超音波や光で血管を内側から診る。日進月歩で進化を続けるカテーテル治療〜血管内イメージングデバイス(前編)

INTERVIEW

テルモ株式会社
鬼村 祐治

心臓カテーテル治療は、心筋に血液を送る冠動脈が動脈硬化などにより狭くなった(狭窄)部分を拡張するために行われる治療方法であり、具体的には直径1mm程度の細いカテーテルを冠動脈に挿入し、拡張用バルーンやステントなどの治療用器具が挿入されます。2020年の厚生労働省の人口動態統計によると、日本人の死因の第2位は心疾患で約15%を占めています。日本では、近年、手術前後に血管の状態を調べる血管内イメージングの普及が進み臨床成績の向上に寄与しています。

医療機器メーカーのテルモは、1980年代からカテーテル治療用の機器の開発に取り組んでおり、カテーテルそのものだけでなく、治療をサポートするイメージング技術の開発も行っています。今回は、血管内イメージングデバイスに注目し、同開発に携わってきたテルモ株式会社鬼村氏に、超音波を利用したIVUSと光(近赤外線)を利用したOFDIという血管内イメージング技術の概要についてお伺いしました。

心臓血管手術の歴史〜バイパス手術からカテーテル治療へ

一般的な心臓カテーテル手術のイメージ(提供:テルモ)
一般的な心臓カテーテル手術のイメージ(提供:テルモ)


「以前は、狭窄した箇所を迂回する新たな血管を設けるバイパス手術が冠動脈治療の主流でした。しかし、侵襲性が高く、高齢になると手術に耐えられないことから、70年代に入ってバルーンを挿入して血管を広げるバルーンカテーテルによる治療が導入されます。しかし、この治療には血管を急激に広げたことで体が反応し、手術後、血管が急に閉塞することが数%程度起こるという大きな課題がありました。

そこで、80〜90年代にかけて開発されたのが、金属製のステントで物理的に血管を支えるという方法です。それにより、カテーテル治療直後の急性冠閉塞が起きにくくなりました。それでもまったく問題がないわけではなく、身体がステントを異物として認識して炎症反応を起こした結果、周囲の細胞が増殖し、再狭窄が起きる確率が20〜30%程度ありました。そのため、現在はステントの表面に免疫抑制剤などが塗布された薬剤溶出性ステント(DES)が主流になっています」(鬼村氏)

テルモが血管内治療用カテーテルの分野に参入したのは、1985年のこと。最初に開発したのは、カテーテルを挿入する際の補助となるガイドワイヤーでした。金属表面に樹脂コーティングをほどこして滑りを良くしたガイドワイヤーは、医療業界で高く評価され、世界的シェアを獲得。その後のカテーテル関連製品の開発に拍車をかけることになります。


IVUS(血管内超音波検査法)では、血管壁の厚みや血管組織の性状まで把握できる

IVUS(血管内超音波検査法)で撮影した血管内の写真(提供:テルモ)
IVUS(血管内超音波検査法)で撮影した血管内の写真(提供:テルモ)


鬼村氏が開発を手がけるイメージングデバイスは、現代のカテーテル治療に不可欠なものとなっています。治療を実施するには、まず病変部の状態を把握し、診断や治療方針の決定を行う必要があります。そのため、医師は血管内の様子をできるだけ詳細に知りたいのです。

「以前は血管内に造影剤を流してX線により血管の形状を捉えるアンギオグラフィー(血管造影検査)のみでの診断がスタンダードでした。しかし、それだと血液が流れる血管の内側の大きさや形はわかっても、血管壁の厚みや血管組織の性状までは把握できません。そこで発明されたのが、『血管内超音波検査法(Intravascular Ultrasound、以下IVUS)』です」(鬼村氏)

IVUSは、先端に超小型センサーを搭載した細いカテーテルを冠動脈内に挿入し、病変部まで通し、センサーから発信される超音波で血管内の断層画像を取得する手法です。超音波は血管の表面より深くまで到達するため、血管内膜から外周まで広範囲にスキャンすることができるという特徴があります。また、画像を統合することで横断面だけでなく縦断面も見られるため、狭窄部分の長さなど、血管の全体像を把握することも可能です。他にも、腎機能に負担をかける造影剤を使わなくても検査できるというメリットもあります。

「テルモは30年ほど前に乳がんの超音波診断装置を発売しており、その技術を応用することにより日本で初めてIVUSの開発に成功しました。IVUSには、2種類の方式があります。1つは、1個のセンサーを回転させて一周分の画像を得る機械式。もう1つは、超音波センサーをカテーテルの先に円周状に敷き詰めて一度に広範囲の画像を得る電子式です。機械式は回転させることによりブレが生じ、画像が歪むというデメリットがある反面、大型のセンサーで高精細な画像を得られるというメリットがあります。一方、電子式は回転させないため歪みが生じにくいのですが、各センサーが小型になるため低画質になってしまいます。テルモでは、機械式を採用していますが、ガイドワイヤーや高性能カテーテルで培った技術を用いてブレを防ぎ、歪みの少ない画像を得ることを可能にしました」(鬼村氏)

テルモが開発したIVUSは2000年に製品化され、国内限定で発売されました。その有用性は広く認められ、現在では心臓カテーテル治療における、IVUSの使用率はテルモ製の製品も含め90%以上に達しているとのことです。


OFDI(光干渉断層診断法)は高い画像の分解能を活かし、薄い被膜の厚みや断層が分かる

OFDI(光干渉断層診断法)で撮影した血管内の写真(提供:テルモ)
OFDI(光干渉断層診断法)で撮影した血管内の写真(提供:テルモ)


心臓カテーテル治療において優れた実績を上げているIVUSですが、弱点もあります。画像から情報を読み取るのが難しいのです。

「高齢者では、冠動脈が石灰化して硬くなっているケースがよく見られます。そうなるとステントを入れても血管が広がらないため、血管の内壁を削る処置を行う必要が出てきます。しかし、IVUSの画像では固い石灰化プラーク表面で超音波が反射するため、厚みなどの背後の情報が得られません。また、脂質などが蓄積し、薄い被膜で覆われたTCFA(Thin-Cap Fibroatheroma)と呼ばれるプラークができることがあります。この被膜が何らかの要因で破れると中の脂質が漏れ出して、心筋梗塞を引き起こすリスクがありますが、破れやすさにつながると考えられている被膜の厚みをIVUSで正確に読み取るのは困難です。そのため、より画像の分解能を高めたイメージングデバイスが求められるようになりました」(鬼村氏)

そこでテルモが開発に取り組んだのが、光干渉断層診断法(Optical Frequency Domain Imaging、以下OFDI)と呼ばれる手法です。

「IVUSでは超音波により血管をイメージングしていましたが、OFDIでは光を使います。カテーテルの先端部から1,300nmの近赤外線の光を照射し、血管から反射された光と装置内のミラーに反射させた基準となる光を重ね合わせ、その干渉の度合いをシグナルとして検出するのがOFDIの原理です。それにより、IVUSより格段に高い分解能の画像を得ることができ、より薄い被膜を測定できます。また、超音波では難しかった石灰化の背後を映し出すことができるため、石灰化プラークの厚みも詳しく観察できます」(鬼村氏)

光干渉断層技術は1991年に発明され、当初は眼科治療で使われていましたが、循環器治療でも応用されるようになります。テルモは2004年からOFDIの開発に着手。10年近くの歳月をかけて、2013年に、OFDI血管内画像診断装置「ルナウェーブ(R)」とOFDIカテーテル「ファーストビュー(R)」を国内で販売開始しました。

「OFDIはコンソールとディスポーザブルのカテーテルを組み合わせた大型の装置であり、かつ光干渉という新規技術導入からのスタートだったので研究開発にはかなりの時間と労力を要しました。大量の試験データが必要になるため、最初の臨床試験から薬事承認が下りるまで数年かかっています。部品点数も多く安全性の検証や量産体制の構築にも苦労しました。」(鬼村氏)


1本のカテーテルにIVUSとOFDIの両方を搭載する、デュアルセンサーシステムを開発中

OFDIは分解能に優れているものの、IVUSと比較すると利便性がトレードオフになっています。近赤外線は波長が短いため、そのまま用いると赤血球などに散乱されてモヤがかかったような不鮮明な画像しか得られません。そのため、造影剤を血中に流し込んで使用しなければならないのです。

「IVUSとOFDIはどちらが優れているというわけではなく、それぞれ得意・不得意があります。医療の現場では両方が必要とされており、医師は病変の性状に応じて使い分けています。当社はIVUSとOFDIの両方を販売している唯一のメーカーであり、それが大きな強みになっています。現在、1本のカテーテルにIVUSとOFDIを搭載し、一回の検査で両方の画像を取得するデュアルセンサーシステムの開発を進めています。すでに大きなニーズがあることが分かっていますので、完成すれば広く普及すると期待しています」(鬼村氏)

IVUSとOFDIにより血管の状態を詳細に可視化できるようになりましたが、画像から正確に情報を読み取り、治療方針を判断するには、やはり医師の習熟した技術と経験が必要とされます。そのため、テルモでは菊名記念病院とともに、AIを活用して画像情報や患者情報を分析し、迅速で正確な治療を行えるようにする治療支援技術の開発に取り組んでいます。血管径やプラークの断面積を自動計測したり、患部に最適なサイズのステントを自動で選択できるようになれば、カテーテル治療の質が大きく向上すると期待されています。

このように日進月歩で進化を続けるカテーテル治療ですが、医療の現場ではそれがどのように実感されているのでしょうか。後編では、カテーテル治療に長年取り組んできた医師の声をお伝えします。

文/高須賀哲

 

参考情報
・ルナウェーブは、テルモ株式会社の登録商標です。
・ファーストビューは、テルモ株式会社の登録商標です。

 

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