深穴加工のコツとは。外部給油式でも高い精度の深穴を実現できるドリルが誕生

金属加工の中でも難易度が高い深穴加工。現在はドリルの進化に伴って、径の50倍近い深さまで開けられるようになってきました。しかし、そこまで深い穴を開けるには、内部給油方式の特殊な機械が必要です。そのため、顧客から加工を依頼されても断らざるを得ないケースも多いのだと言います。そんな状況を打破すべく、特殊な機械がなくても径の20倍近い深穴加工を可能にするドリル「Crea Borer(以下、クレアボーラー)」を開発したのが西研株式会社です。今回は、広島県広島市にある西研株式会社に深穴加工の注意点や加工時のコツなどについて話を伺いました。

深穴加工について、工業用切削工具の製造や再研磨に携わって25年の西研に話を伺いました

広島県広島市に本社を構える西研株式会社は、1996年に工業用切削工具の再研磨からスタートし、現在は切削工具の製作も行っています。社内に国家資格である切削工具研削技能士の1級4人・2級4人が在籍し、内2人は検定委員の認定を受ける切削工具研削のスペシャリスト集団です。今回は、西研株式会社の専務取締役・土鼻耕司氏と営業課長・内藤毅氏、「クレアボーラー」の共同開発を行った株式会社ゴール米子工場の生産技術課プロフェッショナル・西村雄城氏に、深穴加工について教えていただきました。

特殊な形状により、特殊な機械がなくても深穴加工を可能にしたドリル「クレアボーラー」(提供:西研)
特殊な形状により、特殊な機械がなくても深穴加工を可能にしたドリル「クレアボーラー」(提供:西研)


深穴加工とは

一般的に「深穴加工」とは、工具の径の3倍を超える深さの穴を開ける加工を言います。金属に穴を開ける際は、ドリルの刃先に「クーラント」という冷却液を噴射し、冷やしながら作業を進めます。しかし、穴が深いと外部給油式の機械ではなかなか刃先まで届かないため、「径の10倍程度の深さが加工の限界」と言われています。ただし、内部給油式の特殊な機械を持っていれば、径の50倍近くの深さまで開けることが可能です。


深穴加工で起こりやすいトラブル

深穴加工を行う際には、次の3点に注意する必要があります。

1. 穴が曲がりやすい

深くなるだけ穴は曲がりやすくなります。そのため、1個作るために何十個も材料を用意して試し、一番曲がりの少ないものを使うことが多いです。

2.ドリルが折れる

穴が曲がるに伴ってドリルに曲がりの応力がかかったり、切り屑が溝に詰まったりして、ドリルが折れる問題が発生します。

3.切り屑が巻き付く

深穴を開けると、金属の切り屑がドリルの根元にタワシ状に巻き付きます。その結果、材料に傷をつけたり、巻き付いた切り屑が原因でドリルが折れてしまったりします。


深穴加工のコツ

深穴加工で失敗しないためには、次のような点に注意するといいでしょう。

1.ドリルの保持剛性、精度を高める

ドリルをチャックでしっかりクランプして、刃先の振れを最小限にしましょう。できるだけ大型の機械を使った方が保持剛性は高まります。

2. 材料をしっかりクランプする

ドリルだけでなく、材料もしっかりクランプしておくことが大切です。材料が不安定な状態のまま削ると、穴が曲がる可能性が高まります。

3.ドリルの種類をたくさん使う

一気に深い穴を開けるのではなく、短いドリルを使いながら少しずつ開けていくのがコツ。短いドリルでガイド穴をあけ、次にもう少し長いドリルを変えて真ん中まで開けて、最後に目的の長さのドリルに変えるなど、段階を踏むと曲がりにくくなります。


深穴加工の悩みを解決した、全く新しいドリル「クレアボーラー」の特徴とは

このように、真っ直ぐな深穴を開けることは、非常に難易度が高いことでした。その問題を解決するのが、西研が開発したドリル「クレアボーラー」です。このドリルを使えば、外部給油式の機械でもh7の高い精度で径の20倍までの深穴を開けることができます。これは今までの常識を覆す、全く新しい技術と言えます。

Φ4.0×10D の工具を使用して開けた深穴。40㎜ほどの厚みのある金属材にこれだけの加工をしても、穴同士が全くつながらないのは画期的(提供:西研)
Φ4.0×10D の工具を使用して開けた深穴。40㎜ほどの厚みのある金属材にこれだけの加工をしても、穴同士が全くつながらないのは画期的(提供:西研)


では、なぜ「クレアボーラー」を使えば精度の高い穴を開けることができるのか。その理由は、「1枚刃構造」と「外部給油でもクーラントが行き渡る特殊構造」という特徴によるもの。この特徴により、次の4つのメリットが生まれています。

1.外部給油式の機械でも、クーラントが先端まで行き渡る

一般的なドリルは2枚刃か3枚刃で、切り屑を排出させるために溝がねじれています。外部給油式の機械で深穴を加工する際、クーラントが先端まで届かないのは切り屑とクーラントの通り道が同一構造で、切り屑と一緒にクーラントも排出してしまうから。しかし、「クレアボーラー」は1枚刃で溝がとても広いので、切り屑を排出しつつもクーラントの通り道があり、先端までクーラントが届きやすいです。さらに刃先にクーラントを送り込むためのポンプ機能を持つ溝を2箇所つけることで、外部給油でもクーラントが行き渡る構造になっています。

2.切り屑の排出性が高い

ねじれの緩い溝から連続カール形状の切り屑を連続的に流出するため、切り屑は穴から抜けると根元に巻きつくことなく遠心力で飛んでいきます。そのため、巻き付きによるトラブルも発生しません。


一般的にはドリルに切り屑が巻き付いて故障や傷の原因になるが(左)、クレアボーラーを使えば、ドリルに全く絡みつくことなく遠心力で飛んでいく(右)(提供:西研)
一般的にはドリルに切り屑が巻き付いて故障や傷の原因になるが(左)、クレアボーラーを使えば、ドリルに全く絡みつくことなく遠心力で飛んでいく(右)(提供:西研)


3.低荷重でも穴が開けられる

1枚刃の「クレアボーラー」にはチゼルエッジが存在しないため中心刃までよく切れ、材料に強い負荷をかけることなく切り進めていくことができます。そのため、材料のクランプ強度が弱かったり不安定であったりしても真っ直ぐな深穴を開けることができます。

4.高い精度の深穴を開けられる

上記1〜3によりステッピング加工をする必要がないため、高い精度の深穴を実現できます。

「『クレアボーラー』には他にもさまざまな工夫を散りばめていて、例えば国際特許(参考情報1)も取得しています。径によっては最長30Dまで特注で対応が可能です。素材でも切削条件が変わりますので一度ご相談いただければと思います」(内藤氏)


クレアボーラーの切削条件(提供:西研)
クレアボーラーの切削条件(提供:西研)


クレアボーラーの導入実績

材 種 サイズ 穴深さ 穴曲がり
SS400 Φ4.0 20D(80) 0.012㎜
S45C Φ3.2 23D(73.6) 0.015㎜
S50C Φ2.0 30D 0.016㎜
S50C Φ2.0-Φ6 10D 0.01㎜
SCM440 Φ4.0 10D(40) 0.012㎜
SUS304 Φ4.0 10D(40) 0.012㎜
SUS316 Φ4.0 10D(40) 0.013㎜
SUS410 Φ2.0 20D(40) 0.015㎜
NAK80 Φ4.0 10D(40) 0.01㎜
A7075 Φ4.0 20D(80) 0.01㎜
C1100 Φ5.2 10D(52) 0.01㎜
インコネル718 Φ2-Φ6 10D 0.015㎜
Ti-6AL-4V Φ2.0 15D(30) 0.015㎜

 

一方、「クレアボーラー」のデメリットは加工スピードが遅いことです。1枚刃である分、2枚刃・3枚刃のドリルより切削条件は遅くなります。
「ただ、早く加工できても穴が曲がっていては意味がありません。『クレアボーラー』なら曲がりませんから、何個も試す必要がない分、結果的には早く仕上がります」(西村氏)

また、高性能な分、一般的なドリルよりも少し価格が高くなります。
「確かに一般のものより高いですが、外部給油式のままで精度の高い深穴加工が可能です。当然加工単価も高く設定できますから、数回深穴加工を請け負えば十分元が取れます」(内藤氏)


深穴加工の常識を覆したい

工業用切削工具の再研磨で創業した西研は、顧客に近い距離で要望に応えてきました。
「弊社の営業は製品開発の知識もあるので、お客さまの要望を吸い取りながら製造にフィードバックして良い製品を作ることができます。この『クレアボーラー』を第1弾として、どんどんお客さまの要望に応じた刃物を作っていきたいですね」(土鼻氏)

「『クレアボーラー』は携帯電話がスマートフォンに進化したような、今までとは全く違う画期的なドリルです。これを使えば高価な設備投資をしなくても、精度の高い深穴加工できると自信を持っています。これまでの常識に捉われず、ぜひ一歩踏み出して使ってみていただきたいですね」(内藤氏)


参考情報
・参考情報1:「国際特許番号WO2021/038651」の特許権者は「西研株式会社」「株式会社ゴール」、発明の名称は「深穴加工用1枚刃ドリル」です。


西研株式会社
広島県広島市に本社を構える、工業用切削工具の製造と再研磨の会社。特許も取得した外部給油式の機械でも径の20倍以上の深穴を高い精度で加工できるドリル「Crea Borer(クレアボーラー)」を開発。
西研株式会社 Crea Borer(クレアボーラー)