航空機に用いられるプラスチック材料~材料特性と適用先を解説

成長を続ける航空機分野では、運航コスト低減や地球環境問題への対応が常に求められています。特に国際航空輸送でのCO2ガス排出量の削減ため、燃料消費の低減につながる機体の軽量化やそれを可能にする高効率な加工技術などが求められています。この記事では、まず航空機に使用されるプラスチック材料全般の耐熱性を解説し、次に、個々のプラスチック材料の特性とその適用先について述べます。

以下の記事でもプラスチック材料にについてご紹介していますので、あわせてご参考ください。

航空機用プラスチック材料の耐熱性

プラスチックは本質的には燃えるものであり、それを大気圏内の密閉空間である航空機に適用するためには、その安全性の担保が絶対条件です。その意味ではプラスチックの耐熱性や不燃性は非常に重要です。

内装材については米国の連邦航空局(FAA)が定めた規則であるFAR 25.83, 25.855及び25.856に基づき、用途に応じた燃焼試験が要求されています。この規則は飛行機のキャビンの安全性を向上させ、航空機事故が発生時の乗客生存率を高めるために設けられたもので、北米以外の地域でもそのまま採り入れられています。またBoeing社、Airbus社に代表される機体メーカーはFARの規則に則り、各社独自の燃焼試験規格を定めています。

航空機内装部材の燃焼性試験においては、燃焼性(Fire)だけでなく発煙性(Smoke)や毒性(Toxicity)にも留意する必要があり、その試験法が規定されています。これらはその頭文字をとってFST規制ともいわれ、用途ごとに多くの基準が存在しますが、樹脂メーカーはそれぞれの用途先に応じた難燃性基準を満足する開発を進めています。1998年に発生したスイス航空機の火災による事故ではPETの断熱性が不十分だとして、以後使用が禁止されるなど、事故を通して基準は強化される方向にあります。

樹脂の耐熱性は基本的にはその分子構造と分子配列等の分子間構造に大きく起因するものであり、加熱時の挙動は樹脂によって大きく異なっています。

樹脂は一般的に熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に分類され、熱可塑性樹脂はさらに結晶性と非結晶性とに分類されます。図1に航空機に使用されるプラスチック材料の分類を示しました。耐熱性は熱硬化性のPIと熱可塑性のTPIが圧倒的に高いことがわかります。エポキシ樹脂も耐熱性は150℃程度あり、CFRP研究開始当初から母材として広く利用されてきたことも理解できます。

<図1>航空機用プラスチック材料の分類
<図1>航空機用プラスチック材料の分類

また、航空機用部材に特有の必要な特性として、使用部位により耐放射線性や低温特性が知られています。

ここでは、耐放射線性について詳しく見ていきましょう。Ensinger Japan HPのデータをもとにして、プラスチックの耐熱性と耐放射線性との関係を図2に示しました。図を見てわかるとおり、プラスチックの耐放射線性は、耐熱性の高い材料ほど優れています。また、PI樹脂は極低温でもその機械特性等が大きく変化しないことが知られており、PIの性能面での優位性を示しています。

耐熱性の高いプラスチック材料は一般的に高価ではありますが、飛行機内装材に汎用プラスチックからエンプラ、更にはスーパーエンプラにまでその軸足を移しつつあることは意匠性だけでなくその安全性も考慮しているためと考えられます。

<図2>プラスチック耐熱温度と耐放射線性(引張伸度が25%低下する放射線量)
<図2>プラスチック耐熱温度と耐放射線性(引張伸度が25%低下する放射線量)

航空機用プラスチック材料の特性とその適用先(1)~スーパーエンプラ

TPI(熱可塑性ポリイミド)

高強度、高耐熱性とともに成形加工性があります。Tg(ガラス転移点):250℃、Mp(融点):388℃で240℃まで使用可能。摺動特性に優れ、耐プラズマ性、耐放射線性があり、寸法安定性に富みます。結晶性であるが結晶化速度が遅いため、通常の射出成型品は非晶質で得られます。
CFRPは航空機の構造部材となっています。

PAI(ポリアミドイミド) 《トーロン®(SOLVAY) 》

高い圧縮強さ、耐衝撃性、溶融加工性。耐摩耗性グレードは無潤滑環境と潤滑環境の両方で高耐摩耗性。高強度グレードは 275 ℃まで強靭性、高い強度および高い剛性を保ちます。線膨張係数も小さいのが特徴で、航空機エンジン部品などに使用されています。

PEEK (ポリエーテルエーテルケトン)

耐熱性、高温特性、耐薬品性、耐放射線性に優れ、機械的強度も強い。連続使用温度約240〜250℃、Mp:334℃、UL94V-0が認定されています。燃焼時、刺激性のガスは発生せず、煙も非常に少ないのが特徴です。
航空機エンジン部品、レドーム、タービンブレード、配管パイプ、ソケット、電気絶縁部品、ギア、フリクション・ベアリング、ボール・バルブ・シール、コネクタ、センサー・ハウジング、各種機構部品などに使用されています。

PEI(ポリエーテルイミド)

軽量、断熱性、耐熱性、耐候性、高い強度と剛性、および幅広い耐薬品性、発煙も少なく加工性が高いのが特徴です。
ツィン・プリー、アウトプット・プリー、滑車、機内電子レンジ調理器具、トレー、コネクタ、機内インテリア、内装材の3Dプリンター用材料として使用されています。

PARA(ポリアリールアミド)

Ixef® BM-1524 PARAは、50%ガラス繊維強化、半結晶性、半芳香族ポリアミド。加工が容易でよりコスト効率が高いのが特徴です。機械的性能は良好で、ハロゲンフリー難燃性、金属並みの高剛性、燃焼要件、毒性ガス要件もクリアしています。軽量のファスナー、アタッチメント、ブラケットの材料に使用されており、ポリエーテルイミド(PEI)などの代替も可能です。

PPS(ポリフェニレンサルファイド)

耐熱性、高温特性に優れています。熱変形温度260℃で、連続使用温度170〜200℃。高い機械的強度、弾性、クリープ、疲労、磨耗に強く、濃硫酸以外の耐薬品性に優れています。寸法安定性、電気絶縁性があり、精密成形に適しています。高耐熱樹脂としては比較的安価なのも特徴です。
センサー・ハウジング、フランジ、断熱・絶縁部品、ポンプ、ハウジング部品、バルブ部品、スイッチ、プラグ製品等各種部品材料に使用されています。

ポリフェニレンスルホン(PPSU)

透明樹脂の中で最高の耐熱・耐薬品・強度を持ちます。難燃性、耐衝撃性にも優れます(PPSUシートは火災時の毒性ガス排出規制、煙排出規制、熱放射規制にいずれも合格)。 航空機の座席、収納棚、エアーグリル等、機内インテリア用途としての長い使用実績があります。機内の内装カバー、配膳カート、ドアフレームカバー、ドアカバー、ギャレー内大型部品など航空機内の大型部品用途としての利用が多く見られます。またキャビンのパーテーションや液晶モニターカバーなどでも幅広く採用されており、デザインの自由度の高さから、ファーストクラスおよびビジネスクラスでの採用が増えています。

PMI(ポリメタクリルイミド)

PMIベース硬質プラスチック独立気泡(クローズドセル)発泡体として使用。機械的強度・耐熱性・熱加工性、耐腐食性、無毒性、耐有機溶剤に優れており、サンドイッチ用のコア材として用います。主原料はPIで、極性基を持つイミド系高分子は吸湿性が弱点。
航空機の圧力隔壁の補強材、ウイングレット部、ロケット段間部やフェアリング用、ヘリコプターの回転翼に使用されています。

航空機用プラスチック材料の特性とその適用先(2)~エンジニアリングプラスチック

PC(ポリカーボネート)

透明、他に比類しない耐衝撃性と最高125℃の高い耐熱性、比重は1.22と軽く、耐久性あり、比強度はFe以上です。
機内照明カバー、機内インテリア、航空貨物コンテナ、ガラスカバー等、軍用機(F-22など)のコックピットのキャノピー、旅客機の客室窓などに使用されています。

航空機用プラスチック材料の特性とその適用先(3)~汎用プラスチック

熱可塑性樹脂

ABS/PVC

ABS / PVC合板は優れた衝撃強度、高い引張強度、耐摩耗性、耐薬品性、熱成形性に優れます。FAAの燃焼性要件を満たし、UL規格94 V-0。
飛行機用座席部材として使用されています。

PVC(ポリ塩化ビニル)

難燃、低発煙、耐衝撃性に優れ、抜群の成型性、耐欠損性にも優れます。リサイクルが可能なアクリル変性品で、座席シート、トレイテーブルなどに使用されています。

熱硬化性樹脂

PI(ポリイミド)全芳香族ポリイミド

極低温から高温まで(-270~300℃)環境における機械的特性、寸法安定性、電気絶縁性、真空特性、耐薬品性等に優れます。耐熱性は高く、短時間で482℃での使用も可能です。
スペースシャトルの昇降舵やフラップ、航空宇宙セルフロッキングファスナー、スプライン、航空機エンジン部品に使用されています。

エポキシ樹脂

寸法安定性や耐水性・耐薬品性および電気絶縁性が高いです。
現在のCFRPの主力母材であり、航空機等のボディに用いられています。

<表1>航空機用プラスチック材料とその用途
樹脂名連続使用温度特徴用途
PI300機械特性良好 (270〜300°C)、電気絶縁性、断熱性、高純度、真空下の放出ガスが少ない各種特殊コネクタ、ベアリング部品、ブッシュ、ピストンリング、ギア、フリクションリング
PAI275圧縮強さ、高耐衝撃性、高耐クリープ性、熱線膨張係数小、寸法安定性良好航空機エンジン部品
PEEK260耐薬品性、難燃性、発煙小ソケット、電気絶縁部品、ギア、フリクションベアリング、ボールバルブシール、コネクタ、センサーハウジング、各種機構部品
TPI240高強度、高耐熱性、成形加工性、摺動特性、耐プラズマ性、耐放射線性、寸法安定性CFRP は航空機の構造部材
BMI200〜250超高耐熱、高熱分解温度、高Tgエンジン関連部品、航空機機体用CFRP母材
PEI170高機械強度、耐高エネルギー線(ガンマ、X線)性 寸法安定性、難燃性、耐薬品性、難燃性、発煙小ツィン・プリー、アウトプット・プリー、滑車、機内電子レンジ、調理器具、トレー、コネクタ、機内インテリア
PPS230耐薬品性、低吸水性、耐クリープ性、耐高エネルギー線。内装での発火/発煙/毒性の規制クリアセンサー・ハウジング、フランジ、断熱・絶縁部品、ポンプ、ハウジング部品、バルブ部品、 スイッチ、プラグ製品
PSU175高耐熱性、-100〜175°Cまで使用可能。耐薬品性、透明航空機内装部品
PPSU170耐クリープ性、耐衝撃性、耐薬品性、耐ガンマ線、X線良好機内インテリア、トレー、センサーハウジング
EP130寸法安定性や耐水性・耐薬品性および電気絶縁性が高い航空機用CFRP母材
PC120透明、耐衝撃性、切削加工性機内照明カバー、機内インテリア
POM100摺動性良好、切削加工容易スライド機構部品
PVC/PMMA80安価、絶縁性、耐水性、耐酸・アルカリ性、難燃性飛行機用座席部材等
ABS/PVC70〜100機械強度のバランス、加工性飛行機用座席部材

まとめ

航空機に応用するためには内装材等にも安全性に対する厳しい規制があります。それらをパスして新しい材料を提供していくことは容易でないと考えられ、それが航空機用プラスチック材料の種類が少ない結果になっているのではないかと推察されます。
こうしたなかで、航空機における燃料消費の削減からは、サンドイッチ構造での軽量化と高剛性を図るPMI硬質発泡体などが注目され、人体への安全性確保からは、キャビン内装での発火/発煙/毒性の規制をクリアするPPSUシートやPEEKフィルム・部品などが注目されています。
一方で採用が拡大している複合材料についても、プリプレグ製造性や成形性、さらなる機械的強度の必要性といった技術課題から熱可塑性樹脂PEEKをマトリックスとした複合材料が注目されてきています。

ここでは航空機に使用されるプラスチック全般の耐熱性と、個々のプラスチック材料の特性とその適用先について紹介しました。他の記事では、プラスチックの加工や計測についてもご紹介していますので、あわせてご参考ください。

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