金属材料の様々な応力測定法を解説:X線、音弾性、赤外線、磁気歪、レーザラマン

構造物を設計する上で重要なのがその強度と安全性です。例えば、想定される環境下において使用される金属材料各部に生じるひずみや応力に対して、設計された構造が十分な安全性を担保できる強度を求められているのです。本記事では、金属材料におけるX線による応力測定法など、さまざまな測定方法についてご紹介、解説いたします。

X線による応力測定法

X線を試料表面に入射すると、試料表面で反射・散乱されます。このときX線の散乱光を検出器にて計測し、その散乱状態を解析することにより、非破壊・非接触的に試料表面の応力状態を測定することができます(X-ray method)。

いいかえれば、試料表面に対して適当な角度ψ0でX線を照射したときの反射X線を調べると、角度ψ(=ψ0+η)の向きを法線方向とする結晶格子面(回折面)でX線が回折するため、その強度がある角度(ψ0+2η)で極値をとるという材料の性質を利用した測定方法になります<図1>。

0+η)方向に反射するX線を回折X線といい、入射と回折X線のなす角2θを回折角といいます。また回折面の面間隔をd、X線の波長をλとすると、ブラッグの条件2d sinθ=nλ(nは整数)が成立するため回折角からdが得られ、また別途求めた無歪状態のdからψ方向の結晶格子の歪みを評価できます。

さらに測定対象の試料が方位を異にする無数の結晶の集合体であれば、任意のψ方向の歪みを同方向の回折角から評価できます。これらの原理から最終的に次式によって試料表面の応力が求められます。

<式1>
<式1>
<図1>X線応力測定法の原理(並傾法)
<図1>X線応力測定法の原理(並傾法)

また、σxは入射と回折X線を含む面と試料表面との交線(x軸)方向の垂直応力、Kは結晶学的な弾性係数と無歪状態での回折角からなる定数を示し、これらも別途求める必要があります。

なお、X線入射角度ψを変化させ、数点のψについて2θを測定しsin2ψに対してプロットすると、2θとsin2ψの関係は直線となり、その回帰直線の勾配から<式1>の∂(2θ)/∂(sin2ψ)を評価します。この方法で得られる応力はX線を照射した領域の平均値となりますが、その領域は直径0.1mm程度まで絞ることが可能です。

音弾性による応力測定法 (acoustoelastic method)

応力によって力学的に異方性となった弾性体がせん断波に対して複屈折性を示す性質を音弾性といいます。この性質を利用すると、お互いに直交するせん断波の音速差から主応力差を求めることができます(音弾性法、acoustoelastic method)。
音弾性法には送受信を各々別の振動子で行う透過法、1個の振動子で送受信を行う反射法があり、実物の応力測定ができることから特に残留応力の非破壊評価に適しています。

赤外線による応力測定法

物体の温度に依存して放射される赤外線を測定することによって物体の温度分布を認識し種々の試験を行う方法を、サーモグラフィー(thermography method)といいます。このような温度の変化を知ることによって応力測定が可能となります。

固体に引張り・圧縮の力が加わると体積変化が断熱的に生じ、吸熱・発熱による温度変化が現れます。これは熱弾性(thermoelasticity)効果として知られる現象であり、弾性限界内では単位要素に作用する力の量(主応力の和の変化量)と発熱量が比例関係にあります。つまり、繰返し負荷を受ける物体の温度変化量の計測により主応力和の変化量を求めることができるということを表します。

負荷による温度変化はわずかであるため、繰返し負荷を作用させて変化を積算して計測する工夫が必要であり、静的な計測には向きません。赤外線応力測定法では全視野的な応力測定が可能であるため、き裂端やはく離端などの応力集中箇所の見逃しがなく、非接触での測定のため微小部分から大構造物まで形状が複雑なものでも測定できるという特徴があります。

磁気歪による応力測定法

鉄やニッケルなどの強磁性体には磁化すると歪みを生じて寸法が変化する現象である、磁気歪(magnetostriction)効果があります。強磁性体に外力が作用すると、磁気的性質(ここでは透磁率)が変化するという効果を逆に利用すると応力を測定することができます。

圧縮と引張りでは感度が異なり横方向の歪みによっても磁化率が変化するなど定量的な問題があります。測定においては、コイルを巻いたコの字型のプローブを強磁性体である被測定材に当て、コイルに電流を流すことにより生じる磁気回路の磁気抵抗が無負荷の場合と異なることを利用して残留応力の非破壊計測を行います。

また磁気異方性を検出する方法や、強磁性体の磁化過程で発生するバルクハウゼンノイズを用いる方法もあります。磁気歪のヒステリシスを用いた疲労の検出や非破壊的な材料評価などにも用いられるほか、磁気ひずみ素子を組込んだ磁気歪形変換器がトルク計や土圧計などに利用されています。

レーザラマンによる応力測定法

試料にレーザ光を照射したときの反射光として得られるラマン散乱光を測定し、そのスペクトルを解析することでX線法と同様に非破壊・非接触的に試料表面の応力状態を測定します(laser Raman spectroscopy)。これは、レーザ光のフォトンと結晶格子フォノン間のエネルギー変換(非弾性散乱)により、反射光には材料固有のスペクトルをもったラマン散乱光が含まれることを利用した測定法です。

結晶格子に歪みが発生するとフォノンのエネルギー状態が歪エネルギーに対応して変化するため、ラマン散乱光のスペクトルのピーク位置が変化します。またこのピーク位置の変化量と結晶歪み(応力)の間には比例関係があることから、この変化量を測定することで応力の測定が可能となります。直径1μm程度と極めて微小な領域の測定が可能であるため、半導体チップ内部における微細部分の応力評価への適用が試みられています。