身の周りにもたくさん!鉄鋼材料の基礎知識④~電磁鋼板・表面処理版・鋳鉄編~

はじめに

この記事では、その他鉄鋼材料として、「電磁鋼板・表面処理版・鋳鉄」の特性、選定ポイントを解説します。これまでの記事で、鉄鋼材料・加工方法の基礎知識や、代表的な鉄鋼材料、ステンレス材について分かりやすく紹介していますので、そちらも合わせてご参考ください。

電気機器の鉄芯に用いられる電磁鋼板の基本的特徴とは!?

1.電磁鋼板(electromagnetic steel plate and sheet)
電気機器の鉄芯材料として使用される機能材料であり、優れた磁気特性が要求されます。
そのため、電磁鋼板には、「絶縁被膜」と呼ばれるコーティングが施されるとともに、磁気特性に悪影響のある不純物(炭素(C)、窒素(N)、硫黄(S)など)が極限まで低減されるなど、通常の鋼板にはない特徴があります。
<写真1>に示すモーターなど多くの電気機器では、電磁石の原理により電気を磁気に変換し、「電磁力」を発生させており、鉄芯材料は、コイルに挿入され、磁力を高める働きを担っています。

<写真1>モーター(イメージ図)
<写真1>モーター(イメージ図)

(1)種類と用途

「方向性電磁鋼板」と「無方向性電磁鋼板」があり、用途により使い分けられています。
・方向性電磁鋼板(grain oriented steel, GO) 一方向(圧延方向)にのみ極めて優れた磁気特性を有する鋼板であり、主に変圧器に使用されています。
・無方向性電磁鋼板(non oriented steel, NO) 全方向に平均的に優れた磁気特性を有する鋼板であり、主にモーターに使用されています。

(2)基本特性

電磁鋼板の性能は、2つの磁気特性、「磁束密度」と「鉄損」で表されます。
磁束密度(magnetic flux density)は磁化のしやすさをあらわす指標であり、磁束密度が高い材料ほど、一定の電流で高い磁力を得ることができ、高出力が得られます。
鉄損(iron loss; core loss)は電気エネルギーから磁気エネルギーへの変換において発生するエネルギー損失の大きさをあらわす指標であり、鉄損が小さい材料ほど、エネルギー損失は小さくなり、「省エネルギー」となります。

プリウスに代表されるトヨタのハイブリッドカーの心臓部ともいえる動力部分・モーターには、「高強度電磁鋼板」が使われています。低速から高速まで幅広い条件下でのモーター使用を可能にするため、低鉄損で高強度という相反する課題をクリアして商品開発に成功しています。

表面処理鋼板は主に「トタン(亜鉛)」、「ブリキ(錫)メッキ」、「自動車用鋼板」の3種類に分類できる

鋼板は圧延直後そのままの状態で使用すると、やがて表面が酸化、腐食します。そこで表面を亜鉛、すず、クロム、ニッケルなどの金属でめっきしたり、塗装やプリントをしたり、樹脂を被覆したり、さらには合金化するなどの表面処理が施されます。

(1)亜鉛めっき鋼板

冷延鋼板などに亜鉛めっき処理をした鋼板であり、耐食性に優れた表面処理鋼板の代表です。建築をはじめ自動車、家電製品など、各種の構造部材に広く使用されています。通称、「トタン板」と呼ばれています。
製造方法には溶融めっき法と電気めっき法の2種類があり、溶融めっき法の方が、めっき層が比較的厚く仕上がります。また、亜鉛のほかにアルミニウム、クロム、ニッケルといった合金元素を加え、それぞれの特性を発揮させた複合合金めっき鋼板もあります。
また、近年、環境負荷の高いクロメート(六価クロム)処理に依らないクロメートフリー亜鉛めっき鋼板が開発され、適用が進んでいます。

(2)塗覆装鋼板

プレコート鋼板はポリエステルなどの樹脂フィルムを貼りつけたもの、あるいは樹脂塗料を焼付塗装した鋼板で、塗膜には、加工性や耐疵付性、対汚染性、対候性などが要求されます。需要先での塗装工程が省略できる利点があり、家電製品、建材などに使われています。
塗装亜鉛めっき鋼板は、主に耐食性に優れた亜鉛アルミニウム合金めっきを下地に合成樹脂塗料を塗装、焼き付けした色彩豊かな鋼板です。

(3)ブリキ

圧延した薄板や帯鋼に錫(すず)めっきした鋼板で、錆びの発生を抑制し、次工程での塗装性、印刷性、はんだづけなどの加工・接合時に優れた特性を発揮します。食缶、飲料缶、18L缶(一斗缶)など各種容器に幅広く使用されています。また、すずめっきの代わりに電解クロム酸処理を施し、塗装性、印刷性に優れたティンフリースチールも開発され、各種容器に使われています。

高減衰性材料や機械部材、マンホール蓋素材までさまざまな用途で用いられる鋳鉄(cast iron)の知っておきたい6つの種類

Cを2.11~6.69%含むFe-C系合金で、この他にSi、Mn、P、Sを含有するものと定義されていますが、実用されている鋳鉄のC量は約2.5~4.0%に限定されたものになります。鋳鉄中に含まれているCは、炭化鉄すなわちセメンタイト(Fe3C)または黒鉛として存在しており、これらのCの全量を全炭素量(TC, total carbon)と言います。
鋳鉄の組織は主としてCおよびSiの量と鋳込み後の冷却速度に関係し、鋳物の性質に大きな影響を及ぼします。鋳鉄の断面組織を顕微鏡観察すると黒鉛が片状あるいは球状に晶出しているもの、黒鉛が存在しないものがあり、また基地はフェライト・パーライト・セメンタイトのとう組織からなっています。
鋳鉄の性質はこの基地と黒鉛の形状・量によって異なり、<表1>に示すように分類されています。

<表1> JISによる主な鋳鉄品の分類と特徴

分類とJIS番号 JIS記号 特徴と用途
ねずみ鋳鉄品(G5501) FC 黒鉛が片状で破面がねずみ色の鋳鉄品
球状黒鉛鋳鉄品(G5502) FCD 黒鉛の約70%以上が球状になっている鋳鉄品
オーステナイト鋳鉄品(G5510) FCA-NiMn
FCA-NiCuCr
FCDA-Niなど
素地がオーステナイト組織の鋳鉄、黒鉛は片状のものと球状のものとがある。化学成分による多種多様の用途がある
ダクタイル鋳鉄管(G5526) D
DPF
黒鉛が球状で,遠心鋳造によって製造される。水道、下水道、工業用水道、農業用水道などに用いる
可鍛鋳鉄 黒心可鍛鋳鉄(G5702) FCMI3 白銑鋳物として製造した後、黒鉛化焼なましを行ってねばり強さを持たせたもの、自動車部品、パイプ継手などに用いる
白心可鍛鋳鉄(G5703) FCMW 白銑鋳物として製造した後、主として脱炭焼なましによってねばり強さを持たせたもの。現在、日本ではほとんど生産されていない
パーライト可鍛鋳鉄
(G5704)
FCMP 白銑鋳物として製造した後、黒鉛化焼なましとパーライト組織の調整を目的とした熱処理を行ってねばり強さを持たせたもの

(1)ねずみ鋳鉄(片状黒鉛鋳鉄)(grey cast iron)

片状黒鉛と、基地がフェライトまたは多少のパーライトからなる標準の鋳鉄で、C3.0~3.6%、Si1.5~2.6%を含んでおり、比較的軟らかく灰色の破面を呈しています。一般に鋳物内部の黒鉛の部分はほとんど強度や延性は無く、特に片状黒鉛は内部切欠きの作用が著しいので素地の性能を損ない、鋳物全体の強度、延性および靱性を著しく低下させます。
長所は鋳造しやすく安価であり、切削が容易で耐摩耗性にすぐれていることです。
短所は前述の理由から引張強さが100~250MPaと低く、均質性に欠けることです。
<表2>にJISに規定されているねずみ鋳鉄の機械的性質を示します。

<表2> ねずみ鋳鉄の機械的性質
種類 記号 引張強さ
MPa
坑折性 ブリネル硬さ
HB
最大荷重N たわみmm
1種 FC100 ≧100 ≧7,000 ≧3.5 ≦201
2種 FC150 ≧150 ≧8,000 ≧4.0 ≦212
3種 FC200 ≧200 ≧9,000 ≧4.5 ≦223
4種 FC250 ≧250 ≧10,000 ≧5.0 ≦241
5種 FC300 ≧300 ≧11,000 ≧5.5 ≦262
6種 FC350 ≧350 ≧12,000 ≧5.5 ≦277
(JISG5501-1988より抜粋)

(2)球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)(spheroidal graphite cast iron, ductile cast iron)

鋳造したままで球状黒鉛の組織が得られれば強靱な鋳物ができます。球状黒鉛鋳鉄はダクタイル鋳鉄とも呼ばれ、引張強さが400~800MPa、伸びが2~15%と炭素鋼に匹敵する機械的性質を有しています。球状黒鉛鋳鉄は黒鉛の球状化を妨げる元素の少ない球状黒鉛鋳鉄用銑をキュポラや電気炉などで溶解し、鋳込む直前に取鍋の中の溶湯にMg合金(Fe-Si-Mg)を添加して球状化処理した後、鋳型に鋳込むことによってつくられます。
<表3>に球状黒鉛鋳鉄の機械的性質を示します。

<表3>球状黒鉛鋳鉄の機械的性質
種類 記号 引張強さ
MPa
伸び
シャルピー吸収エネルギー
(3個の平均値J)
(参考)
硬さHB
0種 FCD370 ≧370 ≧17 ≧13.0 ≦179
1種 FCD400 ≧400 ≧12 ≦201
2種 FCD450 ≧450 ≧10 143~217
3種 FCD500 ≧500 ≧7 170~241
4種 FCD600 ≧600 ≧3 192~269
5種 FCD700 ≧700 ≧2 229~302
6種 FCD800 ≧800 ≧2 248~352

(JISG5501-1988より抜粋)

(3)白銑(白鋳鉄)(white cast iron)

黒鉛が分離して存在せず、一般にパーライトとセメンタイトの共析晶からなり、白色の破面を呈しています。全体がセメンタイト組織になっているものは極めて硬く、一般の機械部品には用いられませんが、耐摩耗部品として用いられます。

(4)可鍛鋳鉄(malleable cast iron)

白銑組織の鋳鉄を高温で長時間焼きなまし、セメンタイトをFeとCに分解し、靱性や延性を増加させたものです。鋼材を鍛造してつくるには手数がかかって高価になり、鋳鋼ではつくりにくく、ねずみ鋳鉄では強度や靱性が不足する、このように他の材料・加工方法では対応が難しい場合に採用されます。具体例として、大量生産が求められる車両や自動車部品、管継手部品があります。

(5)合金鋳鉄(alloy cast iron)

普通鋳鉄成分にNi、Cr、Mo、V、Mn、Si、A1、Cuなどの元素を一種または数種加え、機械的性質の改善または耐熱性や耐食性の向上を図ったものです。

(6)チルド鋳鉄(chilled cast iron)

鋳込んだときに鋳物の表面が急冷されて硬い白鋳鉄になることをチル(chill)と言います。ねずみ鋳鉄よりSi量が少ない組成の溶湯を、金型または必要な部分に金型を付けた砂型に鋳込むと、金型に接した鋳物の表面はチルされて非常に硬くなりますが、内部はねずみ鋳鉄になり、これをチルド鋳物またはチル鋳物と言います。
チルド鋳物は全体として強靱でしかも耐摩耗性がすぐれているので、チルドロールやチルド車輪などの機械部品に使用されます。


鋳造加工については、他の記事で鋳造加工事業者の方へのインタビューを紹介しています。そちらも合わせてご参考ください。

まとめ

ここでは、その他鋼材(電磁鋼板・表面処理板・鋳鉄)について解説しました。
試作を考えている方で、鉄鋼材料の使用を検討している方は、ぜひ他記事と合わせてご参考下さい。