プラスチック成形品に関するさまざまな事故を回避するためには、その原料となる合成樹脂の種類と特性、プラスチック成形品が使われる環境や使用期間を知った上で、最適な合成樹脂と加工方法を選択することが重要です。 この記事では、プラスチック加工における事故を解析する際の大事なポイントと具体例を用いた仮説についてお話します。
事故を解析する際の大事なポイント
事故の原因究明から対策までの流れを5つのステップに分け、各ステップの概要と重要なポイントを見ていきましょう。

ステップ1 発生した事故の現象を把握する
事故が発生したら、事故の状況をできるだけ正確に把握することが第一歩です。
その際、主なポイントとなるのが、事故品の「製造時期」、事故の「発生地域」、そして、事故品の「使用環境」と「原料の保管環境」です。特に使用環境の確認は極めて重要です。
(1)製造時期
例えば、PETボトルなどに使われている熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)の場合、乾燥状態での成形加工が不可欠です。
しかしながら、空調設備が整った環境でも、梅雨時など湿度の多い時期には、工場施設内に湿気が入ることで、成形中にPETが加水分解して不良品が発生するといった例がよく見受けられます。
(2)発生地域
事故が発生した地域における、温度、湿度、日照時間や、大気環境がどのようになっているか把握する必要があります。金属材料が一般的な生活環境下の気温や湿度の変化に強い一方で、合成樹脂は比較的に変形が起こりやすくなります。また、日照時間が長い地域においては、紫外線による劣化も無視することができません。
(3)使用環境
把握すべき点は、使用期間、温度、オイル・溶剤の有無、オゾンの有無、酸・アルカリ・金属接触の有無です。これらはいずれもプラスチック成形品の劣化、破裂に関係するため、入念な調査が不可欠です。
(4)原料の保管環境
合成樹脂、合成樹脂に配合する各種添加剤はいずれも、空気や湿気に長期間さらされることで品質が低下します。熱可塑性樹脂で、汎用エンプラとして生産量が最も高いポリカーボネイト(PC)や、透明性・耐候性に優れ、高速道路の防音シートなどに多用されるメタクリル樹脂(PMMA)は非結晶性樹脂においては、有機溶剤の種類によってソルベントクラック(※)などのトラブルが起こることも知られているため、有機溶剤にさらされる環境で使われる場合、注意が必要です。
▽ソルベントクラック現象についての参考記事
ステップ2 事故原因の仮設を立てる
事故の発生状況を把握したら、事故原因を推定し仮説を立てます。 仮説を立てる際には分析ツールや解析ツールを用いたり、また、製品を過酷な条件の下におき、本来長期間で起こる劣化現象を短期間で起こさせ、劣化現象の再現を図る「加速再現実験」なども実施します。また、過去に発生した類似事例や経験則等も仮説を立てる際に重要となります。
ステップ3 事故原因の仮説を検証する
(2)で立てた仮説を検証するために、製品についてほとんどすべての仕様を再検討します。 原料の再選定や保管方法、プラスチック成形品の設計や、成形方法を改めて検討しなおします。
ステップ4 対策を実施する
事故の原因を特定し、仮説を検証することで対策が固まったら、実験を行い問題がないことを確認します。
ステップ5 生産再開。過去事例として知識化、共有化する
(1)~(4)までを行い、事故のメカニズムと対策までを完全に理解すること、ようやく生産を再開することができます。そして、これまでの調査結果や講じた対策はすべて記録に残し、過去の事例として知識化、共有化し、今後に生かすことも忘れてはなりません。