MIMは製品形状に近いニアネットシェイプ(near net shape)の素形材ですが、その到達精度は、公差等級でIT10~12相当であるため、製品の要求仕様がより高い場合、機械加工を行う必要があります。本記事では、引き続きMIM適用を前提とする製品設計において、変形や不良を発生させない形状設計のノウハウを解説していきます。
▽MIM(金属粉末射出成形)入門講座シリーズ
2.製品設計のポイント(後編)
2-6.ゲートの設計
ゲートとは、金型の製品形状・キャビティ内に材料(フィードストック)を送り込む入り口です。ここは材料が高速で通過するため高圧・高温となり、ゲート部を正確にカット仕上げしても、焼結後に「シワ」や「凹凸」が発生します。したがって、設計段階である程度ゲートの処理を考慮しておくことを勧めます。
<表3>に各種ゲートとMIMへの適用についてまとめました。
ゲート設計のポイントは以下の5つです。
(1) 製品の対称軸上に配置した方がよい
(2) 製品の肉厚部位に配置した方がよい(最終凝固部位に配置して保圧をきかせるため)
(3) 2次加工するのであればその部位に大きく配置する
(4) できるだけ大きなゲートを配置できる設計とする
(5) ゲートカット処理を省略できる工夫をする(図16、図17)
<表3>ゲートの種類とMIMへの適用度合いと注意点
ゲート分類 | 図 | MIM適用 | 特徴・注意点 | ||
---|---|---|---|---|---|
非制限 | ダイレクトゲート・スプル―ゲート | 図8 | 〇 | 大きなもの向き。スラグが製品に入り込む。 | |
制限 | サイドゲート | スタンダードゲート | 図9 | ◎ | 一番採用されているMIM向きゲート。 |
スポークゲート スパイダーゲート |
図10 | 〇 | スプルー径より大きい製品の内径内に配置する多点ゲート。真円度が出やすい。 | ||
タブゲート | タブゲート | 図11 | 〇 | ゲート部のシワ等を残したくない場合、成形後にタブを切断する必要がある。 | |
ファンゲート | 図12 | △ | 薄物に採用されるが、MIMの場合、ファン形状に広がらない場合が多い。 | ||
フィルムゲート | フィルムゲート ディスクゲート リングゲート |
図13 | △ | 製品の真円度重視。フィルムの切断に専用冶工具が必要。 | |
ピンゲート | ピンポイントゲート | 図14 | 〇 | 外周・内周にゲートが付けられない場合、製品の端面に付ける多点ゲート。ゲートカットを金型内で行う。ゲート断面積を大きくできない。3プレート金型となる。 | |
サブマリンゲート トンネルゲート |
図15 | × | ゲートカットを金型内で行う。MIM高圧成形時、ゲート周辺鋭利部位の破損がある。 |








サイドゲートは、成形後にカットします。必要であればカッターで仕上げます。<図16>に示すように、製品の外面より0.5mm低い部位にゲートを配置すればゲートをカットした跡(凸0.2)があっても実用上の問題がなくなります。またカッターで仕上げる工数(コスト)を低減できます。

ピンゲート(ピンポイントゲート)は、成形直後金型が開くときに自動的にゲートがカットされます。設計の注意点は、ゲートの断面積が小さくなることで、<図17>ではピンゲートを4か所に配置しています。さらに4か所とすることで真円度も向上します。真円度をさらに重視する場合は、中心穴の内面にスポークゲートを配置する方法があります<図10>。しかし、内面にゲート跡が4~8か所残るため、嵌合が必要な場合は、穴の機械加工が必要になります。

2-7.ガス逃げの考慮
製品設計者がMIM金型のガス逃げを設計することはありません。しかし、成形時のガス発生を認識していれば事前に金型設計に反映できますし、初期不良への対応も早くなります。なぜならば、成形不良の大半はこのガス逃げ不備が原因だからです。
ガス逃げとは、金型キャビティ内の空気を逃がす窓のようなものです。
設計のポイントは以下の2つです。
(1) 最終充填部位にガス逃げを設ける
(2) 深い穴(袋小路)の底には、ガス逃げを設ける(エジェクターピンを配置する)
一般的にガス逃げは、PL面に設ける約20μm深さの窓(隙間)です。20μmの隙間には、バリは発生しません。しかし、空気が残存して充填不良が完治しない場合、隙間を大きくすることがあります。その時は、その跡が製品に残ることがあります。
深い袋小路の穴は充填不良の温床です。設計段階でエジェクターピン(EP)を配置しましょう。<図18>
エジェクターピンとは成形体を金型から押し出す部品です。金型とエジェクターピンの隙間がガス逃げになります。エジェクターピンを多数付けるほど成形品質は確実に向上します(金型製造コストは少し上がります)。また、エジェクターピン跡は、凹凸0.05に管理できます。
製品設計者がMIMの素材図を描く必要はありません。打ち合わせでメーカーへ指示し議事録に残しておいてください。

2-8.アンダーカット製品をMIMで作る方法
MIMは金型で形成できないアンダーカット形状を作ることができます。
量産で行われている2つの方法を紹介します。
(1) 2部品を成形体(脱脂体)で一体化し、焼結で拡散接合させる方法
(2) 樹脂製中子をMIM成形で一体化し、樹脂中子を溶媒で溶かす、あるいは加熱揮散で消滅させ焼結する方法<図19>

この技術の長所と短所をまとめておきます。
長所
・アンダーカット形状を形成できる〔(1)、(2)〕
・複数部品の一体化を実現できる〔(1)〕
・原理的には異種材質でも一体化できる〔(1)〕
・曲がったパイプの中空化ができる〔(2)〕
短所
・どちらも金型が2つ必要〔(1)、(2)〕
・成形体で一体化するため手間が掛かる、成形の自動化が難しい〔(1)、(2)〕
・樹脂中子の成形一体化が技術的にできないことがある(竪型成形機が理想)〔(2)〕
・2部品拡散接合部の強度は一体より劣る〔(1)〕
・手間が掛かるので断るメーカーがある〔(1)、(2)〕
以上、MIM化を前提とする製品設計のポイントを解説しました。次回はメーカーごとの得意不得意など、実際の業者選定に役立つノウハウをお送りします。
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著者:八賀祥司(はちが しょうじ)
技術士(機械:MIM金属粉末射出成形)、某MIMメーカーで20年間、材料開発から工程設計、金型仕様設計、生産準備から出荷まで行う。現在は現場を離れ、MIMの普及のため精力的に活動している。