『TCT Japan 2022 (3Dプリンティング & AM技術の総合展)』現地レポート

2022年1月26~28日の3日間、東京ビッグサイトにて「TCT Japan 2022 (3Dプリンティング&AM技術の総合展)」(オンライン展示は2021年11月26日~2022年2月28日)が開催されました。同展示会では、3Dプリンターの急速な発展に伴い、そのための材料・評価/分析や加工、生産管理製品開発といった周辺領域のプレイヤーによる展示も行われていました。今回は3Dプリンティング・アディティブマニュファクチャリングに注目し、カーボンナノファイバーを材料とした3Dプリンター、3Dプリンター向け海洋生分解性材料、金属3Dプリンター造形の仕上げで注目の小型真空脱脂焼結炉、3Dプリンター造形による透明バイオリンの展示内容を紹介します。

カーボンファイバーを材料にした3Dプリンターで強度が必要な治具や最終製品も

カーボンファイバーを造形できるMarkforged社の3Dプリンター(データ・デザイン)
カーボンファイバーを造形できるMarkforged社の3Dプリンター(データ・デザイン)


3DプリンターやCADなどの製造業向け情報化支援ツールを販売するデータ・デザインのブースでは、同社が正規代理店を務める米国Markforged社の3Dプリンターを展示していました。同社の製品は、カーボンファイバーを造形できる3Dプリンターを多くラインナップしています。

既存の3Dプリンターで材料に使われることが多いABS樹脂は、造形後の加工はしやすいものの、耐久度はあまり高くないのが難点と言われています。炭素繊維などを混ぜて強度を上げることも可能ですが、多くの場合はフィギュアや試作モデルといったあまり強度を要求されない用途に使用されていました。

一方、カーボンファイバー製の造形物は高い強度を持ちます。Markforged社の製品では、卓上3Dプリンターでもモデルによっては連続でファイバーグラスを積層させることでより耐久性を高めることも可能です。これによって従来はアルミやmcナイロンでつくられていた製品を3Dプリンター製に置き換えることができるようになったそうです。

データ・デザインテクニカルユニットテクニカルグループの牛尾公一(うしお・こういち)氏によれば、用途として多いのは治具(加工ラインなどの製造業で用いられる固定具や留め具)だそうです。

「切削加工で生産されることが多い治具は、製造時に高い加工技術を有した技術者が必要でした。しかし、3Dプリンターなら一度データさえ用意すればほぼ人手なしで簡単に製造可能です」(牛尾氏)

ほかに、ドローンの部品など一部の最終製品の製造にもMarkforged社の3Dプリンターが使われているのだとか。3Dプリンターが活用される場面は、今後ますます増えていきそうです。


水で溶ける海洋生分解性材料の3Dプリンター造形を実現

海洋生分解性材料で3Dプリンター造形されたサンプル(エヌシーアイ販売)
海洋生分解性材料で3Dプリンター造形されたサンプル(エヌシーアイ販売)


3Dプリンターの販売や受託造形サービスを行っているエヌシーアイ販売では、3Dプリンターで使用できる材料を複数出展。熱を加えると変形できるものや、皮膚刺激テストをクリアした医療分野で使用できるもの、耐熱・耐薬品性のあるグラスウール配合の素材等、特徴的な材料が多数展示されていました。

そのうちのひとつが、酢酸セルロースを原料にした海洋生分解性の材料。耐久性や耐熱性はABS樹脂と同程度ですが、水に溶けやすいことが特徴といいます。

エヌシーアイ販売常務取締役生産部長の中尾浩一(なかお・こういち)氏によれば、実験では海水下において約60日で分解されることを示したそうです。昨今問題視されている海洋へのマイクロプラスチック流出の対策として、幅広い製品の代替案になりうるかもしれません。

ほかに、宇宙産業や先端医療などの分野でも注目されている形状記憶ポリマーをフィラメント化した材料も。造形後に55℃程度の熱を加えると形状をカスタマイズできるので、ギブスのような個人ごとにフィットした形状を調整したい造形物に向くといいます。


金属3Dプリンター造形の仕上げで注目の小型真空脱脂焼結炉

小型真空脱脂焼結炉で仕上げられた金属3Dプリンター造形サンプル(島津産機システムズ)
小型真空脱脂焼結炉で仕上げられた金属3Dプリンター造形サンプル(島津産機システムズ)


昨今の3Dプリンターをめぐる大きな変化は、さまざまな金属製品の造形もできるようになってきたことです。特に3Dプリントで一般的な、熱で溶かした材料をノズルから押し出して細かな層を重ねて造形する「MEX・FDM方式」に対応する機種も増えてきました。これは敷き詰めた金属粉末をレーザーで溶かしながら造形する従来の「PBF方式」に比べると造形が速く、大きな造形物にも対応できます。そのため、試作品だけでなく実部品の製造にも対応しやすいとされます。

しかし、金属でMEX・FDM方式を採用した場合は、金属粉末を混ぜた樹脂材料を熱で溶かしながら造形し、その後に樹脂を取り除くために焼結(焼き上げ)を行う必要があります。島津製作所の100%子会社である島津産機システムズの小型真空脱脂焼結炉「VHS-CUBE」は、この焼結を行うための装置です。

同製品は小型ながら最高温度1,600℃で焼結でき、タッチスクリーン式で操作も簡単なことが特徴。また、メンテナンスの簡便さやアフターサービスにも力を入れているそうです。島津産機システムズ技術部第3技術課の髙間洋祐(たかま・ようすけ)氏は、こうした仕様は従来の金属加工に親しんでいない人でも手軽に扱うためだと説明します。

「焼結は金属加工に慣れた人にはよく知られた工程ですが、金属3Dプリンターが普及すればそうでない人も焼き上げ(焼結)を行うことになるでしょう。こうした製品を世に出したのは、専門知識がなくても容易に金属3D造形品を生産できるノウハウを確立するため。今後もこうした取り組みを続けることで、金属3Dプリントの間口が少しでも広くなってほしいですね」(髙間氏)

金属3Dプリンター造形では型などの物理的制約がなくなり、従来の金属加工では難しかった複雑な成形が可能になります。また、従来の削り出しに比べて小ロットの製品もつくりやすい点もメリットです。焼結炉などの周辺環境が整うことで、将来的には個人で金属3Dプリンター造形を行うことも難しくなくなるかもしれません。


3Dプリンターにより造形された演奏可能な透明バイオリン

光造形3Dプリンターにより造形された演奏可能な透明バイオリン(都産技研)
光造形3Dプリンターにより造形された演奏可能な透明バイオリン(都産技研)


東京都が設置する公設試験研究機関である東京都立総合産業技術研究センター(都産技研)もブースを出展。同施設で行われた実験や研究の成果が展示されていました。

その中でも目を引くのが、3Dプリンターで造形された透明なバイオリン。こちらは主要部品がプラスチック製でありながら、一般的なバイオリンと同じように演奏することも可能なのだそうです。

では、透明なバイオリンはどのようなプロセスでつくられたのでしょうか。まず3Dスキャナーを用いて、既存のバイオリンを分解することなく造形のためのデータを採取。次にCAE(コンピュータを用いた製品設計におけるエンジニアリング作業)による構造解析などを行い、完成時の音の響きなどを計算しつつ、プラスチックで造形するためのCADデータを作成します。その後3Dプリンターで部品を造形し、後加工にてザラザラした表面を研磨。最後にこの部品群を組み立てるという流れです。

一般的な木工製のバイオリンと較べるとプラスチック製のため湿度変化による影響も少なく、同一製品を何度でも製作できるので、既存のバイオリンとは異なる需要があるかもしれません。

これは実際の製品として販売する予定はなく、都産技研が3Dプリンターを活用した解析から実際の製品を組み立てるまでの一連のプロセスを試すための研究なのだそうです。より多くの分野で3Dプリントが活用される未来を見越して、都産技研ではこの研究を解説動画や論文を公開していくそうです。


文/野口直希
写真/伊藤智哉



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