持続可能性を担保し、新たな「豊かさ」をもたらすエネルギーとのつきあい方とは (1/3)

浅羽 登志也(株式会社情報工場 シニア・エディター)
浅羽 登志也
株式会社情報工場 シニア・エディター

2020年秋の菅義偉首相(当時)による「2050年カーボンニュートラル」宣言の影響もあり、自動車の「脱エンジン」「EV化」に拍車がかかっている。これは、日本のモノづくりを支えてきた自動車産業が大転換の時を迎えることを意味する。一方、温暖化の進行を止め、持続可能な地球の未来をつくっていくには、人類とエネルギーの関係のあり方を見直す必要があるだろう。これらの動きは、どのような変化をもたらすのだろうか。そして、その変化に対応するには、どんな発想の転換が求められるのだろう。2冊の書籍から考察してみたい。

ホンダが他社に先駆けてエンジン車全廃を宣言したのはなぜか

『2035年「ガソリン車」消滅』

 安井 孝之 著

 青春出版社(青春新書インテリジェンス)
 2021/06 192p 990円(税込)



「エンジンのホンダ」の思い切った決断

大手自動車メーカーの本田技研工業(ホンダ)は2021年4月、「2040年までに世界で販売する全ての新型車を、EV(電気自動車)かFCV(燃料電池車)に切り替える」と発表、クルマ業界を驚かせた。

ホンダといえば、世界一の「エンジンの会社」と言っても過言ではない。2021年のF1シーズン最終戦で、ホンダがエンジンを提供するRed Bull Racing Honda所属のマックス・フェルスタッペン選手が優勝し、ドライバーズチャンピオンに輝いたのは記憶に新しい。そのホンダが、なぜ他社に先駆けてエンジン車全廃を決断できたのか。
 
本書『2035年「ガソリン車」消滅』は、カーボンニュートラルに向けて、クルマ産業や、自動車に関わるわれわれの暮らしをどう変えていけばいいのか、多角的に論じている。

著者の安井孝之氏は、朝日新聞社で長年にわたり自動車、流通、不動産、財政、金融、産業政策、財界など多彩な分野で活動してきたジャーナリスト。現在はGemba Lab代表を務める。


現状ではEVよりHVの方が地球に優しい

クルマのカーボンニュートラルを早期に実現するのに、全てのクルマを今すぐEVに替えればいいのかというと、話はそれほど単純ではない。

本書で安井氏は、日本のカーボンニュートラル実現には、電源構成が足かせになると指摘する。東日本大震災以降、原子力発電の稼働が減る代わりに、火力発電の比率が8割程度にまで増えているからだ。

それゆえ、EV化が進み、化石燃料を直接動力に使うことが減ったとしても、電気を作る段階でCO2が大量に排出されるのであれば意味がない。

加えて、EVを走行させるには大量の蓄電池が必要だ。その蓄電池の製造過程でも電気を使うので、CO2排出は避けられない。

よって、現在の日本の電源構成を考えると、実はEVの方が、HV(ハイブリッド車)よりも多くのCO2を排出することになりそうなのだ。


将来の本質的な変化を見据えて「強み」を捨てたホンダ

以上のことから、自動車メーカーの選択としては、発電段階でカーボンニュートラルに近づくまでは、エンジン車の環境性能向上と、HVの推進で対応するのが妥当とも考えられる。それなのになぜホンダは今、HVも含めたエンジン車撤退を決めたのか。

安井氏は、ガソリン車からEVへの転換の先には、EVをベースに自動運転やインターネットを活用したMaaS(Mobility as a Service)による新たな社会を作るという、本質的な変化があると説く。

実はホンダは、2020年2月にホンダモビリティソリューションズ株式会社を設立し、モビリティサービス事業にも進出している。さらに2021年3月には、世界初の自動運転レベル3(限定領域での条件付き自動運転)機能を備えたクルマの販売を開始するなど、MaaSの推進に前のめりだ。

つまり「エンジンのホンダ」であっても、MaaSに注力するトヨタなどに遅れをとることなく、将来の時代の変化に対応した生き残りの模索を始めている。そして、あえて現在の「強み」であるエンジンを捨てることを宣言することで、本質的な変化に対応する不退転の決意をアピールしたのだろう。

カーボンニュートラルが現実的な目標になった今こそ、業種を問わず、これから起きるであろう本質的な変化を見据えて、新たな向きに舵を切り直すタイミングなのではないか。


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