巨人が動き出した!金属3Dプリンターがもたらす革新(後編)

INTERVIEW
GE Additive
日本統括責任者
トーマス・パン
インタビュイーの写真

2018年6月、日本においてアディティブ・マニュファクチャリング(金属積層造形:金属3Dプリンティング事業)を本格化させることを発表。GEアディティブ(GE Additive)を発足した、業界の“巨人”ゼネラル・エレクトリック(GE)。
その戦略と今後の展望について、日本統括責任者のトーマス・パン氏にお話を伺いました。

前編では、GEアディティブ発足の経緯から、最高性能の航空機開発における金属3Dプリンターの活用、そして前代未聞の3Dプリンターによる航空機の燃焼系部品の量産化への挑戦について貴重な実例をご紹介いただきました。

後編では、強度や製造コストなどネガティブなイメージもある金属3Dプリンターの本当のメリットや導入事例、さらに、これからの時代の設計者に求められる設計思想「アディティブ・マインドセット」について詳しく伺っていきます。

<写真1>GE Additive の日本統括責任者のトーマス・パン氏
<写真1>GE Additive の日本統括責任者のトーマス・パン氏

燃費向上、高強度、低価格を三立

金属パウダーを電子ビームやレーザーで高温に溶かしながら成形していく金属3Dプリンター。それによって造形された部品は、航空機の主要部品として使用するには、強度的な不安はないのでしょうか。

「もともとの素材が粉末であるせいか、耐久性や強度に不安を感じられる方は多くいます。しかし、具体的には航空宇宙でよく使用されるインコネル合金の場合を例にとりますと、造形後に適切な熱処理を施すことで、実際の強度は、鋳造よりもかなり強く、鍛造にもかなり近い強度を持っています。伸びに関して言えば鍛造と同程度です。

また、溶けた金属を型に流し込むことによって成形する鋳造では、金属の流れや、内側と外側で冷えて固まる速度が違うことなどによって、応力の差やムラができやすい。これに対して、ほぼ同じ温度で数十ミクロンという薄い層として積層して固めていく金属3Dプリンターでは、そうしたムラができにくいというメリットがあります」とトーマス・パン氏は説明します。

もう一つの疑問は、生産性です。粉末を敷きながら何十層も絵を描くように作っていく3Dプリンティングでは、一つのものができあがるのに、かなり時間がかかるイメージがあります。時間的にもコスト的にも量産には向いていないのではないのでしょうか。

「一つの造形にかかる時間だけを見れば確かに長く感じるかもしれませんが、これは、あくまでも従来法との比較論になります。部品点数が大幅に減り、最終製品ができあがるまでにかかるプロセスがかなり短縮できるなどすれば、コストだけではなく、納期もむしろ下がります。製品に対する部品点数が多く、加工工程が複雑かつ多いということは、物流、管理、加工、品質保証などサプライチェーン全体で膨大なコストがかるのです。パーツを統合できる3Dプリンターでは、そのコストを大幅に圧縮できます」(パン氏)

例えば、テキストロン社製のセスナ・デナーリ機で使用がすでに確定している新型ターボプロップエンジン「GE CATALYST™(GEカタリスト)」は、従来工法で作ると855部品になるのですが、3Dプリンターで作ったところ、わずか12部品にまで統合でき、コストも大幅に削減できました。さらに、パフォーマンスについても、パワーが10%アップしながら燃費が20%向上できたのです。このカタリストエンジンは今、ものすごい勢いで受注を伸ばしています。

新型ターボシャフトエンジンを従来工法で量産するためには、855パーツのサプライチェーンを管理するのを含めて60~80人のエンジニアが想定されていましたが、金属3Dプリンターではパーツ点数の削減効果で、約6人のエンジニアで対応できると言います。アセンブリーも削減でき、ロウ付けもビス止めも不要になり、大幅なコストとリスクの削減が可能なのです。

<写真2>新型ターボプロップエンジン「CATALYST(カタリスト)」
<写真2>新型ターボプロップエンジン「CATALYST(カタリスト)」

設計思考そのものが変わる

「アディティブでは、従来工法とは設計思考がまったく変わります。というより、思考を変えなくてはいけない。それはもう革命的に。なぜなら、これまで考えなくてはならなかった数々の従来工法にまつわる制約から一気に解放されるからです。

ここは何ミリの板をプレスして加工し、ここは押出材、ここは鋳物を作って、この部分は切削し、この部分は溶接する。しかし溶接箇所の強度は弱いので何万回の耐久テストに耐えられない。ここは軽量化のために中空にしたいが鋳物では流し込むのが難しい……といった数々の制約が、3Dプリンティングによって一気に解決する可能性があるのです。

しかしそのためには設計者が量産化まできちんと理解する必要がある。従来のものづくりの現場は、トータルプロセスとして効率化するために設計、試作、量産プロセスが分断されているケースが多かったのではないでしょうか」とパン氏は言います。

設計者が理論上で理想的な形状を設計し、試作は試作業者が試作品を作って設計者に戻す。設計者はそれを元にどんな数字が出るのか試験をして検証する。課題が発見されれば設計変更を行い、試作業者に再度修正を依頼する。それを何度も繰り返し、いいプロトタイプができたら、次にそれを生産技術者に渡す。生産技術者は、試作で使った手法とは別に量産化設計を行う。そこでは品質や技術面とコスト面の両面を見て精査し、量産化に向いていない部分に制約をつけて設計者に戻すというように、分断化された組織では、一つひとつの工程が異なる組織を行き来する必要があります。この工程の無駄が削減されると言うのです。

「設計者が3Dプリンターで試作したものを3Dプリンターで量産するということになれば、試作と量産における製造プロセスが同じということですから製造技術面の制約は少なくなりますし、設計者が量産化設計までを考えたデザインをしていくことで、製品開発の大幅な効率アップが可能になります。

そこで設計者は思考を変えなければなりません。設計者が考えるべきは、従来工法由来の制約のない環境の中で、理想をどこまで追求し、性能、サプライチェーン、コストの面で、どこまでベストパフォーマンスを出せるか。かなり革新的な設計をすることが求められます。そうなってくると、もはや、これまで積み重ね、先輩から後輩へと伝承してきたあらゆる従来設計のノウハウはほとんど価値がなくなってしまいます」

アディティブ・マインドセットとは

それはいわば、設計者が大いなる自由を手に入れるということ。従来のさまざまな制約との戦いから、究極のデザインへと、思考を変えないといけないわけです。いままでのように、従来工法の枠で構成されている技術部門ベースの製品設計から、一段、または数段上層階へ移動して、従来パーツの集約や統合も含めて新しい設計思想で画期的な新製品を開発するための柔軟性の高いものの考え方がアディティブ・マインドセットです。設計者はそうすることによって、企業に革新性と競争優位性と利益をもたらし、社会にインパクトを与えることができるのです。

そうした開発環境を世界に広めるべく、GEアディティブは、2018年6月より、アディティブ・マニュファクチャリングを世界から日本に広めるための事業をスタートさせています。

「なぜ我々がノウハウを社外に提供するのか。それは我々がアディティブ製造のより大きなエコシステムを作りたいと考えているからです。

誤解しないでいただきたいのは、当社がコンセプト・レーザー社やアーカム社を買収したのは、アディティブ・マニュファクチャリングを独占しようとしたわけではありません。GEがより良いプロダクトを開発するには、機械メーカーとより近い関係になることが必要だと考えからです。事実、同じグループになったことで、GEアビエーションの航空機エンジンの開発にも貢献できました。

当然、コンセプト・レーザーもアーカムも買収までは独立したメーカーでしたので、3Dプリンターは世界に販売しておりましたし、これからも販売していきます。そこで私たちGEがエンドユーザーとして自社で得ることができたアディティブ製造技術のノウハウをコンサルティングという形で、セットで世界に提供していくというのが次のフェーズです」

サプライチェーンを作り変える必要がある

「現在、航空機の燃料ノズルは内製していますが、今後、さらに金属3Dプリンターで量産する部品点数が増えてきて、エンジンパーツやその他の製品が3Dプリンターで作られていくようになると、すべて内製するのはとても現実的ではない、という時期がくると思います。

今後の量産は社外のパートナーと一緒に行うアディティブのサプライチェーンを作っていかなければいけません。そのためには、アディティブ・マインドセットを持った人たちと適切な金属3Dプリンターを持った企業を増やさなければいけませんね。それが今のGEの喫緊の課題なのです」

時流も後押ししています。2017年末までの時点で過去10年以上における設置数の累計が1,300台というなかで、コンセプト・レーザー社とアーカム社の3Dプリンターの2017年の年間販売数は約300台ということですから、急速に伸びています。17年は大きく飛躍した年だと言えるでしょう。その流れで、航空宇宙以外の産業、例えば自動車産業では導入は進むのでしょうか。

「もちろん自動車メーカーやティア1メーカーも金属アディティブの導入を検討されています。ただし量産車は約3万パーツで300万円ほどの販売価格だと想定すると、1パーツあたり100円という単価コストとなり、非常にシビアな世界ですから、すぐに量産車向けにというのは難しいと思います。

現状では、新製品の試作や研究開発用途が多いです。ただ、形状の自由度が増すと金属部品の応用に対する柔軟性は非常に高くなるので、自動車メーカーさんも、アディティブ・マインドセットを持って導入し活用していただければ、量産への利用の可能性も大いにあると思います。アディティブによって自動車にどうやって革新をもたらすかを考えていけば、想像以上にコストメリットが生じる応用もあることも多いのです。

例えば燃料ノズルのようにものすごく機能性の高いパーツでなく、割と汎用的なパーツであっても、既存の製造方式から3Dプリンターに単純に代替することによって、材料費や人件費だけではなくサプライチェーンコストまで含めると、財務メリットが得られることもあります。

既存の製法だと部品在庫を6か月分持っている必要があるのに、アディティブだと1か月分でよいとなると、5か月分の在庫を持たなくてすむ。これはキャッシュフローに大きく影響するんです。

繰り返しになりますが、世の中に存在するあらゆる商品や部品というものは、従来工法をベースに設計されています。なぜ、その部品がその形をしているのかというと、それが従来工法にとって最も生産効率が高い形状だからです。そこから「従来工法」という制約が取り払われ、サプライチェーンも最適化してよいとなったとき、3Dプリンターという新しい工法をもとに、モノのカタチはアディティブ・マインドセットを活用して作り直されるべきなのです」。

既存の工法にとらわれていては、3Dプリンターのメリットを享受できない。企画設計から量産化まですべての工程をアディティブ前提で再構築する発想が必要なのです。そうすれば、より効率的でかつローコスト、また生産性の高い仕組みができることでしょう。改めてアディティブ・マインドセットの必要性を強く感じました。

株式会社仙北谷
要望があればお客様へのコンサルティングにも対応。仙北谷は、切削・放電加工・3Dプリンター加工を用いて、試作・単品加工、治工具や金型の設計製作を中心に事業を展開している会社です。
プロトラブズ合同会社
IT(情報技術)を活用して自動化、標準化を導入。より拡張性のある短納期プロセスを確立させたことにより、短納期での試作・小ロット生産を実現したオンデマンド受託製造会社です。
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あらゆる非鉄金属部品に高精度な鍛造・加工技術を用いてスピード納期で対応。株式会社中野鍛造所は、高品質とコスト削減を実現する独自の一貫生産システムを持ち、高精度な鍛造試作品をご提供しています。
株式会社クライム・ワークス
企業や研究機関の開発支援を行う試作メーカ。新製品の開発工程における試作品の製作、検証用治具の提供だけでなく、協力会社と連携して量産試作に向けたユニット品の製作まで対応します。

文/嶺竜一