二次加工不要を狙い開発された「反射防止構造体」成形転写技術の可能性~「黒の中の黒」を追求する研究開発(後編)

INTERVIEW

大塚テクノ株式会社
新規開発プロジェクトメンバー専任課長
佐藤 英秋

「黒の中の黒」を追求する研究開発を紹介する本連載。後編では、「究極の黒」を身近にするプラスチック製品への「反射防止構造体」成形転写技術の可能性に注目します。金型の表面に微細な形状を施し、転写することで、光を外に出さずに閉じ込め、反射を限りなく抑えることができるという同技術。後編では、引き続き大塚テクノの佐藤氏に、二次加工を必要としない「反射防止構造体」成形転写技術の特徴や用途開発展望についてお伺いします。

二次加工を必要としない反射防止構造体の開発は、携帯電話メーカーのリクエスト

佐藤英秋(さとう・ひであき)
1975年、徳島県生まれ。阿南工業高等専門学校 機械工学科卒。大塚テクノ入社後、輸液フィルムバッグ立ち上げに従事。2005年、開発部でスーパーエンプラ担当。2015年以降、新規開発プロジェクトメンバー専任課長。精密、微細技術と樹脂材料を中心としたさまざまな開発に従事。
佐藤英秋(さとう・ひであき)
1975年、徳島県生まれ。阿南工業高等専門学校 機械工学科卒。大塚テクノ入社後、輸液フィルムバッグ立ち上げに従事。2005年、開発部でスーパーエンプラ担当。2015年以降、新規開発プロジェクトメンバー専任課長。精密、微細技術と樹脂材料を中心としたさまざまな開発に従事。



──── 前編で紹介しましたが、「究極の黒」のために「反射防止構造体」を開発するきっかけになったのは、携帯電話メーカーのカメラユニットに「二次加工を必要としない方法で圧倒的な黒さを実現したい」という要望でした。もう少し詳しく教えてください。

佐藤氏(以下同):
近年、工業製品のデザインが多様化しており、外観デザインが製品の売れ行きに影響を及ぼすことがあります。そのため、製品のボディを構成する材質に加え、外から見える材質にも、多様な質感が要求されます。例えば、スマートフォンなどの携帯電話に搭載されるカメラユニットのレンズバレルは、機器本体に取り付けられた透明のカバーガラスを通して、外観の一部を構成するため、外観のデザインを損なわない質感に仕上げる必要があります。

黒色のレンズバレルに光が反射してしまうと、機器本体を外から見たときにカメラユニットの構造が目立ってしまい、本体のデザインとの調和を図ることができなくなってしまいます。スマートフォンのレンズの大口径化が進んでおり、レンズバレルの径が大きくなると、より目立つようになります。レンズバレルの反射率の抑制は、余計な反射光がレンズ内に入り込むことも防止できるため、カメラユニットの光学特性の向上にも寄与することになります。

現在、各社のスマートフォンの高級モデルは、レンズバレルの表面に、蒸着によって反射防止膜をコーティングしたり、シボで反射を抑えて目立たないようにしています。ただこの場合、製造工程の工程数が増加しますし、膜の色むらや傷といった問題があります。


「反射防止構造体」を凹構造にすることで、効率良く光を吸収させる構造を実現

反射防止構造体の形状パターン(提供:大塚テクノ)
反射防止構造体の形状パターン(提供:大塚テクノ)


──── ミクロサイズ頂点の逆ピラミッド型を作って光を吸収させる構造を実現されたということですね。

基礎構造部に金型からの転写で表面に凹凸をつけるわけですが、凸部形状の場合、射出成形時に先端部への充填は難しい。どうしても空気が袋状態となり未充填領域ができてしまい、せっかくのパターンの精度がムダになります。凹部形状の場合、隣り合う峰の先端に樹脂が流れ込み、効率的に空気を押し出すことで高転写を実現することが可能となります。
 
また、凸構造ではなく凹構造のため、表面に接触しても面で接触することになり、影響を与えにくい形です。それにより欠けてできる断片の発生を防止すると共に、凹部の構造の形状変化も防止できます。

光反射率は紫外光0.4%~0.3%程度、可視光0.3%以下、赤外光0.2%以下になります。一般的なコーティングなどの低反射技術を使った光反射率は2~4%ですので、当社の技術は圧倒的に光を吸収します。


反射防止構造体の黒さと反射率。反射率が低いとより黒くなる(提供:大塚テクノ)
反射防止構造体の黒さと反射率。反射率が低いとより黒くなる(提供:大塚テクノ)


──── ベースとなる原料に制限がありますか。

特に制限はありません。例えば、天然ゴム、合成ゴム、合成樹脂があります。合成樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等の熱硬化性樹脂、PP樹脂、スチレン樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられます。
但し、金型形状の転写性が良くないと、せっかくの低反射効果が薄れてしまいますので、高流動な転写性の良い樹脂の方がより黒くなります。

また、取り扱いについては注意が必要です。100%転写しても、微細加工の先端が1um(マイクロメートル)といったサイズですので、硬いもので触れると先端が欠けてしまいます。熱可塑樹脂も硬いため、触れると頂点部分がつぶれてしまうので、向かないかもしれません。触れないようにしてあれば、大丈夫ではないでしょうか。摩耗しにくいウレタンゴムやシリコンも傷がつきにくいと思います。
 
ベース原料に黒色の色料(カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック等)を入れ、金型の微細加工を転写、反射を抑えることで可視光反射率0.3%以下の「究極の黒」を実現することができるのです。


──── 黒以外の色だとどうなりますか。

実は、ベース顔料を変えていろんな色を試しました。光を閉じ込めるので、赤であれば暗いエンジといった落ち着いた色合いになります。どんな色も「暗」に変化します。


「反射防止構造体」成形転写技術で、SDGsをふまえた環境に優しい工程を実現できる可能性

──── 成形工程のみで反射防止構造体の「究極の黒」を作ることから生産工程が減り、環境にも優しいということは強みになりますね。

コーティングといった表面処理や、貼りつけ作業は工程が増えることを意味します。具体的には、基材受入検査→脱脂処理→下地処理→塗装→焼成→検査→出荷といった工程があります。工程が多いことは、リードタイムも長くなり、製品のばらつきといったリスクを生みます。成形のみのシンプルな工程ですめば、こうしたリスクを減少させ、環境負荷の低減にもつながります。また、塗装は、人体に有害な有機溶剤を使うことから、使わずにすめば労働者の安全確保にもなります。消費エネルギーの削減、SDGs(持続可能な開発目標)、環境に配慮することにもなります。

なにより二次加工を省けるので、プラスチック成形のみであれば大量生産ができますし、金型を改造するだけでいろいろと応用することもできます。


「反射防止構造体」成形転写技術の用途開発状況〜黒フィルム開発で大型化に挑戦

文字盤に反射防止構造体を施した腕時計(提供:大塚テクノ)
文字盤に反射防止構造体を施した腕時計(提供:大塚テクノ)


──── 黒は格調が高く、高級感があります。ファッションでもアートでも黒は定番であり、式服や礼服に使われます。「究極の黒」の応用例を教えてください。

我々で腕時計の文字盤に使用したものをモックアップで作ってみました。黒の文字盤はポピュラーですが、黒ければ黒いほど高級感が出ます。時計の文字盤での採用はまだしてもらっていませんが……。ファッションにおいて、「黒」は定番であり、式服では黒ければ黒いほど高級感があります。「究極の黒」は、繊維業界からの問い合わせもあり、面積が広い布状や糸にできないか検討しましたが、糸は縦方向だけではなく横方向やねじりもありますので断念しました。

布状に広域面積を作るために、ロール転写で反射防止のフィルムを作る加工方法も開発しました。実際にフィルムとしての取り扱いを行っていますが、まだA5程度のサイズです。フィルムをつなぎ合わせば大きくすることが可能ですが、低反射で真っ黒のため、逆にそのつなぎ目が目立ってしまうという課題があります。

ロール自体を大きくする等や大型の金型加工も検討中ですが、現状ではA3サイズまで大きくできそうです。さらに、大型化するため開発を進めたいと思います。


反射防止構造体を施したフィルムや腕時計(提供:大塚テクノ)
反射防止構造体を施したフィルムや腕時計(提供:大塚テクノ)


「反射防止構造体」成形転写技術の用途開発状況〜低反射機能だけでなく、手触り、高級感や濡れ性改善まで

──── 手触りがベルベットのようにしなやか。この特性も活用できますか?

素材との組み合わせにもなりますが、手触り、高級感も好評で、ブックカバーも作ってみました。布のような触感と高級感が文具や日用品への展開につながれば幸いです。黒さでは舞台の緞帳や、プロジェクターのフレームワークなど、暗さを必要なところに応用できると思います。車のタコメーターも反射を抑えることで、数字を際立たせることができます。車のダッシュボードにフィルムをおくと、フロントガラスの反射を抑えるため、フィルムの大きさに限定されますが、視認性が良くなります。

また形状を活かして濡れ性をコントロールすることや、規則性を活かした流路としての活用、パターン凹部を活用した等の保水効果などが使えないかなど、流体へのアプローチの可能性も検討しており、数件の相談がきています。
他には赤外線、電磁波の反射や吸収といったことで、光学、エネルギー分野でも活用できないかと考えています。
元々は低反射向けに作成した技術ですが、アイデア次第で可能性は無限にあるかと思います。


文・人物写真/杉浦美香

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