計測できないパラメータを人工知能で計算する”ソフトセンサー技術”に迫る

INTERVIEW

明治大学
応用化学科
金子 弘昌先生

量産や量産試作の段階で試作品の温度や湿度、圧力など多くのパラメータを把握することは、不良品を少なくするための基本です。しかし、実測が難しかったり、リアルタイムでは測れないパラメータも数多く存在します。現在、これらの実測できないパラメータをリアルタイムで計算・推定する「ソフトセンサー」技術が多く使われるようになってきました。
今回はソフトセンサーのパイオニアである明治大学の金子弘昌先生にその技術の概要と広がりについてお話を聞きました。

ソフトセンサーとは?~過去のデータによるパラメータ推定

温度や湿度、圧力を測る装置は、それぞれ「温度計」「湿度計」「圧力計」です。これら実測値を直接測る装置をハードセンサーと呼びます。一方で、化学プラントで化学反応が進んでいく最中の「密度」や「重合度」といったパラメータは直接測定することができません。しかし、実験を繰り返してデータを取ったり、ハードセンサーとの間の関係を計算することによってその値を推定することができます。この、<図1>に示すようなパラメータをリアルタイムで推定する装置のことを「ソフトセンサー」と呼んでいます。また、<図2>にソフトセンサーの実施例を示します。

<図1>ソフトセンサー概要図
<図1>ソフトセンサー概要図

<図2>ソフトセンサーの実施例
<図2>ソフトセンサーの実施例

ソフトセンサーに用いる3つのパラメータ推定モデル~特徴と用途

ソフトセンサーは現在3つのカテゴリに別れています。

1) ブラックボックスモデル
ハードセンサーの計測データを組み合わせて、人工知能を活用して解析を進める
2) ホワイトボックスモデル
理論式をベースに推定プログラムを構築する
3) グレーボックスモデル
1)と2)を組み合わせて運用する

それぞれ一長一短あり、実際の導入の現場に即して適切な方法を用いているのが現状です。例えば、完全なブラックボックスモデルの場合、なぜソフトセンサーの推定値が正しいのかという部分の説明が難しく、納得感が少ないために現場への導入がためらわれる場合もあります。また、完全なホワイトボックスモデルの場合、現状では理論で表せないものもあり上手くいかない場合があります。そのため現在ではハイブリッド型であるグレーボックスモデルが多く使われてきている印象です。
昨今の人工知能に関連する技術の発展とともにブラックボックスモデル・グレーボックスモデルで活用される新しい計算手法も多く提案されています。

 

<計算手法の一例>
●主成分分析(Principal Component Analysis, PCA)
●独立成分分析 (Independent Component Analysis, ICA)
●自己組織化マップ(Self-Organizing Map, SOM)
●Generative Topographic Mapping (GTM)
●階層的クラスタリング
●k-means法
●混合が薄モデル (Gaussian Mixture Models, GMM)
●スペクトラルクラスタリング
●Stepwise (ステップワイズ) 法
●線形判別分析(Linear Discriminant Analysis, LDA)
●サポートベクターマシン(Support Vector Machine, SVM)
●最小二乗法による線形重回帰分析
●部分的最小二乗回帰(Partial Least Squares Regression, PLS)
●リッジ回帰(Ridge Regression, RR)
●Least Absolute Shrinkage and Selection Operator (LASSO)
●Elastic Net (EN)
●サポートベクター回帰(Support Vector Regression, SVR)
●決定木(Decision Tree, TD)
●ランダムフォレスト(Random Forest, RF)
●ガウス過程 (Gaussian Process, GP)
●クロスバリデーション
●ベイズ最適化(Bayesian Optimization, BO)

それぞれの手法を用いて実際にシミュレーションを行い、実測値を正確に推定できるかどうか確かめます。そして、良さそうな手法を見極めた後に精度を高めていくことで導入を進めていきます。また、このときの推定値はリアルタイムに測定するのではなく(できない場合が多い)、時間をかけて解析して得られた実測値との比較により行います。

 

 

ソフトセンサーの3つの実施例を紹介

<図3>から<図5>に、化学プラント・選果プロセス・製薬プロセスへソフトセンサーを適応した実施例を示します。

化学プラント

<図3>化学プラントにおけるソフトセンサー実施例
<図3>化学プラントにおけるソフトセンサー実施例

選果プロセス

<図4>選果プロセスにおけるソフトセンサー実施例
<図4>選果プロセスにおけるソフトセンサー実施例

製薬プロセス

<図5>製薬プロセスにおけるソフトセンサー実施例
<図5>製薬プロセスにおけるソフトセンサー実施例

ソフトセンサーの発展の先に広がる未来

ソフトセンサーは上の例で示した通り、多くの分野ですでに導入が始まっています。例えば化学プラントでは重合度などキーとなるパラメータをリアルタイムで精度よく推定することはすでに実現しています。
しかし、パラメータ推定の先のプラント自体の制御は人間が判断する部分も含めた別のシステムで行われています。現状では、判断をする部分にまで人工知能の信頼性が高まっていないためこのような運用になっていますが、将来的にはこのプラントの制御にも人工知能を導入していけると考えられています。また、このような精度の高い推定や制御ができるようになると、常に信頼性の高いデータが残せるようになります。そうすると、現状では不明な事項が多く高めに見積らざるを得なかった安全率を適正値にして、定期点検を適正な回数に減らすことができるのではないかと言われています。
また、量産現場や最終工程のチェックで使われることが多いソフトセンサー技術ですが、製造現場から大量のデータを得られるため、研究所などにそのデータをフィードバックすることもできるようになります。そうすると、企業の中の研究や開発と製造が同時に進められるようになるかもしれません。
フェーズが分かれて行われることの多い企業の「研究」「開発」「製造」も共通となるデータプラットフォームを持つことにより、新しいものを生み出す力も加速度的に増大していくかもしれません。

そのためにも、ぜひ研究・開発に携わる方々にもソフトセンサーの技術を知ってもらい、様々な場面で活用していただきたいと思っています。
現在、データ処理や人工知能に関するフリーな開発環境も整ってきていますし、書籍やウェブ上に情報も多くあります。また、ハードセンサーのデータを取り込む道具もRaspberry Pi など安価で扱いやすいものも出ています。データ処理もまずはノートパソコンで十分です。ぜひ、その威力を知っていただきたいですね。
また、現実には測定しづらいパラメータの推定などもできる場合もありますので、興味がある場合、ご連絡いただければと思います。


まとめ

以下の記事ではプラスチックの計測に関する基礎知的な知識を解説しています。合わせてご参考下さい。

また、以下の記事では先進的な測定・分析サービスをご紹介しています。こちらも合わせてご参考下さい。

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