ペロブスカイト太陽電池の構造、製法、従来のシリコン太陽電池との比較~ペロブスカイト太陽電池の研究開発ストーリー(後編)

INTERVIEW

桐蔭横浜大学
医用工学部臨床工学科
特任教授 宮坂 力

ペロブスカイト太陽電池の研究開発ストーリーや特徴などについて、同太陽電池の研究開発を主導した桐蔭横浜大学の特任教授 宮坂力氏にお話を伺う本連載。ペロブスカイト薄膜は、ペロブスカイトの原料液を垂らし、溶液の溶媒が揮発することでペロブスカイトの単結晶ができるというシンプルの製法ですが、研究者個人としての成膜を作る達人の存在が重要になるといいます。後編は、ペロブスカイト太陽電池の構造、製造方法、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた特性研究、従来のシリコン太陽電池との比較などについてお話を伺いました。

現在、太陽電池の材料として広く普及しているのはシリコン(Si)ですが、次世代の太陽電池としてペロブスカイト(Perovskite)結晶構造を持つ材料によるペロブスカイト太陽電池が注目を集めています。ペロブスカイト太陽電池は、簡易な装置で材料を塗布することで低コストな製造工程が可能になります。また、光からのエネルギー変換効率を高くできる可能性を秘め、軽量で柔軟性に富む太陽電池を作ることができると言います。有機無機ハイブリッド構造のペロブスカイト結晶が酸化チタンの可視光増感剤としてはたらくことを発見し、太陽電池への開発を主導した桐蔭横浜大学医用工学部臨床工学科特任教授 宮坂力氏に、前編・中編に続いて製法やノウハウ、可能性などについてのお話を伺いました。



ペロブスカイト太陽電池の構造と、製造方法

──── 英国オックスフォード大学からやってきた学生さんが加わったことで、なぜ、うまくいったんでしょうか。

宮坂氏(以下同):
2008年にハワイで発表したものは全固体(乾式)でしたが、ペロブスカイトの層があまりにも薄かったんです。スネイスさんが派遣してくれたリーくんは物理学が専攻だったので、ペロブスカイトの層の上にスネイスさんが研究していた市販の正孔輸送層材料の層を重ねて全固体の構造にして、ペロブスカイトを0.5μmという半導体の薄膜のような厚さにしてみたんです。すると、湿式より10倍くらい変換効率を高くすることができたんですね。


ペロブスカイト太陽電池の断面構造。ペロブスカイトの層を厚くし、正孔輸送層を全固体にしているという。(提供:桐蔭横浜大学宮坂研究室)
ペロブスカイト太陽電池の断面構造。ペロブスカイトの層を厚くし、正孔輸送層を全固体にしているという。(提供:桐蔭横浜大学宮坂研究室)


──── ペロブスカイトの薄膜はどうやって作るんでしょうか。

現在、我々はペロブスカイト太陽電池制作用の自動スピンコーターという装置を開発中なんです。これは毎分2,000回転くらいの回転塗布器にマイクロピペットでペロブスカイトの原料の液を垂らし、この過程で溶液の溶媒が揮発すると、食塩の結晶ができるのと同じように、ペロブスカイトの単結晶ができるんです。

この間は約20秒で、我々の装置では2.5cm角のペロブスカイトの薄膜ができあがります。実際の量産工程では大きな塗布機を使って作っていますが、単に2.5cm角程度のペロブスカイトの成膜は簡単に作ることができます。この装置はロボット化されていて、再現性高く誰が操作しても同じ質のペロブスカイトの薄膜ができるようになっています。


ペロブスカイト太陽電池製作用の自動スピンコーター。リモートコントロールによる成膜を自動化し、ドライ環境を実現、成膜作業の環境安全性も向上させているという。(提供:桐蔭横浜大学 宮坂研究室)
ペロブスカイト太陽電池製作用の自動スピンコーター。リモートコントロールによる成膜を自動化し、ドライ環境を実現、成膜作業の環境安全性も向上させているという。(提供:桐蔭横浜大学 宮坂研究室)


──── 特に高温高圧などの特殊な環境ではないんですね。

現在のペロブスカイトの層は、熊本城の石垣のように結晶がしっかり隙間なく積層し、表面がなめらかで平坦にすることができていますが、例えば食塩水を平らに塗布して結晶薄膜を作ろうとしても凸凹したり穴が空いたりして、そううまくいきません。同じようにペロブスカイトで厚さ0.5μmの層を作ろうとしてもそう簡単ではないんです。


──── そうした製法があれば誰が作っても質の高い膜ができるんでしょうか。

いえ、同じような製法で同じような層を作っても、変換効率が同じように高くなるとは限りません。これはノウハウでもありますが、我々がよく『ゴールデンハンド』というように、研究者個人としての成膜を作る達人の存在が重要になります。そうした達人は、しっかり環境を制御して実験の都度、回転数や適量などのデータをまめにノートに緻密に書いて記録しているものです。


毎分2,000回転くらいの回転塗布器にマイクロピペットでペロブスカイトの原料の液を垂らし、溶液の溶媒が揮発すると、ペロブスカイトの単結晶ができるという
毎分2,000回転くらいの回転塗布器にマイクロピペットでペロブスカイトの原料の液を垂らし、溶液の溶媒が揮発すると、ペロブスカイトの単結晶ができるという


──── やはり、薄膜を作るのにはノウハウのようなものがあるのですね。

もちろん、回転数、雰囲気、湿度、基盤の温度、滴下する量など、試行錯誤を行って到達した現在の最適解になります。ただ、シリコンの太陽電池などでは時間もかかりますし、真空に引く必要があるなど設備や工程などで時間とコストがかかりますが、ペロブスカイトの場合は極端な話、塗って乾かすだけで成膜できますからアドバンテージは大きいと思います。室温の大気圧、空気中で作ることができるので試行回数も多くできますから、今では世界中の研究者が参入している分野になっているんです。


ペロブスカイトの層は日本の城郭の石垣のように隙間なく密着し、上面下面も平坦になっていることがわかる(提供:桐蔭横浜大学 宮坂研究室)
ペロブスカイトの層は日本の城郭の石垣のように隙間なく密着し、上面下面も平坦になっていることがわかる(提供:桐蔭横浜大学 宮坂研究室)


ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた特性研究

──── ペロブスカイト太陽電池はかなりホットな研究分野ということでしょうか。

ペロブスカイト太陽電池の断面をみると、何層化に分かれていますが、ペロブスカイトの薄膜のほかで重要なのは正孔輸送層です。正孔輸送層の材料は高価ですが、この材料も研究機関や企業が改良を加えて性能を競っています。

また、ペロブスカイトには、紫外線を当てると非常に明るく光るという特性もあります。ペロブスカイト自体がRGBで光るという特性を活かして、有機ELのようにスマートフォンのスクリーンに応用しようという研究開発も盛んに行われています。


──── 耐久性についてはどうでしょうか。

耐久性として我々のペロブスカイト太陽電池は、気温85℃、相対湿度20%から35%で数千時間の実験をしていますが、シリコン太陽電池のJIS規格で評価して10年間の耐久性があることがわかっています。もちろん、まだ誰も10年間、試したことはありませんが、計算上はそれくらいになると予想しています。

またシリコン太陽電池にはないペロブスカイト太陽電池の特徴として柔軟性があります。薄いプラスチックフィルム基板(125μm)に製膜した素子は1,000回の折り曲げ試験にも耐えられることがわかっています。


──── 量産としてはどうでしょう。

すでに開発されていますが、ペロブスカイトをベタ塗りして作った20cm角や30cm角の大面積基板をパターニングすることによって複数のペロブスカイトセルを1枚の基板に直列に並べる方法があります。ひとつのセルが1Vとすると30個並べると30Vなります。


──── 軽いことも重要ですね。

現在、JAXAと共同研究していてペロブスカイト太陽電池を貼った気球(バルーン)を地上から30km、気温-60℃のほぼ真空状態の上空に飛ばしました。この気球のフィルムの厚さは50μm以下ですが、その一部にペロブスカイト太陽電池を貼ることも計画しています。また、JAXAは人工衛星など宇宙空間でペロブスカイト太陽電池を使いたいという計画もしているんです。


──── JAXAとはどのような共同研究をしているんでしょうか。

今年に行った第2回目の気球実験では、成層圏の高度でのペロブスカイト太陽電池の特性データ取得に成功しています。その時のペロブスカイト太陽電池は、プラスチックフィルムの上に成膜したフレキシブル電池です。今後は気球に貼ったペロブスカイト太陽電池で発電し、気球での実験のより高度化を目指そうとしています。


従来のシリコン太陽電池との比較、製造ノウハウで日本の優位性を

──── ペロブスカイト太陽電池は、すでに実用化の段階といっていいんですね。

BtoBですが我々が作ったセルを使ってもらっています。また、2022年の春くらいにはプラスチックセルの販売を始める予定です。


──── エネルギー変換効率とシリコン太陽電池との関係はどうでしょうか。

シリコン太陽電池のエネルギー変換効率はだいたい26%、タンデムにして2接合にすると30%、ペロブスカイト太陽電池のほうは現在、25%です。広い波長の光を効率的に電気に変えるため、シリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池のタンデムセルという方法が研究されています。赤外線を吸収するシリコン太陽電池は0.7Vくらいの電圧で、可視光を吸収するペロブスカイト太陽電池は1.1V以上の電圧が出ますから合計で1.8V以上になります。


──── ペロブスカイト太陽電池はシリコン太陽電池より優秀なんでしょうか。

ペロブスカイト太陽電池は、シリコン太陽電池と競争する必要はありません。シリコン太陽電池のコストも下がってきていますし、耐久性もシリコン太陽電池より短いと思います。ペロブスカイト太陽電池は、例えばほぼ透明にできますから住宅の窓、柔軟で軽いという特性を活かしたい場所など、シリコン太陽電池ができない分野を補っていくエネルギー源として活用しようという方向です。


──── ペロブスカイト太陽電池の研究開発は世界中で競争が始まっています。

この分野で中国には日本の100倍の研究者がいますし、ペロブスカイト太陽電池は簡単に作れてしまいますから、これから日本が勝ち抜いていくのは簡単ではないと思います。その中で日本がどうやっていくのかというと、コストは少し高くてもいかに質の高いものを作っていくかでしょう。この質の高さはほんのわずかでもいいんですが、わずかの差はやはり特許には書けないノウハウから生まれます。


──── そのノウハウにはどんなものがありますか。
 
例えば、ペロブスカイト太陽電池はシリコン太陽電池などに比べて電圧が高いのが特徴ですが、すでにバンドギャップからペロブスカイト太陽電池の電圧は限界に近いんです。この電圧をいかに高く維持していくのかがノウハウです。

ペロブスカイト太陽電池の別の特徴のひとつが弱い光でも発電できるということですが、実際、スマートフォンの光でモーターを動かすことができていますし、極端な話、月の光でも発電できるかもしれません。太陽光で17%の効率なものが、屋内の200ルクスの光で34%となるようにペロブスカイト太陽電池は弱い光でも、さすがに電流は下がりますが電圧が下がりにくいんです。つまり、ペロブスカイト太陽電池は、光の強くないいろんな環境で無線やウェアラブルなどの電源に使うことができるようになる可能性があるんです。


──── ペロブスカイト太陽電池に特有のノウハウがあるんですね。

固体材料の物理学の分野では理論的に分析すると製法などが明らかになってしまうことも多いと思いますが、化学の分野は作った自分でもどうやって作っているのか説明できないという泥臭いノウハウが生きています。そうした意味で、日本はペロブスカイト太陽電池の化学のノウハウで勝ち抜いていけるかもしれません。

桐蔭横浜大学医用工学部臨床工学科特任教授 宮坂力(みやさか・つとむ)氏。
工学博士。専門分野および研究分野:光電気化学、環境エネルギー科学、色素増感太陽電池ならびに有機/無機ハイブリッド光電変換素子に関する研究、光蓄電型素子(光キャパシタ)の構築。東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了。カナダ・ケベック大学トアリビエール校生物物理学科(1979~1980)、東京大学大学院総合文化研究科客員教授(2005〜2010)、富士写真フイルム(株)主任研究員(〜2001年)、桐蔭横浜大学大学院工学研究科教授を経て2017年から現職。2004年に大学発ベンチャー、ペクセル・テクノロジーズ(株)設立、現在代表取締役。2019年より東京大学先端科学技術研究センター・フェロー。
桐蔭横浜大学医用工学部臨床工学科特任教授 宮坂力(みやさか・つとむ)氏。
工学博士。専門分野および研究分野:光電気化学、環境エネルギー科学、色素増感太陽電池ならびに有機/無機ハイブリッド光電変換素子に関する研究、光蓄電型素子(光キャパシタ)の構築。東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了。カナダ・ケベック大学トアリビエール校生物物理学科(1979~1980)、東京大学大学院総合文化研究科客員教授(2005〜2010)、富士写真フイルム(株)主任研究員(〜2001年)、桐蔭横浜大学大学院工学研究科教授を経て2017年から現職。2004年に大学発ベンチャー、ペクセル・テクノロジーズ(株)設立、現在代表取締役。2019年より東京大学先端科学技術研究センター・フェロー。



開発した宮坂氏にペロブスカイト太陽電池の開発や特徴、可能性などについて話をうかがってきました。開発の過程での研究者の関係、化学と物理学の関係、シリコン太陽電池との関係、競合する世界との関係など、ペロブスカイト太陽電池が広げる世界がよく理解できたように思います。日本発の太陽電池素材、ペロブスカイトは、半導体、センサー、画像処理、磁性機能などこれからも大きな可能性があるようです。

文/石田雅彦

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