外国人営業部長が世界の航空業界に切り込む精鋭企業〜愛知の航空宇宙産業③

INTERVIEW

株式会社エアロ
航空機事業本部 営業部 担当部長
ライアン・ロカシオ

近年、合従連衡と寡占化が進む世界の航空機産業は、ボーイング社とエアバス社の大手2社の下に中型機メーカーが続くといった構造になっています。日本ではMRJが、その業界に割って入ろうとしていますが、そう簡単ではありません。今回、航空機の構造体組み立てや艤装、塗装などを主な業務として行う愛知県弥富市の株式会社エアロに現状を伺いました。


▽愛知の航空宇宙産業特集

構造変化が急激に進む航空産業

まず、航空産業の現状をご説明しておきましょう。世界の航空機産業は近年、合従連衡と寡占化が進み、完成機メーカーとしてボーイング社とエアバス社の大手2社の下にカナダのボンバルディア社、ブラジルのエンブラエル社などが続くといった構造になっています。また、ボーイング社とエンブラエル社が提携するなど、大手2社を中心に各社が関係を強化しているようです。

こうした航空機産業の完成機製造分野に日本もMRJが割って入ろうとしているわけですが、寡占化やグローバル化による業界再編の中、国内の三菱重工業(三菱航空機)、川崎重工、SUBARU、新明和工業といった大手、さらにこれら大手から部品加工や組み立てなどを受注する中小企業においても、顧客の新規獲得などで新たな企業戦略を模索せざるを得ない状況になっています。

航空機製造は、最先端の技術によって開発された機体とエンジン、部品・素材が結集したピラミッド構造をなす分野で、近年、国際共同開発も進んでいます。素材から始まって特殊加工や金型による2次部品製造、1次部品の組み立て、システムや電気電子、制御など、多層レイヤー構造になっている全体を統合するのが大手2社を中心としたの完成機メーカーというわけです。

近年、このピラミッド構造が変化し、大手2社による垂直統合と事業取り込みの動きが出てきています。ユナイテッド・テクノロジーズ社(United Technologies Corporation、UTC、米国)やサフラン社(Safran、フランス)といった部品供給や組み立てのサプライヤー(従来のTier1〔ティアワン〕)にモジュール化した機体装備品の一貫生産能力が備わり始め、スーパーTier1と呼ばれる存在になりました。こうした状況変化が大手2社の経営戦略に影響を及ぼしているのです。

一方、完成機を飛ばし、市場を獲得するためには型式証明の取得が必須条件ですが、航空機メーカーや産業クラスター、市場などは従来から欧米主導で推移してきており、独特の参入障壁が存在します。例えば、防衛省技術研究本部と川崎重工が開発した自衛隊向けC-2輸送機を民間に転用するという「YCX構想」を断念せざるを得なかったのは型式証明取得が難しかったからだといわれ、MRJでも形式証明の取得の困難さが開発を遅らせている一つの大きな原因になっています。

航空業界も同様です。大手エアラインはかつて機体を自社で所有し、整備部門も抱えていましたが、LCCが市場に大きな存在感を示し始めてきた2010年頃から、リスク軽減や収益性向上のため、リース会社から機体やエンジンを借り受け、整備もMRO(メンテナンス、リペアー、オーバーホール)として外注するようになってきています。さらに、大手エアラインも自社にLCCを持ち、運航自体がLCC化しつつあるのです。

海外への販路拡大へ進むエアロ

愛知県弥富市に本社を置く株式会社エアロは、航空機の構造体組み立てや艤装、塗装、組み立て治具の設計製作、MROなどを主な業務として行っている会社です。主要な取引先は、三菱重工、川崎重工業、SUBARUといった国内の大手メーカーですが、スーパーTier1の登場のような航空機産業の構造変化を受け、国外の市場に目を向けて営業活動を活発化させています。

エアロの航空機事業本部営業部担当部長は、来日10年目で日本語が堪能な米国人ライアン・ロカシオ氏で、2014年の入社以来、同社の海外販路開拓の最前線に立ってきました。

株式会社エアロ航空機事業本部営業部担当部長 ライアン・ロカシオ氏
株式会社エアロ航空機事業本部営業部担当部長 ライアン・ロカシオ氏

────ライアンさんがエアロに入ったきっかけは何だったんですか?

ライアン:
弊社はこれまで取引先のほとんどを三菱重工など国内の大手企業に依存してきましたが、2010年代の中頃に航空宇宙産業の構造的な変化を背景に、海外の企業からも受注しようという販路拡大路線に経営方針を変えました。そのとき、私が採用されたのですが、私自身は米国の大学で農業経営を学んでいたので航空機産業のことはまったくわかりませんでした。社長から「半年間、勉強しろ」といわれ、その勉強のあと、すぐに2015年に米国のシアトルで2年おきに開催されるエアロスペース&ディフェンス・サプライヤーサミットという航空産業の商談会に出展しました。


────最初に海外の商談会に出てみた感想はどうでしたか?

ライアン:
かなり厳しかったです。相手が何を求めているのかわからない、どの企業がどんな存在なのかも知らない、そもそもエアロという遠い日本から来た会社など誰も知らなかったんです。ですから、エアロ自体にどんな魅力があるのかもわからないままでPRどころではありませんでした。

航空機産業自体も日本国内と海外とではまったく違いました。国内では例えば、三菱さんから受注した仕事を、部品を供給してもらっていわれたとおりに組み立てていればいいんです。これは三菱さんがボーイングから受けてきた仕事のやり方で、元請けがサプライチェーンもコントロールしています。

しかし海外ではそのスタイルが通用しません。弊社のような下請けで組み立てを行う会社でも自社で部品を調達するのが海外のやり方で、部品のサプライヤーを品質や価格などの点で評価しなければやっていけないんです。ですから、海外の商談会の場でバイヤーに、うちは自社にサプライチェーンがないというと不思議な顔をされましたね。


────エアロが商談会で求めているのはどのような顧客なんですか?

ライアン:
弊社がターゲットにしているのは、ボーイングやエアバス、ボンバルディアといった航空機の完成機メーカーではありません。航空機産業は、元請けのOEMに完成機メーカーが位置していて、その下にスーパーTier1、Tier1、Tier2、Tier3といったレイヤー構造になっています。Tier2である弊社が日本国内でTier1である三菱重工から仕事を受けているように、海外のスーパーTier1やTier1の企業が販路拡大の主なターゲットになります。

こうした会社は例えば、ユナイテッド・テクノロジーズ社、サフラン社、スピリッツ社(Spirit AeroSystems、米国)、トライアンフ社(Triumph Aerostructures、米国)、ウルトラ・テック・エアロスペース社(UltraTech Aerospace、米国)、レオナルド社(Leonardo S.p.A.、イタリア)、GKN plc社(英国)、プレミアム・エアロテック社(Premium AEROTEC、ドイツ、エアバス傘下)、ステリア・エアロスペース社(Stelia Aerospace、フランス、エアバス傘下)、FACC AG社(オーストリア)、PTDI社(インドネシア)といったところになります。

機体組み立ての技術的アドバンテージ

────エアロマートのような商談会とエアショーのような展示会がありますが、エアロの海外出展の実績についてお聞かせください。

ライアン:
やはり商談会のほうが、買い手と売り手がマッチングできてビジネスに結びつきやすいですね。エアショーは、弊社の存在感を示すPRのいい機会ですし、コネクションの維持にも重要ですが、他社の営業マンも多いのでビジネスとしては難しいんです。

2015年のシアトルの商談会に初めて出展して不勉強だったことを反省し、2年後の2017年のシアトルでは初めて見積もり依頼がきました。商談会にはシアトル以外に、エアロマート・トゥールーズ(フランス)、エアロマート・モントリオール(カナダ)などがありますが、やはり弊社にとっては日本で開催されるエアロマート名古屋が最も期待できるイベントと考えています。わざわざ海外から日本へ来るバイヤーですから、日本の技術に何かを求めてくるわけです。

────エアロの事業について教えてください。

ライアン:
大きく航空機事業部と産業機器事業部の2つに分かれています。航空機事業部は、組み立て製造、MRO、コンサルティングなどを行い、産業機器事業部は、工場などの自動化システムのカスタマイズ設計が主な仕事で自動車関係の取引先が多いです。

宇宙ロケットと防衛品関係の取引ロットは少ないのですが、宇宙産業では完成品まで作ることのできる仕事であればスキルアップの意味でも興味深いと考えています。今後、商用の小型ロケットや衛星、宇宙観光など、この分野は伸びしろがあるでしょう。


────航空機の組み立てではMRJにも関与しているんですね。

ライアン:
弊社は、ボンバルディア、ボーイングといった機体の組み立てで高い評価を受けています。主に主翼と胴体後部ですが、胴体後部は後方に向かって直径が小さくなってテーパーがかかっているため、精密な作業が必要な部分です。MRJでは、尾部の先端のテールコーンと呼ばれる部分以外の後部ドアまでの胴体、燃料が入る主翼などの組み立てを行っています。燃料が入る部分の打鋲は難しく、漏洩しないように冷却した鋲を冷蔵庫に保存し、打鋲する直前に出して鋲止めし、熱膨張で密着させる技術を持っています。


────エアロと元請けの関係、将来像についてお聞かせください。

ライアン:
弊社は海外での販路拡大を目指していますが、三菱重工もTier2、Tier3といった下請けに元請け依存から脱却するように勧めています。ただ、弊社のような経営方針を持っている企業は、まだまだ日本の航空産業には少ないと思います。世界的に構造が変化していますから、今後は国内企業の意識も変わっていくでしょう。

弊社は現在、設計部門を持っていませんが、将来的には航空機製造の全工程に関わろうと考えています。最終的には弊社製の機体が空を飛ぶことを目指し、それが航空機製造の全方位という意味の『AERO360』というスローガンに示されているんです。

編集部より

エアロは、大型ジャンボ機をはじめとする航空機の組み立てなどで大きな自負があることがライアン氏のお話から伺い知ることができました。また、エアロには彼のような航空機業界の知識がある人材がいることが大きなアドバンテージになっています。今回6月のパリエアショーに出展し、“日本・愛知にエアロあり!”と、その存在を世界の航空業界に知らしめるとのこと。これをきっかけに多くの日本の航空産業が世界に認知されていくことを期待したいと思います。

▽愛知の航空宇宙産業特集


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文/石田雅彦