「小型エコー」が救命救急の現場や遠隔診療で活用させる理由《ポータブルエコー(超音波診断装置)の開発:後編》~医療現場に聞く遠隔医療のものづくり(9)

INTERVIEW

自治医科大学
医師 亀田 徹

遠隔医療ものづくり技術の最新動向について医療現場からの声をもとに紹介する本連載。第9回は、引き続き「ポータブルエコー(超音波診断装置)」について紹介します。最近は救命救急の現場で当たり前のようにエコーが使われていますが、少し前までは救急室での使用がほとんど検討されておらず、医師への教育も十分でなかったといいます。今回は、超音波検査の臨床現場での活用を推進している自治医科大学 亀田徹医師に、ポータブルエコーの活用例と可能性についてお話を伺いました。

GEヘルスケア・ジャパンは、手軽に持ち運ぶことができ、精密な検査ができるスマートフォンサイズの超音波診断装置を2010年にリリースして以来、累計8,000台を販売してきました。さらに21年7月、スマートフォンやタブレットに接続するワイヤレスタイプ「Vscan Air(R)」を発売しました。後編では、実際に利用されている医師をインタビューします。超音波検査を臨床の現場で行うことで診療に役立てるPoint-of-Care Ultrasound(POCUS、ポイント・オブ・ケア超音波)が専門の自治医科大学の亀田徹(かめだ・とおる)医師に在宅や遠隔医療、遠隔教育でのVscan Air(R)のような携帯型エコー使用の可能性、発展性についてお話をうかがいました。

「ポータブルエコー」に対する救命救急の現場での認識変化

自治医科大学 亀田徹(かめだ・とおる)医師
自治医科大学講師。北海道大学医学部卒業。救急・集中治療・超音波検査の研修の後に,超音波をサブスペシャリティとしながら長年救急医療に従事。2020年6月から臨床検査医学講座に所属。Point-of-Care Ultrasound(POCUS、ポイント・オブ・ケア超音波)を推進。
自治医科大学 亀田徹(かめだ・とおる)医師
自治医科大学講師。北海道大学医学部卒業。救急・集中治療・超音波検査の研修の後に,超音波をサブスペシャリティとしながら長年救急医療に従事。2020年6月から臨床検査医学講座に所属。Point-of-Care Ultrasound(POCUS、ポイント・オブ・ケア超音波)を推進。



──── 救命救急ではいつ頃から超音波診断機(エコー)が使われるようになったのでしょうか。

亀田医師(以下同):
昨今では救命救急の現場で当たり前のようにエコーが使われていますが、そのようになったのは最近ですね。エコーは40〜50年の歴史があり、がん検査や産婦人科ではよく使われていますが、救命救急の現場ではエコーは二の次といった感じでした。2000年代に入ると救命救急の検査はCT(Computed Tomography)が全盛になりました。症状によっては一刻も争う状況の中で、CT検査は検査室に運んで患者を検査台に移し替えて検査を受けさせなくてはならないため、迅速性には劣るのですが、詳細な結果が得られるため優先されていたのです。救急室でエコーをどう使うかはほとんど検討されていませんでしたし、医師への教育も十分でなかったため、医師も重要視していなかったのです。これまで救命救急医がエコーを学習することはあまりありませんでしたので、エコー診断をする十分な技術と知識を持っていなかったと言えます。


──── 亀田医師がポータブルエコーを診断に使われるようになったきっかけは。

私は1996年に北海道大学医学部を卒業し、札幌で救命救急と集中治療の現場にいました。私がポータブルエコーに出合ったのは札幌の救命救急病院で、ポータブルエコーが出始めた2000年頃ですね。医師がポータブルエコーで病変を見つけて見事に摘出する様子に衝撃を受け、超音波を本格的に勉強するようになりました。救急はその場ですぐ判断することが求められます。しかし、その材料が、患者の病歴と表面的な身体所見だけでは、すべての患者の状態を的確に判断するのは難しいのです。運ばれてきたばかりの患者にポータブルエコーを全身に当てて、その場で体内をくまなく評価できるというのは大変魅力的でした。

2010年にハンディのポータブルエコーがGEヘルスケアから発売され、すぐれた性能という評判を聞いて使うようになりました。今後エコーを医師1人が1台持つ時代が必ず来るだろうと予見しました。今ではベッドサイドでエコーを使って診断、治療に役立てるポイント・オブ・ケア超音波という分野が確立し、私はその分野に携わっていますが、当時その分野ができる前に、体系化される可能性を感じました。


──── 亀田医師はエコー診断の技術をどのように学ばれたのですか。

ベッドサイドでのエコーの教育を受ける機会は日本ではないので、検査室の技師や検査室専属の専門医に直接教えを請いました。検査室のエコーは、市中病院の場合、さまざまな部位の診断を1人でこなすのが普通です。専門分化が進んでいるとこもありますが、分けたとしても、循環器かそれ以外の2種類に分かれる程度です。ある病院の検査室で全身の見方を教えてもらって研鑽を積み、救急に戻りました。現在救急医でエコーを使っている人は、私と同じでそれぞれ自己研鑽を積んだり、セミナーに参加してスキルを磨いたりしています。実は救急医に限らないのですが、専門医のレベルに関しては、カリキュラムはあっても、研修は実質的にはないのが実情です。
 
ですから、多くの人にエコーを使って診断の質を上げてほしくて、私も同分野の先生方と協同で、書籍を書いたり、ウェビナーを開催したり、機器を発売するGEヘルスケアなどのサポートも受けながら研修や教育コンテンツを提供してきました。

救命救急の現場や新型コロナウイルスの診断での活用例

ポケットエコーでは本体とスマートフォンだけで診察が可能(提供:GEヘルスケア)
ポケットエコーでは本体とスマートフォンだけで診察が可能(提供:GEヘルスケア)


──── ポータブルエコーをどのように使っていますか。

救命救急の現場では、意識がなかったり、胸やお腹の痛みを訴える患者さんに対しては、まず内臓破裂や心筋梗塞、体内の出血などがないかをチェックするのに使います。集中治療室にはいろいろなモニタやさまざまな機器があり、人の出入りも激しいので、内部動線の問題や、コードの絡まりなどの危険を避けるためにも、コードレスのポータブルエコーはとても使い勝手がいいですね。また手術後の経過観察にもエコーを使いますが、これもキャスター付きタイプのエコーを病室に運んで使っていた時代に比べてかなり楽です。以前はエコー検査は検査室で行うもので、患者さんは外来や病棟から検査室に来て検査しなければなりませんでした。ポータブルエコーなら、外来の診察室や病棟のベッドサイドで医師の回診時などに手軽に使えます。


──── 具体的に救命救急ではどのような使い方をするのですか。

交通事故などで運ばれてきた外傷がある人に当てて、体内出血の有無を確認するFAST(外傷の初期診療における迅速簡易超音波検査法、Focused Assessment with Sonography for Trauma、直訳は「外傷に対する焦点を絞った超音波による評価」)という手順があります。実はエコーの有用性が広く認知されたのはこの外傷の初期診療のエコー活用においてでした。FASTは2000年頃から、世界的な外傷を見る際の共通手順、ガイドラインとして定められ、専門医レベルでやるべきことが初めて明文化されたものです。救急医は外傷を見る際、必ずこの手順を踏むことになっています。

エコーを当てる順番をおおざっぱに言うと、
  心膜腔:心臓を覆う2枚の薄い膜の間にあるスペース
 →モリソン窩:肝臓と右腎臓の間に存在する、腹水がたまりやすい場所
 →右胸腔:右側の肺と胸壁の間の空間
 →脾周囲:脾臓の周囲
 →左胸腔:左側の肺と胸壁の間の空間
 →ダグラス窩:子宮と直腸の間
となっています。心膜腔に心囊液という液体がたまっていないか、肺のある胸腔というスペースに大量に血液がたまっていないか、腹腔内に出血がないかなどを、迅速かつ簡易的に見つけることができる有力な技法です。


──── 新型コロナウイルスの診断でもエコーが使われているそうですね。

呼吸困難のマネジメントでもエコーが使われます。これはCOVID-19の集中治療室でも行われていることです。その際には、まず、患者がショック状態にあるかどうかを見ます。

ショックがない場合は気道の評価をし、気道が確保できていれば、肺がどうなっているかをエコーで見ます。これまで、レントゲンやCTを使っていましたが、リアルタイムで見られるエコーのほうが、迅速評価の点で優れているからです。肺の次に、心臓の評価、お腹の評価、血管系の評価をし、より的確な判断ができるようになっています。

ちなみに、正常な肺は空気を含んでエコーに映らないので、一部の肺がんを除き、肺の評価においてエコーは関心を払われてなかったのですが、今では、呼吸困難の原因もエコーでわかるようになりました。トータルの全身評価をするエコーのガイドラインはまだないので、今後エコーを全身の診察に広げるには学会専門レベルでさらに議論していくことになります。


遠隔診療へ活用や看護師の使用など普及のため画像診断教育が必要

──── エコーは今関心が高まっているようですね。

ワイヤレスのポータブルエコー(Vscan Air)を開発したメーカーの功績は大きいですね。実際に小さな機器ができてみると、ああいうふうに使いたい、こういうふうに使いたいというイメージがわいて、ベッドサイドでどう使うかという研究や実践の機運が高まり、臨床研究が増えてきています。使い道が一気に広がり、ポイント・オブ・ケア超音波の分野で多くの海外データも集まり、日本でも盛り上がっています。10年前だとエコーへの関心が希薄で、みんな「どうせ、CT撮るんでしょ、なんでエコーなの?」というくらいけんもほろろでした。関心が高まっている今は活動もしやすく、この機を逃さず、今後のテーマとしてどううまく使って実際に患者へのケアを改善していくかの議論や実証を重ねる必要があります。

一昔前は、エコーといえば精密検査でしたが、初期段階で血圧を測るという行為と同じく、一般的な診察の一部になってきています。精密検査としてのエコーの有用性は引き続きゆるぎないのですが、ベッドサイドはベッドサイドでの使い方があります。まだまだこれからケアにどう使うか医療経済的にも考える必要はあります。どう使うと有効なケアにつながるのか。たとえば、回診、訪問医療注目され、ニーズが高まっていて、直感的にも有効だと誰もが思うのですが、導入することで在宅診療の質が向上したという科学的なエビデンスはまだありません。医療の質が改善することを今後、医師が科学的に示していかなければならないのです。


──── 看護師が使うシーンも考えられますね。

今もっとも注目されていると言ってもよいくらいですし、国でも研究班が集められているようです。たとえば、点滴の針を刺すために、入れられそうな血管の位置をエコーで見る、集中治療室で医師が一緒にいる場で使う、緊急外来で使う、入院患者の膀胱に尿がたまっているかどうかを見る、在宅医療の患者の褥瘡(じょくそう、床ずれ)や便秘の評価など、使い方はいくらでも考えられます。ただ、現状では、看護師が単独で使用しても、診療報酬として認められておらず、それがネックになっています。医師が立ち会うか、訪問診療などで看護師が使って、その日のうちに医者に報告して説明を行い、同日に精算しなければなりません。そのため、看護師がエコー使うのはまだ手探りの状態です。


──── iPhoneやAndroidなどのアプリで簡単に使えるので、かかりつけ医の人が専門医に画像をシェアして意見を聞くこともできますね。

そのポテンシャルは大きいと思います。訪問診療でエコーをして、専門医に判断を求めたり、遠隔診療が今後進展し、画像を診断する専門医にその余裕があれば、現実的になるでしょう。


──── 遠隔診療の医師にも画像を見るスキルを持つことが求められますね。

遠隔診療が広がるためには、教育が不可欠です。きっちりした教育が行き届いていれば、在宅医療でポータブルエコーを当てて自分で画像を見て判断できます。遠隔超音波医療の場合、在宅で医師や看護師がエコーを使い、遠隔地にいる専門医に画像を送って、医師が見て判断する、情報共有するということもありえます。医師や看護師のスキルが不十分な場合は、オンラインでアシストしながら、このように当ててみてくださいと指示して当て方を誘導することもできます。その場合にもポータブルであれば大変指示がしやすいでしょう。

そして何より、今後は遠隔超音波医療を可能にするための遠隔超音波教育の広がりが考えられます。ここまで小型になれば、エコーの教育も段違いに取り組みやすくなります。いろいろ試行錯誤して、有用性と課題も見えてきています。医学生や看護師やかかりつけ医など、これまでエコーを日常的に使っていなかった医療の専門家の参加が増えるでしょう。

ただし、現時点では遠隔医療はまだ国が認めていないので、研究レベルではあります。コロナの患者にポケットエコーを持たせて、自分で、あるいは家族に当ててもらって、それを遠隔で医師が判断するということも研究レベルでは行われています。


──── さらなる普及にはなにが必要ですか。

ポケットエコーを医師が1人1台、聴診器のように持つ時代が来ると思いますが、PC並みの価格になれば、看護師などへも広げられると思います。規制との兼ね合いがありますが、可能性には非常に期待しています。


文/奥田由意


参考情報
・VSCAN AIRは、General Electric Companyの登録商標です。

▽医療現場に聞く遠隔医療のものづくり

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