超音波(エコー)診断装置がポケットサイズになった時のメリットとは《ポータブルエコー(超音波診断装置)の開発:前編》~医療現場に聞く遠隔医療のものづくり(8)

INTERVIEW

GEヘルスケア・ジャパン株式会社
超音波本部 
部長 阿木 宣親
   麻生 光

遠隔医療ものづくり技術の最新動向について医療現場からの声をもとに紹介する本連載。第8回は「ポータブルエコー(超音波診断装置)」について紹介します。産婦人科やがん検査などで使用する超音波(以下エコー)検査は、放射線被ばくがなく、リアルタイムで見られるという特徴があります。一方、従来の装置は大型で数千万円と高価であるため、エコーの普及にはさらなる小型軽量・低価格化が望まれました。今回は、2000年代から小型エコーを開発しているGEヘルスケアに、同社の場所を問わず使用可能なポータブルエコーのメリットと活用先についてお話を伺いました。

心臓や肝臓や腎臓、血管の検査、腫瘍の有無、胎児の状態を診るなど、医療において初期診断によく使われる検査である超音波検査(エコー検査)は、体に当てたプローブ(探触子、超音波の出る器械)から発せられた超音波が体内を伝わって臓器に当たり、跳ね返ってきた反射波を画像に表示します。

メリットは、カメラやカテーテルのように身体の中に機器を挿入する必要がないため、痛みや、抵抗感がないこと。レントゲンやCTなどのように放射線を使うことがないため、放射線被ばくがないこと。また、胎児の動きや心臓の動きなどをリアルタイムの映像で見ることができることなどです。非常に使い勝手が良く、病院からクリニックまで広く検査に用いられるようになりました。

ただし、課題は本体装置がそれなりに大きいということ。従来の大型の装置は本体が200kgほどの重量があり、価格も数千万円クラス。検査室に設置し、患者は検査室に移動して検査を行う必要があります。コンパクトなコンソール型でも50kg程度あるため、広めの診察室でなければ置くことができませんでした。
一方、GEヘルスケアが製品化したポケットサイズのエコーは、どこにでも持ち運びができるため、病室や訪問診療など場所を問わず使用が可能になりました。その特長や社会へのインパクトについて、GEヘルスケア超音波本部Primary Care部長 阿木宣親(あき・のぶちか)氏と麻生光(あそう・ひかる)氏に話をうかがいました。


超音波検査(エコー検査)の仕組みと特長、活用されている医療分野

現在、大学病院や公立病院などの総合病院への患者の集中を避けるため、在宅診療やかかりつけ医(診療所・クリニック等)が推奨されています。しかし、在宅医療では持っていける医療機器は限られており、かかりつけ医では高額な検査装置を置くことが難しいという現実があります。さまざまな医療機器の小型軽量化、低価格化、IoT化が望まれます。

それが実現した医療機器の一つが、超音波診断装置(以下、エコー)です。そもそもエコーとはどのような医療機器なのでしょうか。エコーは、人が聴くことのできない高い周波数の「超音波」を使って行います。超音波は水の中をまっすぐに進み、硬い物質に当たると跳ね返ってくる性質があります。これは電波や光にはない性質です。人間の身体は新生児で75%、成人で60~65%、老人で50~55%が水分でできています。組織によって水分量は変わります。水分量の多い組織は超音波が透過しやすく、水分量が少ない組織は超音波が跳ね返りやすい。そのため、跳ね返ってきた音波をコンピューターで画像に変換することで、がんや、脂肪のつき具合など、組織の形状や状態を見ることができます。体の表面に超音波プローブをあて、体内の臓器からはね返ってくる超音波を画像として映し出します。

「エコーを当てて、堅くて反射が強いところは輝度情報が多くなり、白く見えます。血管や体液、空気、軟部組織など柔らかくて反射が弱いところは、輝度情報が少なく黒くなります。当てて白いところと黒いところの見え方で状態を判断するのです」とGEヘルスケア・ジャパンの麻生氏は言います。

健康診断で心臓の拍動をリアルタイムで見る、胎児の動きや腹部や肝臓や筋肉を見るなどがそれに当たります。頭蓋骨の隙間からなら脳も、歯の下の組織や手指のリウマチの炎症具合も評価することができます。

エコーがもっとも得意なのは軟部組織を見ることです。肝臓や胆のう、膵臓、腎臓、膀胱、卵巣、子宮、前立腺などの腹部や深い部分にある臓器や、甲状腺や乳腺など体表にできたがんなどの腫瘍を可視化し検査することができます。

また、産婦人科で胎児の状態を診断するのにも使われます。妊娠の際に子宮内にたまる羊水はほぼ水分であるため透過するのに対し、その中にいる胎児は輝度情報が多く画像として認識できます。エコーは母体を透過し胎児の心臓や脳の発育具合も見ることができます。

肺の診断にも用いられます。肺の中は空気なので通常超音波は透過せず、黒く映るのですが、逆に肺の中に肺水腫などなにか異常があり水分が存在する場合には白く映るので、疾患の可能性を探すことができます。

整形外科でも使われます。たとえば、靭帯は連続しているはずなのに、あるポイントで途絶えていれば断絶していることがわかります。靭帯が伸びている場合もそのように見えます。肉離れは筋肉の糸のような繊維が断絶しているように見えます。リハビリの効果は時系列で追って見た時に前回との差で効果を見ることができます。
 
腫瘍が良性か悪性かも見分けられます。悪性腫瘍には栄養血管があるため、血流の流れがあります。プローブで拾った音をドップラー原理で画像にすると、プローブに向かってくる音を赤で、離れていく音を青で表せます。この赤や青の色で、血流が流れていることがわかるというわけです。血管の有無を時系列で追って、腫瘍の状態を見ることで診断が可能になります。

膀胱に尿が溜まっているかどうかなどもわかります。このように有用であることから、エコーは多くの医療シーンで使われるようになってきました。

エコーの優位性はなんといってもCT やレントゲンが放射線や磁場など身体への侵襲性があるのに対して、身体に与える影響がないに等しい点でしょう(とはいえ、放射線と同じで、ALARAの法則(As Low As Reasonably Achievable)に則って、できるだけ成果を得られるぎりぎりの短い時間で当てるようにというコンセンサスはあります)。

リアルタイム性と動画で見られることもエコーの特長のひとつです。CTやレントゲンはあとで現像しなければなりません。また、CTは写真ですが、エコーは動かしながら、連続性を持って見られますし、患者と対話しながら見られます。小さいのでいろいろな角度からあおって見たり、一断面だけでなくなめらかに全体像を把握したりすることもできます。ほかの断面と比較した相対評価でこの断面だけが異常ということがわかるのです。

エコーの普及に向けて、ポケットサイズのエコー開発に取り組む

そのような有力な医療機器であるエコーですが、前述したように、以前は大型で高価な機種しかありませんでした。そこでGEヘルスケアでは、小型軽量な超音波診断装置(以下エコー)の開発、販売を進めてきました。

2000年代にはノートパソコンのような形をしたラップトップ型のエコーを発売。この時初めて、エコーを医師が持ち歩くことができるようになりました。ただ、小型化に成功したとはいえ、プローブを含め約10kgの重量があり、価格も1,000万円近くしていたため、普及にはさらなる小型軽量・低価格な製品の発売が望まれました。

同社はさらなる開発を進め、2010年に同社はポケットサイズの専用ディスプレイを有したエコー「Vscan(R)」を発売しました。価格は100万円程度。その後、ディスプレイを3.5インチから5インチに大型化、タッチパネル式にするなど、アップデートしたバージョンを発売し、シリーズ累計8,000台以上を販売してきました。

「当初は救命救急の現場や病棟で使うイメージで、病院内で患者を検査室まで運ぶのが大変な状況や一刻を争う状況でもエコー診察がしたいというニーズを念頭に開発されました。事故や手術後で動けない患者を検査室に運んだり、重いエコーを病室まで運ぶ必要がなくなり、術後の評価など医師が気になる場合は、医師が回診時にさっと診ることができます。つまり、「医師が装置に合わせるのではなく、医師が使いたいような使い方ができる」ようになりました。

さらに、発売後10年の間に、整形外科や訪問診療、災害時、ドクターヘリの中などこれまであまりエコーが多く使われてこなかった診療科・現場で使われるようになり、医師がポケットエコーを携帯し場所を問わずその場で検査するなど、非常に用途が広がっていきました」と阿木氏は言います。


モバイル対応・ワイヤレス化エコーのメリット、医師同士の画像共有

手のひらに収まるサイズのVscan Air(R)(撮影:嶺竜一)
手のひらに収まるサイズのVscan Air(R)(撮影:嶺竜一)


さらに同社はさらなる利便性の向上を目指し、2021年7月、モバイル機器ワイヤレス接続タイプのエコー「Vscan Air(R)」を発売。

本体はプローブと一体型で、大きさと形はコンビニなどで使用されるハンディのバーコードスキャナー程度(131×64×31mm)。重量はわずか205g。iPhoneやAndroidのスマートフォンやiPadなどタブレット端末にワイヤレス接続して使用することができます。充電も置くだけのQi規格ワイヤレス方式を採用し、使用時には電源接続が不要です。ポケットサイズの機器の中に、半導体、バッテリー、圧電素子、超音波の電気信号を超音波信号に変える素子、Wi-Fi/Bluetooth通信機器、ワイヤレス充電コイルなどが収められています。

プローブには、主に腹部や臓器を診るコンベックス(中心周波数:2〜5MHz)と、主に体表血管を診るリニア(中心周波数:3〜12MHz)の2種類が内蔵(デュアルプローブ)されている点も特長です。

「これまでのVscan(R)との大きな違いは、専用のディスプレイを持っている必要がないということ。スマートフォンは誰でも常に持っているものなので、エコー検査をしたければプローブだけを持ち歩けばいいというイメージです。価格も79万8,000円(税抜)と従来型と比べて抑えることができました。カバンに入れて、ポケットに入れて、あるいは首から下げて、軽い気持ちでありとあらゆる場所に持って行くことができ、この製品のコンセプトでもある、「まるで聴診器のように」使えるのです」(阿木氏)

コロナ禍においては、肺炎の状態を見るのに活用されています。肺炎の検査にはCTも有効ですが、「CTは使用ごとに消毒するとなると大掛かりで大変ですが、ワイヤレスのエコーなら消毒も容易です」(麻生氏)。まずエコーで所見を迅速にとり、重症になりうるかを判断し、次の精密検査等につなげるという使い方をされています。データの共有のしやすさも特徴です。

「他の科の専門医や、他の病院の先生などに診てもらいたい場合は、これまでは、放射線科にお願いしてデータを出してもらうか、USBでデータを持ち出すしかありませんでした。ただし病院ではUSBの使用を禁じているところも多く、わざわざ病院の事務局に申請を通さなくてはならないなど、手続きが煩雑でした。

しかしVscan Air(R)はスマートフォンでデータが保持できるので、「個人情報は秘匿しながら、メール添付やメッセンジャーアプリで送ることも可能なので、地域医療のチーム、医局など、院内院外の医師同士で画像共有することで、サンプルを集めやすくなりますし、『この画像どう思う』などと詳しい医師にエコー画像の読影について相談することができます」(麻生氏)

固定の専用モニターではなく、スマートフォンでもタブレットでも見られるため、モニタサイズが選べるのも使い勝手の良さにつながっています。現場ではスマートフォンで確認し、小さな画面が見えにくい状況下ではタブレットを併用しているという医師もいるそうです。

ワイヤレスなので、ケーブルの断線のリスクがなくなり、操作性も圧倒的に高くなります。患者にケーブルが当たらないようにという気を遣わず、医師はストレスなく使えると言います。


小型エコーは迅速性と汎用性に特化、救急現場や訪問診療での活用を期待

Vscan Air(R)は大型で高価な上位機種と比べて同等の精度はありませんが、使い分けをすることで医療の質がより高まるといいます。

「GEヘルスケアの上位機種のエコーは、各科の診療に特化した機器を開発しています」と阿木氏。コンソール型またはラップトップ型のエコーは診る領域や目的に応じて30種類以上をラインナップしています。たとえば、腹部は止まっている臓器で、心臓は動いている臓器という違いがあり、画像のチューニング方法や求められる画質も異なります。救急用では、血液がモニターに飛び散ることがあってもアルコールで拭いて清潔に使えるようボタンをなくし清掃しやすくするなどの工夫がされています。

一方で小型エコーは、迅速性と汎用性に特化したという意味でその豊富なラインナップの一つとして位置づけています。たとえば救急車で運ばれてきた患者は痛みや外傷のある場所と疾患がある場所が一致しないことが多く、まず内臓破裂をしていないかどうかなどを迅速に見極める必要があります。その時、高精細な画質かどうかはそれほど重要ではありません。検査室に行く時間をかけることなく、迅速に腹部周辺を診ることができ、患者の命に関わる最初の診断・判断を誤らずにすむ確率が高まるのです。

一方、訪問診療や、病室などで経過観察に使う場合には、胸水がたまっていないかなど昨日と今日の差分だけ確認したいケースがあります。そのような場合にも小型エコーは向いています」(阿木氏)

従来のエコーは主に医師と放射線技師、臨床検査技師によって使用されてきましたが、小型化したことで、看護師、助産師にも使用が広がっているといいます。看護師は、医師の指示があれば使えることになっています。今後も現場のニーズや工夫次第でさらに使われる場面は広がっていくでしょう。

文/奥田由意
人物写真/嶺竜一



参考情報
・VSCANは、ゼネラル・エレクトリック・カンパニイの登録商標です。
・VSCAN AIRは、General Electric Companyの登録商標です。



▽医療現場に聞く遠隔医療のものづくり

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