『nano tech 2022 国際ナノテクノロジー 総合展・技術会議』現地レポート

2022年1月26~28日の3日間、東京ビッグサイトにて「nano tech 2022 国際ナノテクノロジー 総合展・技術会議」(オンライン展示は2021年11月26日~2022年2月28日)が開催されました。カーボンニュートラルや次世代の半導体など、新たな時代を牽引しうる存在として期待されるナノテクノロジーやそうした素材を扱う企業が一堂に会し、素材の管理や観察、加工の技術などさまざまな展示が行われていました。今回は、グラフェンでできた不燃性バッテリー、DELL複合加工技術、プロペラレスな自転・公転方式ミキサーに加え、既存事業で培ったゴム成形や設計技術を活かした白血球捕捉チップの展示内容を紹介します。

グラフェンでできた不燃性バッテリーでリチウムイオン電池の約3倍の長寿命を実現

ナノテクエナジー社の不燃性グラフェン-オルガノライト電池
ナノテクエナジー社の不燃性グラフェン-オルガノライト電池


アメリカに本社を持つナノテクエナジー社は、高機能素材である「グラフェン」を製品として市場に送り出すことを目的として設立された企業。グラフェンとは炭素(カーボン)の原子が六角形に結びついた、原子1個分の厚さのシート状のもので、身近なものだとグラファイト(鉛筆の芯などの黒鉛)などもグラフェンシートが積み重なってできています。

炭素同士の結合が強いグラフェンは、平面内ではダイヤモンドより強い物質だと言われ、また熱伝導性も、電気伝導性に優れていることが特徴。一方で、単層グラフェンは製造が難しく、現在はグラフェンシートが何層か重なった複層グラフェンなどが上市されています。そのように、グラフェンの層数や純度、サイズなどが製造企業ごとに統一されていないなか、あらゆる種類の用途に合わせてカスタマイズできるように設計されたさまざまな配合のグラフェン製品を提供しているのがナノテクエナジー社の強みと言います。

そんな同社の製品で注目を集めているのが、グラフェンを採用したリチウムイオン電池「不燃性グラフェン-オルガノライト電池」。これは電極にグラフェンを採用したことで、充電・放電時の体積変化が抑えられ、内部抵抗を下げることに成功。従来のリチウムイオンバッテリーの300~500サイクル(約2~3年)に対して1,400サイクル(約10年)以上という高性能を実現したそうです。

また、電解液を不燃性にしたことで発火に強い点も特徴。従来のリチウムイオン電池と違って強い刺激や炎にさらされても発火や熱暴走を起こしにくくので、温度変化の激しい環境や、高い安全性が求められる環境での使用に向くと言います。ナノテクエナジー社製品の日本での販売を代理するジェイコネクションの代表を務める森山智子(もりやま・ともこ)氏は、想定できる用途として、介護ロボットやウェアラブルデバイス、電気自動車などを挙げています。

こちらのバッテリーは、2022年3月頃からOEMへの販売を開始。「グラフェンはまだ研究が始まったばかりの素材で、最終製品になったものは多くありません。しかし、これからあらゆる分野で採用が進むことでしょう。いろいろな企業と連携することで、その可能性はより広がるはずです」(森山氏)


DELL複合加工技術(レーザー加工と電解加工を組み合わせ)で深く細かい穴を実現

DEEL加工機はレーザー加工と電解加工を同一機上で実現
DEEL加工機はレーザー加工と電解加工を同一機上で実現


経済産業省所管の公的研究機関である国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)もブースを出展。ここでは彼らの研究機関で開発された技術が展示されていました。

中でも注目は、DEEL(Deep Electrochemical Etching with Laser assistance)複合加工技術。これは複数の加工法をひとつの機械で行うことができる加工機で、単一の加工法では実現できなかった新たな効果や大きな機能を生むことが期待されています。

DEEL複合加工とは、レーザー加工と電解加工を同一機上で実現することです。電解絶縁被膜を張った底面のみをレーザー加工で除去し、それから周辺の材料だけを電解加工で除去します。これによりわずか20umの溝幅で深さ500 umの穴を加工することに成功しました。ここまで高いアスペクト比の加工は、世界でもなかなか例を見ないそうです。

産総研の製造技術研究部門の積層加工システム研究グループ主任研究員の栗田恒雄(くりた・つねお)氏によれば、酸化皮膜を張った上で加工を行うので、加工時にデブリ(ゴミ)がほとんど発生しません。この特性を活かして、心筋梗塞の治療器具である「ステント」の開発への利用が期待されているとのことです。

「ステントは金属でできた筒状の器具で、これを心臓の血管内部に留置することで血管を広げる役割を果たします。体内で使用するため、非常に小さなサイズでありながら繊細な仕上がりが要求されるのです」(栗田氏)

すでに複合機も完成していますが、販売方法は未定。最終製品を販売するか、技術を販売するかを検討しているそうです。


プロペラがない自転・公転方式ミキサーで気泡の発生を抑えた攪拌を実現

ミキサーを使用しないことで気泡が発生しにくい自転・公転方式ミキサー
ミキサーを使用しないことで気泡が発生しにくい自転・公転方式ミキサー


1970年からものづくりを続けているシンキーが展示していたのは、独自開発の攪拌(かくはん)機。「自転・公転方式ミキサー」シリーズの製品は世界56か国で販売され、多くの研究者やエンジニアに使用されています。

自転・公転方式ミキサーは一見してわかるとおり、攪拌機としては珍しくプロペラがないのが特徴。プロペラで対象物をかき回すのではなく、遠心力を使った「容器の公転」と、材料を回転させる「容器の自転」の2つを組み合わせて攪拌します。

この方式のメリットを、シンキー営業本部マーケティング企画課課長の岡本直也(おかもと・なおや)氏は「気泡が発生しずらい(=空気が入りずらい)こと」だと説明します。

「接着剤などの粘性が高い材料を扱う際、プロペラでかき回す通常の攪拌ではどうしても圧力差により空気が入り込み、均一に混ぜ合わせることができません。自転・公転方式ミキサーでは気泡が入りづらく、また自転と公転の組み合わせによる高い脱法効率により、完成品の強度を下げずに攪拌できます」(岡本氏)

標準モデルの「ARE-310」では、オプションの耐熱アダプターや保冷アダプターで材料に応じた撹拌・脱泡処理が可能なほか、ナノ分散にも対応。サイズや用途に応じたさまざまなモデルやアプリケーションも存在し、世界で3.8万台を超える導入実績を誇っています。


既存事業で培ったゴム成形や設計技術を活かした白血球捕捉チップ

白血球捕捉チップでは、少量の血液からチップが白血球のみを分離したものを観察する
白血球捕捉チップでは、少量の血液からチップが白血球のみを分離したものを観察する


機械の油漏れなどを防ぐために用いる「オイルシール」や工業用ゴムを製造するNOKは、既存事業とはまったく異なる事業を展示していました。白血球からDNAを検査するための「白血球捕捉チップ」です。

このチップは、ベンチャー企業のDinowと茨城大学、そしてNOKの協働で開発中の「DNA損傷評価サービス」のために開発されたプロダクト。私たちのDNAは、普段から紫外線やウィルスによって見えない損傷を蓄積しています。この「傷」の量や要因を測定することで、将来的な疾病リスクや治療優先順位、生活習慣などを評価するサービスです。

測定方法は、NOKが開発した「白血球捕捉チップ」に少量の血液を流すだけです。ここからチップが白血球のみを分離したものを観察するというプロセス。チップには測定しやすい並びに白血球を整列させる働きもあり、これにより顕微鏡での観察が容易になるそうです。

これまでの同社が開発してきた製品とは大きく毛色が異なるプロダクトですが、NOKのNB開発本部NB企画部マーケティング課の小森隆幸(こもり・たかゆき)氏によれば、スタートアップのコンペで出合ったDinowのニーズに応えるべく開発に挑戦したとのこと。

「新たな分野の製品ではありますが、ゴムの成形技術や流路設計は既存事業の技術が大きく活かされています。人々の健康に大きく貢献できるプロダクトなので、やりがいもありますね」(小森氏)

DNA損傷評価サービスは、2023年のローンチを目指して現在開発中。DNAの損傷からは放射線のほかに、たばこや睡眠不足の影響を測ることができるとのこと。そのため、医師や原発作業員などの被ばく状況を評価するほか、アスリートのこまめな健康管理やより多くの人々の生活習慣をモニタリングするサービスとしての活用を目指しているそうです。


文/野口直希
写真/伊藤智哉



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