『JASIS 2021』現地レポート

分析機器や科学機器に関する展示会として毎年開催されているのがJASIS(Japan Analytical & Scientific Instruments Show)です。今年で10回目になる同展では、約270社が出展し、分析機器や科学機器などに関する新技術をはじめ、モノづくりの技術や自動運転、ライフサイエンス、新型コロナ対策技術、環境技術といった先端技術などの展示が多く見受けられました。

来場者に関して昨年2020年の同展は、2019年の2万3,409名(2018年は2万3,697名)から7,299名(3日間)とやはり新型コロナの影響がありましたが、取材時において新型コロナの感染が収束しつつあった中、8,490名(3日間)とやや来場者数を戻しています。また、同展は2017年から、JASIS WebExpo(R)としてオンラインによる出展社情報や講演内容などを配信し、リアルの展示会と連動する形式でのハイブリッド開催をいち早く取り入れています。このオンライン展示会は2022年3月まで会期を延長しているようです。それでは本展示会の中で気になった実験器具、気流検査装置や機能性材料などの展示内容を紹介しましょう。


個人の手技に依存しないピペット

射出成形などによりプラスチック成形品の開発・製造、排気ダクトやウォッシャータンク、スポイラーなどの自動車部品の製造を行っているムロオカ産業株式会社(栃木県足利市)が出展していたのは、医薬研究や化学研究などで使われている実験器具、ピペットです。ピペットは、スポイトのように液状の物質を必要な量だけを吸い取り、計量や移動するために使われています。

説明してくださった同社、理化学部門スーパーバイザー、佐々木純一(ささき・じゅんいち)氏によれば、計量を目的にするピペットはその正確性や精密性を個人的な手技に依存し、分注調整が難しく、誰が扱っても同じような結果にならないことが多いと言います。期待する容量にばらつきが出たり、ばらつきがなくても容量が少なかったり多かったりするそうです。

同社が開発したピペットは、安価なプラスチックでチップを連続で使用できるようにしたピペット本体を、ダイヤル調整で同量の分注調整ができるように開発したと言います。また、チップのエジェクターをワンタッチで脱着できるようにし、本体をシリンダー方式にすることで高精度化を実現したそうです。これにより低コストも実現でき、汎用のチップは従来品の約1/10、本体も約1/3の価格になっていると言います。

また、新技術として、チップ先端の液切れを低減し、サンプルを膜状に引き戻すことを防ぐブローアウト容積増幅機構を展示していました。この機構により、小容量のサンプルもチップから吐出させ切ることができるそうで、同社ブースでは8チャンネルのマイクロピペットが出展されていました。


同社の8チャンネル分注できるマイクロピペットと、ブローアウト容積増幅機構のピペット(右下のグレーのピペット)
同社の8チャンネル分注できるマイクロピペットと、ブローアウト容積増幅機構のピペット(右下のグレーのピペット)


理化学実験器具への利用が期待される焼結石英ガラス

高圧配電用機器碍子、一般用電磁器、各種スイッチ等配線器具、遠赤外線放射セラミックヒーター、食用磁器容器、遠赤外線電気炭などを手掛けるヤマキ電器株式会社(愛知県瀬戸市)が出展していたのは、焼結石英ガラスと高純度石英ガラスです。説明してくださった同社営業部長の伊藤昌洋(いとう・まさひろ)氏によれば、これらは同社のセラミックス加工でつちかったノウハウを使って開発したものだそうです。

焼結石英ガラスは、溶解石英ガラスや合成石英ガラスと違い、低熱膨張性や耐熱衝撃性に優れ、複雑形状で低コストに製造できるという機能的な特徴があると言い、同社では液状にした石英ガラスをスリップキャスト(鋳込み成形)ではなく、粉体を焼成させることでこうした特徴を実現したそうです。また、プロジェクターのレンズなどに使われる高純度石英ガラスは、高い耐熱性と光透過率、低い熱膨張係数が特徴で、同社の技術により溶融シリカをアモルファスにせず、ガラス化して成形することができたと言います。


焼結石英は、従来の石英より低コスト、小ロットでも成形することが可能という。また、高純度石英ガラスは珪酸ガラスのように光熱で割れることが少ないそう
焼結石英は、従来の石英より低コスト、小ロットでも成形することが可能という。また、高純度石英ガラスは珪酸ガラスのように光熱で割れることが少ないそう


新型コロナのパンデミックに注目した携帯型気流検査装置

ガス測定機器、警報機器の製造販売などを行っている光明理化学工業株式会社(神奈川県川崎市)が出展していたのは、白煙を発生させて気流の流れを可視化する検査装置です。説明してくださった同社東日本営業部部長の今福健一(いまふく・けんいち)氏によれば、新型コロナのパンデミックにより、室内の空気の流れ、換気の効果などを知りたいというニーズが現れ、また改正健康増進法によって喫煙室などの気流基準が一般的になったことも開発の背景にあると言います。

この気流検査装置は、黒い棒状になっており、交換式の発煙カートリッジにはプロピレングリコールとグリセリンが入っていて、これを加熱することで白煙が出る仕組みとなっています。基本的に劇場などのスモークと同じで、同氏によると無害な成分ということです。ただ食品ではないため、白煙を吸引したり、発煙カートリッジを口に入れたりすることは認めてはいないとのことでした。


同社の気流検査装置。アスベストの解体現場などでも使用できるそう
同社の気流検査装置。アスベストの解体現場などでも使用できるそう


HPLC用全多孔性カラム

分析技術や充填剤のノウハウを活かした製品開発を手掛ける株式会社クロマニックテクノロジーズ(大阪市港区)が出展していたのは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)のためのカラム(固定相)です。説明してくださった同社代表取締役社長の長江徳和(ながえ・のりかず)氏によれば、HPLCでは液体試料の移動相が送液ポンプによってカラムへ流され、カラムに液体試料を注入してカラムの中で分離し、その後、検出器で各成分の量を電気信号に変換してデータ処理する仕組みになっていると言います。

HPLCのカラムには多種多様な充填剤が入っているそうですが、長江氏によるとカラムの性能は充填剤に依存し、分離に大きな影響を与える充填剤の化学修飾の種類、カラム効率を表す理論段数に影響を及ぼす基材などによって決まると言います。同社が出展していた全多孔性カラムでは、独自に開発した高温のエンドキャッピング法(充填剤のシリカゲルの残存シラノール基の量を最適化させる方法)により、残存シラノール基を不活性化させることを実現しているそうです。

これにより、固定相がシラノール基の影響をほとんど受けないことで酸性、塩基性の化合物の溶出をピーク形状良くはっきりさせ、疎水性が高くなることでアセトニトリルを移動相の有機溶媒に使っても安定した分離ができるようになったと言います。また、充填剤であるシリカ表面のシラノール基が少なくなることで、アルカリ性条件下での耐久性が向上するそうです。


同社のカラム。ケイ素─酸素─ケイ素(Si-O-Si)の結合であるシロキサン結合化によって、シリカ本体をおおうエンドキャッピングレイヤーとシリカ本体の間の残存シラノール基を減らしているそう
同社のカラム。ケイ素─酸素─ケイ素(Si-O-Si)の結合であるシロキサン結合化によって、シリカ本体をおおうエンドキャッピングレイヤーとシリカ本体の間の残存シラノール基を減らしているそう


分析機器への利用を期待する水と同じ屈折率の透明フッ素樹脂

シール製品、工業用機能部品、油圧機器、プラント機器、原子力機器、合成化学製品、エレクトロニクス製品などの製造販売などを行っているNOK株式会社(東京都港区)が出展していたのは、水と同じ屈折率の透明樹脂です。説明してくださった同社NB開発本部、新商品開発部、新商品開発一課の二嶋諒(ふたしま・りょう)氏によれば、これは同社独自のフッ素化学技術を活かして開発した透明フッ素樹脂と言います。

基礎技術を開発したのは10年ほど前だったそうですが、当時はその用途が少なく、今回の展示会で来場者や他社からのニーズを探ろうと提案して出展したと言います。この透明樹脂は水との界面で光の屈折がほとんど生じないため、従来の透明材料を通すと歪んで見えた対象物を正確な形として認識できるなどの効果があるそうです。

例えば、細胞培養の斗状の容器として使用すると、従来の斗状容器では影ができたりしたものを無影で観察や撮影することができると言い、透過性の高さを利用して分光器や近赤外線機器などに使えるのではと考えていると言います。画像解析による検査精度を高くすることが期待できるそうです。

同社の透明フッ素樹脂を使ったシャーレ内の細胞培養容器。低い屈折率、低い薬剤浸透性も特徴という
同社の透明フッ素樹脂を使ったシャーレ内の細胞培養容器。低い屈折率、低い薬剤浸透性も特徴という


新型コロナの感染予防対策を施して開催されたJASIS2021では、オンラインのWebExpo(R)を2021年3月15日(火)まで開催するそうです。また2022年の同展は、会期を元の日程である9月上旬に戻し、9月7日(水)から3日間、今年と同じ千葉県の幕張メッセで開催される予定になっています。


文・写真/石田雅彦


参考情報
・JASIS WebExpoは、一般社団法人日本分析機器工業会の登録商標です。

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