固体電解質から大気電流を貯める蓄電システムまで。セルロースナノファイバー蓄電体が持つ可能性〜セルロースナノファイバー蓄電体開発者に聞く脱炭素社会の材料開発(後編)

INTERVIEW

東北大学未来科学技術共同研究センター
リサーチフェロー
福原 幹夫

セルロースナノファイバー蓄電体開発者に聞く脱炭素社会の材料開発を紹介する本連載。後編では、セルロースナノファイバー蓄電体が持つ可能性に注目します。アモルファス物性を巧みに利用し、環境負荷の低い植物由来のセルロースナノファイバーを用いた蓄電体の開発を行う東北大学未来科学技術共同研究センターのリサーチフェロー福原氏は、脱炭素社会でどのような用途を考えているのでしょうか?後編では、引き続き福原氏に、セルロースナノファイバー蓄電体の特性や用途、その可能性についてお伺いします。

現在のリチウムイオン電池などの化学的な機構による二次電池は、電気エネルギーを直接的に蓄えることができませんし、化学エネルギーに変換しなければならないため、大量の電気を瞬間的に蓄えることもできません。しかし、セルロースナノファイバー(CNF)を蓄電体に利用する場合、物理的に電気エネルギーを瞬間的に蓄えることが可能と言います。


セルロースナノファイバー蓄電体が持つ可能性

福原幹夫(ふくはら・みきお)
1948年生まれ。東芝タンガロイ(現タンガロイ)在職中、米国ペンシルベニア州立大学に留学(圧電体、超伝導研究、客員主任研究員)2005年より東北大学金属材料研究所。現在は東北大学未来科学技術共同研究センターリサーチフェロー。工学博士(大阪大学大学院博士課程修了)
福原幹夫(ふくはら・みきお)
1948年生まれ。東芝タンガロイ(現タンガロイ)在職中、米国ペンシルベニア州立大学に留学(圧電体、超伝導研究、客員主任研究員)2005年より東北大学金属材料研究所。現在は東北大学未来科学技術共同研究センターリサーチフェロー。工学博士(大阪大学大学院博士課程修了)


──── 植物には極微小の凹凸やアモルファスという性質が備わっているのでしょうか。

福原氏(以下同):
私はアモルファスのエレクトロニクスの研究をずっとしてきた人間ですが、まさかCNFという植物を相手にするとは思っていませんでした。しかし、知れば知るほど植物の世界は奥深いのです。

例えば、ハス(蓮)はその葉の表面に撥水効果(Lotus effect)をもっていますが、これは水滴の中に泥や昆虫などを取り込んで払い落とす自浄機構であり静電作用です。また、薔薇の花弁は水滴を吸着して落としにくくなっていますが、これはペタル効果(Petal effect)といって水酸化物イオン(hydroxide ion、OH)が水(水素、H+)を引きつけています。私の場合、薔薇の花弁のペタル効果による水滴を、電子に換えて蓄電しているというわけですが、このように植物は土から水分や養分を吸収する毛根、そして根の中や茎、葉脈の導管などにも静電作用を利用しているのです。


──── CNFはこれまでエレクトロニクス以外の分野でどのような使いみちがあったのでしょうか。

ポリマーやゴムに添加されて強度を高める構造用の複合材料であったり、透明性が高いので透明なフィルムの材料になったり、あるいは音響インピーダンス(音響伝達の高低)が低いことから音響機器の材料になったりしています。私はCNFの強度を測定した際、超音波を使ったのですが、CNFの音響インピーダンスが水や氷と同等に低いことに気づきました。すなわち、植物は外界の情報を水や氷を通して認知しているようです。


──── 植物が備えるCNFはさまざまな役割を果たしているというわけですね。

そうです。植物は情報伝達にも静電作用を利用しています。ナトリウム(Na)イオンとカリウム(Ca)のイオンのニューロン間では、人間の神経伝達と同じように情報伝達をしますが、これは静電分極による電気反応です。植物の葉緑体による光合成でもプロトン(H+)伝導という電子の移動が行われ、同じプロトン伝導は私たちの細胞の中のミトコンドリアがエネルギーを作り出す機構にも使われています。そして、水素電池はまさにミトコンドリアのプロトン伝導に原理を応用しているのです。


──── 長い生命の歴史がこうしたシステムを作り上げたのでしょうか。

人工的に作ったカーボンナノチューブは80keVで分解しますが、CNFの場合、200keVまで耐えられます。人工的に作るカーボンよりも耐性があるというわけで、やはり自然の材料のほうが優れているのだと思います。地球上の生物は46億年という長い歴史の間、過酷な宇宙線にさらされてきたために電気的な耐性をもっているのではないかと思いますし、今後は過酷な宇宙空間で強い耐性のあるCNFが活用できるのではないかと思っています。



──── CNFでは蓄電に大きなポテンシャルが期待できるのでしょうか。

私がThomas-Fermiの遮蔽理論(固体中の電子の減衰を計算する手法)を使って静電ポテンシャルを計算してみたところ、凸の径サイズが小さくなるほど仕事量、つまり吸着能力が大きくなることが示されました。例えば、径35nmの酸化チタンでは-5.5eV、28nmのフッ素入りポリマーで-10.1eV、21nmの酸化アルミナが-20.7eVとなり、18nmのCNFで-22.5eVというような比較になります。<図1>

現状で酸化アルミナとCNFでそれほど静電ポテンシャルは違いませんが、酸化アルミナは重い(比重は約3)ので重電用に、CNFは軽いので携帯用デバイス、パワーグリッドの移動用、再生可能エネルギー蓄電のような弱電用蓄電体として使えるのではないかと考えています。


<図1>凸径と静電ポテンシャルの関係(カッコの値は仕事関数値)(提供:福原幹夫氏)
<図1>凸径と静電ポテンシャルの関係(カッコの値は仕事関数値)(提供:福原幹夫氏)


──── CNFの凸径はもっと小さくなるのでしょうか。

現状、CNFの凸の径はまだ大きいのですが、解繊してほぐしていけば径サイズは3nmにもなると考えています。そうなれば、静電ポテンシャルがもっと上がっていき、蓄電量も増えていくはずです。

CNFを解繊し極微小な凸を作る技術は、すでに日本製紙が宮城県の石巻工場で実現させていますが、機械的な解繊では限界があり、特殊な酵素を使って化学的に解繊しているようです。素材が紙ですから、まだ穴が空いたりして、できてくるCNFシートの質が安定していません。しかし最近シート質は改善され、電極との密着性も向上し、LEDを60V充電で20秒ほど点灯できるところまできました。(参考文献1)


──── 環境にも負荷をかけない電池になりそうです。

蓄電部分にレアメタルは必要ではありませんし、人体に有害な鉛やカドミウム、水銀、硫黄も使いません。植物由来なので廃棄処分も容易になるでしょう。



セルロースナノファイバー蓄電体を用いた大気電流を貯める蓄電システム構想

──── CNFの蓄電体が実現した場合、電気の取り出し方法はどのようなものになりますか。

この技術についても論文を書き、既に2、3のジャーナルに掲載されております。電気をチャージし、それを貯蔵し、自由に取り出すためには、可変抵抗器やインバーターによる制御をします。この可変抵抗器は、電気を水にたとえれば水槽に取り付けた蛇口のようなものです。(参考文献2)

CNF蓄電体は表面が固体で電気二重層物質であり、固体電解質になっていることにより電気の取り出しが容易なのです。電気の溜め方も同じで、電力は電流と電圧の積で決まりますが、鉛蓄電池やリチウムイオン電池などの従来の化学的な蓄電池は電流でしか充電できず、そのため、充電に時間がかかっていました。しかし、CNFを使った蓄電体は500V上下の高電圧をかければ瞬時に充電することが可能になります。


──── CNFの量産化についてはいかがですか。

日本製紙には年間500tのCNFのプラントがありますが、CNF蓄電体の需要が高まればとても500tでは足りなくなるでしょう。単位面積あたりの蓄電量を大きくするためには積層化しなければなりませんが、紙は薄くて軽いので10umの厚さのものでも1mmで100枚、積層化が可能になります。ミルフィーユ状にどんどん積層し、厚みを増していけばいくほど蓄電量も増えるというわけですが、従来の湿式電池ではこの積層化は難しいとされています。

また、東北大学にはNEMS(Nano Electro Mechanical Systemsナノ電気機械システム)技術の世界的なアドバンテージがありますから、その加工技術を導入して集積化や積層化をし、パワー密度とエネルギー密度を向上させていこうと考えています。

どんどん技術革新の速度が速くなっていて、蓄電池も以前は2kgもあったものが今では指の先サイズにまで小さくなっています。CNFによる蓄電技術も実用化の目処がたって軌道に乗れば、小型化され、機能も高くなり、コストも安くなって広がっていくでしょう。


──── このCNFによる蓄電体が実用化されたら、どのような発電システムになるのでしょうか。

落雷の電力を貯めてもせいぜい家庭のクーラーを1週間から10日間くらい動かす電力しか得られませんが、実は地球は地上から上空50kmにかけて大きなコンデンサーのような導電層におおわれており、これはいわば「地球コンデンサー」のようなもので、この電力は宇宙線によって無料で無尽蔵に供給し続けられています。大気電流がもっている電力量は、全人類が使用する電力の十倍以上という膨大なものなのです。

ここから先はまだ構想段階ですが、大気電流を取り込むために、避雷針ならぬ、ステンレス鋼で作った誘雷針によって天候に左右されずに大気電流を貯めるシステムを考えました。また、この技術は特許にもなっています(参考情報1)。例えば、このシステムを一人ひとり、腕時計のような誘雷針をつけ、1億人が1年間、蓄電すると、計算上は日本の総発電量の87.6%をまかなうことも可能になるでしょう。


<図2>大気から直接、蓄電できるシステムの概略図(提供:福原幹夫氏)
<図2>大気から直接、蓄電できるシステムの概略図(提供:福原幹夫氏)


──── 大気中から電気を自由に貯めることができるのでしょうか。

そうです。巨大な発電所があり、高圧線が何十kmも張り巡らされているような電力インフラが整備されている国や地域はごくわずかですし、太陽電池が砂漠に設置されているように多くは交通の不便な場所で発電しています。こうした太陽電池の裏側にCNF蓄電体を貼り付けて蓄電し、比重が水の1.5倍と軽いので持ち運びが容易ですから定期的に巡回して溜めた電気を回収するというような使い方も可能になるでしょう。

これは必要な電力を必要なときに必要な場所でという分散型の発電蓄電システムということになり、そうなれば交流から直流への変換電力ロスの心配もなく、まさにエジソンが考えたような直流による電力供給ができるようになるのです。


──── 現在の研究開発体制はどのようなものでしょうか。

私たちの東北大学未来科学技術共同研究センターが研究企画、蓄電などの電気的な計測を行い、先端材料強度科学研究センターの橋田俊之教授が強度を含む周辺技術の援助、仙台高等専門学校が電子線の回析やアモルファスアルミニウム系合金リボンの作成、日本製紙がCNFの供給という体制になっています。現在、2025年の大阪万博での実用化に向けて研究開発を続けています。


──── アモルファスという物性にも可能性がありそうですね。

結晶の研究は飽和状態ですが、アモルファスについてはほとんど研究されていない領域です。アモルファスという材料は、今後、エレクトロニクス分野に限らず、さまざまな分野で重要な位置を占めていくと考えられ、今世紀はアモルファス・エレクトロニクス、アモルファスと量子の技術が融合発展すると考えています。半導体の分野では量子ドットトランジスタ、計算機では量子コンピュータ、そして電池では量子固体蓄電体が技術的なイノベーションを牽引していくでしょう。

CNFによる蓄電技術が実用化すれば脱炭素化時代にも適応でき、日本の林業の再生にもつながると考えている福原氏は、CNFという新素材には大きな可能性があると言います。循環型社会の実現にも利活用でき、さらには宇宙開発でも宇宙線に強いCNFの出番が来るのではと期待しているそうです。


文/石田雅彦

参考情報
・参考情報1:「特許第6498945号」の特許権者は「国立大学法人東北大学」、発明の名称は「蓄電装置及びその製造方法」です。

 

▽参考文献
参考文献1:「セルロースナノファイバー(CNF)による蓄電体の開発に向けてCNF蓄電体開発の一環で、LED点灯検証に成功」(日本製紙株式会社ニュースリリース)、2021年12月
参考文献2:Mikio Fukuhara et al.、「Amorphous cellulose nanofiber supercapacitors」(Scientific reports 11(1),[6436](2021))

 

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