金属粉末射出成形(MIM)を選定する際の3つの基準と製品設計のポイント~MIM入門講座(3)

MIMは製品形状に近いニアネットシェイプ(near net shape)の素形材ですが、その到達精度は、公差等級でIT10~12相当であるため、製品の要求仕様がより高い場合、機械加工を行う必要があります。また、変形や不良を発生させない形状設計のノウハウも存在します。本記事では、このようなMIM適用を前提とする製品設計について、MIMの選定基準を解説した上で留意すべきポイントも解説いたします。

1.金属粉末射出成形(MIM)の選定基準

はじめに、製品の素形材工法として何を選ぶのかを考える必要があります。

<表1>素形材工法と選定の目安

素形材工法 選定の目安
形状 材質 大きさ
プレス加工(板金) 2次元 構造用鋼・非鉄 小~大物
ファインブランキング 2.5次元 構造用鋼・非鉄 小物
PM(圧粉焼結) 構造用鋼・非鉄 小物
ダイカスト 3次元 アルミADC・亜鉛ZDC 小~中物
チクソーモールディング マグネシウム 小~中物
MIM(金属粉末射出成形) 鉄鋼 小物
ロストワックス精密鋳造 鉄鋼・非鉄 小~大物
砂型鋳造 鋳鉄FC・非鉄AC 大物

<表1>に素形材工法とその選定の目安をまとめました。下記(1)~(3)のポイントを満たすケースであれば、MIMを選ぶ価値があります。

(1) 形状が3次元(複雑であるほどメリットあり)
(2) 材質が鉄鋼(ステンレス鋼、SCM鋼、工具鋼など)
(3) 大きさが小物(重量ベースで30g程度以下が目安)

上記ケースに当てはまらないときでも、MIMを採用できる例外があります。例えば、材質では非鉄(チタン合金、銅合金、超合金など)を製造できるメーカーは増えています。また、小物は30g程度以下ですが、300gを超える中物MIMを自慢するメーカーや、逆に米粒より小さいMIM(マイクロMIM)に注力しているメーカーもあります。大きさについては今後の連載で説明していきます。

それでは、MIMを採用すべき3つのパターンを紹介します。

【1】複数の部品を複合化・一体化する

圧入や溶接していた部品を一体化
隣接する部品を一体化

【2】表面仕上げをMIM適用で廃止する

研磨仕上げを廃止(Rmax 6μm)
バフ磨きを光沢バレル化(Rmax 0.8μm)

【3】三次元形状加工をMIM適用で廃止する

翼形状の加工をMIM適用により廃止
意匠形状の加工をMIM適用により廃止


MIMの素形材コストで他の工法と比較するとコストが高くなる傾向がありますが、加工完成化までトータルで比較すると安価になることが多いので「総製造コスト」で評価する必要があります。

2.製品設計のポイント(前編)

製品のMIM化を成功させるコツは、MIMメーカー任せにせず、「初めからスマートな製品設計」を行うことが肝要です。

(1) 射出成形が容易で、成形不良が発生しにくい形状であること
(2) 脱脂や焼結で変形がなく折損が発生しにくい形状であること
(3) 機械加工を行う場合、二次加工しやすい形状であること

この3つを丁寧に盛り込んだスマート設計であれば、初期不良がなくなり、コストも安く、納期も短縮されることは間違いありません。

2-1.金型の構造と代表的な名称

<図1>に金型構造の概略図を示します。

<図1>金型の構造概略図(通常の横型成形機の場合、上面が右側になります)
<図1>金型の構造概略図(通常の横型成形機の場合、上面が右側になります)

図中においての各説明は以下になります。

・ロケートリング:金型を成形機にセットする基準
・スプルーブッシュ:射出成型機のノズルを受け、成形材料をランナーへ送る部品
・ランナー:ゲートへ材料を送る通路
・スラグウェル:ノズル先端の成形材料が空気に触れ固化したスラグを回収し成形体に流れないようにする機能、および金型が開くときに可動側にスプルーを抜く機能
・ゲート:成形体に成形材料を送り込む入り口
・PL:パーティングライン、固定側と可動側の金型の合わせ面
・EP:エジェクターピン(Zピン含む)成形体を型から押し出す機能
・スライドコア:アンダーカット部分(図では横穴)を形成させる機構(金型が開くときにアンギュラピンによりスライドコアが図右側に移動し、金型が閉じるときに逆に移動し元に戻る)

2-2.MIMの一般公差

MIMの一般的精度は±0.5%です。ロストワックス精密鋳造が±1%ですので、かなり高精度な素形材といえます。<表2>にMIMの公差を示します。特別公差は、特定部位だけ寸法管理をする場合(コイニング等)に使われると考えてください。

<表2>MIM公差と表面粗さ

製品寸法 一般公差 特別公差
5以下 ±0.07% ±0.05%
5~10 ±0.1% ±0.08%
10~20 ±0.15% ±0.10%
20~30 ±0.2% ±0.15%
30~50 ±0.3% ±0.25%
50~ ±0.5% ±0.3%
角度 ±0.5° ±0.3°
最小肉厚 0.8mm 0.3mm(局部)
平面度 長さ×0.6% 長さ×0.3%
表面粗さ Rmax6~8μm(Ra1.5~2)

※表面粗さは光沢バレルでRmax 0.8μmになります。この公差は量産時のロット内変動およびロット間変動をすべて含んでいます。

2-3.金型パーティングラインへの考慮

MIMは金型で成形するため、金型の合わせ面にできる、パーティングライン(以下PL)が必ず発生します。PLの高さ・段差は50μm程度残ります。
したがって注意点は、機能的な部位(面)にPLが付かないように指示することです。図は、嵌合する軸の設計事例で、PL部に平面を設けることで嵌合不良を回避しています。<図2>

<図2>PLの段差の影響を受けない軸の設計(単位mm)
<図2>PLの段差の影響を受けない軸の設計(単位mm)

2-4.肉厚をできるだけ均等にする

一般的にMIMは肉厚が不得意です。肉厚部品が得意なメーカーも存在しますが、それについては第5回以降に説明いたします。

肉厚であれば重量が増しコストアップになりますので、軽量化設計は品質・コスト面からも重要です。そこで機能的に必要ではない部分に肉盗みを付けてください。肉盗みとは製品の駄肉を取ること。成形品質向上と重量減によるコストダウンの効果があります。

<図3>は配管継手の肉盗みの事例です。真空貼り付き防止のため、肉盗みの抜け勾配は0.5~1°を設けてください。外周部の抜け勾配は一般的には不要です。

<図3>肉盗みを設けたリブ構造体設計事例
<図3>肉盗みを設けたリブ構造体設計事例

2-5.変形や割れ不良が発生しない製品設計

MIMは射出成形を可能にするため、大量の樹脂バインダーを金属粉末に混ぜています。そのため、脱脂工程(~800℃)で変形や割れが発生しやすくなります、また焼結(1,200~1,350℃)では体積で40%程度小さくなるため、収縮時に接地面との摩擦や自重による変形・割れが発生するリスクがあります。しかし、これらの不適合は、製品設計で回避することができます。


内角にはRを付ける
内角に0.2以上のRを付けてください。これで応力集中による割れを回避することができます。<図4>

<図4>応力集中を回避するコーナーR
<図4>応力集中を回避するコーナーR

自重による変形防止の工夫
突き出した部分が自重で折れないように支え(リブ等)を付けてください。<図5>

<図5>自重変形を防止するリブを設ける
<図5>自重変形を防止するリブを設ける

<図6>はパイプの中心に自重を支える橋脚の機能を持たせたフランジを付けた設計です。

<図6>パイプ形状の変形防止事例
<図6>パイプ形状の変形防止事例

<図7>は旋盤加工をする軸先端に捨てフランジを付けた事例です。この捨てフランジにゲートを配置すれば、ゲートも加工で除去され製品に残らないというお洒落な設計も可能です。

<図7>機械加工を前提とする部位の変形防止フランジ
<図7>機械加工を前提とする部位の変形防止フランジ


どうしても製品設計上、変形防止のリブやフランジを付けられないということがあります。その場合は、変形防止のセラミック板(セッター)を使う方法があります。あるいは、各社いろいろなノウハウを持っていますので、製造の裏技で逃げる方法はあります(ただしコストアップになります)。一方、できないとあっさり断ってくるメーカーもありますのでセカンドオピニオンが必要になるでしょう。


次回は、MIMの製品設計のポイントについて、さらに実践的に解説していきます。

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著者:八賀祥司(はちが しょうじ)
技術士(機械:MIM金属粉末射出成形)、某MIMメーカーで20年間、材料開発から工程設計、金型仕様設計、生産準備から出荷まで行う。現在は現場を離れ、MIMの普及のため精力的に活動している。