福島県が「再生可能エネルギー」と「水素」に注目した理由とは~脱炭素社会に向けた水素エネルギーの活用(9)

INTERVIEW

国立研究開発法人
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
大平 英二

脱炭素社会の実現に向けて「水素エネルギー」の活用に注目し、産学官からの水素エネルギーに関する取り組みを紹介していく本連載。第9回目は、福島県・浪江町に「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」という再生可能エネルギーを利用した水素製造施設を立ち上げた「産(民間企業)」と「官」の取り組みに注目します。今回は、福島県が復興に向けて「再生可能エネルギー」と「水素」に注目した背景や、再生可能エネルギーの活用拡大における課題についてお話を伺いました。

2020年3月、福島県・浪江町に太陽光発電を利用した世界最大級となる10MWの水素製造装置を備えた水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(Fukushima Hydrogen Energy Research Field)」(以下FH2R)が完成。稼働を開始しています。

ここで作られた水素は「東京2020オリンピック・パラリンピック」の聖火台、一部の聖火リレートーチの燃料としても使われました。そのほか、2019年に全面再開したサッカーナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」(楢葉町)や「道の駅なみえ」(浪江町)、「あづま総合運動公園」(福島市)などにも提供されています。

同施設ではNEDOの委託を受けて東芝エネルギーシステムズ、東北電力、東北電力ネットワーク、岩谷産業、旭化成が研究を実施。再生可能エネルギー電力を利用して水素の製造、貯蔵・輸送、使用といった仕組みの構築に取り組んでいます。東日本大震災復興の柱として、福島県で新エネルギー社会の実現を目指した取り組みが進んでいます。


福島県が復興に向けて「再生可能エネルギー」に注目した背景

2011年3月11日に発生した、東日本大震災。福島県浪江町は地震による家屋などの倒壊や津波の襲来、東京電力福島第一原子力発電所の事故など大きな困難に見舞われました。今も浪江町の一部は帰還困難区域に設定され、いまだに福島県内外で避難生活を強いられている方々もいますが、避難指示が解除されている地域もあり、現在は浪江町の住民登録数の約1割に当たる1,600人の方が町内に居住されています。ただし、復興庁の行った住民意識調査では、避難されている方の中にも、できれば戻りたいと考えている方も多くいらっしゃいます。

東日本大震災からの復興に向けては、除染、インフラの再整備と、支援、補償により人々が生活できる基盤を取り戻すことが第一ですが、原発に代わる新しい産業をつくり出すことも大切だと思われます。そこで、福島県と浪江町が着目したのが「再生可能エネルギー」です。

原子力発電のような危険はなく、石油や石炭、天然ガスといった有限な化石燃料とは異なり、太陽がある限り永遠に枯渇しない。そしてCO2(二酸化炭素)を排出しないといった点が、再生可能エネルギーの大きな特徴となっています。二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする、いわゆるカーボンニュートラル(炭素中立)の実現に向けて、再生可能エネルギーの活用は重要なポイントとなっているのです。

そんな再生可能エネルギーの活用に、福島県はいち早く着手。震災・原発事故などからの復興の大きな柱として、再⽣可能エネルギーの最⼤限の導⼊拡⼤を図るとともに、未来の新エネルギー社会実現に向けたモデルを福島県から創出することを⽬指し、2016年9月に「福島新エネ社会構想」を策定しました。

「福島新エネ社会構想」では、太陽光、風力、地熱、バイオマスといった「再生可能エネルギーの導入拡大」、水素を製造、利用する「水素社会実現に向けたモデル構築」、再生可能エネルギーや水素エネルギーを地域で上手に活用する「スマートコミュニティの構築」を3つの柱として、取り組みを進めています。

3つの柱のひとつである、「水素社会実現に向けたモデル構築」に向けて進められてきたのが、再生可能エネルギーから水素を製造し、それを貯蔵もしくは運輸し、利用するというものです。そうした構想の中で、再生可能エネルギーから水素を製造する実験の場として選ばれたのが、浪江町でした。


福島水素エネルギー研究フィールド(Fukushima Hydrogen Energy Research Field、FH2R)(水色の部分)を含む水素利用の概念図(提供:NEDO)
福島水素エネルギー研究フィールド(Fukushima Hydrogen Energy Research Field、FH2R)(水色の部分)を含む水素利用の概念図(提供:NEDO)


再生可能エネルギーから「水素」への転換と活用が必要な理由

そうした背景のもと、2018年から福島県浪江町の産業団地内に建設を進めてきたのがFH2Rです。FH2Rは18万㎡の敷地内に設置した20MWの太陽光発電の電力を用いて、世界最大級となる10MWの水素製造装置で水の電気分解を行い、最大で毎時2,000N㎥の水素を製造します。この水電解装置を定格運転で1日運転した場合の水素製造量は、一般家庭約4,500世帯分の消費電力、燃料電池自動車の燃料補給約560台分に相当します。
ただし、太陽光発電による電力をそのまま供給するのではなく、そこから水素を製造する理由はどこにあるのでしょうか。

「実は、カーボンニュートラルを実現するにあたって、電力を化石エネルギーから再生可能エネルギーに切り替えるだけでは限界があります。現在、地球上の二酸化炭素の排出量の中で、燃料の燃焼や、供給された電気や熱の使用にともなって排出される『エネルギー起源CO2』の割合はおよそ9割に達していますが、そのうち電力(発電)の占める割合は3割~4割ほどです。発電のほか、運輸、熱、産業プロセスなどさまざまな分野からCO2が排出されています。電力のゼロエミッション化だけでなく、このような非電力部門でもカーボンニュートラルを進めていかなければなりません。そうした中、注目されるようになったのが『水素』です」と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の大平英二(おおひら・えいじ)氏は話します。

可能な限り電化を進め、再生可能エネルギーなどのゼロエミッション電源によりCO2削減を進めるという方向もありますが、高温の熱であったり、工業原料であったり、電化が困難な分野もあります。

「今後、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの発電量は間違いなく伸びていきます。この再生可能エネルギーを無駄なく最大限使っていくために、再生可能エネルギーから転換した水素をさまざまな分野、例えば輸送領域や産業領域で利用することで他の領域での脱炭素化にも貢献できれば、と思っています」(大平氏)

水素は電力を大量に長期で貯蔵することができ、長距離輸送が可能です。また、燃料電池によるコジェネレーション(熱電併給)や燃料電池自動車など、さまざまな用途に利用できます。

「現在は水素をつくるために主に化石燃料を用いていますので二酸化炭素を排出しています。将来、水素をつくるときもCO2フリーとするための方法のひとつとして、再エネなどのゼロエミッション電力を用いて水の電気分解により水素をつくり、その水素をさまざまな産業プロセスに活用することで、カーボンニュートラルを実現することができると思っています」(大平氏)


再エネ活用拡大の課題、「電力系統の需給バランスの調整(ディマンドリスポンス)」

電気から水素を製造する設備棟(撮影:嶺竜一)
電気から水素を製造する設備棟(撮影:嶺竜一)


政府は今年10月に発表した「エネルギー基本計画」において、2030年度の電源構成における再生可能エネルギーの割合を36〜38%に引き上げる、としています。再生可能エネルギーの活用拡大にあたって難しいのが、電力系統の需給バランスの調整です。再生可能エネルギーは出力変動が大きいため、電力系統の需給バランスの調整(Demand Response)が難しいためです。

電力系統において電力を使用する側の需要量と、電力を供給する側の供給量のバランスが崩れた場合、停電につながってしまいます。供給が足りない場合に停電するのはもちろんですが、供給過多の状態になってしまっても、停電してしまいます。そうした事態を防ぐため、通常、電力会社は発電量を調整しやすい火力発電を調整弁にしています。

再生可能エネルギーの供給が多い時には火力発電量を抑え、再エネ発電量が少ない時に燃料を増やして発電量を大きくし、コントロールしています。しかし近年、そのコントロールができない事態が起きはじめました。天候が良く太陽光発電量が多い日の日中などに、九州電力は2018年から、太陽光発電事業者に対して、日中の太陽光発電の稼働停止を求める「出力制御」を実施しています。せっかくの天気の良い日の太陽エネルギーを無駄にし、発電事業者は収入が得られません。これは非常にもったいないことです。

そこで、今後、再生可能エネルギーの導入拡大や出力制御量の増加に伴い、大規模で長期間の貯蔵を可能とする水素を用いたエネルギー貯蔵・利用(Power-to-Gas)の必要性が増していきます。

出力変動の大きい再生可能エネルギーを最大限活用するためには、電力系統需給バランス調整機能(Demand Response)だけでなく、水素エネルギーの貯蔵・利用も含めた需給予測に基づいたシステムの最適な運用機能の確立が必要不可欠です。FH2Rでは、そのための技術開発も行っています。

現在、5社体制で運用。東北電力が水素エネルギーシステムの活用方法の検証、東北電力ネットワークは電力系統の需給バランス調整、岩谷産業が水素の需要予測と供給・貯蔵、旭化成は水電解装置の維持費低減のための技術開発、東芝エネルギーシステムズがプロジェクト全体の取りまとめを担当しています。
 
後編では、そうしたFH2Rでの電力系統の需給バランス調整の取り組み、そして水素社会の実現に向けた、今後の取り組みなどについて触れていきます。

文/新國翔大

▽脱炭素社会に向けた水素エネルギーの活用

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