巨人が動き出した!金属3Dプリンターがもたらす革新(前編)

INTERVIEW

GE Additive
日本統括責任者
トーマス・パン

2018年6月、ゼネラル・エレクトリック(GE)は、日本においてアディティブ・マニュファクチャリング(金属積層造形:金属3Dプリンティング事業)を本格化させることを発表。GEアディティブ(GE Additive)を発足しました。

現在その主軸となるのは、金属3Dプリンターの製造販売及びコンサルティングです。GEは2016年、金属積層3Dプリンターの世界主要メーカーである、コンセプト・レーザー社(ドイツ)とアーカム社(スウェーデン)、金属パウダーメーカーのAP&C社(カナダ)等を買収。以降、世界唯一のアディティブ・マニュファクチャリングのエンドユーザーと同時に装置等の開発・製造・販売社となったGEの事業部、GEアディティブは、これら各社の金属積層3Dプリンター(製品)と関連する技術、材料、システムを一般に提供し、2018年よりAddWorks™、アディティブ・マニュファクチャリング・コンサルティングの提供を開始しました。その戦略および今後の展望について、日本統括責任者のトーマス・パン氏に伺いました。

<写真1>GE Additive の日本統括責任者のトーマス・パン氏
<写真1>GE Additive の日本統括責任者のトーマス・パン氏

世界の3Dプリンター主要メーカー2社を傘下に

金属3Dプリンターによる加工は「アディティブ・マニュファクチャリング(付加製造)」や積層造形、3Dプリンティングとも言われます。これは素材を重ねたり「付加」してモノを作り出す製造方法で、従来製法では作れなかったような軽くて強い機能部品を生み出したり、これまでは難しかった自由形状も製作できたりと、いまもっとも期待が大きい製造方法です。

この方法では、商品化を加速するほか、コスト削減、パフォーマンスの向上、CO2排出削減等を実現し、サプライチェーンを含めた製造プロセス全体に革新的な変化をもたらすと言われています。今回、本格的に日本に進出したGEの狙いはなんなのでしょうか。

「GEグループはもともと、航空宇宙、輸送機、医療機器やエネルギーなどのさまざまな分野で、優れたプロダクトを開発する目的で、開発に3Dプリンターを導入してきたという経緯があります。GEの3D技術の導入は早く、樹脂3Dプリンターをごく初期の1990年代より導入しています。

金属3Dプリンターは、航空機エンジンメーカーのGEアビエーションの開発部門が最初に興味を持ちました。GEの社内組織は、縦軸に航空宇宙、ヘルスケア、輸送、再生可能エネルギーなどの事業部門があり、横軸にデジタルインダストリアリゼーションを推進するGEデジタルや、このGEアディティブがあります。それぞれの事業部において、エンドユーザーとして3Dプリンターを使う機会も存在するので、GEアディティブは、社内と社外のアディティブの事業を包括的にサポートする組織として発足しました」とパン氏。

金属3Dプリンターの基本的なメカニズムは樹脂の3Dプリンターと同じです。アルミニウムやステンレス、インコネルやチタンなどの金属を粉末状にしたものを、レーザーまたは電子ビームで溶解しながら成形していきます。

金属3Dプリンターにはレーザーと電子ビームの2方式があり、レーザー方式はドイツのコンセプト・レーザー社、電子ビーム方式はスウェーデンのアーカム社が得意とする造形技術です。GEはなぜその2社を傘下に収めたのでしょうか。

<写真2>コンセプト・レーザー社の主力製品「X LINE 2000R 」。L800 x W400 x H500mmもの大きさの製品を造形できる
<写真2>コンセプト・レーザー社の主力製品「X LINE 2000R 」。L800 x W400 x H500mmもの大きさの製品を造形できる

最高性能の航空エンジンパーツを開発

GEにおいてアディティブ・マニュファクチャリングが最も大きな成果を出したプロジェクトは、2009年からGEアビエーションが行った、主にボーイング社の737MAXとエアバス社のA320neo向けの新型航空機エンジンの燃料ノズルの開発です。

革新的な燃料ノズルを開発することは、航空機エンジンメーカーの最も重要な課題の一つです。GEアビエーションは、サフラン社との合弁会社であるCFM社と共同開発していた「LEAP」と名付けられた新型ターボファンエンジンの燃料ノズルの開発が最重要課題でした。

この燃料ノズルに対するパフォーマンス要求は非常に高く、シビアなものでした。今、航空業界から航空機に対して最も求められている要素は、燃費の良さです。言うまでもなく航空機の燃費に最も大きな影響を及ぼすのはエンジンで、燃料ノズルはその燃料効率の鍵となる部品です。

「GEは当初、従来工法で試作を繰り返しましたが、どうしても要求された燃料効率を満たすものを作ることができませんでした。燃料ノズルは単純に燃料を噴射すればいいわけではなく、燃焼系の中で燃料を循環させて冷却させ、燃料と空気を混合させて効率よく燃焼させなければならない。構造は非常に複雑で、製造には非常に高い技術が必要です。

従来技術では、複数の金属素材と形状の部品を溶接したりロウ付けしたりして製造していました。難しいのは、非常に環境が過酷だということです。燃料ノズルでは、燃料が常に燃焼するために高温にさらされ、常に振動する過酷な環境下で、高い耐久性が求められる。異なる部品の溶着部分などがどうしても壊れやすくなりがちです。そこで十分な耐久性を持たせる設計にすると今度は重量の増加や燃料効率が落ちてしまったりするわけですね。

そこで、苦肉の策として従来工法とは異なる工法での試作にも取り組みました。すると、当時レーザー式の金属3Dプリンターを使って製造を始めていたモーリス・テクノロジーズ社に依頼してできた試作品が、初めて仕様基準を満たすことができ、さらに開発を進めたところ、それ以上のパフォーマンスを出すことができたのです」(パン氏)

20個のパーツを一体に統合

3Dプリンターで製造すると、複雑な形状でも一体造形できるため、部品点数を減らすことが可能です。LEAPの燃料ノズルでは、20個のパーツを1個にすることができたのです。

一体型かつ同じ材料で構成されているため、熱に対する膨張率も同じです。そのため耐久性が従来とはまったく違いました。強度の弱くなりがちな溶着箇所を大幅に減らすことができ、なんと強度はそれまでの5倍に跳ね上がりました。

なおかつ必要以上の強度や厚みを持っている部分は薄くして軽量化したり、燃料や空気の流路などを自由に形成できたりもするので燃料効率は上がりました。試作品はそうした3D造形の特性を生かしたことで、求められる基準をクリアしたのです。

「その結果に喜んだ我々は、早速、その試作品の形状を基に、量産化に向けて設計を試みました。ところがここで問題が発生しました。従来の量産加工技術では、どのようにしても3Dプリンターで製作した、このノズルの形状を再現することができないことが判明したのです。

そこで当社は、考え方を変えました。それまで研究開発及び試作に使うものだと考えられてきた3Dプリンターを使って、燃焼ノズルを量産するという前代未聞なことを考えたのです。そうしてモーリス・テクノロジーズにプロジェクトを持ちかけました」

苦難の末、モーリス・テクノロジーズは量産化に成功しました。その報告を受けた2011年末、GEはモーリス・テクノロジーズ社を買収します。そこから装置を含めてすべてGEの中に取り込み、モーリス・テクノロジーズのスタッフと一緒に社内で量産への道筋を立てながら、LEAPエンジンのFAA(米国連邦航空局)認証のプロセスについても着手しました。

LEAPエンジンは2015年にFAA認証を取り、2016年から量産を開始。燃料ノズルは、2018年10月時点で3万個を出荷しています。2017年に就航したボーイング737MAXとエアバスA320neoに搭載。燃焼系の部品に3Dプリンターで製造したパーツが量産品として使われたのは世界で初めてのことです。

<写真3>20個のパーツで構成されたLEAPの燃料ノズルが1個の部品となった
<写真3>20個のパーツで構成されたLEAPの燃料ノズルが1個の部品となった

完成した量産品は、部品点数が大幅に減ったこともあり、価格も3割削減することができたそう。この一連の出来事から、GEの金属3Dプリンティングに関する見方が大きく変わりました。同社は先端のテクノロジーを持つ3Dプリンターのメーカーをグループに取り込む戦略を設定。2016年に、レーザー式3Dプリンターの主要メーカーであるコンセプト・レーザー社と、電子ビーム式3Dプリンターの主要メーカーであるアーカム社のM&Aを行いました。

GEは、世界最高の製造技術を持つメーカーになるために、3Dプリンターのユーザーとして、最先端のアディティブ製造の技術を社内に取り入れたのです。

現在、テスト飛行を行っている大型機として航続距離世界一を目指す次世代航空機ボーイング777Xにも、金属3Dプリンティングで量産した製品が約300パーツ採用されています。例えば777Xに搭載される世界で最大となる新型エンジンGE9Xには、従来の金属よりも50%も軽いチタンアルミ合金でできた228枚のタービンブレードが組み込まれていますが、これはアーカム社の電子ビーム3Dプリンターで生産しています。


3Dプリンター導入で部品の少量化、軽量化、そして強度の強化、コストの削減を成し遂げたGE。後編では3Dプリンター導入の効果とノウハウをより詳しくお伝えいたします。

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文/嶺竜一