トラブル回避のために知りたい「製品の寿命」~プラスチックの劣化原因と寿命予測の実験方法を紹介~

はじめに

プラスチック成形品は、原料となる合成樹脂の種類によって劣化要因が異なります。
試作検討が進むにつれ、製品化した際の寿命予測が重要となっていきます。試作の寿命を予測する際には、まず、どのように劣化が生じるのか、その要因とメカニズムを把握することが必要となります。
ここでは劣化要因と試験方法、さらに寿命予測について解説しましょう。

プラスチックの主な劣化要因とそのメカニズム

プラスチック成形品の劣化要因としては、材料自身の経時変化や、外的要因による変化があり、単一の要因で生じる劣化や複数の要因が重なることで生じる劣化もあり、様々な要因が考えられます。<表1>

<表1>プラスチックを劣化させる要因

劣化種類 劣化要因
材料自身の経時変化
  • 熱可塑性樹脂の反応の続行(重合)
  • 熱硬化性樹脂、ゴムの硬化反応進行
  • ゴム、PVCにおける可塑剤の揮散
外的要因による変化
(単一要因)
  • 応力、歪み(繰り返し負荷、長時間負荷)
  • 光(主に紫外線)
  • 電気
  • 放射線:原子炉、加速器、宇宙放射線
  • 環境物質:
    • ガス(酸素、オゾン、亜硫酸ガス 等)
    • 水 (湿度、高圧水、水蒸気)
    • 金属 (活性金属、銅など)
    • 有機溶剤
    •  酸、アルカリ、界面活性剤
  • 微生物
外的要因による変化
(複合要因)
  • 屋外暴露 (紫外線+雨+空気)
  • ストレスクラッキング(環境物質+応力・歪み)

数ある要因の内、「熱」、「光」、「水」、「金属や金属化合物との接触」、「応力・ひずみ」がもたらす劣化について、簡単にご説明していきましょう。

熱による劣化

合成樹脂は、主に炭素、酸素、水素で構成される高分子化合物です。分子構造は、ひものような構造をとり主鎖と呼ばれます。合成樹脂が加熱されることで、分子運動が活発化し、通常では反応が起こりにくい空気中の酸素と反応しやすくなります。酸素と反応することで、<図1>のように、合成樹脂は分解されてしまいます。

<図1>加熱による合成樹脂の分解
<図1>加熱による合成樹脂の分解

光による劣化

多くの場合、プラスチック成形品の表面で起こります。
光エネルギーは波長が短いほど高くなります。また、合成樹脂の劣化を引き起こす太陽光の波長は、300~400ナノメートルで、これは紫色の可視光から近紫外光の領域に該当します。
光による劣化の理由は、光エネルギーを吸収し、分子同士の化学結合が切断されるからです。<表2>に、プラスチックの種類別に劣化しやすくなる波長を整理しました。
加えて、光は分子同士の化学結合の切断だけでなく、分子を励起させることで酸化が起こり、劣化を引き起こす場合もあります。

<表2>プラスチックを光劣化させる波長

合成樹脂の材料名 劣化しやすい波長長さ(nm)
ポリエステル 325
ポリスチレン 318
ポリプロピレン 300
ポリ塩化ビニル 310
塩ビ―酢ビ共重合体 310
ホルムアルデヒド樹脂 322~364
硝酸セルロース 300~320
ポリカーボネート 310
ポリメチルメタクリレート 295

水による劣化

通常、プラスチック成型品は水には強いといったイメージがありますが、合成樹脂の種類や環境によっては、加水分解による劣化が起こります。特にポリエチレンテレクタラート(PET)のように分子構造にエステル結合を有する合成樹脂は加水分解しやすい性質があります。また、ポリウレタン(PU)が加水分解により劣化することはよく知られています。また、合成樹脂を溶融し成形する際にも、湿気があると加水分解しやすくなるので注

有機溶剤による劣化

一般的に、どのような材料であっても、自分の構造と類似する構造をもつ材料は取り込みやすい性質があります。汎用エンプラ(汎用エンジニアリングプラスチック)の一種であるポリカーボネイト(PC)は耐候性、衝撃強さ、耐熱性に優れており、自動車のヘッドランプレンズや光ディスクなど幅広い製品に利用されていますが、ある特定の溶剤に対しては、材料内に有機溶剤を取り込みやすく、強度低下につながるため、注意が必要となります。

金属や金属化合物による劣化

合成樹脂が金属や金属化合物と接触するケースは少なくありません。合成樹脂が金属によって劣化する主な理由は、金属イオンが合成樹脂の酸化反応の触媒として働くからです。
金属の中ではコバルト、マンガンが合成樹脂に対して影響を及ぼしやすい元素です。
ただし、実際にはこの2種類の金属と合成樹脂が接触しているような製品はほとんどなく、事故の発生原因になっているケースはあまり見かけません。
それに対し、大量に使われている銅や鉄による劣化の方が起こりやすく、特にポリプロピレン(PP)やABS樹脂は高温になると、銅に反応するため、このような用途では安定剤を添加するなど注意が必要です。

応力・ひずみによる劣化

欠陥には、気泡やクラック、ウェルドライン、異物の混入などがあり、応力が集中することで劣化や破壊が引き起こされます。また、合成樹脂を射出成形する際には、その過程で、成形品内部に応力が発生し残存します。この残留応力による割れとしては、ストレスクラックやソルベントクラック現象があります。

このように、劣化要因としてはさまざまなケースが考えられますが、要因は一つではなく、熱と紫外線、紫外線と水など複合的な要因で劣化する場合も少なくないことを覚えておく必要があるでしょう。

どうしてプラスチックの寿命予測が重要なのか

このように、プラスチック成形品は、さまざまな要因により劣化が避けられません。成形品がどのように劣化していくのか、その寿命が予測するのも容易ではありません。

その理由は主に以下の3点あります。

(ア) 様々な種類の合成樹脂に加え、酸化・紫外線防止剤、充てん剤など多くの添加剤が使用されている
(イ) 使用条件や使用環境が多様
(ウ) 寿命の判定基準自体が多様(保管寿命、外観寿命、故障寿命、破壊寿命、残存寿命など)

製品を最適に設計し安全性を確保するためには、製品の寿命を予測し、使用可能期間や使用時間を推定することが極めて重要です。現在、寿命予測の方法として、実際に使用して寿命を統計的に求める促進劣化試験(後述)を実施する手段がとられています。

促進劣化試験とは?

プラスチック成形品の劣化に対しては、安心・安全、事故防止の観点から、製品の寿命を予測して保証期間を設定し、ユーザーに提示することが欠かせません。しかし、仮に保証期間を10年間とした場合、それを10年間かけて確認するというのは現実的ではありません。そこで広く実施されているのが、促進劣化試験です。アレニウスの法則を用いた寿命予測試験が一般的です。これは、ある劣化が化学反応に基づく場合、複数の温度で試験を実施し、アレニウスの式から導出されるアレニウスプロットを利用し寿命を予測するというものです。
材料、製品を実際の使用環境下で、長期間、長時間使用した場合の変化を短時間で見極める方法を<表3>にまとめましたので、ご参考ください。 #1~3は、類似製品の実績を利用する方法で、#4~7は、促進劣化試験と市場条件から求める方法です。

<表3>促進劣化試験法

分類 # 寿命予測方法 概要
実地試験と促進劣化試験からの予測 1 比例倍数法 ある特性の促進試験で、改良品の改良倍率を求める。
類似品の市場実績をもとに、改良品の寿命を予測
2 特性値対応法 類似製品に対して、劣化段階ごと市場と促進試験の時間的対応を求め、それをもとに改良品の寿命を予測
3 類似製品対応法 数種類の類似製品に対して、ある寿命値の劣化段階ごと市場と促進試験の時間的対応を求め、それをもとに改良品の寿命を予測
促進劣化試験法による予測法 4 反応速度論に基づく予測方法 劣化が化学反応に基づく場合、複数の温度で試験を実施しアレニウスプロット*1から寿命を予測
5 S-N線図法 高ストレス域でS-N線図*2を作成し使用条件(低ストレス域)の寿命を予測
6 時間-温度
換算則法
クリープ変形、クリープ破壊現象が環境温度を高めると促進されることを用いて寿命を予測
7 マイナー則法
(直線被害則)
劣化因子の寿命が、時間経過や繰り返し回数で起こることが予め明らかな場合、それぞれの劣化因子の累積負荷から残存寿命を予測

*1 スウェーデンの化学者アレニウスが1889年に出した化学反応の速度定数の温度変化に関するアレニウスの式
*2 ある部材に対し、一定の振幅で繰り返し応力を負荷した場合に、どれくらいで破断するかを示したもの。
 応力と破断までの繰り返し回数の関係を示した曲線

寿命予測のための耐久性試験や、劣化の要因を正しく把握するための評価・解析には専門的知見が必要となります。

まとめ

このように、プラスチック成形品はさまざまな要因によって劣化します。プラスチック成形品の原料となる合成樹脂を選ぶ際には、それがどのような環境下で、どれくらいの期間や時間、使用されるかをしっかりと把握した上で、最適なものを選ぶようにしましょう。また、それを製品化する際にはここで紹介した手順を参考にして頂ければ幸いです。寿命予測をすることで、事故やトラブルの発生を回避するようにしましょう。

他記事ではプラスチック成型品で発生しやすい具体事例を例に、解析手順や発生原因なども説明しています。そちらもぜひ、ご参考ください。

また、以下の記事では、先端的な計測・分析サービスについて紹介しています。

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