航空機分野におけるプラスチック材料の活用

成長を続ける航空機分野では、運航コスト低減や地球環境問題への対応が常に求められています。特に国際航空輸送でのCO2ガス排出量は今後、航空輸送量の伸びに伴ってますます増加すると予測されています。その削減ため、燃料消費の低減につながる機体の軽量化やそれを可能にする高効率な加工技術などが求められています。
こうした課題に対応するために軽量で成形性の良いプラスチック材料、さらには軽量性と高剛性をあわせ持つ複合樹脂材料へのニーズは拡大を続けています。
他方、安全性の観点からは火災発生時に人体への影響を少なくすることが求められています。

以下の記事でもプラスチック材料にについてご紹介していますので、あわせてご参考ください。

成長を続ける航空機市場

一般財団法人 日本航空機開発協会(JADC:Japan Aircraft Development Corporation)の世界の民間航空機に関する市場予測(2018-2037)データによれば、航空旅客需要は有償顧客が搭乗し、飛行した距離の総数(有償旅客数×飛行距離)を表すRPK(Revenue Passenger kilometers)ベースで、2017 年の7 兆7,371 億人キロメートルから2037年には18 兆5,875 億人キロメートルと2.4 倍になり、その間の年平均伸び率は4.5%、また運航機数も年率2.6%で増大するとしています。

<図1>民間航空機市場の長期需要予測(出典:一般財団法人 日本航空機開発協会)
<図1>民間航空機市場の長期需要予測(出典:一般財団法人 日本航空機開発協会)

これまでの航空機分野におけるプラスチック材料活用の背景と流れ

航空機に使用される材料はFeやAl、Mg、Tiなどの金属材料、セラミックや複合セラミック材料の無機材料および、プラスチック材料や複合樹脂材料の有機材料に大別されますが、いずれの材料開発も航空機の要求する特性、すなわち、軽量でかつ強い、あるいは加工性や耐熱性に優れている等を満足するべく進められています。

本節では航空機分野におけるプラスチック材料と複合樹脂材料の活用の背景と流れについて述べます。ここでの樹脂複合材料とは、ガラス繊維や炭素繊維などを母材であるプラスチック材料に混ぜ込み、強度を上げた、いわゆる繊維強化樹脂(FRP)です。

航空機内装材用樹脂

飛行機の座席クラスは、インテリアと快適性、提供されるサービス、座席配置によって区別されており、キャビン内のインテリアが顧客の第一印象に大きな影響を与えるとして、航空各社は独自に種々の改良を常に実施してその付加価値を高めようとしています。

インテリアとは座席、複合パネル等キャビンを構成するすべてです。このインテリアマーケットは種々の進化を遂げてきましたが、軽量材料を多く使うとともに、エレガント感、スポーティ感、快適感等の要求にも応え得る各種素材を用いることも航空機会社の大きな挑戦の一つです。

1970年のジャンボジェット機の就航により航空機の大衆化の時代が始まり、その後インテリアも、金属製から汎用樹脂系のポリ塩化ビニル(PVC)やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)へ、最近では、エンプラ系のポリカーボネート(PC)、スーパーエンプラ系のポリフェニルスルフォン(PPSU)、さらにはFRPなども使われるなど用途に応じた多様化が進んでいます。

航空機用複合樹脂(FRP)

航空機の構造材としては1930年代初期からアルミニウム合金が使用されはじめ、直近まで材料の主流を占めていましたが、構造材としてFRPが検討されはじめたのは軽量化への強い期待があったからです。

民間航空機への繊維強化樹脂の利用は、第二次大戦後、アルミニウムの代用として一部にガラス繊維強化複合材(GFRP)が使用されはじめましたが、比強度は高いものの比剛性(ヤング率/比重)に劣るため、フラップなどの2次構造材として、主にハニカムサンドイッチ構造の形で使用されてきました。

炭素繊維強化複合材(CFRP)の研究は宇宙分野で先行的に行われてきました。それは宇宙分野が一般の航空機と異なり、使い捨てで性能最優先であったためと考えられます。
 耐熱材料としては3,300Kに達する高温、高圧、高速の燃焼ガスに曝されるノズル用材料としてエポキシ樹脂やフェノール樹脂を母材とするCFRPが使用されてきています。耐熱というよりは材料自身の熱分解、昇華、溶融などの消耗による吸熱効果を生成炭化層により断熱するアブレーション材料として主に使用されてきました。

熱分解は熱分解層と呼ばれる薄い層で起こり、熱分解したCFRPは変質して炭化層を形成し、密度の低下した炭化層は強度をある程度保ちつつ断熱に寄与します。加熱の継続とともに炭化層とその先端部の熱分解層は内部に進行し、CFRP母材の厚みが減少します。

代表的な繊維強化樹脂の比強度と比剛性の関係として、密度の小さい樹脂を炭素繊維で強化したCFRPは比強度、比剛性の点で非常に大きな優位性を持っています。
宇宙機器へのFRPの応用は主として軽量化要求から衛星のサブストレートや太陽電池パネル、アンテナ類に多く使用されてきました。現在では衛星の主構造体に適用されており、比剛性が大きく、熱膨張係数が小さいという特徴は宇宙ステーションのような厳しい寸法安定性が要求される大型構造の材料として今後ますます重要になると考えられます。

一方、民間航空機用へのCFRPの適用も着々と進んでいます。
1970年代にはスポイラー、エレベーターなどの二次構造材料に採用され、1980年代後半からは、尾翼や客室桁材などの一次構造材料にも使われるようになっています。CFRPの航空機機体構造に占める重量割合の変遷としては、CFRPは最初に軍用機に適用され、大幅な適用は常に軍用機がリード、民間機ではエアバス社が常に先行してきました。21世紀に入り開発がアナウンスされた民間大型機ではCFRP材料の使用比率が急増しています。

航空機大手メーカーの米国ボーイング社と欧州エアバス社はCFRPの使用量を新機種ごとに増大させており、ボーイング787では主翼および胴体すべてをCFRPで製造し、その重量は全体の約50%を占めるまでになっています。

しかしながら本材料の課題としてはコストと構造の設計・評価技術の蓄積が残っており、加工法も含めた低コスト化が進めば、さらに多くの航空機メーカーの採用にもつながっていくと考えられています。

現在、航空機用構造材料に用いられているエポキシ樹脂を使用したCFRP は、177℃硬化型が主流で、常用温度は約 120℃とされています。コンコルドの一般部にはかろうじて実用に耐えられますが、巡航速度が大きくなるとエポキシ樹脂では耐熱性が足りないとされており、エポキシ樹脂よりも耐熱性の高い樹脂を用いたCFRPの研究開発が進められています。米国空軍のF-22 戦闘機は超音速巡航を可能とした初めての戦闘機で、この機体には,エポキシ樹脂よりも耐熱性の高いビスマレイミド系樹脂が使用されました。

航空機分野における構造材用耐熱性樹脂開発の流れ

ここではCFRPに用いられる高耐熱樹脂開発の流れについて簡単に触れます。航空機分野における機体の軽量化、高耐熱化の技術は、大気圏からの脱出と地球への帰還というミッションを持つロケット分野で常に先行して開発されています。

耐熱性ポリマーの開発は1960年代よりNASAを中心とした宇宙開発計画の中で活発に行われており、優れた比強度をもつ炭素繊維の出現とも相まって1975年よりCASTS(Composites Advanced Space Transportation Systems)計画の下に、耐熱性複合材料の開発がより活発になっています。

高耐熱樹脂開発はポリイミド(PI)を中心に据えて進められましたが、この高耐熱樹脂開発には2つの流れがありました。
一つはガラス転移点(Tg) 以上でプレポリマーを成形したのち、さらに高温(300~350℃)での熱処理により反応性末端が分子間架橋を起こして硬化する熱硬化性 PIの開発。もう一つは汎用PIの耐熱性を大きく犠牲にすることなく成形加工性を向上させる熱可塑性PIの開発です。

前者の流れが上述したNASA のナジン酸末端を有する PMR-15 の開発です。この樹脂を炭素繊維と複合化し316℃で熱硬化させると Tgが340℃を示す成形体が得られます。この系のCFRPの比強度、比剛性は、アルミニウム合金よりも大きい上に、耐熱性もアルミニウム合金の耐熱性約180℃より高く、NASAは試験的にB727やB737のエレベーター(昇降舵)、DC10の尾翼(垂直安定板)などに複合材を利用し、金属構造に対して約30%の軽量化に成功しています。
しかしその後開発されたPETI-5も含め、耐熱性や機械特性(靭性)が不十分で、またCFRPの成形が難しく高コストになることから、ごく特殊な用途にのみ限定利用されるにとどまっていています。

後者の流れとして、GE により開発されたポリエーテルイミド(Tg:217℃)のUltem 、NASAにより開発されたLarc-TPI(Tg:260℃)、三井化学により開発された射出・押出成形加工に適した熱可塑 PI (Tg:250℃)のAurumがあります。いずれも熱硬化性PIの分子鋼構造の直線性を崩し、非対称構造とする分子設計をしています。

民間航空機用のCFRPは、当初樹脂単体の破断伸びがエポキシ樹脂などに比べて1桁大きい熱可塑樹脂、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルフォン(PES)等も検討され、AL合金構造に比べて約40%の軽量化も達成されましたが、その成形温度が380℃と高く、技術としては適さないことが明らかとなりました。現在は熱硬化性PI、熱可塑性PIを中心に加工性と強度を満足するCFRPの開発に向けて材料のさらなる改良が進められています。

まとめ

ここでは航空機に使用されている軽量化のためのプラスチック材料について簡単に紹介しました。他の記事では、プラスチックの加工や計測についてもご紹介していますので、あわせてご参考ください。

プラスチック材料を用いた試作用部材、試作加工に関するご相談はこちら

マクセル株式会社
1961年創業。国内初のアルカリ乾電池やカセットテープで馴染みがあるが、現在は「自動車」「住生活・インフラ」「健康・理美容」の成長3分野を軸に事業を展開。各分野においてパートナーと連携し、事業、製品、サービスの構築をめざしています。
白銅株式会社
非鉄金属および鋼、プラスチック材料の専門商社白銅は、「ダントツの品質」、「ダントツのスピード」、「ダントツのサービス」、「納得の価格」でお客様のモノづくりを強力にサポートします。
QMS株式会社
成形試作・検査治具のベストソリューション。QMS株式会社は、AV機器・OA機器・光学機器・電子機器制御機器・自動車・通信機器などの開発試作サポートを行っています。
株式会社NCネットワーク
国内最大級のモノづくり受発注サイト「エミダス」に登録された18,000社以上の工場データベースから、技術スタッフが依頼内容に最適な工場を選定。NCネットワークには、加工方法が分からない試作・開発品から、特殊車両のように少ない生産台数ながら厳密な品質保証が求められる量産品まで幅広い経験があります。
プロトラブズ合同会社
IT(情報技術)を活用して自動化、標準化を導入。より拡張性のある短納期プロセスを確立させたことにより、短納期での試作・小ロット生産を実現したオンデマンド受託製造会社です。
株式会社クライム・ワークス
企業や研究機関の開発支援を行う試作メーカ。新製品の開発工程における試作品の製作、検証用治具の提供だけでなく、協力会社と連携して量産試作に向けたユニット品の製作まで対応します。