スマート畜産(酪農)システムを構築することで放牧酪農を「省力化・自動化」~人手不足を解決するスマート放牧酪農への取り組み(後編)

INTERVIEW

北海道・宇野牧場
牧場主 宇野 剛司

株式会社INDETAIL
代表取締役 坪井 大輔

近年北海道では酪農の集約、大規模化が進んでいますが、従来の日本の酪農方法である「舎飼い」では生産効率が上がらないなどから、「放牧」への転換が注目されています。しかし、大規模な放牧でも、「放牧のエリア選定」や「牛追い」など人手不足による課題があるといいます。今回の後編では、人手不足を解決する北海道の「宇野牧場」の取り組みの中で、システム開発会社と協業しAIやドローンなどIT技術を駆使し放牧の課題を解決しようとする事例についてご紹介します。

牛を牛舎に閉じ込めない、穀物飼料を与えない、牛の栄養を考えたさまざまな種類の牧草を与えるなど、牛を中心に考えて辿り着いた放牧酪農を実践することにより、牛が長寿になり、栄養価が高くおいしい牛乳が生産できるようになった宇野牧場。しかし経営を良くし、きちんと利益を上げられる放牧酪農のスタイルを確立するためには、省人化を行いながら、規模を拡大していく必要があります。そのため、宇野牧場はシステム開発会社のINDETAILと協業し、スマート酪農を導入していきます。後編では、その取り組みをレポートします。


放牧における「放牧のエリア選定」と「牛追い」の自動化への課題

牛を第一に考えた放牧酪農の追求により、宇野牧場 牧場主の宇野剛司(うの・たけし)氏は、自分が納得できる高品質でおいしい牛乳を生産できるようになりました。宇野牧場はこうしてできた牛乳を、自社で商品化しました。一般に流通する牛乳の10倍ほどの価格で「最高峰の牛乳」という名前で商品化し、ヨーグルトやアイスも商品化。オンラインで販売しています。放牧から高付加価値商品を生み出したのです。

こうした努力を重ねて放牧で結果を出した宇野氏は、徐々に放牧面積を広げていきました。最初は70haから始めましたが、現在では230haという広大な土地を使っています。

さらに面積を広げたいと考えていた宇野氏ですが、そうなってくると重要なのは、今日は牛をどのエリアに誘導してどの草を食べさせ、明日はどこに誘導すれば良いのか、といった「放牧のエリア選定」です。

「放牧というとのんびり牛を放し飼いしているイメージがありますが、ただ牛を放って好き勝手に牧草を食べさせればいいというわけではないのです。効率を考えれば、生えたばかりの若草を食べさせるのではなく、15cmぐらい伸びた牧草を食べさせるほうがいい。それに、牛を健康に保ち、良い品質の生乳を得るには、栄養価の高い牧草を与えなければなりません。そのため、良好な生育段階にある牧草地を選んで牛を誘導する必要があります。

それに基本的に徒歩やバギーで牛を追うためどうしても人力が必要になりますし、牛追いにも技術を必要とします。エリアを柵で区切って誘導すれば良いですが、その扉を開閉するのも楽ではありません。牧場が広くなればなるほど、この牛追いの仕事の大変さが増えてくる。しかし、やはり酪農の担い手が少なく、なかなか人材を確保できないのです。そこで、エリア選定や牛追いを自動化できないかと考え始めました」

頭を悩ませていた宇野氏ですが、知人が主催したビジネスセミナーでINDETAIL(インディテール)の坪井大輔(つぼい・だいすけ)代表取締役と出会ったことで解決の糸口を見出します。


AIやドローン技術を駆使し、「スマート酪農」の開発へ

INDETAILは北海道札幌市で2009年創業のシステム開発会社。電子書籍作成サービスや、ECサービス、オンラインゲームなどをリリース。「ベストベンチャ−100」に4年連続選出されるなど、多数の受賞歴をもつ会社です。2017年頃からブロックチェーンへの取り組みを本格化させ、地方銀行や大学、企業と協業してさまざまなシステムを開発しています。2020年にドイツとベトナムに拠点を構え、グローバルでもビジネスを展開しています。

「弊社はブロックチェーンを中核技術とするシステム開発ベンチャーです。しかしブロックチェーンやAIのテクノロジーはあくまで目的を達成するための手段。問題が解決できるのであれば、テクノロジーを選びません」
そう語る坪井氏は、宇野氏の酪農にかける熱い想いに共感し、放牧におけるテクノロジーの活用方法を検討し始めます。

「初めて宇野さんと話した時に、人手をかけず効率良く放牧を行うために必要なテクノロジーを具体的に思い浮かべることができました。これは『スマート酪農』という形で実現できるとその場で確信しました」(坪井氏)

宇野氏が抱える問題を解決するための要件は2つありました。1つは牧草の生育段階を正確に見分けられるようにすること。もう1つは牛追いを省力化すること。後者は具体的には、牧草地を区切るゲートを自動で開閉して無人で牛を誘導できるようにすることです。

1つ目の要件を満たすために「INDETAIL」が最初に行ったのは実地調査です。まず、牧草地の環境や牧草の生え方の違いを確認しました。その結果、ドローンを飛ばして牧草地を空撮し、AIにより画像解析を行うことで生育段階を正確に判別する手法を開発することになりました。


ドローンによるリモートセンシングとAIによって最適な牧草地を判断する(提供:INDETAIL)
ドローンによるリモートセンシングとAIによって最適な牧草地を判断する(提供:INDETAIL)


「牛に与えるのに最適な牧草の状態は宇野さんの頭の中に入っています。それをデータ化して画像データと照らし合わせ、判断基準を設けました。また、色だけを基準にすると、日に焼けて枯れた牧草なのか、土壌が露出しているのか分かりませんし、天候や季節によって色合いが変わるため、それらを判別するアルゴリズムも開発しました。昨年の夏からドローンを飛ばしていますが、現在は画像解析をするのに十分な量のサンプルデータを蓄積しています。

2つ目の要件であるゲートの開閉については、現在、技術開発を進めているところです。牧草地の各区画の境界線には今、リモートで自動開閉可能なゲートが設置されています。

さらに今後、AIの判定に基づいて各ゲートを開閉し、その日の放牧エリアを自動形成することを目指しています。現在は放牧地を移動する際にバギーを使用していますが、オフロードなので横転など事故リスクが付きものですし、電気柵に接触してしまう危険もあります。しかし、ドローンによる調査や自動開閉ゲートが実現すれば、作業をより安全に行うことができます」(坪井氏)

リモートによって自動開閉可能なゲート(提供:INDETAIL)
リモートによって自動開閉可能なゲート(提供:INDETAIL)

IT技術で自動化と省力化を果たし、酪農人工の増加に

「INDETAIL」は、協力関係を深め、2021年4月に「株式会社REVOMILK(レボミルク)」という合弁会社を設立しました。目指すのは、宇野氏の放牧のノウハウとINDETAILの技術を融合させることによる、新しい生乳生産システムの構築です。そのために、宇野牧場とは別にレボミルク専用の牧場を作ることも計画しています。

「レボミルクでは、放牧・ドローン・AIを掛け合わせたスマート酪農システムでビジネス特許を申請しています。技術が確立できれば、経験の浅い人でも良質な牧草地を選んで牛を放牧させられるようになりますし、移動のスケジューリングも容易になります。ドローンで撮影した牧草のデータや生乳の成分のデータをビッグデータとして蓄積すれば、生乳の品質を予想することも可能になるかもしれません」(坪井氏)

現在取り組んでいる放牧技術の開発以外にも、最新技術で効率化を図れる作業はたくさんあります。例えば、ニュージーランドでは放牧でロボットを使った自動搾乳「ロボット搾乳」の実用化が進んでいます。ロボット搾乳は日本でも牛舎飼いの牧場で導入が進められていますが、まだ普及率は低いのが現状です。レボミルクは放牧でのロボット搾乳の仕組みの導入を検討しています。ロボット搾乳の仕組みがうまくできれば、放牧中でも、乳が溜まって出したくなった乳牛が搾乳機のところにやってきてロボットにより自動的に搾乳が行われるので、省力化になるのはもちろん、一定時刻ではなく24時間搾乳を行うことができるため大幅な効率化が図れます。

「酪農は昔からキツい仕事だと思われてきました。しかし、ITを駆使することで労力が軽減されて生産性が向上すれば、イメージも変わるし、働きたい人も増えるのではないかと思います。そして、結果的に酪農という産業を前進させることに繋がれば理想的です」(宇野氏)

自動化と省力化によって、牧場の仕事が効率的になり、大規模化が進むとともに、牛が自由に動き回って、長生きし、健康になり、牛乳がもっと美味しくなる。そういう酪農モデルのアップデートが今、行われようとしています。


文/高須賀哲

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