「究極の黒」を身近にするプラスチック製品への「反射防止構造体」成形転写技術~「黒の中の黒」を追求する研究開発(前編)

INTERVIEW

大塚テクノ株式会社
新規開発プロジェクトメンバー専任課長
佐藤 英秋

黒は、黒いほど高級感をもたらします。染めの世界でも、真っ黒なほど希少価値があがります。人類は究極の黒を極めようとしてきました。「究極の黒」といえば、入射した可視光の99.965%を吸収する「ベンタブラック」や、2019年に米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)より発表された99.995%カーボンナノチューブが有名です。一方で、医療、精密電子分野を中心に合成樹脂製品の製造・販売を行う大塚テクノ(徳島県鳴門市)がプラスチック製品の可視光吸収率約99.8%を実現する「反射防止構造体」の成形転写技術を開発したことをご存知でしょうか。今回は、「黒の中の黒」を追求する研究開発に注目し、2回にわたって「反射防止構造体」の成形転写技術を開発した大塚テクノへお話を伺いしました。前編では、「反射防止構造体」開発経緯や低反射率を実現する原理、「究極の黒」にしのぎを削る研究開発状況についてご紹介します。

「究極の黒」を身近にする「反射防止構造体」開発経緯と低反射率を実現する原理

佐藤英秋(さとう・ひであき)
1975年、徳島県生まれ。阿南工業高等専門学校 機械工学科卒。大塚テクノ入社後、輸液フィルムバッグ立ち上げに従事。2005年、開発部でスーパーエンプラ担当。2015年以降、新規開発プロジェクトメンバー専任課長。精密、微細技術と樹脂材料を中心としたさまざまな開発に従事。
佐藤英秋(さとう・ひであき)
1975年、徳島県生まれ。阿南工業高等専門学校 機械工学科卒。大塚テクノ入社後、輸液フィルムバッグ立ち上げに従事。2005年、開発部でスーパーエンプラ担当。2015年以降、新規開発プロジェクトメンバー専任課長。精密、微細技術と樹脂材料を中心としたさまざまな開発に従事。



──── 大塚テクノは、輸液などで知られる大塚製薬工場の子会社として、機能性フィルムなど医療分野、精密電子分野でしてスタート、ぜんそく用の吸入デバイス、リチウムイオン電池の異常加熱を防止するサーマルプロテクターの分野では世界トップクラスのシェアがあります。その御社がプラスチック製品の「究極の黒」開発にいたった経緯を教えてください。

佐藤氏(以下同):
2016年ごろになりますが、携帯電話のメーカーから、カメラのレンズを鏡胴に組み込むレンズユニットに対して「コーティング加工ではなく、(プラスチックの)樹脂成形のみで黒くできないか」という相談があったのが開発のきっかけです。
そこで我々は原料と、金型の両方の観点で検討することにしました。原料では、まずプラスチック樹脂に黒のカーボンブラックの顔料の量を2倍、3倍に増やしたりカーボンブラックの粒子の粒形や種類などを変えてみたりしましたが、黒さにあまり変わりはありませんでした。

金型表面のシボの観点からも検討しました。黒くするためには、光の反射率が関係します。表面のシボ目を粗くすると反射面ができ、乱射してグレーに見えてしまうのです。だからといって平面にするため、表面を鏡面にすると今度は全反射してしまいます。

ある時、上から見て平面がない状態、立体形状が表面にあれば反射しない、ということに気づきました。試行錯誤の末、逆ピラミッド型(四角錘形状)を配列した構造体を作成すると大幅に黒くなり、さらに唯一反射する頂点をミクロンサイズ(マイクロメートル=um、1,000分の1mm)の機械加工を用いて金型表面に施工し、その金型にプラスチック樹脂を流し込み、成形転写しました。これを「反射防止構造体」と呼びます。

「反射防止構造体」で作ったプラスチック製品は、表面に入射した光が反射を繰り返しながら、内部に吸収されて外に出られなくなります。これにより可視光反射率0.3%以下という低反射を実現することができました。この技術で、「第25回四国産業技術大賞」奨励賞等のさまざまな賞を受賞させていただきました。


──── 二次加工が必要でなくなったということですが、従来はどのような方法で黒くしているのですか。

一般的に、低反射を実現する代表的なものに、ARコーティングがあります。AR(Anti Reflection)は 反射防止を意味し、フッ化マグネシウム(MgF2)などの物質を真空蒸着し、元の材質の上に透明な薄膜を作る方法です。薄膜表面から反射する光と、例えばレンズ表面から反射する光が屈折率の違いから互いに干渉しあい、光の映り込みを低減させるという手法です。また、素材の表面に微細な突起が並ぶモスアイ構造を形成したフィルムを使って加工するという方法もあります。モスアイ構造とは、目の中にnm(ナノメートル)単位の微細な突起を持ち、反射させず光を効率良く取り込んでいる蛾の目の構造を参考に作られた突起を持つフィルムのことです。また、静電気で植毛されたシールをはって加工する方法もあります。
我々の方法では、成形だけで低反射を実現するため、二次加工がなくなります。


反射防止構造体の光反射イメージ(提供:大塚テクノ)
反射防止構造体の光反射イメージ(提供:大塚テクノ)


「究極の黒」にしのぎを削る研究開発状況〜ベンタブラック・カーボンナノチューブ・ピアノブラック・反射防止構造体

──── 世界一黒い物質として、「ベンタブラック(VANTABLACK(R))」が有名です。「黒の中の黒」を追求する研究がほかにもあるかと思います。教えてください。(参考情報1)

ベンタブラックは、カーボンナノチューブを400℃近くの高温下で特殊処理した炭素膜のことです。Vertically Aligned Nano Tube Arrays(垂直に並べられたナノチューブの配列)の頭文字で、入射した可視光の99.965%を吸収してしまい、影が人間の目では認識できなくなってしまいます。このため、クチャクチャにしたアルミ箔の表面にベンタブラックをコーティングすると、見た目には高さがなくなり、平面にしか見えなくなってしまいます。ベンタブラックが世界一黒い物質とされていましたが、2019年、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らが、アルミニウム上でカーボンナノチューブを成長させる過程でさらに黒い99.995%のカーボンナノチューブを生成するのに成功したと発表しました。(参考文献1)
 
また、ピアノブラックという言葉を聞いたことがあるかと思いますが、ピアノのように鏡面の輝きがある黒のことを意味します。ピアノ製造の場合、木のベースに下地塗料を複数回吹き付け、サンドペーパーで研磨、塗装といった工程を繰り返して作ります。プラスチックのピアノブラックでも、同様に金型表面を鏡面に仕上げて、高転写成形を行うことで、プラスチック成形で作ることができます。多くの高級感のある意匠性で使われていますが、可視光吸収率は95%程度ではないでしょうか。我々が目指している低反射よりも反射率は高く、また、鏡面ですので光沢感、つやがあり、光の反射もしてしまいます。我々が開発したのは、艶ではなく真逆のマット感になります。

黒いと高さを感じなくなります。我々の黒さをわかってもらうため、技術の説明に行った先で、白い壁に反射防止構造体を施したフィルムを貼って見てもらい、まるで壁に穴が開いているような感覚を感じてもらえれば、本技術の良さが伝わると思います。


「反射防止構造体」樹脂プレートサンプル(提供:大塚テクノ)
「反射防止構造体」樹脂プレートサンプル(提供:大塚テクノ)


「究極の黒」にしのぎを削る研究開発状況〜すべての光を吸収する暗黒シート

──── 産業技術総合研究所・物理計測標準研究部門の雨宮邦招(あめみや・くにあき)・研究グループ長らが2019年、「すべての光を吸収する暗黒シート」の研究を発表しました。リリースによると、シリコーンゴムなどの表面に、光をとらえて逃がさない光閉じ込め構造を作り、99.5%以上の光を吸収、熱赤外線は99.9%以上の光吸収率を誇ります。光閉じ込め構造は、サイクロトロン加速器からのイオンビームの照射と化学エッチングで基盤を作り、それを転写してポリマーの表面に微細な円錐状の空洞構造を多数形成することで実現したということです。御社の技術との共通点がありますか?(参考文献2)

「暗黒シート」というネーミングは、黒さをとてもよく表現していると思います。雨宮先生と直接、情報交換をしたことはないのですが、表面に光を閉じ込める微細な構造を転写で作るという点では我々と共通しています。また、当社も雨宮先生の研究も、従来必要だった特殊塗装やコーティングといった二次加工を必要としません。
暗黒シートはじめ「究極の黒」は、高級感といった意匠性や光学特性による視認性の付加価値があり、さまざまな分野に応用できる可能性があります。


大塚テクノの本社と佐藤氏
大塚テクノの本社と佐藤氏


後編は、「反射防止構造体」成形転写技術の特徴や用途開発状況について紹介します。

文・人物写真/杉浦美香

参考情報
・参考情報1:VANTABLACKは、Surrey NanoSystems Limitedの登録商標です。

▽参考文献
参考文献1:「MIT engineers develop “blackest black” material to date」(MIT News ON CAMPUS AND AROUND THE WORLD)、2019年8月
参考文献2:「全ての光を吸収する究極の暗黒シート」(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、2019年4月

 

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