鋳造用木型製作で95年。職人技とデジタルの融合で、よりハイレベルなものづくりに挑む井上木型製作所

INTERVIEW

有限会社井上木型製作所
代表取締役 井上 馨
CAD室長 井上 雅博

鋳造用木型とは、その字の通り鋳物を作るための型です。鋳物は型に溶かした金属を流し込んで固めたものですが、金属によって膨張率や収縮率が違うため、そのことも加味して型を作らなければなりません。金属の収縮に合わせた、十数種類ある鋳物用の物差しを使いながら製作しますが、これは経験がものをいう世界だそうです。今回は、福岡県北九州市にある鋳造用木型製作を行う有限会社井上木型製作所に職人技とデジタルの融合で挑むよりハイレベルなものづくりについてお話を伺いました。

鋳造用木型について井上木型製作所にお話を伺いました

福岡県北九州市にある井上木型製作所は、1927年に創業した鋳造用木型を製作している会社です。ロボットの間接部品などの小さくて精密なものから10m近い船舶用舵まで、幅広い分野とサイズの木型を製作してきました。

10mクラスの大型木型製作も可能な、広い工場(提供:井上木型製作所)
10mクラスの大型木型製作も可能な、広い工場(提供:井上木型製作所)


古くから続く木型産業も近年はデジタル化が進んでおり、創業して95年となる同社も13年前から3DCADやCAMを導入。昔ながらの職人の手技による製作に加えて、NCマシンによる自動製作を行うデジタル部門を発足しました。デジタル部門では、自動車関連部品の治具や、浴槽やトイレなどのモックモデルの試作品なども製作。また、3Dスキャナーを使用した計測部門も準備中です。

今回は、鋳造用木型について、代表取締役である井上馨氏とCAD室長の井上雅博氏にお話を伺いました。


鋳造用木型とは。その役割や製作方法、制作に必要な技術とは

鋳造用木型とは、その字の通り鋳物を作るための型です。鋳物は型に溶かした金属を流し込んで固めたものですが、鋳造用木型はその原型を作るために使用します。


・鋳造の流れ
1.木で作りたい鋳物の形状(木型)を削り出す。
2.木型の周りに砂を置き、砂が固まったら木型を取り出す。砂のメス型(凹型)ができる。
3.2でできた砂型に溶けた金属を流し込む。
4.金属が冷えて固まれば、木型と同じ形状の鋳物が完成。

「鋳造メーカーは、私たちが製作した木型を基に砂で型を作ります。砂はケイ素なので100度以上の高温でも溶けないため、昔から鋳物を作る際には砂で型を作っていたようです。今は、砂に薬品を混ぜて炭酸ガスに入れておくと数分で固まるため、すぐに砂型を作ることができるんですよ」と、代表の井上馨氏は語ります。


・使用する素材
以前は、文字通り木や人工木材のケミカルウッドで製作していた鋳造用木型ですが、最近は発泡スチロールで作るケースが増えています。この変化が、NCマシンによる製作と非常にマッチしているのだそうです。
「3DCADで作った3次元モデルをNCマシンに落とし込めば、マシンが自動的に測って削ってくれる時代になりました。そのため、鋳造する個数が限られている案件……例えば同じ砂型を3つ作りたい場合は、木で作るよりも発泡スチロールをNCマシンで削って3つ作ってしまった方が、圧倒的に製作時間も早く単価も安いのです」(井上馨氏)


複雑な形状のものであっても、NCマシンを使えば短時間で削り出すことができる(提供:井上木型製作所)
複雑な形状のものであっても、NCマシンを使えば短時間で削り出すことができる(提供:井上木型製作所)


発泡スチロールで鋳造用の型を作るメリットとしては、次のようなものがあります。
・安価
・軽いので大きいものを作っても扱いやすい
・基本使い終わったら破棄するので、保管場所に困らない


ただし、10個や30個など複数個を作りたい場合や数カ月後に同じ型を使用したい場合には、発泡スチロールは不向きです。
「そういった場合は、木材やケミカルウッドで型を作った方が破損や摩耗などがほとんどありません。また、木材の方がその後の改造や修正がしやすいのもメリットです。そのため、弊社ではどんな形状のものを何個作りたいかなどによって、最適な素材をご提案しています」(井上馨氏)


・鋳造用木型製作に求められる技術
鋳造用木型製作には、図面に書かれているものを理解し、凹凸などを間違うことなく頭の中で3D化していく能力が必要です。また、金属によって膨張率や収縮率が違うため、そのことも加味して作らなければなりません。
「例えば、鋳鉄は縮みが少ないですが、ステンレスはすごく縮む。そういった金属の収縮に合わせた、十数種類ある鋳物用の物差しを使いながら製作していきます。これは経験がものをいう世界なので、新人がある程度木型が作れるようになるには、5年以上の年月がかかります」(井上馨氏)

また、いくらNCマシンを使えば自動で削り出せるといっても、機械の動きには限界があります。
「弊社にある機械は、曲面や複雑な形状のものは得意なのですが、箱型のものなどは人が手作業で行ったほうが圧倒的に早い。また、分割パーツが多いものも手作業が向いている場合もあります。そのため、形状によって機械か手作業かを使い分けますし、時には両方を活用したハイブリッドな作り方をすることもあります。弊社は知見が多いため、効率のいい最適な方法で製作できると自負しています」(井上馨氏)


大型のものや複雑な形状の鋳造用木型製作もお任せ

長年、木型製作を行ってきた井上木型製作所。創業当時はバルブ関連の仕事をメインで行っていたこともあり、曲面の加工が得意です。また、工場が広いことに加えて、長さが2m40cm、直径が1mほどのものまで加工できる超大型の木工旋盤を保有しているため、大きな型を作れるのが同社の強みです。
「もともと鐵工所用の旋盤機器を木工用に改良したものなのです。おそらく、西日本にはこの大きさの木工旋盤を持っているところはないのではないでしょうか」(井上馨氏)

今までに製作した木型で一番大きかったのは、10m近いサイズの船の舵。そのままでは運べないため、長さ5m、幅3m弱のサイズに分割して製作し、鋳物メーカーまで運んで組み立てました。


10mもの大きさになったラダーホーンの中子。ここまでのサイズの木型を製作できる工場を持つ会社はなかなかない(提供:井上木型製作所)
10mもの大きさになったラダーホーンの中子。ここまでのサイズの木型を製作できる工場を持つ会社はなかなかない(提供:井上木型製作所)


また、大きさだけでなく、複雑な形状のものにも対応しています。難しかったのは、船舶の大型タービンです。
「渦巻き状のものなのですが、詳しい図面がなくて。10度はこんな形、20度はこんな形……とセクションごとにしか書かれていなかったんです。それを元に作って、空気や水が滑らかに流れるように製作するのは非常に難しかったですね」(井上馨氏)


新事業にも鋳造用木型製作の技術を活用

井上木型製作所では、出荷前には3Dスキャナーを使用して木型の検査を実施。ヒューマンエラーやケアレスミスを防いでいます。この3Dスキャナーによる計測は、自社製品の検査だけでなく、クライアントからの要望にも対応しています。
「例えば、10年使用している木型をスキャンして元データと照らし合わせれば、10年でどの程度磨耗したかがわかります。計測できるサイズとしては、ネジ1本から車1台くらいのサイズまで対応しているので、木型に限らずご要望があればなんでも計測させていただきます」と語るのはCAD室長の井上雅博氏です。


3Dスキャナーを活用すれば、古くて図面が見つからない部品も正確に再現できる(提供:井上木型製作所)
3Dスキャナーを活用すれば、古くて図面が見つからない部品も正確に再現できる(提供:井上木型製作所)


他にも、元々図面がないものや古くて図面がなくなってしまったものを計測して、同じものを作ったり図面に起こしたりするニーズもあります。
「私たちは、ものづくりには自信があります。オーダーがあれば、たいていのものは形にできますが、図面がないと精度は落ちるのでお断りせざるを得ないこともあったんです。でも、3Dスキャナーで正確な数値がわかればお客様の『作ってほしい』に応えられるというのは、私たちにとってもうれしいことです」(井上雅博氏)

今後は、この3Dスキャナーを使って計測事業も展開していく予定です。
「計測だけ行っている会社もありますが、そういったところは計測をすることはできても形にすることができないところが多い。その点、弊社は計測からものづくりまで一本化できるのが強みだと感じています」(井上雅博氏)

長年、鋳造用木型をメインに事業を行ってきた井上木型製作所。今後は、木型製作で培った「ものを形にする技術」とデジタルを掛け合わせて、さまざまな要望に応えていきたいと考えています。
「これからは、木型屋ではなく『ものづくり屋』になりたいと思っています。ですから、企業はもちろん、プライベートなご要望でもぜひご相談ください」(井上馨氏)


有限会社井上木型製作所
1927年創業。福岡県北九州市で鋳造用木型製作を行う会社。大型の木型にも対応できる工場と設備を持つ。職人による手作業だけでなく、デジタル化を進めており、3DCADやCAMでの製作も可能。自動車部品製造に使用する治具などの製作も行っている。今後は、3Dスキャナーを使用した計測事業も展開していく予定。
井上木型製作所