レンズ事業30年の歴史を持つマクセルの精密光学部品コーティングサービス

スマートフォン、タブレットなどのモバイル端末には低反射のカバーガラスや特殊光学フィルタを使用した部品が使用されています。また、自動車の安全運転支援のために開発が進められるヘッドアップディスプレイ(以下、HUD)は、特殊な面形状を持つ光学部品を搭載し、長期使用に耐えうる高い信頼性が要求されるため、これらに使用する光学部品の開発・製造を外部の専門メーカーに委託する例が増えています。

今回は、このようなニーズに応えるため、マクセルが長年にわたる精密光学部品(大型の非球面・自由曲面レンズ・ミラーなど)開発で培ったコーティング技術をもとに立ち上げた「精密光学部品へのコーティングサービス」についてご紹介します。

プロジェクターの開発、量産で培った光学設計技術と新たに開発したコーティングノウハウ

マクセルの光エレクトロニクス事業本部では、1995年以降※(当時は日立製作所)、プロジェクターをはじめとする映像機器を中心に事業を展開してきました。プロジェクターに使用する自由曲面レンズ、自由曲面ミラーをはじめとする精密光学部品の開発・製造の歴史の中で、試作から量産までのすべてのプロセスにおいて豊富なノウハウを保有しています。
マクセルのコーティングは、スパッタリング方式を採用し、ガラスやプラスチックに光学多層膜を独自技術で成膜しています。こうした成膜技術は、上述した精密光学部品の製造経験を基に構築してきたものです。
また、自社製品としてHUDや車載カメラ用レンズユニットなどの車載製品も取り扱っており、加速試験を取り入れた環境試験を行うノウハウもあります。

設計から試作、量産に至るまで幅広い開発フェーズに対応可能

マクセルのコーティングサービス3種(設計サービス、試作サービス、量産サービス)の内容と対応範囲
<図>マクセルのコーティングサービスラインナップ

マクセルのコーティングサービスは、製品開発の工程のうち、設計のみを提供する①設計サービス、設計~試作まで行う②試作サービス、設計~量産化まで支援する③量産サービスの3種類のサービスを提供しています。お客様の製品開発の状況に合わせて選択することが可能です。

精密光学部品のコーティングサービスの利用の流れは以下の通りです。

設計・試作・量産の各工程で示したマクセルのコーティングサービスの利用の流れの説明図
<図>コーティングサービス利用の流れ

コーティング膜の種類に応じて狙った特性を実現する成膜設計

マクセルは、さまざまな種類のコーティング(下表参照)において設計実績があり、多層膜構成の設計も可能です。代表的なコーティング膜としてHR(High Reflection)、AR(Anti Reflection)、コールドミラー、HM(Half Mirror)膜があります。

<表>代表的なコーティング膜の構成例
コーティング種類 膜構成 性能(反射率)
HR (High Reflection) Al+SiOx+Nb2Ox 可視光域 95%(最大)
AR (Anti Reflection) Nb2Ox/SiO2
×4~10層
可視光域
平均<0.3%, 最大<0.5%
コールドミラー(Cold Mirror) Ta2Ox(Nb2Ox)/SiO2
×20層
設計例①
可視光域(400-630nm)>平均90%
近赤外域(400-630nm)<平均15%
設計例②
可視光域(450-580nm)>平均95%
近赤外域(620-1,200nm)<平均10%
HM(Half Mirror) Nb2Ox/SiO2
×4~10層
可視光域
平均 30%(±2%)

下図はこれらのコーティング膜を設計して得られた光学特性を示しており、狙った性能(反射率)を実現できていることがわかります。図は波長(nm)に対する反射率(%R)を示したものですが、色度(x,y)、色空間(Lab)、演色性(Ra)などを考慮した設計も可能です。

HR、AR、コールドミラー、ハーフミラーの光学特性(波長nm、反射率%R)
<図>光学特性(波長nm、反射率%R)

さまざまな用途製品にコーティング可能

マクセルのスパッタリング装置は、最大340×225×40mmまでの大型光学部品のコーティングに対応しています。また、コーティングを施す基材は、プラスチック、ガラスを問いません。

<表>コーティング可能な製品仕様
項目 製品仕様
最大サイズ(W×H×D)340×225×40mm
形状平板、曲面形状(自由曲面を含む)
基材熱可塑性樹脂(PMMA,PC,COC,COPなど)、ガラス

次に、本サービスでコーティング可能な製品例を以下に示します。 対応可能な製品サイズの幅が広く、高品質な製品を高効率で生産できるため、多種多様な製品の試作、量産に対応することができます。

<表>サイズ別製品用途例
業界\サイズ小型
幅~10mm
中型
幅~50mm
大型
幅~340mm
自動車車載センサーヘッドライトHUD
テールランプ用
ライトガイド
コンシューマ/映像スマートウォッチ
スマートフォン
アイウェア
カメラレンズ
PC用ディスプレイ
パネル
ヘルスケアウェアラブル
デバイス
医療装置・計測機MRI
コーティングを施した光学製品事例 左: HUDミラー(自由曲面) 右:光学フィルタ(コールドミラー)
<写真>コーティングを施した光学製品事例
左: HUDミラー(自由曲面) 右:光学フィルタ(コールドミラー)

また、コーティングの種類も豊富で、さまざまな製品用途に対応しています。

<表>コーティング種類と用途
コーティング種類光学部品製品用途
HR (High Reflection) ヘッドライトリフレクター ヘッドライト
AR (Anti Reflection) ディスプレイカバーガラス スマートウォッチ
スマートフォン
タブレット
スマートグラス
レンズ カメラ用レンズ
プロジェクター用レンズ
コールドミラー(Cold Mirror) LiDAR用バンドパスフィルタ 車載センサー
HM (Half Mirror) 透明スクリーン 高機能スクリーン

マクセルのスパッタ技術が支持される3つの理由

マクセルのスパッタ技術には以下の3つの特長があり、試作・量産問わず、お客様のニーズに応えるコーティングサービスを提供しています。

真空状態での製品の取り出しが可能

真空状態をつくるための排気時間が削減できるため、量産時のサイクルタイムを短縮でき、精密光学部品の製造コストの低減が期待できます。

低温下においても高い成膜レートでのコーティングが可能

一般的な反応性スパッタ方式に比べ、ターゲットへの投入電力が低い状態においても高速にコーティングを行うことが可能になります。基材の温度を60℃程度に抑えることができるため、熱によるプラスチック基材の変形やダメージを抑えることができます。このため、自由曲面ミラーなどの高精度な形状が求められる精密光学部品へのコーティングに適しています。

大面積に均一なコーティングが可能

独自の調整技術により、大面積に均一なコーティングが可能になります。スパッタリング装置で対応できるサイズであれば、基板の位置に関係なく狙い通りの光学特性が実現できます。

続いてマクセルのスパッタ技術を用いた具体的な試作品の光学特性について、事例を2つご紹介します。

事例(1):ガラス平板へのARコート

大面積のガラス平板(340×225)に施したAR膜特性の計測結果を示します。大面積ガラス平板上の測定位置に関係なく、面内均一な光学特性が確認できます。

ARコーティングを施した大面積ガラス平板の透過率の面内バラツキが少ないことを示したグラフ
<図>大面積ガラス平板の光学特性(AR膜)

事例(2):プラスチック製HUD凹面ミラーへのHRコート

形状230×80mmのプラスチック製HUD凹面ミラーに施したHR膜特性の計測結果を示します。製品上の位置に関係なく、ミラー面内において、同等の光学特性を実現しており、いずれもスペックを上回る結果であることがわかります。

HRコーティングを施した大面積ガラス平板の透過率の面内バラツキが少ないことを示したグラフ
<図>プラスチック製HUD凹面ミラーの光学特性(HR膜)

これらの測定データは、分光光度計を用いて測定した結果です。

量産に向けた光学特性の環境試験

量産時には、実使用環境下での性能を担保することが重要となります。マクセルでは高い耐久性が要求される車載製品の量産も行っており、さまざまな検査・評価のノウハウを保有しています。
環境性能を確保するため、低温・高温・高温高湿・ヒートショックなどの温度条件下での加速試験を行った後、光学特性や外観の検査を実施するなど量産に向けたご提案も行っています。

<表>耐環境加速試験例(例:HUDミラー)
試験項目 試験環境 試験時間
低温-30℃1,000時間
高温105℃1,000時間
高温高湿85℃/85%200時間
ヒートショック-30℃ ⇔ 80℃30分×1,000サイクル

おわりに

これまで、光学製品を扱うメーカー各社は、差別化技術の開発を独自で行い、光学デバイスの内製化を進めてきました。一方昨今では、製造分野でのファブレス化やオープンイノベーションによる製品開発に積極的に取り組む企業も増えており、こうした技術のオープン化を進める動きは今後一層加速すると考えられます。

今回ご紹介したマクセルのコーティングサービスは、単なる生産アウトソース先ではなく、初期のアイデアを高レベルの光学技術ノウハウを用いて具現化するもので、量産化の実現をともにめざすパートナーとなり得るのではないでしょうか。

マクセル株式会社
1961年創業。国内初のアルカリ乾電池やカセットテープで馴染みのある会社だが、現在は「自動車」「住生活・インフラ」「健康・理美容」の成長3分野を軸に事業を展開している。「自動車」分野では、LEDヘッドランプレンズ、車載カメラ用レンズユニットなどの光学製品、TPMS(タイヤのパンクセンサー)用耐熱CR電池など業界をリードする製品や部品実装用テープなどを提供している。AR-HUDはテレビやプロジェクター事業で培った映像・光学技術を活かしたものだ。
同社は日立グループを離れて2017年10月に社名変更し、自主独立経営を推進している。経営ビジョン「スマートライフをサポート 人のまわりにやすらぎと潤い」に沿い、各分野で競争力のある事業の構築をめざしている。