ペロブスカイトを使った太陽電池の発想は学生の提案から~ペロブスカイト太陽電池の研究開発ストーリー(前編)

INTERVIEW

桐蔭横浜大学
医用工学部臨床工学科
特任教授 宮坂 力

太陽電池は、環境への配慮など持続可能な社会を支える上で利用が増えていますが、その材料として広く使われているのがシリコンです。一方、透明で柔軟、軽いという特性をもつ「ペロブスカイト」を使った太陽電池の研究開発も盛んに進んでいます。今回は、このペロブスカイト太陽電池に注目し、3回にわたって、同太陽電池の研究開発を主導した桐蔭横浜大学の特任教授 宮坂力氏に、ペロブスカイト太陽電池の研究開発ストーリーや特徴などについてお話を伺いました。前編は、学生の提案によりペロブスカイトによる太陽電池の研究を行った経緯についてのお話です。

現在、太陽電池の材料として広く普及しているのはシリコン(Si)ですが、次世代の太陽電池としてペロブスカイト(Perovskite)結晶構造をもつ材料によるペロブスカイト太陽電池が注目を集めています。ペロブスカイト太陽電池は、簡易な装置で材料を塗布することによって低コストな製造が可能になります。また、光からのエネルギー変換効率を高くできる可能性を秘め、軽量で柔軟性に富む太陽電池を作ることができると言います。有機無機ハイブリッド構造のペロブスカイト結晶が酸化チタンの可視光増感剤としてはたらくことを発見し、太陽電池への開発を主導した桐蔭横浜大学医用工学部臨床工学科特任教授 宮坂力氏に、その特性や開発秘話、ペロブスカイト太陽電池の可能性などについて話をうかがいました。



「ペロブスカイト」という結晶構造をもつ物質と、その性質

──── ペロブスカイトという材料はいつ発見されたんでしょうか。

宮坂氏(以下同):
ペロブスカイトというのは結晶構造の一般名称です。鉱物としてのペロブスカイトは黒くてツヤツヤしたものです。ペロブスカイトという結晶構造が発見されたのは約100年前で、もともとの鉱物の発見からは200年近く経っています。その意味では、古くから知られている物質です。


──── 我々の身近で使われているのでしょうか。

ペロブスカイトという結晶構造は自然界にはあまりありませんが、ペロブスカイト結晶構造の材料や商品としては強誘電体として圧電効果が必要な多くのものに使われています。例えば、インクジェットプリンターのヘッドやセラミック積層コンデンサー、超音波洗浄機の振動子、潜水艦のソナーなどにチタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛といったペロブスカイト結晶構造をもつ材料が使われています。


──── ペロブスカイトには特徴的な性質があるのでしょうか。

強誘電体の物質にはいろいろありますが、電場をかけるとプラスとマイナスに分極するというのが特性です。そのため、ペロブスカイト結晶構造をもつ物質は前述した材料のほかにもメモリや蓄電材料、センサーなどにも使われてきました。


──── 太陽電池に使われるペロブスカイトはこれまでのものとは違うのでしょうか。

ペロブスカイトは金属酸化物ですが、太陽電池に使うペロブスカイトはコンデンサーなどで使われるものと少し違い、鉛系物質を含んでいる部分は似ていますが、酸素の代わりにハロゲンが入っていて有機と無機のハイブリッド構造になっています。


酸化物ペロブスカイト(鉱物、左)とハロゲン化物ペロブスカイト(提供:桐蔭横浜大学宮坂研究室)
酸化物ペロブスカイト(鉱物、左)とハロゲン化物ペロブスカイト(提供:桐蔭横浜大学宮坂研究室)


ペロブスカイトによる太陽電池の研究を行ったきっかけ

──── ペロブスカイトを太陽電池の材料に使うという考え方はいつ頃からあるのですか。

シリコンの太陽電池は1954年に米国のベル電話研究所で発明されましたが、その数年後にはペロブスカイトが光導電性をもつという論文が出ています。その後、なぜかペロブスカイトを太陽電池に使うという研究が続くことはありませんでしたが、最近になってペロブスカイトによる光学素子の研究が進められていて、例えば文部科学省はペロブスカイトを使って低電圧で高輝度のLEDレーザーを開発するプロジェクトをやっています。ただ、これまでペロブスカイトを発電に使うという研究はほとんど行われてきませんでしたし、おそらく誰かはやっていたかもしれませんが学会で報告するようなことはありませんでした。


──── つまり、宮坂先生が興味を抱くまでペロブスカイトの太陽電池の研究は世界のどこでもされていなかったんですか。

私も最初はペロブスカイトにあまり興味はありませんでしたし、よく光る物質ということで名前くらいは知っていた程度でした。ただ、2005年に私の研究室に他大学から友人の紹介で在籍していた小島陽広(こじま・あきひろ)くんという大学院の学生が、ペロブスカイトによる太陽電池を研究テーマにしたいと言ってきたんです。私は、光に対してなんらかの反応をする物質は光を電気に変える特性をもっているかもしれないという考えがありましたから、その時は、それならうちの実験室でやってみたら、と軽く了解してしまったんです。


──── ペロブスカイト太陽電池は他大学の学生さんの研究テーマだったんですね。

そうなんです。彼は他大学の学生だし、自分の研究室も忙しいので断ることもできたんですが、私自身が一人っ子だったこともあっていろんな人間が集まってワイワイやる雰囲気が好きなんですね。その時も自分の研究テーマを楽しくやってくれればいいなくらいの気持ちでしたが、今までにない発想の研究でしたし、私自身ももしかしたらペロブスカイトで発電するかもしれないな、という予感めいたものもあったのは事実です。


ペロブスカイトを使った太陽電池のヒントは、色素増感太陽電池から

──── その小島さんはもともとペロブスカイトを太陽電池に使うことに興味をもっていたんでしょうか。

小島くんのもとの大学は東京工芸大学でしたが、彼の指導教員が化学で作る色素増感太陽電池に興味をもっていたんです。それもあって、彼は大学院へ進んでからペロブスカイトの特性などをいろいろ調べているうちに、色素増感太陽電池からペロブスカイトを使った太陽電池のヒントを得たんだと思います。化学の分野では私の研究室は日本でも有名なので、ペロブスカイトをやりたいということで訪ねてきたんです。


──── ペロブスカイトと太陽電池のつながりはどのような発想なのでしょうか。

光を扱うという研究分野でいえば、LEDやレーザーもありますが、光によって電気を生み出し、そのエネルギーでなにかを動かすという方向性のほうがアグレッシブだと思います。自分が作ったものでなにかを動かしてみたいという気持ちから彼も太陽電池をやりたいと考えたんじゃないでしょうか。


──── 小島さんの実験はどうなったんですか。

そうしたら数か月後に、「先生、ペロブスカイトに光を当てたら電流が流れました。」と言ってきたんです。その時はうれしかったですね。


2008年に製作した小島さんの全固体のペロブスカイト太陽電池(提供:桐蔭横浜大学 宮坂研究室)
2008年に製作した小島さんの全固体のペロブスカイト太陽電池(提供:桐蔭横浜大学 宮坂研究室)


ペロブスカイト太陽電池の発光効率が10%を突破する論文発表で、注目されるように

──── ペロブスカイトを扱うのは難しくはないんですか。

ペロブスカイトの電極用薄膜材料を作るのはそう難しくはありません。だから小島くんも短期間で実験できたんでしょう。それならということで、2006年から彼を私の研究室の共同研究者になってもらい、彼は2008年に米国ハワイで開かれた電気化学の学会で今のペロブスカイト太陽電池の原型になるものを作って世界で初めて発表したんです。その成果をもとにした論文を、査読付きの学術雑誌に投稿してアクセプトされたのが2009年で、小島くんはその論文で博士号を取りました。


──── その論文はかなり注目されたんじゃないですか。

いえ。発表した当初は誰も追試をしませんでしたし、あまり引用もされませんでした。この世界では、リチウムイオン電池でもLEDでも有機ELでも、3つの要素が重なると誰からも無視されるんです。あまりにも性能が悪い、よくわからない材料、安定性が悪い、この3つです。そんなものに時間と資金を使って追試するようなことを普通しないんです。


──── いつから注目されるようになったんでしょうか。

2012年にようやくペロブスカイト太陽電池で発光効率が10%を突破(10.9%)する論文が2012年に米国の科学雑誌『Science』に出て(参考情報1)、初めて学会などで注目されるようになったんです。この論文には私も参加していますが、研究を主導したのはヘンリー・スネイス(Henry J. Snaith)さんという研究者です。


桐蔭横浜大学医用工学部臨床工学科特任教授 宮坂力(みやさか・つとむ)氏。
工学博士。専門分野および研究分野:光電気化学、環境エネルギー科学、色素増感太陽電池ならびに有機/無機ハイブリッド光電変換素子に関する研究、光蓄電型素子(光キャパシタ)の構築。東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了。カナダ・ケベック大学トアリビエール校生物物理学科(1979~1980)、東京大学大学院総合文化研究科客員教授(2005〜2010)、富士写真フイルム(株)主任研究員(〜2001年)、桐蔭横浜大学大学院工学研究科教授を経て2017年から現職。2004年に大学発ベンチャー、ペクセル・テクノロジーズ(株)設立、現在代表取締役。2019年より東京大学先端科学技術研究センター・フェロー。
桐蔭横浜大学医用工学部臨床工学科特任教授 宮坂力(みやさか・つとむ)氏。
工学博士。専門分野および研究分野:光電気化学、環境エネルギー科学、色素増感太陽電池ならびに有機/無機ハイブリッド光電変換素子に関する研究、光蓄電型素子(光キャパシタ)の構築。東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了。カナダ・ケベック大学トアリビエール校生物物理学科(1979~1980)、東京大学大学院総合文化研究科客員教授(2005〜2010)、富士写真フイルム(株)主任研究員(〜2001年)、桐蔭横浜大学大学院工学研究科教授を経て2017年から現職。2004年に大学発ベンチャー、ペクセル・テクノロジーズ(株)設立、現在代表取締役。2019年より東京大学先端科学技術研究センター・フェロー。



一流科学雑誌に論文が掲載され、ようやく日の目を見ることになったペロブスカイト太陽電池。宮坂氏は化学と物理学をつなぐ役割をもっているといいます。次回はそんなペロブスカイト太陽電池の開発に関係した研究者たちのつながりについてのお話をご紹介します。

文/石田雅彦


参考情報
・参考情報1:Michael M. Lee, et al.,“Efficient Hybrid Solar Cells Based on Meso-Superstructured Organometal Halide Perovskites” Science, Vol.338, pp643-647, 2012


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