北海道・苫小牧でのCCS実証実験で得られた成果と課題とは〜2030年までの商用化に向けて動き出すCCUS(後編)

2030年までの商用化に向けて動き出すCCUS動向を紹介する本連載。後編では、北海道・苫小牧市にて2012年より開始された大規模なCCS実証実験に注目します。CCSは二酸化炭素を分離・回収して地中に貯蔵するCCUS主要技術です。これまでCCUSにおけるCO2を分離・回収し、貯留するまでの各要素技術が各々の分野で確立されてきましたが、今回の実験では統合した一貫システムとして機能するのかの検証が行われました。後編では、経済産業省の担当者に、CCS実証実験で得られた成果と課題についてお伺いします。

苫小牧でのCCS実証実験が行われた背景および実験内容

2020年1月に策定された「革新的環境イノベーション戦略」。そこには、世界のCO2排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにする「カーボンニュートラル」を実現する技術、さらには過去に排出された大気中のCO2をも削減する「ビヨンド・ゼロ」を可能とする革新的技術を、2050年までに確立することを目指すことが目標として掲げられています。

北海道・苫小牧市での実証実験におけるデータ観測(出典:資源エネルギー庁)
北海道・苫小牧市での実証実験におけるデータ観測(出典:資源エネルギー庁)


経済産業省の担当者はCCUSの実用化に向けて、「経済産業省では、研究開発や国際機関との連携を進めており、2030年までには商用化を前提にCCUSの導入を進めていく方針を掲げています」と語ります。

CCUSの実用化に向け、まず経済産業省はCCSについて、北海道・苫小牧市で大規模な実証実験を行いました。もともと、CO2を分離・回収し、貯留するまでの各要素の技術は、それぞれの分野で確立されていましたが、苫小牧での実証実験はそれらが統合した一貫システムとして機能するのかどうかの確認を目的に行われました。

経済産業省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、日本CCS調査(JCCS)が中心となり、2012年度からCCSに関する準備作業を開始。

具体的に2012年度からの4年間は、供給源となる製油所の水素製造装置から発生するCO2を含むガスから高純度のCO2を分離・回収するための設備と、地下へCO2を圧入するための設備を設計・建設するとともに、既調査井から1坑の観測井への転用、2坑の観測井と2坑の圧入井を掘削しました。それと同時に、貯留層へのCO2圧入が周辺環境に影響を与えないことを確認するため、地層や地震に関するデータのモニタリングシステムを設置し、圧入前の基礎データの取得も実施。また、CO2が貯留される地層が海底下となるため、海洋汚染防止法に基づいた海水・海洋生物などの事前調査も実施しました。(参考文献1)


CCS実証実験の成果は一貫システムの機能検証と安心かつ安心できるシステムであることの確認

2016年4月から、年間10万トン規模の圧入を目標に、CO2を苫小牧港の港湾区域内の海底下約1,000mの地層へCO2を貯留する作業(圧入)を開始。そして、2019年11月、大規模排出源である製油所のCO2を、分離・回収から貯留までの一貫システムとして実証試験し、目標であった累計CO2圧入量30万トンを達成しました。

「苫小牧での実証実験では、製油所の水素製造設備から供給されるCO2を含むガスを、隣接するCO2分離・回収/圧入設備までパイプラインで輸送。その後、そのガスからCO2を分離・回収し、海岸から3~4km離れた海底下の貯留層へ圧入・貯留しました」(経済産業省)

また、実証実験を通じて、分離・回収から圧入・貯留までの一貫したシステムの操業および安全性や環境管理も確認されました。各種モニタリングおよび海洋環境調査を通じて、CCSが安全かつ安心できるシステムであることが確認できたと言います。

例えば、2018年9月に北海道胆振東部地震が発生し、実証実験を行っていた苫小牧CCS実証試験センターでも震度5弱程度の揺れを観測しましたが、地上設備に異常はなく、CO2の漏洩を示すデータも確認されなかったと言います。

「地震発生後に、地震学などの専門家を含む有識者を招き、地震とCCSの関係について検討会を開催した結果、地震によるCO2の漏洩がないこと、そしてCO2を地中に貯留することと地震との因果関係があるとは考えられないという共通認識を得ました」(経済産業省)


CCS実証実験にて見えてきた課題はCCS導入にあたっての地元住民の理解

北海道苫小牧市に建設されたCCS実証実験施設(提供: 日本CCS調査(株))
北海道苫小牧市に建設されたCCS実証実験施設(提供: 日本CCS調査(株))


無事に成功裏に終わった苫小牧での実証実験ですが、前例のない取り組みでもありました。経済産業省の担当者は当時を振り返り、こう語ります。

「初の実証実験でしたので、大変なことがいろいろありました。それを踏まえ、今後CCUSを進めていくにあたって、課題となっていくのは地元住民の理解だと思いました。苫小牧は市長を筆頭にCCS実証プロジェクトの候補地として積極的に誘致してくださいましたが、現状のCCSはまだ利益を生み出すものではない中で、CCSを実施する意義を地元住民に理解していただくのは、非常に大変でした」(経済産業省)

苫小牧の実証実験では、具体的に周辺地域をはじめ、広く国内への情報発信活動を実施することで、住民に理解を深めてもらうように努めたと言います。CCSの現場見学会には、のべ1万人以上が来場。例年おこなっているCCS講演会への出席者も、のべ2,700人を超え、地元でのCCSへの認知度の向上につながっているそうです。

「苫小牧市役所に設置したモニターを利用して実証試験のデータを公開するなど、地元での信頼を得るための活動もおこないました」(経済産業省)

CCSの実用化に向け、操業技術を獲得できたことは北海道・苫小牧での実証実験の成果といえるでしょう。経済産業省の担当者によれば、「このような都市圏の近辺で、住民の理解を得ながら、安全・安心にCCSの操業を完了できたのは、世界で唯一のこと」だそうです。


CCUS商用化に向けた課題は事業環境の整備

2030年までの商用化を視野に、CCSの導入を進めていく──苫小牧での実証実験を経て、国内でのCCUSに関する取り組みは新たなフェーズに突入しています。

今後CCSを商用化するにあたって、経済産業省の担当者は「大きな課題となるのは、法規制に対応し、事業環境を整備すること」と言います。具体的にどういうことなのでしょうか。

「現状、日本にはCCSに特化した法令がありません。そのため、CO2の分離・回収設備については、現行の高圧ガス保安法や労働安全衛生法などを適用し、また、CO2の海底下の地中貯留については、海洋汚染防止法(海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律)を適用しました。一方、掘削や圧入時の安全基準などは存在しないため、鉱業法、鉱山保安法などに準拠しました。今後、産業化を目指すにあたっては、これらの法規制をととのえ、事業環境を整備することが必要です」(経済産業省)

また、CCSのコストは100万トンの実用化モデルのイメージにおいて1トン当たり7,300円程度と試算されており高価です。そうした状況を踏まえ、海外では国や自治体政府の法令などによるCO2貯留に関する法的枠組みの整備が進んでいるほか、税控除や補助金など、CCS導入を促進するインセンティブの制度も整備されています。一方、日本はまだ整備されていない状況です。

「先述したように、現状の事業環境ではCCSはただ単にコストにしかなりません。2050カーボンニュートラルの実現に向け、CCSに対する社会の目は変わりつつありますが、まだ商用化を目指すにあたっての事業環境の整備ができていない状況です。今後、どのような仕組みで商用化を目指していくのか。まだまだ検討する余地があります」(経済産業省)

国内には約2,400億トンのCO2貯留ポテンシャルがあると言われており、貯留に適した場所は日本海側に多く位置しています。一方、CO2を多く排出する工業地帯などは主に太平洋側の沿岸域にあります。「今後、CCUSを推進していくにあたって、CO2はパイプラインなどの陸上輸送のみならず、船舶などを使った長距離輸送も必要になります」と経済産業省の担当者は言います。長距離輸送を実現するために、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、工場や火力発電所から排出されたCO2を活用地や貯留地まで低コストで大量・安全に輸送するための研究開発および実証事業に着手しています。

「また、経済産業省では舞鶴の石炭火力発電所で分離・回収・液化したCO2を苫小牧まで運ぶ長距離輸送の実証を計画しています。液化されたCO2の低温・低圧での船舶輸送については、まだ世界で実証されたことがなく、日本では世界に先駆けて2024年の実証開始を目指しているところです」(経済産業省)

さらに、日本はCCUSの普及促進のため、「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」、「クリーンエネルギー大臣会合(CEM)」などの国際会議における日本の取り組みの積極的な発信や、米国、カナダ、豪州、サウジアラビアやインドネシアなどとの二国間での協力を進めています。アジア全体では、各国で100億トン以上のCO2貯留ポテンシャルがあるとも言われており、今後国際ネットワークの活用は必要不可欠と言えそうです。

苫小牧での実証実験で一定の成果をおさめるなど、CCUSにまつわる技術は確立されてきていますが、商用化にはまだまだ課題がある状況。2050カーボンニュートラルの実現に向け、2030年までにCCUSの商用化は実現するのか。今後の動向にも注目したいところです。


文/新國翔大


▽参考文献
参考文献1:「CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(後編)」(経済産業省資源エネルギー庁)

 

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