしていますし、宇宙での実験や研究の敷居を下げて、より広く社会へフィードバックできるようなビジネステーマも含めて宇宙関連事業に参加していただこうということでJ-SPARCを始めました。

簡単にいえば、参加していただくパートナーにより手軽に宇宙空間の利用機会を提供するということになります。

このプログラムに想定しているパートナーはどんな対象ですか。

原田

基本的に技術的なベースをもった大学や研究機関、民間企業が対象ですが、そうではないエンターテインメント性のあるビジネスなど、研究開発以外で、特にJAXAの知財を使わなくてもいいような事業を考えていらっしゃるパートナーも含みます。

宇宙関連ビジネスを事業化する意志のある、つまりビジネスとしてある程度の収益を期待するようなベンチャーであれば、有償でJAXAとパートナーシップを結ばせていただけると思います。 参加してくださる事業者などには事業化へ向けた取り組みのイニシアティブをとっていただき、JAXAは技術開発のほうを主導します。

両者のパートナーシップにより、事業者は宇宙関連事業を立ち上げてビジネス展開をし、JAXAとしては宇宙空間のみならず地上へのフィードバックできるような技術革新を目指すというわけです。

<図1>J-SPARCの概要と多様な事業化アプローチ
<図1>J-SPARCの概要と多様な事業化アプローチ

具体的には、どんなテーマが実現しそうでしょうか。

原田

宇宙関連事業としては、宇宙空間で人間の活動の範囲を広げるようなテーマになるでしょう。例えば、燃料補給や機器交換などの軌道上の技術サービスや、VRやARなどを応用した船外活動の遠隔技術、地球以外の月や火星などの惑星探査に関連したビジネステーマなどになりそうです。

また、地球上の社会の課題を宇宙空間で研究実験をして解決につなげていけるようなテーマも考えられます。例えば、多数の小型衛星を使ったコンステレーション事業やAI、ビッグデータなどを活用した衛星データの事業などになると思います。

エンターテインメント性のあるテーマとしては、宇宙旅行サービスや宇宙で民間人が滞在する場合のソリューション、宇宙コンテンツを活用した教育や広告などのテーマがあるでしょう。

<図2>J-SPARCで取り組む主な事業テーマ
<図2>J-SPARCで取り組む主な事業テーマ

J-SPARCの場合、パートナーへ参加するにはどのような方法があるのでしょうか。

原田

展示会などのビジネス関連イベントに相談ブースを設けたり、各地で政府やJAXA、自治体などが主催してワークショップを開いたりして、常時個別相談に応じています。これらの情報は、内閣府やJAXAなどのホームページに随時掲載されていきます。

また、個別事業テーマごとに『事業共創機会のお知らせ(Announcement of Opportunity、AO)』を掲載しますので、そこへエントリーしていただくことも可能です。費用はテーマの内容などによりますが『きぼう』を使った場合、条件によっては無料ということもありますが、通常数十万〜数十億円といったところです。

軌道上実証機会の充実

新規参入者や既存の事業者への軌道上実証機会を充実させるために、、H-IIAロケットへの相乗り、国際宇宙ステーション(International Space Station: ISS)にある日本の実験棟「きぼう」からの放出といった方法があると思いますが、それぞれの特徴を教えてください。

原田

まずH-IIAロケットを活用した宇宙実証機会の提供では、ロケットの余剰能力を使って相乗りをしています。主衛星を搭載したうえで、H-IIAロケットには輸送能力や容積にはまだ余裕があるからです。当然ですが主衛星の打ち上げがなければ相乗りすることはできません。

またH-IIAロケットに相乗りする場合、いわば自動車のエンジンルームに相乗り衛星を直づけするようなもので、打ち上げ時の振動がかなり大きいのです。そのため、通信や電力、姿勢制御といった人工衛星の基本機能を振動で壊れないよう、しっかりと作り込んでおかなければミッションができなくなります。

『きぼう』から超小型衛星放出機構(JEM Small Satellite Orbital Deployer:J-SSOD)によって放出する超小型衛星は、補給物資と一緒にバッグに詰めてISSへ運ぶので、H-IIAロケット相乗りと比較すると、振動や衝撃はかなり小さくなります。

これは衛星の放出だけでなく『きぼう』の中で行う実験装置にしても同じですが、ある部品が宇宙空間で使えるか、ある機器が宇宙空間で動作するかといったミッションの実証を目的とする場合、H-IIAロケットによる相乗りよりも有利な手段となるでしょう。

重要なシステム安全設計の思想

宇宙へロケットで打ち上げる過程でのトラブルやアクシデントにはどう対応しているのでしょうか。

原田

JAXAでは、これまでの経験に基づき、システム安全プログラムを実施しています。例えば、トラブルやアクシデントは必ず起きるということを想定し、なるべくそうならないためにどうするか、またはそうなった場合にどうするか、予め考える方法です。

宇宙開発においては、主に人的被害と宇宙機喪失といったものを評価軸に危険(ハザード)を識別します。ハザードの度合いや発生頻度により、冗長設計や、リスク最小化設計を行います。

それでもなおトラブルやアクシデントが起きた場合、常に原因を究明し、解決するというフィードバックを繰り返して、知見を蓄積します。

超小型衛星の開発機関にも、こうしたシステム安全プログラムをお願いしています。H-IIAロケットの相乗りの場合、相乗りさせてもらう側にこうした安全策が採られていなければ、主衛星側が相乗りを許可しないでしょう。

ロケットの打ち上げはしばしば延期することがありますが、プロジェクトで実際に実験を開始できるタイミングとしてはどちらのほうが有利でしょうか。

原田

主衛星を打ち上げることが目的ですから、そちらのスケジュールに合わせる必要があります。

一方『きぼう』からの放出は、年に数回程度と考えていただいていいと思います。

今回、『きぼう』の民間開放の一環として、日本の宇宙関連企業Space BD株式会社と三井物産株式会社を超小型衛星放出サービスの提供事業者に選ばせていただきました。『きぼう』からの超小型衛星放出は、ロボットアームやエアロックといった日本独自の強みを活かし、これまで米国への機会提供を含めて200機以上の超小型衛星を放出してきた実績があります。

JAXAは、日本の産業振興、宇宙利用の拡大を目指し、民間事業者の皆様と共に新たな事業を創りあげていきます。今後とも、この2社の営業活動に期待しています。

<図3>複数の超小型衛星搭載イメージ例
<図3>複数の超小型衛星搭載イメージ例

宇宙実験の具体例とは

素材を用いた実験や部品耐久性の実証などで研究者や技術者のニーズにはどのように対応可能でしょうか。高度集積化によって半導体メモリのソフトエラーが問題になりつつありますが、重粒子線や中性子線、ミュオンなどの宇宙放射線の影響を検証するなど、宇宙空間に特有の実験環境による可能性はなにかありますか。

原田

『きぼう』での実験装置では、測定機器やデバイスなども一緒に搭載し、パートナーが地上で用意したものを『きぼう』へ運び込み、宇宙飛行士が実験装置のスイッチを入れ、そのデータを地上へ送って提供するという流れになります。要望があれば装置や材料を地上まで運んで回収することも可能です。

ロボットアームやエアロックを使った、船外実験も可能です。宇宙放射線や原子状酸素、日照と日陰での極端な温度サイクルといった過酷な環境下での動作を検証し、それを地上の技術へフィードバックするといった方向は考えられるでしょう。

船内実験では静電気で素材を浮遊させ、レーザー照射によって融点が高い物質を溶かし、その物性を計測する静電浮遊炉もあります。

そういえば、宇宙空間で材料を加工するといった実験はまだ少ないかもしれません。

<図4>国際宇宙ステーション『きぼう』日本実験棟
<図4>国際宇宙ステーション『きぼう』日本実験棟

衛星打ち上げや「きぼう」からの放出、「きぼう」の実験設備でのパートナーシップの今後はどうなりますか。

原田

現在のISSの宇宙飛行士の人数は限られ、彼ら自身の健康管理を目的としたエクササイズやISSのメンテナンス作業もあり、また『きぼう』という物理的に有限な環境で行っているプログラムですが、将来はもっと大きなスペースで人数を増やしたり、また月や火星といった地球以外の天体で実験や実証を行ったりするようになるでしょう。ビジネスに直結するような刺激的なテーマの参加をお待ちしています。

文/石田雅彦

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