構造物を設計する際には、その強度と安全性に関して細心の注意を払わなければなりません。例えば、想定される環境下において使用される金属材料各部に生じるひずみや応力に対して、設計された構造が十分な安全性を担保できる強度を求められているのです。本記事では、金属材料にフォーカスし、実環境でのひずみ・応力の測定方法についてご紹介、解説いたします。
金属材料のひずみ・応力の測定方法
金属材料の応力測定に際しては、応力を直接測定することが難しく、通常はひずみを測定して応力とひずみの関係式を用いて換算をします。測定には各点測定法と全視野法があり、各点測定法は精度が高い一方、高ひずみ点を見逃すおそれがあり、全視野法は全面にわたって連続的に測定できる一方、精度の低いものが多いのが特徴です。
また、X線・レーザー・音波などを使い、各点測定を行いながら、測定点を移動させることで全視野において測定結果を得るハイブリッドな手法が存在しますが、計測スピードと計測点数(空間分解能)がトレードオフになります。
測定のゲージ長は適用対象物体により選ばれますが、精度と相反する性質があるため、最適のひずみ測定法を選択する必要があります。<表1>には各測定法の長所・短所、得られる情報、適用面を示しました。
<表1> 各ひずみ・応力測定法の比較
測定法(大分類) | 項目測定法 | 長所 | 短所 | 得られる情報 | 適用面 | |
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各点測定法 | 電気抵抗ひずみゲージ | ○精度・定量化も良 ○安価で取扱い容易 |
○ゲージ長が長い | 各点ごとの垂直ひずみ | ○内部応力以外広く実物に適用 ○遠隔操作、屋外実験も可能 ○各点法であるが多点同時測定も可能 |
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光ファイバひずみセンサー | ○大構造物にも適用可 ○電磁障害を受けない |
○ゲージ長が長い | 各点ごとの垂直ひずみ | ○遠隔操作、屋外実験も可能 ○各点法であるが多点同時測定も可能 |
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磁気ひずみによる応力測定法 | ○塗膜の上から計測可 | ○引張りと圧縮で感度が異なり定量化が難しい | 各点でσ1・σ2(および主応力方向) | ○残留応力の測定 | ||
各点測定法/全視野法 (ハイブリッド手法) |
X線応力測定法 | ○実物の残留応力を非破壊的に評価できる ○任意方向の垂直応力を評価できる |
○表面近傍だけの測定 ○放射線障害の可能性 ○特殊な装置を要し、測定が煩雑 ○測定時間が長い ○入り組んだ部分の測定は不可 |
試料表面に沿う任意方向の垂直応力σ | ○溶接部分の残留応力 ○比較的微小な領域(直径 0.1mm程度まで)の測定 |
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音弾性法 | ○光弾性と異なり、光に対して不透明な金属材料などの応力も測定可 | ○組織異方性があるときには解析に手間がかかる | 伝ぱ経路における応力の平 均値 | ○残留応力の測定 | ||
レーザラマンによる応力測定法 | ○実物の残留応力を非破壊的に評価できる ○X線法に比べて測定が短時間で容易 ○直径1m程度の微小領域の測定可 |
○応力の校正曲線を予備試験で作成する必要あり ○各応力成分を個別に評価することが困難 ○特殊な装置が必要 |
各点の平均的な応力レベル | ○極微小領域の測定 ○半導体デバイスの残留応力 |
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全視野法 | 赤外線による応力測定法 | ○全視野的な応力測定が可能 ○微小部分から大構造物まで応力測定が可能 |
○静的な計測には不向き | 全視野的に主応力の和 | ○繰返し負荷を受ける物体の応力測定 | |
光弾性応力 | モデル光弾性 | ○全体の応力が目でわかる ○複雑な物体の内部応力も測定可 ○応力集中の解析に適用 |
○モデル実験である ○実験が多少難しい |
全視野的にσ1・σ2、σ2・σ3、σ3・σ1(および主応力方向) | ○応力分布の実験的確認 | |
光弾性被膜法 | ○実物全体の塑性ひずみ分布がわかる | ○感度が少し低い | 全視野的にε1・ε2、主ひずみ方向 | ○実物の表面ひずみを屋外でも測定可 | ||
応力塗料 | ○実物モデルでも可 ○安価で取扱いが容易 |
○感度が少し低い ○定量化が少し難しい |
全視野的にεx・εy、主ひずみ方向 | ○実物物体のひずみ分布を調べる ○ひずみゲージとの併用により定量的測定が容易 |
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めっき法 | ○動的応力試験によい ○実物の微小領域の測定 |
○静的ひずみ試験は不可 ○感度が少し低い ○高温には不向き |
全視野的にεx、εy、γxy | ○機械の実働状態の応力測定 ○微小領域の測定 |
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再結晶法 | ○塑性ひずみの測定 ○材料内部の状態評価が可能 |
○弾性ひずみは測定不可 | 全視野的に塑性ひずみ | ○き裂先端の高ひずみ域のひずみ測定 ○破壊靱性評価 |
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格子法、モアレ法 | ○高低温下でも測定可 ○大変形も測定可 ○画像処理が容易 |
○感度が少し低い ○表面処理が必要 |
全視野的に εx、εy、γxy | ○実時間ひずみ計測 ○格子法やモアレ干渉法は微小領域のひずみの解析 ○面外変形の測定 |
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ホログラフィー干渉法 | ○粗面でよい ○実物でもモデルでも可 |
○防振装置が必要 ○高価 |
全視野的に εx、εy、εz | ○振動モードの解析 ○微小な面外変形 |
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スペックル法 | ○粗面でよい ○画像処理が容易 |
○防振装置が必要 | 全視野的にεx、εy | ○粗面の微小変位 ○スペックル干渉法では微小な面外変形 |
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その他 | コースティックス法 | ○簡単である ○モデルでも実物でも可 |
○表面を研磨必要(反射 法で) | 応力拡大係数 | ○破壊力学の実験 | |
切抜き、切込みおよび穴あけによる残留応力測定法 | ○特殊な装置を要しない | ○試料を破壊する必要がある ○複雑な形状の試料には不向き |
切断部分における残留応力の最大値 | ○板材や円管などの比較的単純な形状をもつ試料の残留応力の測定 |
変位計によるひずみの測定
引張試験など被測定物形状や負荷形式が比較的簡単な場合には、伸びなどの変形に伴う変位を計測することによってひずみを評価できます。ここでは主に各点測定用の変位計に着目します。
変位計には大きく分けて2種、接触式と非接触式があり、接触式変位計には電気マイクロメーター(測定子〔触針〕の機械的変位を差動変圧器、静電容量変化、ひずみゲージの抵抗変化などを利用して電気量に変換するもの)や、ダイヤルゲージ(機械的に指針の角度変位量に変換するもの)があります。また測定子変位を光学式スケールや磁気スケールまたはデジタルマイクロメータ(干渉測長光学系を用いて計数方式で計測するタイプのもの)も存在します。
一方、非接触式変位計には、空気マイクロメーター(圧縮空気流体素子を利用するもの)、静電容量型変位計(測定プローブ用電極と被測定物の間の電気容量変化を検出するもの)、渦電流型変位計(測定プローブの一次コイルによって被測定物の導電体に渦電流を発生させ、これにより誘起されるプローブ内二次コイルの電圧を検出するもの)があります。
さらに、光ファイバー変位計(投光用・受光用の光ファイバーを束ねた測定プローブを用い、ファイバー端と被測定面の距離によって変化する受光量を計測するもの)、光三角法レーザー変位計(被測定面にレーザービームを入射した際の乱反射光あるいは正反射光を結像レンズで受け、その結像スポット位置を検出するもの)や斜入射型光学式変位計、光触針式変位計(対物レンズの焦点誤差を検出するもの)、マイケルソン干渉計など、光波干渉法による変位計があります。
ひずみゲージ・ひずみセンサーによるひずみの測定
測定用の変位計とは異なり、実環境においては、より簡便な設置・計測やリアルタイムモニタリングに対するニーズがあります。ここでは、そのようなケースで用いられるひずみケージ、ひずみセンサーに着目します。
代表的なひずみゲージである電気抵抗ひずみゲージ(electric resistance strain gauge)は、<図1>に示すように抵抗体をフォトエッチングなどでグリッド状に加工し電気的絶縁体であるゲージベースの上に設置した構造となっています。物体の表面にひずみゲージを接着し物体が変形したとき、その変形に追随して変化するひずみゲージの電気抵抗変化をホイートストンブリッジを組み込んだ測定器により増幅して読み取り、ひずみを測定します。

抵抗体の種類から分類すると、温度による抵抗の変化が小さい銅・ニッケル系合金(アドバンスなど)やニッケル・クロム系合金(カルマなど)の箔ゲージ、線ゲージ、シリコンなどの半導体ゲージに大別できます。
ゲージベースには主にエポキシ樹脂などが用いられていますが、高温使用を目的としたひずみゲージの中には溶接形という金属ベースのものや、あらかじめ被測定物の表面にAl2O3などを高温で吹付けて絶縁層を作り、この上に抵抗素子を埋め込むもの(溶射型)もあり、最高使用温度は500℃以上にもおよびます。またゲージ長Lは通常0.2~10mmで、ひずみに伴うゲージ抵抗Rの変化ΔRとゲージ部の伸びΔLとの割合(ΔR/R)/(ΔL/L)をゲージ率といい、金属抵抗ゲージでは2.0付近の値になります。
一方、半導体ゲージでは、半導体のピエゾ抵抗効果によって、ゲージ率が100以上にもなります。ゲージ率が大きいために小型のゲージも利用できますが温度変動が大きい場合やひずみが大きい場合には適さないでしょう。被測定物がLSI等の半導体チップの場合にはその表面に半導体ひずみゲージを直接作り込むこともできます。
<図1>に示したような表面接着型のほかに埋込み用などのゲージや、<図2>に示すようなロゼットゲージと呼ばれる多軸用もあります。

ロゼットゲージを用いて表面内3方向のひずみεⅠ、εⅡ、εⅢを計測すれば、面内の2つの主ひずみとその方向の評価ができます。ひずみは無次元量であり単位をもちませんが、一般に非常に小さい量であるため、習慣として1×10-6のひずみを1με(マイクロストレイン、マイクロひずみ。〔μST〕とも表示される)として表したり、また百分率(%)で表すこともあります。なおゲージが損傷することなく動作するひずみの限界は一般用ゲージを室温で使用した場合20,000~50,000με程度ですが、プラスチックなどの測定を目的とした大ひずみ用ゲージではひずみ限界が 200,000με以上のものもあります。水中での使用や湿気の多いところや長時間の使用にはワックスなどのコーティング剤をゲージ表面に塗布すればよいとされます。
また、代表的なひずみセンサーで知られる光ファイバーひずみセンサー(fiber optic strain sensor)では、光ファイバーの各種光学的特性が利用されています。光ファイバーの一部(ゲージ部)を被測定物に貼り付ける、または埋め込んだ場合、被測定物の変形に追随してゲージ部の長さや屈折率が変化し伝送光の位相がシフトします。この位相シフトを光波干渉法によって検出すればゲージ部のひずみが計測可能です。あらかじめ屈曲させたゲージ部の曲率変化に伴う光伝送損失の変化を検出すればゲージ部のひずみ変化を認識できます(光ファイバー式ひずみゲージ)。
現在最も一般的なセンサーがFBG(ファイバブラッググレーティング:Fiber Bragg Grating)センサーです。このゲージ部コア内に長さ方向の周期的な屈折率変化(ファイバブラッググレーティング)を有するひずみセンサーでは、ゲージ部で、イギリスの物理学者 W.L.ブラッグと W.H.ブラッグが確立した“ブラッグ(Bragg)の条件”を満たす波長(グレーティング周期に比例する波長)をもった光のみが選択的に反射され、変形によってグレーティング周期が変化すると反射波の波長も変化します。この波長変化を光スペクトルアナライザーによって検出すればゲージ部のひずみが明らかになります(ファイバーグレーティングひずみセンサー)。このほか光ファイバーに生じるブリルアン(Brillouin)後方散乱光のひずみによるスペクトルシフトに着目した方法も存在します。