金属粉末射出成形(MIM)メーカーには得意不得意がある~MIM入門講座(5)

国内のMIMメーカーで「B to B」で営業しているメーカーは約30社。しかし国内トップ企業でも国内市場占有率は19%しかなく、1社の技術が独占している世界ではありません。これは各MIMメーカーには得意不得意があるため。今回は、これらMIMメーカーの違い、個性を確認し、その得意不得意を解説します。

1.国内MIMメーカー

MIMを行っているメーカーの中で「B to B」で営業している国内メーカーは、30社程度です。<表1>はその中で売上上位15社を紹介しました。国内トップ企業でも国内市場占有率は大きくなく一社の技術が独占している世界ではありません。これは、各MIMメーカーには得意不得意があるためだと思われます。その要因は、各社が採用しているMIMシステムの違い、それに伴う設備インフラの違いなどです。つまり後述する4Mが異なるために起こります。これは良い悪いという話ではなく、個性があるということです。

<表1>主な国内MIMメーカー
社名所在地
エプソンアトミックス青森県
岩機ダイカスト工業宮城県
JUKI会津福島県
日本ピストンリング栃木県
シチズン時計東京都
菊池製作所東京都
住重フォージング神奈川県
オリエンタルチエン石川県
テイボー静岡県
ファインシンター愛知県
大阪冶金大阪府
太盛工業大阪府
日立メタルプレシジョン島根県
キャステム広島県
九州精密機器福岡

2.国内MIMメーカーの4M

この項では、MIMメーカーの4M、「Method」「Material」「Machine」「Man」を説明していきます。

2-1.Method(製法:MIMシステム)

第1回で説明しましたが、基本的なMIMシステムに各社各様の違いがあります。これは基本的製法特許の請求項部分であり新規性・独創性が大きく異なります。特にそれを実現させる設備「Machine」も異なってきます。以下にその製法を列挙します。

Parmatech法(米)溶媒脱脂 (国内1社)
Witec法(米)加熱脱脂 (国内最多)
BASF法(独)硝酸・触媒脱脂(欧州、中国に多い)
AMAX法(米)溶媒脱脂(国内1社)
VI法(米)真空・加熱脱脂(国内1社)
SS法(日)シングルステップ加熱脱脂(国内数社、東南アジア、中国)

2-2.Material(金属粉末)

MIMに使用される材料によっても仕上がりに違いが生じます。以下に使用される粉末の種類とその特徴を説明します。

(1) 水アトマイズ粉末

「溶けた金属を粉末化する」ことを「アトマイズ:atomize」と言います。ここで粉末化するための冷却媒体に水を使うものが水アトマイズ法になります。タンディッシュの底のノズルから溶けた金属を落としウォータージェット高圧水で造った逆円錐状の内壁にぶつけることで微細粉末を造るものです。小さな水蒸気爆発が連続して起こる感じで相当うるさい装置です。水と混ざった金属粉末は 脱水、還元、粉砕、分級などを経てMIM用水アトマイズ粉末になります。水の代わりに不活性ガスを使えばガスアトマイズ粉末になります。

特徴
近年球状粉末が安価にできるようになりました。平均粒径10μmが主流です。一方3μmの微細粉末も登場しています。欠点は粉末化(アトマイズ)に水を使用しているため酸素量が多いことです。

(2) ガスアトマイズ粉末

特徴
球状で酸素量が少ない粉末です。ほとんどすべての材種で採用されていますが、炭素量の規格が厳しい材料(工具鋼、超合金など)、酸素を嫌う材種(チタン、チタン合金など)で選ばれています。平均粒径10μm(22μmアンダー)が主流。水アトマイズのような数μmの微細粉末の製造は不得意です。これはアトマイズに気体(不活性ガス)を使っているため水と比較して軽く、高圧・高速化できない、また熱容量が小さいためだと考えられます。コストは水アトマイズ粉末より高い傾向があります。

(3) カルボニル(鉄粉、ニッケル粉)

特徴
Carbonyl法は、BASFが1925年に発明した製法で化学的に粉末を造るものです。日本語表記は「カルボニル」あるいは「カーボニル」です。Fe(CO)5の液体を蒸発させて粉にするので数μmの細かいものができます。MIM用粉末としてたいへん優れていますが、材種は2種のみで鉄(Fe)とニッケル(Ni)になります。合金を造る場合には、必要な粉末成分を混合して作ります。MIM黎明期の材料としてFEN8がありました。これはカルボニル鉄に8%のカルボニルニッケル粉を混ぜた単純な合金です。しかし近年ではSCMやSNCMなどの熱処理性および機械的性質が優れた材種に置き換わっています(SCMはCrとMoを添加した鋼、SNCMはさらにNiを添加した鋼で、様々な機構部品に使われています)。

(4) その他

微細粉末であればMIMの粉末として使うことができます。研究開発で発表されているものをいくつか挙げておきましょう。
「水素化脱水素法HDH法(チタン系)」
「燃焼合成法粉末(Fe-Al、Ni-Al)」
「水とガスアトマイズのハイブリッド法」

発注するときのポイント

MIM用粉末として必要な重要仕様は、平均粒径、最大粒径、タップ密度、形状、酸素量などです。同じ材質であってもこの仕様が異なるとMIM焼結体の精度と焼結密度が大きく変わります。製品設計者としてこれらをコントロールすることはできませんので、最終製品の仕様(化学成分規格、焼結密度、硬度、必要があれば非破壊検査など)を購入仕様書として提示してください。さらに粉末のMILLシートの開示や粉末材料そのものが工程変更の対象であることも明記しましょう。

2-3.Machine(成形機、脱脂装置、とくに焼結炉)

MIM製法には「成形機」「脱脂装置」「焼結炉」の3つの設備が必要です。以下説明しましょう。

成形機

成型機は、シリンダーなど成形材料が流動する部分に耐摩耗性向上の表面処理を行う程度で基本仕様は、一般的なプラスチック用の射出成形機と同じものを使っています。

脱脂装置

脱脂装置は上記のMIMシステムに関連して異なり「溶媒脱脂装置」「加熱脱脂装置」「触媒加熱脱脂装置」が存在します。

焼結炉

焼結炉は大きく分けて2方式で、「連続式焼結炉」と「バッチ式真空焼結炉」になります。
この2方式についてその特徴は、一言で言えば「連続式焼結炉は小さな部品を安価で大量に造る」ことに優れています。一方「バッチ式焼結炉は、小さなものから大きなものまで、リーズナブルな価格で高品質に造る」ことに優れています。

なぜその差が生まれるのか、技術的な違いを2つ説明します。
1つは「真空度の差」バッチ式真空焼結炉は排気系能力が高く、完全にバインダーを除去でき、真空度を10-2MPaから10-3MPaにできるので炉内に浮遊する酸素や炭素等を排出できます。また水素を使わずに還元反応させることもできます。

2つめは、「加熱ヒーターの差」です。焼結品の品質を向上させ分散を小さくするためには、「熱エネルギー」を正確に焼結体に伝える必要があります。熱は3つの手段で焼結体に伝わります。3つとは「輻射」「ガス対流」「伝熱」です。この観点からバッチ式真空焼結炉は優れています。

なぜなら<図1>の左図のように、バッチ式真空焼結炉はヒーターが焼結体を上下左右360°に配置されているためです。一方、連続炉では右図のように搬送ベルトがあるためヒーターは上面の180°しかありません。この輻射バランスは、薄肉部品ではソリが発生する、大きな部品の焼結が不得意の要因の一つです。

<図1>バッチ式真空焼結炉(左)と連続式焼結炉(右)のヒーター輻射概念図
<図1>バッチ式真空焼結炉(左)と連続式焼結炉(右)のヒーター輻射概念図

金属材料で重要な「炭素コントロール」について、前述したこれらの設備がどのように関連するのか少し説明します。炭素量のコントロールポイントは3つ。1つは元々粉末に含まれる炭素量(酸素量もセットで重要)、2つめが残留バインダー量(脱脂工程で残留する低分子バインダーの炭化)、最後、3つめが焼結工程での残留する高分子バインダーの炭化、浸炭、還元(炭素が減少する方向)になります。

特に機械的特性を重視する材質を取り扱う場合、メーカーが持つMIM設備群に炭素コントロールを行う能力があるのかを見極める必要があります。当然炭素を測定する測定機器(炭素・硫黄分析装置、熱重量分析装置など)を保有していることは言うまでもありません。

2-4.Man(技術者、技能者)

技術伝承ができているか、技術として会社に帰属しているか。会社を外から見ているだけではわからないのですが、このManは大変重要な品質ファクターです。できるだけMIMメーカーの視察を行いチェックしてください。小さな会社だけでなく大きな会社でも「個人」に依存しているところがあるようです。

3.MIMメーカーの得意不得意の具体例

「小さなものが得意」「大きなものが得意」「大量生産が得意」「多品種少量が得意」などMIMメーカーによって得意不得意があります。そこで加工をお願いする場合、1社だけでなくセカンドオピニオンが必要になります。この違いはいままでご説明したように、その会社の4Mによるものですが、以下に判断の目安を紹介します。

「小さなものが得意なメーカー」

  • ・成形機が25~40トンクラス以下。
  • ・成形取り出し自動化志向。
  • ・連続式MIM焼結炉。
  • ・自社の自動化のための製品設計要求がある。
  • ・ラインに乗らないと断られることがある。

「大きなものが得意」

  • ・成形機が50〜120トンクラス。
  • ・成形取り出しは人力。
  • ・溶剤脱脂。
  • ・バッチ式真空焼結炉。
  • ・内部検査装置(X線分析装置)が充実している。

「大量生産が得意」

  • ・小さなものが得意で、多数個取の金型もいとわない。
  • ・工程能力を高める品質管理能力が高い。
  • ・大きな生産量を求められる(一例として「最低月産3,000個」など)。
  • ・自社の自動化のための製品設計要求がある。
  • ・ラインに乗らないと断られることがある。
  • ・安価で大量に造ってもらえる。

「多品種少量が得意」

  • ・小回りの利く技術営業。
  • ・自社に金型工場を持つ。
  • ・段取り改善に積極的。
  • ・ロットが小さくても受け入れてもらえる。
  • ・製品設計変更の対応が速い。金型もすぐ直してくれる。
  • ・初心者の開発者向き。

補足とまとめ

MIM製品で小さいものと言えば、0.1g~10g程度となります。蛇足ですがさらに小さいMIMを狙っている「μMIM」は0.01gクラスです。ここまで小さいと使用する粉末や成形機は別世界のものになります。逆にMIM製品で大きなものと言えば、私が知る範囲では360gです。 また遠心力が掛かるタービン翼を造っているMIMメーカーもあります。
良くも悪くも各メーカーは独自差別化路線で発展していますから、自分が作りたいMIM製品にマッチングするメーカーがあるはずです。

次回は「MIM材料の種類と機械的特性およびMIM規格」について説明します。

著者:八賀祥司(はちが しょうじ)
技術士(機械:MIM金属粉末射出成形)、某MIMメーカーで20年間、材料開発から工程設計、金型仕様設計、生産準備から出荷まで行う。現在は現場を離れ、MIMの普及のため精力的に活動している。