真空熱処理のメリットとは? 九州福岡で真空炉を用いた高品質の熱処理を行う賀川熱処理

INTERVIEW

有限会社賀川熱処理
代表 賀川 勝徳

金属に熱を加え、硬くしたり軟らかくする金属熱処理。金属熱処理にはいくつかの方法がありますが、炉内を真空にした状態で加熱を行う真空熱処理は、酸素に触れないため、表面の酸化や脱炭を防ぐことができ、酸化膜ができないので後処理の工程が少なくて済むほか、硬さにムラもなく光輝性を持った仕上がりになると言います。今回は、福岡県古賀市に本社を構え、真空炉による金属熱処理を行う有限会社賀川熱処理に真空熱処理のメリットについてお話を伺いました。

福岡県古賀市に本社を構える有限会社賀川熱処理は、真空熱処理炉を使用した金属熱処理を手掛ける企業です。2000年の創業当初より、表面処理の需要増加トレンドを見越し、真空熱処理に特化してきた同社。小回りの利く小型炉と高い提案力により、製造のリードタイムを半日縮めることも多々あると言います。同社の取り組みについて代表の賀川勝徳氏にお話を伺いました。

真空熱処理は、今後ますます求められる技術。小型炉で差別化して事業を拡大

賀川熱処理は、真空炉を使った金属熱処理(焼入れ・焼戻し)により鋼に硬度を与えたり、銅の焼鈍を行ったりする事業を手掛けています。例えば、金属に熱を加えることで、治工具を硬くして高寿命化に寄与したり、圧着端子など初期加工時には硬さにムラのある部品を一定の軟らかさに戻したりといったことを行います。
「創業時から、真空熱処理が専門です。その理由は、私自身も真空炉の製造や金属の熱処理を行う企業の出身であったこと。また、かねてより治工具の高寿命化の必要が叫ばれており、熱処理のニーズが増しつつあることを感じていたからです。熱処理後に表面処理を行うならば、他の方法より後工程が少なく、酸洗いが不要で環境にも優しい真空熱処理が適しています。すでに真空炉を持つ企業は、大型の炉を保有しているところが多かったため、当社は小型の炉に特化することで差別化を図りました」と代表の賀川氏は語ります。


賀川熱処理の真空熱処理炉(提供:賀川熱処理)
賀川熱処理の真空熱処理炉(提供:賀川熱処理)


酸洗いが不要で環境にも優しい。真空熱処理のメリットとは

表面熱処理には、いくつかの方法があります。主な方法は次の3つです。

真空熱処理

炉内を真空にした状態で加熱を行います。酸素に触れないため、表面の酸化や脱炭を防ぐことができます。酸化膜ができないので後処理の工程が少なくて済むほか、硬さにムラもなく、光輝性を持った仕上がりになります。

真空熱処理で熱処理を施した金属。光輝性があり、美しい。(提供:賀川熱処理)
真空熱処理で熱処理を施した金属。光輝性があり、美しい。(提供:賀川熱処理)


塩浴熱処理(ソルトバス熱処理)

ソルト液(塩化ナトリウムなどを原料とした薬剤)に金属を浸した状態で加熱する方法です。ソルト液により熱が全体に均一に伝わりやすい、脱炭が少ないという特徴があります。

浸炭熱処理

金属の表面に炭素を染み込ませてから焼入れを行います。通常では焼入れできない低炭素金属の表面に浸炭をすることで、表面は固く内部は軟らかい素材を作ることができます。



特に、真空熱処理には次のようなメリットがあります。

・酸化膜ができない
炉内で空気と触れていないため、金属の表面に酸化膜ができません。酸化膜は、その後加工を行う部品の場合には除去(酸洗い)する必要があります。
「真空熱処理では酸洗いが不要なので、後処理のプロセスを1つカットすることができます。また、酸洗いに用いる強酸の薬品は環境面への悪影響も大きいと言われています。実際、環境への配慮を理由に真空熱処理へ移行したお客様もいます」(賀川氏)


・硬度のばらつきが少ない
真空炉では空気に触れないため、ほぼ脱炭が起きません。そのため、硬度のばらつきが少なくなるというメリットがあります。


・歪みが少ない
熱処理では焼入れ後の急冷により、製品の表面と内部で温度差が生じ、どうしても製品にねじれが生じてしまいます。

「真空焼入れの場合は、油冷で行うよりも冷却スピードが遅くなるため、生じる内外の温度差も小さくて済む。結果として歪みも少なくなります」(賀川氏)


・光沢のある仕上がり
電気炉などで加熱すると、酸化して金属の表面が真っ黒になってしまいますが、真空焼入れは、ほぼ焼入れ前の見た目のままです。
「エンドユーザーの目に触れる部品の場合には、お客様も見た目を非常に気にしています。そのため、表面加工しない部品に関しては、光輝性のある仕上がりを重視されているようです」(賀川氏)


真空熱処理炉を改造したことも。「どうしたら実現できるか?」の発想での提案力にも定評あり

歪み検査の様子(提供:賀川熱処理)
歪み検査の様子(提供:賀川熱処理)


真空熱処理の技術は、歪みの少なさに現れるそうです。薄物や異形状を得意とする賀川熱処理は、10年以上のノウハウにより限りなく歪みを抑えた熱処理を提供しています。
「当社の場合は厚さ0.5mmの薄物まで対応したことがあります。また、『1mmくらいの厚みの部品の熱処理を他社に依頼したら、数mm単位の歪みが出てしまった』と、当社に依頼していただいたことがあります。その際は0.15mmの歪みに収めて納品しました」(賀川氏)

また、同社は技術力だけでなく、提案力でも評価されています。
「医療業界に新しく進出したいというお客様から、ピアノ線のような細いカテーテルの先端だけを加工して、形状を記憶したいとご相談をいただいたことがあります。最初他社へ依頼したら対応できなかったそうなのですが、当社でやり方を工夫して製品化にこぎつけました」(賀川氏)

カテーテルであるため、先端は固くてもそれ以外は軟らかくなくてはいけません。つまり、先端だけ加熱し、先端以外は固くなる温度以下に留める必要がありました。
「もともとの真空炉だとそれは不可能だったため、先端だけが加熱されるように炉を改造しました。ここまでの工夫や提案は、他の企業ではなかなか行われないことだと思います」(賀川氏)

同社のお客様は、福岡近隣の中小企業が多いとのことですが、小型炉のメリットを生かした短納期対応も大変喜ばれているそうです。
「真空での焼入れ・焼戻しを行っている企業は、九州全域でも数社しかありません。当社は容量100kgで1200℃までの焼入れ炉を2台、容量50~200Kgで650℃までの焼戻し炉を3台保有しています。他社は、500kg~1t程度の中型・大型炉を保有している企業が多いので、少量多品種や短納期になかなか対応しづらい。ですが、当社では他社で『2日かかる』と言われたものを翌日に仕上げたこともありますし、朝お預かりして夕方納品と、リードタイムを半日縮めた実績もあります。輸送のタイムラグを考えても、関西エリアくらいでしたらリードタイムが縮まる可能性は十分あると思います」(賀川氏)


見えない部分だからこそ正直に。真空熱処理炉も人も増やし、より柔軟な対応を目指す

本社工場の外観(提供:賀川熱処理)
本社工場の外観(提供:賀川熱処理)


金属の表面熱処理は、硬さに寄与する工程であるため、お客様からすると目で見ても変化がわかりません。だからこそ、賀川氏は「正直であることを意識している」と言います。
「納品時に品質検査を行って納品していることはもちろんのこと、年に1度、炉内の温度分布の点検と、ヘリウムディテクターを用いたリークの検査も欠かさず行っています。

あとはチャレンジ精神を大事にすること。どんなご相談でも、1回はトライしてみて、なんとか形にしていきたいと思っています。実際に取り組んでみると、初回の仕上がりでお客様に満足いただけることが多いですし、2回目以降は治具なども調整するのでさらに精度を上げることが可能です」(賀川氏)

また、もともとの真空炉も自身の経験やツテを生かし、低コストでの設備導入を実現していましたが、今は自社で真空炉を作ろうとしているそうです。
「それにより、さらなる低コスト化や柔軟な対応に磨きをかけたいと思っています。そのための増員も進めており、より一層の短納期・高品質を目指していきます」


有限会社賀川熱処理
福岡県古賀市に本社を構え、真空炉による金属熱処理を行う。自動車・半導体関連の部品や治工具を主に手掛け、特に薄物の熱処理を得意とする。九州でも真空焼入れ・焼戻しを手掛ける企業は数社にとどまる。小型の真空焼入れ炉を2台、焼戻し炉を3台保有し(2021年10月現在)、高い提案力と短納期に定評あり。
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