世界のファブレス半導体企業の動向を読み解く。2020年半導体売上高ランキング6位以降の企業に注目〜半導体入門講座(28)

ファブレス半導体企業は、半導体ICの設計にフォーカスし、「なにを作るか」を具現化する半導体メーカーです。ファブレス半導体企業はIDM(設計と製造を手掛ける統合メーカー)よりも成長率が高く、工場を持たない企業ながら半導体売上高ランキングTOP10でも6位以降に複数の会社が入るほどの規模にまで大きく成長しました。今回は、このランキングを参考に、「Qualcomm」「Broadcom」「NVIDIA」「MediaTek」「AMD」など代表的なファブレス半導体企業5社に注目し、世界のファブレス半導体企業の動向についてご紹介します。

連載第27回でお伝えした半導体メーカーの上位企業ですが、そのTOP10社(連載第27回<図1>を参照)の内、上位にはメモリーメーカーとIntel、TSMCが君臨するが、6位から8位まではファブレス半導体のQualcomm、Broadcom、そしてNVIDIA が占めている。9位のTexas Instruments(以下TI)と10位のInfineon TechnologiesはともにIDM(設計と製造を手掛ける統合メーカー)でありながら、メモリをほとんど扱っていない。TIはアナログ半導体にフォーカスし、Infineonはパワー半導体と自動車用半導体に強い企業である。

Texas Instruments(米)~IDM半導体企業①

ファブレス半導体を紹介する前に簡単にこの2社について触れておこう。TIは、Intelと並んで半導体ICを発明した企業の一つであり、1970年代には半導体企業の1位、2位を競い合っていた。初期の半導体メーカーのほとんどが消えてしまったが、TIは未だに生き残っており、アナログ半導体ではトップメーカーである。TIがいかに生き残ったかについて後ほど詳しく述べるため、ここではInfineonについて紹介する。

Infineon Technologies(独)~IDM半導体企業②

Infineonは、ドイツに本社を置く半導体メーカーで、重厚長大のSiemensからスピンオフして誕生したが、現在、Siemensは親会社ではない。つまり完全独立の半導体専業メーカーである。日本の半導体の多くが総合電機を親会社として、いつまでも親会社が支配してきた会社とはまったく違う。

Infineonは生産した半導体の売上額の50%弱が車載向け半導体であり、Siemensがクルマを作っていないことから製品は、クルマメーカーのティア1サプライヤーに販売している。日本でもティア1サプライヤーを通してOEMであるトヨタ自動車に納入されており、トヨタの広瀬工場から高品質であることを理由に何度か表彰されている。

2021年4月に米国のマイコンとNORフラッシュメモリのメーカーであるCypress Semiconductorの買収を完了したが、これによって自動車向け半導体製品のポートフォリオが豊富になった。特にマイコン競品はハイエンドからミッドレンジ、ローエンドまですべてそろい、しかもこれからのセキュリティ強化製品も広がった。

Infineonの得意なパワー半導体では、シリコンのパワーMOSFETをはじめ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、GaN(窒化ガリウム)のHEMT(High Electron Mobility Transistor、高移動度トランジスタ)、SiC MOSFETなどを生産している。特に300mmウェーハを用いたパワー半導体の完全自動化工場をドイツのドレスデン(Dresden)に続き、オーストリアのフィラハ(Villach)にも設立し、稼働にこぎ着けた。


ファブレス半導体企業は、米国と台湾が強勢

ファブレス半導体企業は、半導体ICの設計にフォーカスし、「なにを作るか」を具現化する半導体メーカーである。かつては顧客が購入後にプログラムを書き換えて論理回路を変更できるFPGA(Field-Programmable Gate Array)のXilinx(ザイリンクス)社がトップを走っていたが、スマートフォンビジネスが大きくなるにつれ、Qualcommが大きく成長した。

台湾の調査・コンサル会社TrendForceによると、2020年のファブレス半導体のTOP10社は、米国企業と台湾企業が強い。1位から米国企業のQualcomm、Broadcom、NVIDIA と続き、4位のMediaTek、8位のNovatek、そして9位のRealtekは台湾企業である。

10位のDialog Semiconductorは英国企業だが、2021年9月からルネサスエレクトロンクスに吸収合併された。5位AMD、6位Xilinx、7位Marvellはすべて米国企業で10社中6社が米国企業である。ここからわかることは米国にはファブレス企業が活躍しているということだ。しかも、ファブレスの上位3社は、全半導体企業としてもそれぞれ6位、7位、8位にランクインしているほどの実力である。ファブレス半導体の代表的な企業について紹介しよう。


Qualcomm Inc.(米)~ファブレス半導体企業①

ファブレス半導体企業のなかで売上高トップのQualcommは、携帯電話とスマートフォンビジネスで大きく成長した企業である。特に同社が基本特許を持つCDMA(Code Division Multiple Access、符号分割多重アクセス)技術は第3世代(3G)のすべての携帯電話に使われた。このことで同社は大きく伸びた。チップ販売だけではなく、特許のライセンス販売でも3Gの売り上げに大きく貢献した。同社が推進するCDMA 2000仕様のチップは同社から購入するが、他の半導体メーカーが作るW-CDMA仕様のチップに関してはそれを使う携帯電話メーカーも含め特許料を徴収した。同社はファブレス半導体部門と特許部門に分かれ、新技術開発はファブレス半導体部門が担った。

CDMAという同社のモデム(変復調技術)ビジネスは、2G時代から立ち上がり、3G時代に花開いた。しかし4GというべきLTE(Long Term Evolution)技術ではOFDM(直交周波数分割多重)の基本特許を持っていなかったため、特許ビジネスでは3Gのようにはうまくいかなかった。このため、4G時代は浮き沈みが大きくなっていた。そこで、5G技術ではサブ6GHzの搬送波からミリ波技術やアンテナインパッケージ(AiP)など使われる技術をいち早く開発、圧倒的な技術開発力で5Gをリードしている。

5Gは仕様ができても、目標性能であるダウンリンク20Gbps、アップリンク10Gbps、レイテンシ1ms以下、多デバイス接続、という目標にはまだほど遠いため、リリース16、17、18とどんどん進化してくる。2020年代はずっと5Gの進化と普及の時代となろう。まだこれからの技術である。


Broadcom Inc.(米)~ファブレス半導体企業②

Broadcom社もユニークな会社である。元々Broadcomはギガビットイーサネットが強い会社で、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)から誕生したスタートアップであった。40社以上もの企業買収を繰り返して成長し、有線の高速イーサネットや光通信、モバイル、ワイヤレスのWi-FiやBluetoothなど通信関係で成長してきた。半導体ビジネスは研究開発費として売上額の10〜20%も投じなければライバルに勝てない産業である。研究開発費が少なければ企業を丸ごと買って新技術を手に入れることができる。Broadcomの生き方は買収で成長する道を選んだ。

現在のBroadcomの存続会社になるAvago Technologies社は、元々Hewlett-Packard社から計測器や半導体部門が分社化してAgilent Technologiesとなり、そのAgilentから独立・分社化した企業だった。

Avago社は2015年にBroadcomを買収、傘下に収めたものの、一般的な知名度はBroadcomの方が高かったため、Broadcom Corp.を買収した後、社名をBroadcom Ltd.に替えた。さらに2017年にはBroadcomがQualcommに買収を提案したものの、トランプ大統領がそれを禁止した。2018年に今度はQualcommがオランダのNXP Semiconductorsを買収するという提案を行ったものの、複数の国の承認が必要なグローバル展開のQualcommは中国当局から承認が得られず、QualcommはNXPに違約金20億ドルを支払った。その頃は、買収合戦で新しい技術を手に入れる戦略を採る企業が多かった。

現在Broadcomは、データセンターや5G基地局での光ネットワークとギガビットイーサネットのチップに力を入れており、車載向けにも高速イーサネット規格「Broad Reach」の普及にも力を入れている。さらにデータセンターなどで、AIによるネットワーク監視システム向けの半導体にも力を注いでいる。



NVIDIA Corp.(米)~ファブレス半導体企業③

NVIDIA 社は、元々ゲーム機用のグラフィックスチップで大きく成長した企業である。デスクトップパソコンを用いたゲーム用の鮮明なグラフィック映像を描くのに必要なGPU(Graphics Processing Unit)を提供してきた。今では、e-スポーツとも呼ばれるような対戦ゲームなどの鮮明な画像を必要とするデスクトップパソコンのグラフィックスエンジンとして欠かせない半導体になっている。

GPUはコンピュータ上で絵を描くためのチップである。絵を描くための演算を級数展開してΣAn×Bnという掛け算をしていることに等しい。コンピュータで絵を描く場合は、画面を例えば数十に分割して、それぞれが積和演算ΣAn×Bnを同時に行えば短時間で絵を描くことができる。NVIDIA のGPUチップには積和演算を行う小さなGPUが並列に数十個並んでいる。この演算手法は実はニューラルネットワークの演算手法とよく似ているため、GPUをAIの学習や推論に使うことができる。

NVIDIA の最近の成長は、ゲーム機と共にAI(機械学習やディープラーニング)にGPUの新たな市場を見つけたことにある。しかも数値演算はコンピュータで計算処理する場合に欠かせないため、データセンターやスーパーコンピュータなど大量に演算する場合にも使われるようになっている。CPUは汎用性が高いが計算機処理だけをするものではなく、システムを制御するためにも使われるのに対して、GPUは計算するためにだけ使われるといえる。このため、制御用にも使われるCPUの負荷を分散して補う形で、計算専門のGPUをアクセラレータと呼ぶことが多い。


MediaTek Inc.(台)~ファブレス半導体企業④

台湾は1990年代にファウンドリのTSMCがある程度大きくなった後に、ファウンドリだけではなくファブレス半導体企業の育成にも力を入れた。ファブレスで最も成功を収めたのがMediaTekだ。最初は、CD-ROM装置やDVDプレイヤーで成功した。日本の半導体企業が自社のCDやDVD事業部門向けのチップを開発したのに対して、MediaTekは複数の規格が乱立するすべてのCDやDVD規格を含めたプレイヤー向けチップを開発した。これによって、MediaTekのチップと三洋電機のレーザーピックアップさえあれば、どこでもCDプレイヤーが作れるようになった。

次にMediaTekが目を付けたのは携帯電話機向けのモデム(変復調回路)チップである。Qualcommと違って中国市場に売り込むスキルに長けているため、MediaTekは中国向けの携帯電話のモデムチップで大成功した。そしてQualcommと同様、モデムからCPUというべき制御と演算を受け持つプロセッサ(携帯電話ではアプリケーションプロセッサと呼ばれる)のチップを開発、4Gから5Gへと対応するチップを開発、Qualcommのライバルとして認められるようになっている。今や5GチップではQualcommと競い合っている。


AMD Inc.(米)~ファブレス半導体企業⑤

AMDは今や完全なファブレスである。2008年10月までIDMであったAMDは、ファブレスのAMDとファウンドリのGlobalFoundries(以下GF)に分かれた。ファウンドリ部門は、2009年にアラブのアブダビ首長国が保有する投資会社ATICからの出資を受け、現在のGFになった。

もともとAMDは、Intelの互換CPUを設計製造していたが、ファブレスになってからもx86アーキテクチャを推進していた。2006年にカナダのATI Technologiesを買収してGPUを手に入れたため、CPUとGPUを1チップに集積して、それをアプリケーションプロセッサと呼び、ゲーム機市場で成功を収めた。特にMicrosoftのXboxとソニーのPS4で大きく成長し、さらにデータセンター向けのRadeon GPUやEPYC CPUなども成功している。2014年にLisa Su博士がCEOに就任して以降、AMDの快進撃は止まらない。


海外でのファブレス半導体企業の成長に比べ、日本企業はほとんどいない

これまでのファブレス半導体企業はIDMよりも成長率は高く、工場を持たない企業ながらTOP10ランキングに入るほどの規模にまで大きく成長した。IC Insightsの調べによると、世界の半導体販売額全体に占めるファブレスの割合は年々増えていき、2002年には13.0%だったが、2010年には23.7%、2020年には32.9%にまで成長している。しかし、ファブレス半導体グループに日本企業がほとんどいない。唯一、パナソニックと富士通との合弁のソシオネクスト社(Socionext Inc.)は1,000億円程度と見積もられているが、TOP10ランキングにはまだ入ってこない。



著者:津⽥建二(つだ・けんじ)
技術ジャーナリスト。東京⼯業⼤学理学部応⽤物理学科卒業後、⽇本電気(NEC)⼊社、半導体デバイスの開発等に従事。のち、⽇経マグロウヒル社(現在⽇経BP 社)⼊社、「⽇経エレクトロニクス」、「⽇経マイクロデバイス」、英⽂誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集⻑、シニアエディター、アジア部⻑、国際部⻑など歴任。


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