衛星データから分析。新型コロナのパンデミックの前後で何が変わったのか?〜社会課題を地球規模で解決する衛星データとは(後編)

INTERVIEW

宇宙航空研究開発機構
地球観測研究センター 主任研究開発員
大吉 慶

社会課題を地球規模で解決する衛星データに注目する本連載。後編では、地球観測衛星によって収集された衛星データの分析事例について紹介します。引き続きJAXA(宇宙航空研究開発機構)地球観測研究センター主任研究開発員の大吉氏に、地球観測衛星による衛星データを用いた、農業や新型コロナのパンデミックの前後での地球環境や社会経済活動の変化の分析事例についてお伺いしました。

JAXAから農林水産省へ提供された衛星データは農業被害の監視や農業統計の改善に利用

──── 地球観測衛星の具体的な活用事例についてはどうでしょうか。

大吉氏(以下同):
地球観測衛星の農業分野での活用事例として、例えば国内の事例として農林水産省との農業気象監視システムに関する協力、海外の事例ではカンボジアとの農業統計改善プロジェクトなどがあります。

農林水産省とは十年間くらい前から、世界の主要耕作地における気象や土壌水分量などの情報をJAXAが構築した農業気象監視システムを通じて提供させていただきましたが、技術協力をし、本システムを農水省に移管しました。2021年1月から農林水産省が自前のシステムとして運用しています。このシステムで使っているデータは移管する前のシステムと同様に、JAXAが作成して品質管理したものです。(参考文献1)


──── JAXAがデータを提供しているのですね。

はい。農林水産省が毎月出している食料安全保障月報(旧海外食料需給レポート)における各国の作物の生育や収穫の見通しにおいて、衛星で観測された降水量や土壌水分量などの情報が活用されております。異常気象は世界中で頻発していますが、情報提要システムを活用することで、世界中の主要耕作地について、平年と比較して降水量が多い、少ないなどが簡単に閲覧できるようになっています。

このシステムは前述したとおり、JAXAから農林水産省へ移管していますが、移管の際に耕作地図や平年値の更新、行政界ごと領域平均値の計算方法の改良など、これまでの知見を生かした機能向上をしており、現在も洪水などによる農業被害の監視など、新たな機能向上について共同で検討しているところです。


<図1>食料安全保障月報(旧海外食料需給レポート)の例(2022年1月 第7号)。衛星データから観測された土壌水分量の平年差が南米のトウモロコシと大豆の生産の見通しに活用(提供:農林水産省)
<図1>食料安全保障月報(旧海外食料需給レポート)の例(2022年1月 第7号)。衛星データから観測された土壌水分量の平年差が南米のトウモロコシと大豆の生産の見通しに活用(提供:農林水産省)


──── 地球観測衛星を利用した国内のデータにはほかにどのようなものがあるのでしょうか。

農林水産省はDX(デジタル・トランスフォーメーション)としてデジタル地図を活用した農地情報の管理を推進しており、その中で圃場のベースマップの更新、圃場の状況把握(作付け作物、耕作放棄地など)などにおいて衛星データの活用が期待されております。


──── もう一つの事例であるカンボジアのプロジェクトはどのようなものですか。

そのプロジェクトでは、カンボジアの雲が多い地域特性のため、雲を透過して耕作地の観測ができるマイクロ波(合成開口レーダ)を使って米の作付け状況をしました。やはり途上国の場合、農業統計が不正確だったりします。特に東南アジアは二期作なので、統計を作成する手間も大きく、なかなか正確な統計の作成に課題があります。そこで地球観測衛星から把握した米の作付け情報を活用して、農業統計の正確性を高めていこうというプロジェクトをカンボジアの農林水産省の計画統計局と協力して2017年から実施しており、衛星データ活用することで農業統計が改善できることが確認できました。


──── 農作物を地球観測衛星から観測するためにはAIなどを使っていますか。

はい。AIの技術は地球観測衛星のデータでも使われています。衛星データから作付けを推定するため、例えば米なら水田で実際に作付けされた圃場の判別に機械学習を使っています。AIを使うことによって、これまでより高精度な作付け状況の分析ができるようになりました。

カンボジアの農業統計改善プロジェクトでもAIを用いたデータ解析手法を活用しました。衛星データの解析結果と実際に地方から中央省庁に報告されてくる米の作付け面積を比較して再検証した結果、対象とした村のうち、半分くらいの村では作付面積の修正が必要であることが分かりました。また、作付けしてはいけない自然保護区域での作付け事例も確認することができました。


<図2>JAXAのレーダー衛星(ALOS-2:だいち2号)による東南アジア各国での水稲監視の例(提供:宇宙航空研究開発機構(または JAXA))
<図2>JAXAのレーダー衛星(ALOS-2:だいち2号)による東南アジア各国での水稲監視の例(提供:宇宙航空研究開発機構(または JAXA))


衛星データは農業関連の政策立案に関わる意思決定などの基礎情報に

──── 国際的な協力も行っているのですね。

そうです。日本の農林水産省への農業気象情報提供と同じようなことを、東南アジアでの水稲の作況判断で行っています。降水量、干ばつ指数、日射量、地表面温度、土壌水分量、植生指数といったデータをウェブシステム(JASMIN)を通じて東南アジア各国に提供しています。東アジア、南アジア、東南アジアの各国について、半月ごとに最新の情報に更新されます。

アジア地域は米の一大生産地ですから、国内消費以外に輸出もしていて、この地域での米の作況状況は経済活動や食料安全保障上、重要なものになっています。そのため、JAXAの地球観測衛星から観測される農業気象情報をASEAN各国に提供し、ASEANの農業統計に関わる地域センターであるASEAN食料安全保障システム(AFSIS)やASEAN各国の農業統計官らと協力して各国の水稲の生育状況や収穫量の見通しに関するレポートを毎月作成しています。(参考文献2)


<図3>JAXAの地球観測衛星による農業気象情報提供システムのデータと2019年9月のミャンマーの降水量のレポートの例(提供:宇宙航空研究開発機構(または JAXA))
<図3>JAXAの地球観測衛星による農業気象情報提供システムのデータと2019年9月のミャンマーの降水量のレポートの例(提供:宇宙航空研究開発機構(または JAXA))


──── 米以外にも重要な穀物があります。

もちろん、米やアジア地域だけではなく、先程述べた全球農業監視プロジェクトGEO・GLAM(Group on Earth Observations・Global Agricultural Monitoring)では、各国の宇宙機関や農業関連機関と連携して衛星データと現地の情報を活用してトウモロコシ、コムギ、ダイズといった主要穀物の作況情報を毎月作成しています。この中で米は生産と消費の90%以上がアジアであるため、JAXAはアジア各国の宇宙機関などと連携して、水稲の観測を通じて本プロジェクトに貢献しています。

GEOGLAMで作成される作況情報は、国連食糧農業機関(FAO)などが運用する農業市場情報システム(AMIS)に提供されています。AMISにおいては、各国から報告される生産量、備蓄量、輸出入量などと併せて、衛星による客観的な作況情報として、食料の需給バランスの分析に用いられており、農業関連の政策立案に関わる意思決定などの基礎情報として役立っています。


──── 全地球規模で観測できる人工衛星ならではの活動ということですね。

こうした活動は、やはり各国の研究者や担当官らが一緒になって協力し合わなければうまく推進できません。そのため、私たちは機会を得てはワークショップを開催するなどして集まって情報や認識の共有に努めています。現在はコロナ禍でなかなか関係者が物理的に集まるのは難しいですが、ウェブ会議やSNSツールなどを活用して関係の強化に努めています。


大吉慶(おおよし・けい)
宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター 主任研究開発員
2007年、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻博士課程修了、博士(環境学)。東京大学生産技術研究所特任研究員、京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻助教を経て、2011年4月より宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター勤務、主任研究開発員。地球観測衛星データ解析に関する研究開発、農業分野などでのデータ利用推進業務に従事(提供:宇宙航空研究開発機構(または JAXA))
大吉慶(おおよし・けい)
宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター 主任研究開発員
2007年、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻博士課程修了、博士(環境学)。東京大学生産技術研究所特任研究員、京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻助教を経て、2011年4月より宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター勤務、主任研究開発員。地球観測衛星データ解析に関する研究開発、農業分野などでのデータ利用推進業務に従事(提供:宇宙航空研究開発機構(または JAXA))


衛星データで新型コロナのパンデミックの前後での地球環境や社会経済活動の変化を分析

──── 新型コロナウイルス感染症の影響についてなにか観測しているのですか。

これについては、JAXAはNASA(米国航空宇宙局)、ESA(欧州宇宙機関)での3機関協力として、世界的な新型コロナのパンデミックの前後における地球環境や社会経済活動などの変化を共同で観測、分析してきました。気候、商業、水質、農業、大気質という5つのワーキンググループを作りました。気候ではパンデミックによって人間活動が減ったことによって大気汚染が改善したことを観測し、商業では商業施設に駐車する車の台数や飛行場の駐機数の変化を観測して、経済活動の変化の把握ができました。本活動の成果はウェブサイトでも公開しております。(参考文献3)(参考文献4)


<図4>新型コロナに関するNASA-ESA-JAXAの3機関協力の農業ワーキンググループによる北米カリフォルニアの米の作付けの新型コロナのパンデミック前後の比較。JAXAのGCOM-C衛星、NASAのLandsat-8衛星による観測データ。パンデミックの影響で米の国際価格が上がったため、気象の影響もあるものの、新型コロナの影響によって、2020年の作付けの開始が早まり、作付け面積も増えた可能性があるという(提供:宇宙航空研究開発機構(または JAXA))
<図4>新型コロナに関するNASA-ESA-JAXAの3機関協力の農業ワーキンググループによる北米カリフォルニアの米の作付けの新型コロナのパンデミック前後の比較。JAXAのGCOM-C衛星、NASAのLandsat-8衛星による観測データ。パンデミックの影響で米の国際価格が上がったため、気象の影響もあるものの、新型コロナの影響によって、2020年の作付けの開始が早まり、作付け面積も増えた可能性があるという(提供:宇宙航空研究開発機構(または JAXA))


──── 各国でも事情が異なるのではないですか。

そうですね。地球観測衛星を使った農業監視には、どうしてもお国柄が出ます。新型コロナのパンデミックでも欧州のESAは、東欧からの越境労働者の移動制限の影響を受ける労働集約型の作物(ホワイトアスパラガス)を観測していましたし、NASAはこれまでも衛星データ利用の支援を続けてきたアフリカの農業監視に力点を置いていたようです。

農業、食料安全保障、気候変動、SDGsなど、さまざまな社会課題を地球規模で解決するために必要なデータを収集している地球観測衛星。これからも国際的に連携しつつ、貴重なデータを収集してくれることでしょう。


文/石田雅彦

▽参考文献

参考文献1:「農業気象情報衛星モニタリングシステム(JASMAI)」(農林水産省)
参考文献2:「Rice Growing Outlook Report」(ASEAN Food Security Information System(AFSIS))
参考文献3:「Earth Observing Dashboard」(アメリカ航空宇宙局(NASA), 欧州宇宙機関(ESA), 宇宙航空研究開発機構(JAXA))
参考文献4:「JAXA for Earth on COVID-19」(宇宙航空研究開発機構(JAXA))

 

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