接着剤で省エネルギー化?カーボンニュートラル時代に求められる接着・接合手法とは

世界各国がカーボンニュートラルに舵を切る中で、世界的なIT企業やメーカーなど民間企業の中には、サプライチェーン全体の省エネルギー化を目指し、取引先にも取組みを求めるケースが増えてきました。ものづくり産業では、この流れに対してどのような対応、対策が取れるのでしょうか?今回は「ものづくり産業における省エネルギーな製造プロセス」に注目し、セメダイン株式会社が提案する接着ソリューションについて具体的な製品事例を交えながらご紹介します。セメダイン株式会社 工業営業部工業材料グループ岡本周氏、技術部開発グループ緑川智洋氏、技術部技術グループ矢野慎吾氏(以下敬称略)にお話を伺いました。

省エネルギー化はものづくりのサプライチェーン全体で取り組まれる

世界各国がカーボンニュートラルに舵を切る中で、日本も2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指すと宣言しました。特定の業種だけではなく、産業全体・サプライチェーン全体で取り組んでいくことが重要であるとの考え方が広まっています。世界的なIT企業やメーカーなど民間企業の中には、サプライチェーン全体の省エネルギー化を目指し、取引先にも取組みを求めるケースが増えてきました。カーボンニュートラルへの対応を、経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的にも、成長の機会と捉える時代に突入したと言われています。

CO2の発生を抑える加熱不要な接着剤

部品組立の現場では、溶接や焼成など高温処理の過程でエネルギーを消費するシーンが多く見られます。また、硬化の過程で加熱を必要とする接着剤もあります。熱を使わずに強固な接着を可能にする接着剤についてお聞きしました。

常温で硬化するのに、熱硬化と同等の高い耐熱性を発揮

「自動車のモーターをはじめとした、耐熱性を求められる用途での接着には、熱硬化型エポキシ系接着剤が用いられるケースが多いのですが、接着部分を固めるために部品を組立ててから150~170℃の加熱炉で1時間程加熱する必要があります。加熱炉を高温で稼働させるためには大きなエネルギーがかかりますし、部品の大きさに応じて加熱炉のサイズ、消費エネルギーも大きくなります」(緑川氏)

それでも熱硬化型の接着剤が使われているのはなぜなのでしょうか。

「熱硬化型の接着剤は耐熱性に優れているためです。やはり用途によっては、耐熱性はとても重要なポイントになります。しかし、今回ご紹介する常温硬化接着剤メタルロック(R)シリーズは常温で硬化するのに耐熱性に優れているという特性があります」(緑川氏)

<図1> メタルロック(R)シリーズの硬化性(提供:セメダイン)
<図1> メタルロック(R)シリーズの硬化性(提供:セメダイン)


「熱硬化型エポキシ接着剤は120℃で加熱を開始してから徐々に固まり、1時間経つとしっかり固まる仕様です。一方でメタルロック(R)シリーズは常温でも立ち上がりが速く、その後徐々に硬化性を増し、2時間後には熱硬化型接着剤と同等の強度を示します<図1>」(緑川氏)

「完全硬化まで倍の時間を要しているので、一見すると生産効率が落ちるように見えますが、『立ち上がりの速さ』が効率の面でも大きなメリットを生みます。接着剤を用いて組立てた後、すぐにある程度硬化するので、次工程に早く進めることができるからです。例えばメタルロック(R)の場合、接着後に剥がれない強度に数分で到達するため、すぐ次工程に移すことができ、ラインを合理化できます。加熱する一液エポキシ系接着剤の場合は炉の中に入れている時間に加えて、冷却する時間も必要なので、次工程に進めるまでに1時間以上かかってしまいます。タクトタイムを短くするために冷却装置で急冷する場合にはその分追加でエネルギーを消費します」(岡本氏)

「自動車用途等では100~150℃の高温下での接着強度がポイントになりますが、多くの常温硬化の接着剤は耐熱性が低いので、100℃以上では軟化してしまいます。一方、メタルロック(R)シリーズは100℃以上でもある程度接着強度を保ちます。23℃のマイルドな環境で固めることができ、100℃以上の高温下でもハードな使い方ができるのがメタルロック(R)シリーズの特長です」(緑川氏)


UVトリガー硬化の特性を活かして作業の品質・効率も向上

次に、接着剤を硬化させるために、熱ではなく光のエネルギーを使用するUV硬化接着剤についてお聞きしました。加熱が不要で、かつ材料ロスの削減、作業性の向上といったメリットが期待されます。<図2>

<図2>UVトリガーによる硬化(提供:セメダイン)
<図2>UVトリガーによる硬化(提供:セメダイン)


「一般的にUV硬化型の接着剤は透明な素材(アクリルやガラス、プラスチック等)を接着する時に使われることが多いのですが、SX-UVシリーズは光を通さない材料同士でも接着できるという特長があります。光を当てた瞬間に固まるのではなく、光をトリガーとしてまず粘着性が発現し、そのあと本格的に固まっていくので、塗布した接着剤に光を当てた後に被着材を貼り合わせるといった作業が可能です。フラットパネルディスプレイのエッジの部分等、光を通さない材料同士も接着できます」(緑川氏)

「このような止水性・気密性を保持するシール用途には、両面テープが多く使われていました。ディスプレイの貼付けなどシール性を求める用途であれば四角い両面テープをロの字型に打抜いたものが使用されますが、その場合打ち抜いたあとの余白部分など、材料のロスが発生してしまいます。また両面テープの特性上、剥離紙のゴミが発生するという問題もあります」(矢野氏)

「近年大型化やデザイン上の要求(狭額縁化)が高度化しており両面テープを貼るという作業自体が難しく精密塗布可能な接着剤の使用が増え始めています。湿気硬化の接着剤やホットメルト系の接着剤は接着剤を塗布している傍から固まってしまうので、サイズの大きなディスプレイ等に用いる場合には適しませんが、SX-UVシリーズはUVを照射するまでは硬化しないので、より精密な塗布や貼り合せを実現できます」(緑川氏)


リワーク・リサイクルを促進し材料ロスや廃棄物を削減する接着剤

製造現場では、品質検査に通らず、不良品として部品や製品そのものが廃棄されることが一定の割合で発生することがあります。そこで、一度接着した部品同士をきれいに剥がせるようにすることで、部品を傷つけて無駄にしてしまうことなく再利用(リワーク)につなげ、材料ロスを防ぐ両面剥離型接着剤についてお聞きしました。<図3>

接着力を保ちながら目的に応じたリペア特性を持たせることができる

<図3>両面剥離型接着剤の塗布~リペアの工程(提供:セメダイン)
<図3>両面剥離型接着剤の塗布~リペアの工程(提供:セメダイン)


「両面剥離型接着剤は組立、検査、分解、回収等が必要な小さなプラスチック部品を組立てる際に使用することを想定しています。一度くっつけた後も剥がせるようにすることで、不良があってもリワークしたり、市中に出回った後もリサイクルしたりすることで材料の無駄を減らすことができます。接着剤の『くっつき方』を工夫することでそれを可能にしています」(矢野氏)

『くっつき方』の工夫とはどういうことなのでしょうか。

「接着の状態を上手くコントロールしてやることです。接着剤は、貼り合せた後時間とともに徐々に密着力・凝集力の強さが強くなり、剥がそうとする力をかけた時に被着材との界面で剥がれる状態(下図<図4>の界面破壊領域)から、接着剤部分で剥がれる状態(同図の凝集破壊領域)に移行します。これまでは、できるだけ早く凝集破壊領域に移行するように設計された接着剤が安定した接着力を持つ良い接着剤とされてきました。しかし、あえて界面破壊領域で留まるように設計すると、接着剤をきれいに剥がすことができ、リペアが可能になります」(緑川氏)


 <図4>界面破壊と凝集破壊の違い(提供:セメダイン)
<図4>界面破壊と凝集破壊の違い(提供:セメダイン)


界面破壊領域から凝集破壊領域へ移行するタイミングを指定してデザインすることもできるということでしょうか。

「そうですね、ある程度ご要望に応じてリペア可能時間を調整することは可能です。現在はお客様のニーズに合わせて2種類の製品をご用意しています。1つ目は組立工程の中でリワークできるが出荷後は強固な接着を保つ接着剤(BBX100)です。そして2つ目は製品が出荷され市中に出回った後も接着面を剥がして修理やリサイクルできるようにした接着剤(BBX130)です」(緑川氏)

「剥がせる接着剤と聞くと、『接着力が不十分なのではないか』という疑問を持たれるかもしれませんが、耐衝撃性や防水性等はしっかりと担保しています。例えばスマートフォンのディスプレイ等では接着機能に加えて、水・ホコリ・汗等の侵入を防ぐシール機能も求められます。落下等の衝撃を受けた後でもシール機能を発揮することはとても重要ですが、このあたりも試験によってしっかりと検証されています。一般ユーザーには簡単に分解できないものの、修理の際に分解する場合には、専用の工具を使って上手く力をかけることできれいに剥がせます」(矢野氏)

部品を再利用することで廃棄物を抑制することができ、新品部品を製造する際のCO2排出も抑えられますね。


接着以外の機能を併せ持つことで部品設計や組立工程も効率化

「リペアラブル放熱接着剤は電子部品などに使用される発熱体の基板接着時の使用を想定しています。発熱体の熱を逃がすために、放熱グリースや放熱シートが一般的に使用されています。しかし、放熱グリースは液状であるため流出することがあり、放熱効率が下がるばかりか、周辺を汚してしまうこともあります(ポンプアウト)。放熱シートは固形であるため立体的な部品にはフィットしづらく、放熱効率が下がってしまいます。また、必要な箇所に合わせてシートを打抜くので材料のロスが発生するという問題点もあります。
そこで、『固まるグリースを作ろう!』というコンセプトの下、放熱接着剤の開発を開始し、その後お客様と会話を重ねるうちにきれいに剥がせるという機能も追加することになりました」(緑川氏)


<図5>放熱グリース・放熱シートと放熱接着剤の比較(提供:セメダイン)
<図5>放熱グリース・放熱シートと放熱接着剤の比較(提供:セメダイン)


「放熱グリースや放熱シートを使用しているケースでは、基板への固定にネジを使っているのですが、放熱シートを使用する場合、ねじ固定のトルク管理をしないとシートがたわみ空隙が発生し放熱特性が落ちる課題があります。放熱接着剤は液状から固体に変わるため、液状時に塗り拡げれば空隙が発生することはありません。また、接着機能があるのでネジの使用本数を減らすことができたり、用途によってはネジ自体が不要になったりする場合もあります<図5>」(岡本氏)

リペアラブル放熱接着剤の使用イメージ(提供:セメダイン)
リペアラブル放熱接着剤の使用イメージ(提供:セメダイン)


放熱性能を上げることで、製品の長寿命化に貢献するだけでなく、剥がすことができるのでリワーク・リペア時の部品のロス削減も期待できます。また、ネジによる固定箇所を減らすことで、製品の小型化・軽量化や部品・材料の削減につながりますね。

バイオマス原料を採用した持続可能な接着剤

セメダインでは接着剤メーカーとして初めてバイオマス原料を用いた製品Super X Natura(R)(以下スーパーXナチュラ)を開発しました。その意義や開発の苦労についてお聞きしました。<図6>

<図6>バイオマス原料(ホタテの貝殻)を用いたスーパーXナチュラが描くCO2の循環(提供:セメダイン)

 

 

「セメダインも環境に配慮したものづくりを実践していくべきだという考えの下、お客様のものづくりにおけるCO2排出量削減だけでなく、接着剤から排出されるCO2も減らす取り組みをはじめてみようということになりました。その第一弾として、これまで非再生資源の原料を使っていた成分を、ブルーカーボンで注目されるホタテの貝殻由来の原料に置き換えることで50%バイオマス由来の接着剤『スーパーXナチュラ』が誕生しました」(矢野氏)

バイオマス原料を使った接着剤開発は業界でも初めての試みということですが、どのようなところに苦労があったのでしょうか。

「やはり安定した材料供給は課題でした。製品の信頼性・安定性を見極める試験にも多くの時間をかけました。天然由来のものなので、自然に左右されることも十分想定されます。しかし、そのような課題に対応していくことは、これからの時代求められるようになると考えています。現在ホタテの貝殻の有効利用に取り組まれているメーカーさんと協業し、原料を供給してもらっていますが、今後は他の自然由来の素材も継続して探索していきたいと考えています。

接着剤にバイオマス原料を用いることはお客様の事業に与えるインパクトはまだ小さいかもしれません。しかし、より高い目標を掲げ、将来を見据えて今後取り組んで行くべき活動だと考えています」(矢野氏)


これからのものづくりに接合技術革新で貢献していく

CO2削減に向けて、ものづくりの現場でも様々な取り組みが行われています。その中でも製品の軽量化・小型化・電気化といった課題に対応する製品開発に各社しのぎを削っています。セメダインはものづくりにおける接合技術を革新することで、それらの課題を解決し、ものづくりに貢献しようとしています。

「これからの接合技術に求められる課題の一つとして異種材料間の接合が挙げられます。金属に代わり、軽くて丈夫なCFRPなどの新材料を採用する際には接合方法も重要な検討ポイントとなります。従来の溶接やボルト、ネジによる機械接合が難しいケースが多く、異材接合特有の熱ひずみや応力集中による強度低下などの課題もあるため、設計の自由度が制限されてしまうからです。
私達はこのような課題を解決するため、異種材接着が可能で、熱ひずみや応力集中を緩和し、過酷な環境下でも優れる接着剤の開発を行っています。お客様と一緒にこれからの接着剤を考えていきたいと考えておりますので、具体的なご相談をお待ちしています」(矢野氏)


参考情報
・メタルロック、Super X Naturaはセメダイン株式会社の登録商標です。



セメダイン株式会社
1923年の創業以来、日本初の合成接着剤メーカーとして「つける技術」をモノづくりのソリューション技術として提供し続けている。その技術は輸送機製造や交通システム、産業機器製造、電気製品・電子部品製造に広く採用されているほか、ビルや住宅、各種インフラやテーマパークなど多くの建設現場を支えている。
ご紹介した製品の詳細 スーパーXナチュラ特設サイト