オープンクローズ戦略とは? 基礎知識から成功事例、策定方法まで紹介

企業が持つ技術や製品に関する情報について、公開するか非公開とするかにより事業戦略の進め方が変わってきます。このとき、すべてをどちらかにするのではなく、公開する領域、非公開とする領域を選択し使い分ける「オープンクローズ戦略」によって成功を収めている企業も少なくありません。今回は、企業の成功事例を取り上げながら、オープンクローズ戦略の概要やメリット、策定方法、進める上での注意点などをご紹介します。

オープンクローズ戦略とは、オープン戦略とクローズ戦略を組み合わせた事業戦略

オープンクローズ戦略とは、オープン戦略とクローズ戦略という別個の戦略がそれぞれ持つ要素を組み合わせた事業戦略です。オープンクローズ戦略がどういったものかを説明する前に、まずはオープン戦略とクローズ戦略がそれぞれどのようなものなのかを解説します。

オープン戦略とは、技術や情報を公開して利益拡大を狙う戦略のこと

オープン戦略とは、自社が持つ技術や製品についての情報を公開したり、他社に利用を許可したりする、企業や団体にとっての経営上の方策です。
これにより、市場拡大や技術分野の進歩、製品を活用する基盤の整備、サービスの普及、自社製品の仕様を主流規格にすること(デファクトスタンダード化)などの効果が期待できます。
例えば、自社が開発したソフトウェアについて、そのソースコードを公開し、関連する補助機能や互換性のあるソフトウェアを他社が開発できるようにします。そうすることで、自社のソフトウェアはユーザビリティが向上し、さらに普及促進が狙えます。
このように、自社が持つ知的財産を独占するのではなく、あえて公開することで、結果として自社の利益拡大に結びつくような戦略がオープン戦略です。
しかし、その分野における価格競争が進む、利益率が低くなりやすいといった注意点もあります。

クローズ戦略とは、技術や情報を秘匿して競争優位性を確立する戦略のこと

一方、クローズ戦略とは、技術や情報を秘匿する方策です。技術や情報を公開することで自社の利益に結びつくことを狙うオープン戦略とは、対極の戦略といえるでしょう。特許による権利の独占や、独自の製法を売りにすることなどで、自社の競争優位性を確立することを目的とします。
例えば、「秘伝のタレ」や「秘密の製法」によって作られる食品などはクローズ戦略を用いている例といえます。このほか、米国Microsoft社のWindows(R)、米国Apple社のMac(R)などのOS(オペレーティングシステム)は、ソースコードが公開されておらず、プログラムの根幹にある機能的な部分を変更したり、模倣したりすることができません。
クローズ戦略では、その分野における独占を強め、顧客の囲い込みを狙いとします。これにより、他社に対して競争で有利となり、利益を最大化するのが目的です。
ただし、情報漏えいや権利侵害に対し、入念な対策が必要となります。厳重な機密管理、権利侵害に対するライセンス交渉や提訴なども必要となる場合があります。



2つの戦略を融合した「オープンクローズ戦略」

このように、オープン戦略とクローズ戦略にはそれぞれ一長一短があります。また、お互いに相反する目的を持つため、単純に考えるとどちらか一方の戦略を選択することになります。
しかし、現代はあらゆる分野で新しい製品やサービスが次々と生み出されています。新しい技術を用いた製品やサービスを販売していく際には、その新技術を普及させながら自社製品も販売しなければ、利益を大きくすることは難しいでしょう。
そこで用いられるのが、オープン戦略とクローズ戦略のメリットとなる部分を融合した、オープンクローズ戦略です。
このオープンクローズ戦略とは、相反する目的を持つ2つの戦略をどのように組み合わせたものなのでしょうか。また、その戦略を活用する上でどういった点が重要になってくるのでしょうか。次から、オープンクローズ戦略の概要を見ていきましょう。

オープンクローズ戦略では、オープンな領域とクローズな領域を使い分ける

オープンクローズ戦略は、オープンにする領域とクローズにする領域を定め、一部は公開しながら秘匿にする部分も持ち続ける戦略です。
多くの製品やサービスは、1つの部品や技術によって成り立つのではなく、複数の部品の集合体であったり、その部品ごとにいくつもの技術が使われていたりします。こういった部品や技術などをはじめ、オープン領域とクローズ領域を使い分けることで自社に有利な状況をつくることを目指します。

オープンクローズ戦略の目的は市場拡大と競争優位性の両立

オープンクローズ戦略では、自社の技術の一部を公開することで市場への他社の参入を誘導します。その一方で、自社が武器とするコア技術は秘匿として独占します。
これにより市場は拡大し、イノベーションが誘発され、ユーザビリティも向上。同時に、自社の製品やサービスの独自性を保ちつつ、利益拡大が狙えるのです。

オープン領域に影響力を持つコア技術の特定が重要

このようにオープン領域とクローズ領域を区切るためには、オープンにする領域に対して影響力を持つ自社独自のコア技術を特定することが重要となります。
例えば、すでに市場に普及している技術や、他社が解析して簡単に内容が把握されるような技術をクローズにしても意味がありません。そういった部分はオープン領域とし、それらを運用する上で必要かつ自社の強みとなるコア技術をクローズ領域とする、戦略的な選択をすることが重要です。(参考文献1)


<図1>オープンクローズ戦略の基本フレーム(「2013年版ものづくり白書本文」(経済産業省) (参考文献1)を基にみんさく編集部作成)
<図1>オープンクローズ戦略の基本フレーム(「2013年版ものづくり白書本文」(経済産業省) (参考文献1)を基にみんさく編集部作成)


オープンクローズ戦略の成功事例

オープンクローズ戦略は特に、1990年代以降に成功を収めた製品の多くに活用されています。代表的な事例としては次のようなものがあります。

オープンクローズ戦略の先駆けといわれるインテル社

オープンクローズ戦略の先駆けともいわれ、広く知られているのが、アメリカのインテル コーポレーション(以下、インテル)の例です。
インテルではPCの主要部品であるマザーボードに関しての設計情報を規格化し、他社にも公開しました。これにより多くの企業が市場参入したことで価格競争が起こり、PCの普及へとつながりました。
一方、インテルはPCの心臓部ともいえるマイクロプロセッサ(MPU)についての技術情報は秘匿化を徹底し、自社のみで保有しました。
インテルはこうして、基盤となるPC市場は拡大させながら、そこに必要となるマイクロプロセッサは独占力を維持し、自社の利益を確保することに成功しています。

公的文書の標準となったPDFを高収益化したAdobe社の手法

領収書や証明書などを送受信する際、世界中の多くの場面で使われているドキュメントの形式がPDFです。PDFは今や公的文書のやり取りには欠かすことのできない、実質的な世界標準といえます。
PDFはPortable Document Formatの略であることからも、1台のPCの中で使うのではなく「いろいろな場所へ持ち運ぶ」ことを想定して開発されたことがわかります。ほかの場所へ移動させた場合にもセキュリティ性を保ち、OSやアプリケーションに依存せずやり取りができるという点が大きな特長です。PDFは納税に関するアメリカ政府のファイルフォーマットに指定されて急速に普及し、その後ISO化され、公的文書の形式として定着しました。
このPDFは、初期の段階から開発元であるアメリカのAdobe Inc.(以下、Adobe)が綿密かつ明確なオープンクローズ戦略を進めた事例です。
AdobeはPDFの読み取りについての特許権と、読み取りのためのソースコードの著作権を無償化しました。このおかげで、誰でもPDFを見ることができます。
一方、PDFの作成と編集には有償のソフトウェアが必要です。この部分がPDFに関するクローズな部分です。
なお、無償解放によってオープン化したソースコードを用いて他社が開発を行う場合は、PDFの仕様に準ずることを条件としています。これにより、新たに参入する企業は独自の特色を出すことができず、Adobeの開発を待ち、追従する形でしか開発を進められません。Adobeはこの市場投入のリードタイムによって、高い利益率を確保し、自社が常に優位性を持ち続ける構図をつくっています。(参考文献2)

FAネットワークシステムの普及に成功した三菱電機

三菱電機株式会社(以下、三菱電機)のプログラマブルロジックコントローラ(PLC)は、同社の商品がPLCの代名詞となるほど普及しています。三菱電機はこのPLCを組み込んだ産業ネットワークシステムにおいて、オープンクローズ戦略を進めています。
三菱電機は、このネットワークシステムのインターフェイス部分をオープン化することで、開発パートナーを獲得しながら標準必須特許としての権利化を行っています。その一方で、制御に関する部分はコア技術としてクローズ化し、他社との差別化を図っています。


オープンクローズ戦略の策定方法と注意点

オープンクローズ戦略を自社でも検討したいという方は少なくないでしょう。実際にオープンクローズ戦略を策定する際に必要な考え方と、注意すべき点をご紹介します。

1. コア技術を特定

オープンクローズ戦略を用いる上で、まずは自社が強みとすることができるコア技術を特定することが必須です。「この技術は他社に真似されることはない」「特許としてライセンス保有が可能」といった技術を選定します。

2. 市場拡大のためのオープンな領域を選択

次にオープン化する領域を選択します。他社に無償または低額で技術使用を許可する部分です。これは同時に、自社の技術や製品の仕様を標準として普及させるチャンスでもあります。

3. 自社の利益確保のためのクローズな領域を選択

コア技術を中枢としてクローズにする領域を選定します。クローズ化する領域を選定したら、秘匿化と権利侵害の防止を徹底します。

4. 秘匿化したクローズ領域からオープン領域へのつながりを見つける

クローズ領域に選定した技術の中で、オープン領域の技術につながりがあると考えられる部分と、そのつながりの影響力を見つけ出し、明確にします。例えば、「Aの技術を有効活用するためにはBの技術が必要」「公開されているAの技術を使って自社開発するためにはBのライセンスが必要」といったつながりです。
このつながりがあることで、オープンクローズ戦略は利益に結びつきます。その際、クローズ領域からオープン領域への影響力が弱ければ、収益化する力も弱くなります。
どの技術がどの分野についてどのように影響力を持つのか、もし影響力が弱ければどのように強めていくのかも含めて検討し、方策を定めます。

5. クローズからオープンへの移行は不可逆であることに注意

このようなプロセスでオープン領域とクローズ領域を定める際に注意しなければならないのは、一度オープンにした技術は後からクローズにできないということです。最初にクローズにしていたものをオープンにすることはできても、その逆はすでに他社に対して秘匿にすることができず、行っても意味がないのです。


知財戦略は、オープンとクローズの領域を見極めることが重要

企業でビジネス戦略として用いられているオープンクローズ戦略について、その意味や特徴、企業の成功事例、策定における手順や注意点をご紹介しました。
オープンクローズ戦略を用いる際には、オープン領域とクローズ領域をどこで区切って境界線を引くか、その見極めが肝要といえます。そのためには、自社の強みとなるコア技術が何なのか、それがどのように影響力を持っているのかを把握しておくことも重要なプロセスとなります。オープンクローズ戦略の導入を検討したい方は、今回ご紹介した内容を参考に、自社ではどのように取り入れるのが有効なのか、考えてみてはいかがでしょうか。


▽参考文献
参考文献1:「2013年版ものづくり白書本文」(経済産業省)、2013年6月
参考文献2:「標準化戦略に連携した知財マネジメント事例集」(日本産業標準調査会)、2012年3月

 

参考情報
・Windowsは、マイクロソフト コーポレーションの登録商標です。
・Macは、アップル インコーポレイテッドの登録商標です。

 

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