エンジニアリングプラスチックの基礎的知識~「汎用」と「特殊」、代表的材料の性質と用途と成形法

この記事では、工業用に使用されるプラスチック、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の種類・性質・用途をはじめ、それらのメーカーや成形法を紹介します。
これまでの記事で、プラスチックについての基礎知識や材料選定のポイントなど、分かりやすく紹介していますので、そちらも合わせてご参考ください。

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)、5大汎用エンプラとは

<写真1>エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の使用例 歯車
<写真1>エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の使用例 歯車

プラスチックが登場した当初は「プラスチックはもろくて割れやすい」というイメージがありましたが、その後の研究開発により飛躍的に性能が高められ、現在では工業用の過酷な条件下でも使用可能になるような製品が数多く存在します。このような様々な機能を強化した合成樹脂の総称を「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」と呼んでいます。

熱に弱いプラスチックの性質を改善した耐熱性の高い合成樹脂が開発され、高耐熱性と同時に機械的強度も向上しています。中でもエンプラは、使用温度や強度の点で、金属部品と汎用プラスチック部品の中間的/補完的な位置にあり、軽量化や低コスト化を実現しています。そのため、多くの種類が開発され、用途に応じて使い分けられています。

ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が5大汎用エンプラと称され、エンプラ全体の約9割を占めると言われています。また、エンプラのさらに上を行く「特殊エンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」と称されるものもあります。

これらについて、以下で詳しく解説していきます。

汎用エンプラの性質、特徴について

主な汎用エンジニアリングプラスチックの特徴や用途およびメーカーと商品名を<表1>にまとめました。

<表1>主な汎用エンジニアリングプラスチック

名称 記号 主な特徴 主商品名(メーカー)
5大汎用エンプラ ポリアミド
(別名:ナイロン)
PA 【長所】耐衝撃性・耐薬品性・耐摩擦・摩耗性、ガスバリア性に優れる【短所】吸水性が高く、寸法安定性に欠ける (樹脂メーカ各社)
*PA6、PA66等の脂肪族、PA。PA6T、PA9T、PAMXD6等の半芳香族PA毎に各社商品名が異なる
ポリカーボネート PC 【長所】使用可能温度範囲が-40~+120℃と広く、透明性・寸法安定性・耐衝撃性に優れる【短所】耐薬品性が劣る ユーピロン(三菱エンジニア)
パンライト(帝人)
SDポリカ(住友化学)
ポリアセタール POM 【長所】バランスの取れた機械的性質、特に耐疲労性に優れ、耐薬品性・耐摩擦・摩耗性を有する【短所】透明性がない (乳白色であり、一般に着色処理される) ジュラコン、デルリン、テナック(旭化成)
変性ポリフェニレンエーテル m-PPE 【長所】耐加水分解性と電気特性に優れ、低比重と吸水率が汎用エンプラの中でも最小【短所】有機溶媒に弱い ザイロン(旭化成)
ノリル(Sabic)
レマロイ(三菱エンジニア)
ポリブチレンテレフタレート PBT 【長所】摺動特性(摩擦、磨耗)、耐衝撃性、電気絶縁性に優れる。他の樹脂やフィラーとの相溶性に優れるので複合系グレード材として用いられる【短所】加水分解、耐熱性(非強化) ウルトラデュア(BASF)
ノバデュラン(三菱エンジニア)
ジュラネックス(ポリプラスチック)
ふっ素樹脂 PTFE
PTFE(四ふっ化エチレン)に溶融成形性を持たせるため、FEP、ETFE、PVDF、PCTFE, ECTFE、PVF等の共重合体がある【長所】耐熱・耐寒特性、耐薬品性、電気絶縁性、吸湿率・吸水率小

【短所】成形性に劣る

(旭硝子、呉羽化学工業、ダイキン工業、三井・デュポンフロロケミカル、等)
*共重合体材料毎に独自の商品ラインナップ(商品名)が存在する
ガラス繊維強化ポリエチレンフタレート GF-PET PET樹脂にガラス繊維、等をコンパウンドして製造される。ガラス繊維で強化することにより機械的性質や耐熱性が向上する【長所】強靭性、耐熱性、耐有機溶剤性、耐油性、電気的特性に優れる

【短所】耐熱水性・耐アルカリ性に劣る

FR-PET(ウィンテックポリマ)
ハイパーライト(カネカ)
Rynite(デュポン)等

 

特殊エンプラの性質、特徴について

特殊エンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)は、エンプラの中でも特に性能の高いものを指し、高い耐熱温度や耐溶剤性をはじめとした優れた特徴があります。主なスーパーエンプラの特徴と用途およびメーカーと商品名を<表2>にまとめました。

<表2>主な特殊エンジニアリングプラスチック

名称 記号 主な特徴 主商品名(メーカー)
ポリフェニレンスルフィド PPS 【長所】機械的強度、剛性、難燃性、耐薬品性、電気特性、寸法安定性等に優れる【短所】高価。耐衝撃性(ノッチ効果)、耐摩耗性に劣る トレリナ(東レ)
フォートロン(ポリプラスチック,クレハ)
DIC、PPS(大日本インキ)等
ポリスルホン PSU 【長所】耐酸化性と熱安定性を有し、長期間に亘る高温域での使用にも耐える、琥珀色の透明性、耐スチーム性・耐加水分解性に優れる【短所】高価。有機溶剤に弱い ユーデル、ミンデル(ソルベイアドバンストポリマーズ)
ウルトラゾーンS(BASF)等
ポリエーテルスルホン PES 【長所】加水分解性の結合を持たないため耐熱水性、耐スチーム性に優れる、黄褐色透明、PSUよりも優れた耐熱性を有する【短所】高価。一部の有機溶剤に弱い レーデルA(ソルベイアドバンストポリマーズ)
スミカエクセルPES(住友化学)等
ポリアリレート PAR 【長所】波長350nm以下の紫外線をほぼ完全に遮断でき、また、ポリカーボネートと同等の透明性を示す、透明耐熱性、弾性回復性、紫外線バリア性を有する【短所】高価 Uポリマー、ユニファイナー(ユニチカ)
ポリアミドイミド PAI 【長所】使用可能温度範囲が-200~+260℃と広く、高圧蒸気とガンマ線に対する耐性を有する、寸法安定性、自己潤滑性(特に高温)、耐薬品性(酸系)【短所】高価。耐アルカリ性に劣る トーロン(ソルベイアドバンストポリマーズ)
TPS、TI 5000(東レ)
熱可塑性ポリイミド TPI ポリイミド樹脂の特性を損なわず、射出・押出成形加工を可能にして、その応用範囲を拡大できる。高ガラス転移温度、高融点【長所】寸法安定性、耐摩擦性、摺動特性(高温下)、耐放射線性、低吸水性、耐薬品性、難燃性、耐放射線性に優れる

【短所】誘電特性に劣る

オーラム(三井化学)
ポリエーテルイミド PEI 【長所】各種の溶融成形加工が可能で、高圧蒸気とガンマ線に対する耐性も有する。珀色透明であり耐スチーム性、耐溶剤性に優れる【短所】高価。耐衝撃性(ノッチ効果)に劣る ウルテム(SABIC Innovative Plastics)
ポリエーテルエーテルケトン PEEK 【長所】耐熱劣化性、機械特性、耐熱水性、耐放射線性、耐薬品性、難燃性に優れる、射出・押出成型等の加工法が可能【短所】高価 VICTREX PEEK(住友化学、三井化学)
液晶ポリマー LCP 溶融時に液晶性を示す熱可塑性樹脂の総称で、耐熱性に優れる全芳香族系と薄肉流動性に優れる半芳香族系に分類される【長所】耐熱性、流動性、寸法安定性、減衰特性、耐薬品性に優れる

【短所】高価。耐加水分解性、耐アルカリ性に劣る。

ポリプラスチック、住友化学、デュポン、東レ、上野製薬、ティコナ等から各種

 

「汎用」「特殊」には分類されないエンプラ

現在、汎用エンプラや特殊エンプラには分類されていない、次のようなエンプラもあります。

<表3>その他のエンジニアリングプラスチック

名称 記号 主な特徴 主商品名(メーカー)
超高分子量
ポリエチレン
UHMWPE ポリエチレンの分子量(通常2~30万)を100~700万まで高めた樹脂。特に耐衝撃性は熱可塑性樹脂の中で最も優れる【長所】耐摩耗性、耐衝撃性、すべり特性、非粘着性、耐薬品性に優れる

【短所】線膨張係数が大きく、接着性が弱い

ダイニーマ
(DSM社、東洋紡)
スペクトラ
(ハネウエル社)
熱可塑性ポリエステル
エラストマー
TPC
(TPEE)
加硫ゴムと同様性質を有し、加熱で溶融・流動するので一般の熱可塑性プラスチックと同様の成形加工が可能【長所】消音性、耐衝撃性、反撥弾性、低温特性、屈曲疲労性、強度、耐久性、耐熱性、耐油性、耐薬品性、成形加工性に優れる

【短所】耐候性に劣る、耐熱老化性の不足

ハイトレル
(デュポン社、東レ)

 

超高分子量ポリエチレン(UHPE or HMWPE)は、通常2~30万の分子量を100~700万まで高めたポリエチレンです。一般的なポリエチレンとは加工法も特性も大きく異なるので、汎用のポリエチレンとは区別され、特殊エンプラの1つともみなされています。
熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPC)は、加硫ゴムと同様のゴム弾性がありますが、加熱によって溶融・流動するので、他の熱可塑性プラスチックと同様の成形加工が可能です。また、従来からの熱可塑性エラストマーと比較して使用可能な温度領域が広く、耐久性に優れることから、幅広い分野での用途展開が行われています。

エンジニアリングプラスチックの成形方法と、押さえておきたいポイントについて

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の成形法では、熱可塑性樹脂の成形方法が利用できます。 しかしエンプラは、耐熱性が100℃以上の樹脂であるため、従来のプラスチックの成形加工温度よりも高温となるものが多く、その融点に応じた加工温度や樹脂の流動性について、より適切な条件設定が必要となります。
以下、適用できる成形方法と成形加工時に特に留意する点を汎用エンプラ<表4>と、スーパーエンプラ<表5>別にまとめました。

<表4>主な汎用エンジニアリングプラスチックの成形法

名称 成形方法 留意点
ポリアミド
(別名:ナイロン)
  • 射出成形
  • 押出成形
  • ブロー成形
  • 各種二次加工
吸水性があるので成形時に予備乾燥が必要(熱風乾燥の場合酸化変色に注意)
ポリカーボネート
(PC)
  • ほとんどの熱可塑性樹脂用成形法が可能
  • 加水分解性があるので成形時に予備乾燥が必要
  • 成形時の残留応力が残っているとクラック発生原因となるので、その対応が必要
ポリアセタール(POM)
  • 射出成形
  • 押出成形
  • ブロー成形
  • 各種二次加工
  • 結晶化制御のために加熱冷却に関する金型設計が必要
  • POMは熱分解するとホルマリンガスを発生するので、その対策が必要
変性ポリフェニレンエーテル
(m-PPE/m-PPO)
  • 射出成形
  • 押出成形
  • ブロー成形
成形時に残留歪みが発生しやすいので成形条件に注意
ポリブチレンテレフタレート(PBT)
  • 射出成形(条件設定に注意)
  • 押出成形(フィルム)
  • 加水分解性があるので成形時に予備乾燥が必要
  • ガラス繊維強化材の場合、成形条件には注意
ふっ素樹脂
(PTFE/PVDF/PVF等)
  • 射出成形
  • 押出成形
  • トランスファ成形
各グレードによって成形法・条件の検討が必要
ガラス繊維強化ポリエチレンフタレート
(GF-PET)
射出成形(条件設定に注意) PBTと同様

 

<表5>主な特殊エンジニアリングプラスチックの成形法

名称 成形方法 留意点
ポリフェニレンスルフィド
(PPS)
  • 射出成形
  • 圧縮成形
  • 流動性に優れ薄肉化可能
  • 結晶化制御のために加熱冷却に関する金型設計が必要
  • 成形時にガスが発生するのでその対策が必要
ポリスルホン
(PSU)
  • 射出成形
  • 押出成形
  • ブロー成形
良好な成形加工性(流動性)を有し、体積収縮も少ない
ポリエーテルスルホン
(PES)
  • 射出成形
  • 押出成形
  • 吸水性があるので成形時に予備乾燥が必要
  • 樹脂の流動性を考慮して成形条件を定める
ポリアリレート
(PAR)
  • 射出成形
  • 押出成形
  • ブロー成形
  • 加水分解性があるので、成形時に予備乾燥が必要
  • 流動性はあまり良くない
  • 残留歪みの対策が必要
ポリアミドイミド
(PAI)
  • 射出、押出成形も可能だが、通常板材等の切削加工素材として入手
  • 成形加工時に予備乾燥が必要
熱可塑性ポリイミド
(TPI)
  • 射出成形
  • 押出成形
適切な溶融流動性の設定により、複雑な形状の製品も成形可能
ポリエーテルイミド
(PEI)
  • 射出成形
  • 押出成形
  • ブロー成形
成形加工時に予備乾燥が必要
ポリエーテルエーテルケトン
(PEEK)
  • 射出成形
  • 押出成形
  • 回転成形
  • 粉体塗装
  • 成形加工時に予備乾燥が必要
  • 高温の加工温度で、その厳密な制御が要求される
液晶ポリマー
(LCP)
  • 射出成形
  • 成形条件により薄物成形にも適する
  • 成形加工時の予備乾燥、ガス発生対策が必要
  • 液晶ポリマー特有の配向性を考慮して成形条件を設定する

 

まとめ

ここでは、代表的なエンジニアリングプラスチック(エンプラ)について解説しました。他の記事では、プラスチック材料の物性測定についても分かりやすくまとめていますので、そちらもあわせてご参考ください。

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