この記事では、工業用に使用されるプラスチック、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の種類・性質・用途をはじめ、それらのメーカーや成形法を紹介します。
これまでの記事では、プラスチックについての基礎知識や材料選定のポイントなどを分かりやすく紹介していますので、そちらも合わせてご参考ください。
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは、機能を強化した合成樹脂の総称

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは、工業用の過酷な条件下でも使用できるよう、高耐熱性や機械的強度を向上させた合成樹脂の総称です。
エンプラとプラスチックとの違いは、強度と耐熱性
プラスチックが登場した当初は「プラスチックはもろくて割れやすい」というイメージがありましたが、その後の研究開発により飛躍的に性能が高められ、現在では工業用の過酷な条件下でも使用可能なエンプラが用いられています。
エンプラは、金属部品と汎用プラスチック部品の中間に位置する
エンプラは、使用温度や強度の点で、金属部品と汎用プラスチック部品の中間的/補完的な位置にあり、軽量化や低コスト化を実現しています。そのため、多くの種類が開発され、用途に応じて使い分けられています。
エンプラの種類は「汎用エンプラ」「特殊エンプラ」「未分類」の3種に大別される
エンプラの種類は、「汎用」と「特殊」に大別されます。また、エンプラのさらに上を行く「特殊エンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」と称されるものもあります。
これらについて、以下で詳しく解説していきます。
汎用エンプラとは、自動車や電子機器に主要に使用されているエンプラのこと
汎用エンプラとは、エンプラの中でも自動車、電機、電子機器の部品などに主に使用されているエンジニアリングプラスチック(エンプラ)のことを指します。
エンプラ全体の9割を占める「5大汎用エンプラ」
汎用エンプラの中でも、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が5大汎用エンプラと称され、エンプラ全体の約9割を占めると言われています。
汎用エンプラの種類と特徴
主な汎用エンジニアリングプラスチックの特徴や用途およびメーカーと商品名を<表1>にまとめました。
<表1>主な汎用エンジニアリングプラスチック
名称 | 記号 | 主な特徴 | 主商品名(メーカー) | |
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5大汎用エンプラ | ポリアミド (別名:ナイロン) |
PA | 【長所】耐衝撃性・耐薬品性・耐摩擦・摩耗性、ガスバリア性に優れる【短所】吸水性が高く、寸法安定性に欠ける | (樹脂メーカ各社) *PA6、PA66等の脂肪族、PA。PA6T、PA9T、PAMXD6等の半芳香族PA毎に各社商品名が異なる |
ポリカーボネート | PC | 【長所】使用可能温度範囲が-40~+120℃と広く、透明性・寸法安定性・耐衝撃性に優れる【短所】耐薬品性が劣る | ユーピロン(三菱エンジニア) パンライト(帝人) SDポリカ(住友化学) |
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ポリアセタール | POM | 【長所】バランスの取れた機械的性質、特に耐疲労性に優れ、耐薬品性・耐摩擦・摩耗性を有する【短所】透明性がない (乳白色であり、一般に着色処理される) | ジュラコン、デルリン、テナック(旭化成) | |
変性ポリフェニレンエーテル | m-PPE | 【長所】耐加水分解性と電気特性に優れ、低比重と吸水率が汎用エンプラの中でも最小【短所】有機溶媒に弱い | ザイロン(旭化成) ノリル(Sabic) レマロイ(三菱エンジニア) |
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ポリブチレンテレフタレート | PBT | 【長所】摺動特性(摩擦、磨耗)、耐衝撃性、電気絶縁性に優れる。他の樹脂やフィラーとの相溶性に優れるので複合系グレード材として用いられる【短所】加水分解、耐熱性(非強化) | ウルトラデュア(BASF) ノバデュラン(三菱エンジニア) ジュラネックス(ポリプラスチック) |
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ふっ素樹脂 | PTFE 他 |
PTFE(四ふっ化エチレン)に溶融成形性を持たせるため、FEP、ETFE、PVDF、PCTFE, ECTFE、PVF等の共重合体がある【長所】耐熱・耐寒特性、耐薬品性、電気絶縁性、吸湿率・吸水率小
【短所】成形性に劣る |
(旭硝子、呉羽化学工業、ダイキン工業、三井・デュポンフロロケミカル、等) *共重合体材料毎に独自の商品ラインナップ(商品名)が存在する |
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ガラス繊維強化ポリエチレンフタレート | GF-PET | PET樹脂にガラス繊維、等をコンパウンドして製造される。ガラス繊維で強化することにより機械的性質や耐熱性が向上する【長所】強靭性、耐熱性、耐有機溶剤性、耐油性、電気的特性に優れる
【短所】耐熱水性・耐アルカリ性に劣る |
FR-PET(ウィンテックポリマ) ハイパーライト(カネカ) Rynite(デュポン)等 |
特殊エンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)とは特に性能の高いエンプラ
特殊エンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)とは、エンプラの中でも特に高性能であるものを指し、高い耐熱温度や耐溶剤性など優れた特徴があります。主なスーパーエンプラの特徴と用途およびメーカーと商品名を<表2>にまとめました。
<表2>主な特殊エンジニアリングプラスチックの種類と特徴
名称 | 記号 | 主な特徴 | 主商品名(メーカー) |
---|---|---|---|
ポリフェニレンスルフィド | PPS | 【長所】機械的強度、剛性、難燃性、耐薬品性、電気特性、寸法安定性等に優れる【短所】高価。耐衝撃性(ノッチ効果)、耐摩耗性に劣る | トレリナ(東レ) フォートロン(ポリプラスチック,クレハ) DIC、PPS(大日本インキ)等 |
ポリスルホン | PSU | 【長所】耐酸化性と熱安定性を有し、長期間に亘る高温域での使用にも耐える、琥珀色の透明性、耐スチーム性・耐加水分解性に優れる【短所】高価。有機溶剤に弱い | ユーデル、ミンデル(ソルベイアドバンストポリマーズ) ウルトラゾーンS(BASF)等 |
ポリエーテルスルホン | PES | 【長所】加水分解性の結合を持たないため耐熱水性、耐スチーム性に優れる、黄褐色透明、PSUよりも優れた耐熱性を有する【短所】高価。一部の有機溶剤に弱い | レーデルA(ソルベイアドバンストポリマーズ) スミカエクセルPES(住友化学)等 |
ポリアリレート | PAR | 【長所】波長350nm以下の紫外線をほぼ完全に遮断でき、また、ポリカーボネートと同等の透明性を示す、透明耐熱性、弾性回復性、紫外線バリア性を有する【短所】高価 | Uポリマー、ユニファイナー(ユニチカ) |
ポリアミドイミド | PAI | 【長所】使用可能温度範囲が-200~+260℃と広く、高圧蒸気とガンマ線に対する耐性を有する、寸法安定性、自己潤滑性(特に高温)、耐薬品性(酸系)【短所】高価。耐アルカリ性に劣る | トーロン(ソルベイアドバンストポリマーズ) TPS、TI 5000(東レ) |
熱可塑性ポリイミド | TPI | ポリイミド樹脂の特性を損なわず、射出・押出成形加工を可能にして、その応用範囲を拡大できる。高ガラス転移温度、高融点【長所】寸法安定性、耐摩擦性、摺動特性(高温下)、耐放射線性、低吸水性、耐薬品性、難燃性、耐放射線性に優れる
【短所】誘電特性に劣る |
オーラム(三井化学) |
ポリエーテルイミド | PEI | 【長所】各種の溶融成形加工が可能で、高圧蒸気とガンマ線に対する耐性も有する。珀色透明であり耐スチーム性、耐溶剤性に優れる【短所】高価。耐衝撃性(ノッチ効果)に劣る | ウルテム(SABIC Innovative Plastics) |
ポリエーテルエーテルケトン | PEEK | 【長所】耐熱劣化性、機械特性、耐熱水性、耐放射線性、耐薬品性、難燃性に優れる、射出・押出成型等の加工法が可能【短所】高価 | VICTREX PEEK(住友化学、三井化学) |
液晶ポリマー | LCP | 溶融時に液晶性を示す熱可塑性樹脂の総称で、耐熱性に優れる全芳香族系と薄肉流動性に優れる半芳香族系に分類される【長所】耐熱性、流動性、寸法安定性、減衰特性、耐薬品性に優れる
【短所】高価。耐加水分解性、耐アルカリ性に劣る。 |
ポリプラスチック、住友化学、デュポン、東レ、上野製薬、ティコナ等から各種 |
「汎用」「特殊」には分類されないエンプラ
現在、汎用エンプラや特殊エンプラには分類されていない、次のようなエンプラもあります。
例えば、超高分子量ポリエチレン(UHPE or HMWPE)は、通常2~30万の分子量を100~700万まで高めたポリエチレンです。一般的なポリエチレンとは加工法も特性も大きく異なるので、汎用のポリエチレンとは区別され、特殊エンプラの1つともみなされています。
熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPC)は、加硫ゴムと同様のゴム弾性がありますが、加熱によって溶融・流動するので、他の熱可塑性プラスチックと同様の成形加工が可能です。また、従来からの熱可塑性エラストマーと比較して使用可能な温度領域が広く、耐久性に優れることから、幅広い分野での用途展開が行われています。<表3>
<表3>その他のエンジニアリングプラスチック
名称 | 記号 | 主な特徴 | 主商品名(メーカー) |
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超高分子量 ポリエチレン |
UHMWPE | ポリエチレンの分子量(通常2~30万)を100~700万まで高めた樹脂。特に耐衝撃性は熱可塑性樹脂の中で最も優れる【長所】耐摩耗性、耐衝撃性、すべり特性、非粘着性、耐薬品性に優れる
【短所】線膨張係数が大きく、接着性が弱い |
ダイニーマ (DSM社、東洋紡) スペクトラ (ハネウエル社) |
熱可塑性ポリエステル エラストマー |
TPC (TPEE) |
加硫ゴムと同様性質を有し、加熱で溶融・流動するので一般の熱可塑性プラスチックと同様の成形加工が可能【長所】消音性、耐衝撃性、反撥弾性、低温特性、屈曲疲労性、強度、耐久性、耐熱性、耐油性、耐薬品性、成形加工性に優れる
【短所】耐候性に劣る、耐熱老化性の不足 |
ハイトレル (デュポン社、東レ) |
エンジニアリングプラスチックの成形方法と、押さえておきたいポイント
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の成形法では、熱可塑性樹脂の成形方法が利用できます。 しかしエンプラは、耐熱性が100℃以上の樹脂であるため、従来のプラスチックの成形加工温度よりも高温となるものが多く、その融点に応じた加工温度や樹脂の流動性について、より適切な条件設定が必要となります。
以下、適用できる成形方法と成形加工時に特に留意する点を汎用エンプラ<表4>と、スーパーエンプラ<表5>別にまとめました。
主な汎用エンジニアリングプラスチックの成形法
<表4>主な汎用エンジニアリングプラスチックの成形法
名称 | 成形方法 | 留意点 |
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ポリアミド (別名:ナイロン) |
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吸水性があるので成形時に予備乾燥が必要(熱風乾燥の場合酸化変色に注意) |
ポリカーボネート (PC) |
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ポリアセタール(POM) |
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変性ポリフェニレンエーテル (m-PPE/m-PPO) |
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成形時に残留歪みが発生しやすいので成形条件に注意 |
ポリブチレンテレフタレート(PBT) |
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ふっ素樹脂 (PTFE/PVDF/PVF等) |
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各グレードによって成形法・条件の検討が必要 |
ガラス繊維強化ポリエチレンフタレート (GF-PET) |
射出成形(条件設定に注意) | PBTと同様 |
主な特殊エンジニアリングプラスチックの成形法
<表5>主な特殊エンジニアリングプラスチックの成形法
名称 | 成形方法 | 留意点 |
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ポリフェニレンスルフィド (PPS) |
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ポリスルホン (PSU) |
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良好な成形加工性(流動性)を有し、体積収縮も少ない |
ポリエーテルスルホン (PES) |
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ポリアリレート (PAR) |
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ポリアミドイミド (PAI) |
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熱可塑性ポリイミド (TPI) |
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適切な溶融流動性の設定により、複雑な形状の製品も成形可能 |
ポリエーテルイミド (PEI) |
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成形加工時に予備乾燥が必要 |
ポリエーテルエーテルケトン (PEEK) |
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液晶ポリマー (LCP) |
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まとめ
ここでは、代表的なエンジニアリングプラスチック(エンプラ)について解説しました。他の記事では、プラスチック材料の物性測定についても分かりやすくまとめていますので、そちらもあわせてご参考ください。
※2019年11月28日:加筆修正し再アップ
※2018年8月1日:初回公開